主人公になりたくて!   作:無名魔剣士

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最も冴えた方法

 

「……貴様、最近教団に噛みついている野良犬か」

 

ゼノンが忌々し気に呟く。

シャドウはそれに答えることなく、瓦礫の山からふわりと飛び降りて、ゼノンの前に立った。

 

「教団の主力が居ると聞いてきたのだが、どこにいるか知っているか?」

「………ここに居るともッ!!」

 

 

シャドウの挑発。それが開戦の合図だった。

 

プライドを逆なでされたゼノンの攻撃が、シャドウを豪速で襲う。

だがその一撃は呆気なく防がれ、ゼノンは背後を取られた。

 

あまりに美しすぎる一連の動作に、アレクシアは勿論ゼノンさえも言葉を失い、動きを止める。

 

「……ど、どうやら、ただの狂犬では無いようだね。だが私には及ばない……!!」

 

剣戟が始まる。

攻めているのはゼノンのみで、シャドウはただ攻撃を受けるのみ。

一見すると、先程のヒロとゼノンの戦いの焼き直しにも見えるが、その実余裕があるのは今度は受ける側、シャドウの方だった。

 

 

「……凄い剣技」

「あそこまで完成された剣、初めてだ。そして…………アレは紛れも無く、()()()()()()()剣」

 

アレクシアの肩を借りつつ、ヒロはシャドウとゼノンの戦いを眺める。

圧倒的な技術。あまりにも自然な魔力操作。全ての技術の極致―――そう言って差し支えない程のシャドウの戦闘に、彼らは見入る事しかできなかった。

 

「彼も、貴方や私と同じ剣。凡人の剣だもの。今の地点が違くとも、行き着く先は同じ」

「―――俺が凡人?買い被りすぎだろ」

「え?」

「………なんでもない」

 

どこか陰のある表情を見せたヒロに、アレクシアは訝しみつつもすぐにシャドウの戦いへと視線を戻す。

 

ゼノンの攻撃を受け流すその動きは、まさしくヒロの動作と同じ。だがその手際の良さ、練度、全てにおいてヒロのソレを遥かに上回り―――アレクシアのソレとは、到底比較にならないレベルにあった。

 

ゼノンのうねる魔力すら、シャドウは意に介していない。時折飛んでくる破片や魔力の残滓は、ヒロが瀕死の体を振るって防ぐので、アレクシアは無傷のままだった。

 

 

守られてばかりのお姫様なんてガラじゃないんだけど。

心の内で呟きつつ、アレクシアは何処か嬉しそうにヒロへと身を寄せた。

 

 

 

 

「……つまらんな」

「な、何!?」

「借り物の力。それもあまりに醜い。その程度で最強を名乗るなど烏滸がましい」

 

しばらくの間剣戟を続けていたシャドウだったが、ため息交じりのその言葉と共にゼノンを突き放した。

バランスが崩れ、尻もちをついたゼノンへ切っ先を向けたシャドウは、まるで見せつけるかのように魔力を解放した。

 

 

「なぁッ……!!?」

「……綺麗」

「これほどの魔力を、ここまで緻密に……!?こんな真似ができるヤツが、この時代に、この世界に居て良いのかよ………ッ!?」

 

一人は驚愕し、一人は賞賛し、そして一人は陰の実力者が魅せる力がどれほど凄いのか視聴者(或いは読者かプレイヤー)にわかりやすく説明する解説キャラを演じた。

 

それほどまでに、膨大で、制御されつくした魔力。

 

地下道を覆い尽くすような青紫色の魔力は、まるで一つの生命体のように脈動していた。

シャドウの体に稲妻のような、血管のような模様が浮き出て、明滅を繰り返す。

 

 

 

「教えてやろう、真の最強というものを」

 

 

―――かつて、核に挑んだ男が居た。

 

 

シャドウが紡ぐ言葉に、全員が聞き入る。

もはや誰も彼の言葉も動作も止める術を持たず、意志をもてなかった。

 

 

―――男は肉体を鍛え、精神を鍛え、技を鍛えた。

 

 

―――それでも核は、遥か届かぬ高みにあった。

 

 

―――そうして、遂に答えを得た。

 

 

 

「最も単純(シンプル)で、最も簡単(イージー)で、最も冴えた唯一にして至上の方法」

 

 

Q:核で蒸発しない為には。

 

 

「“アイ・アム―――”」

 

 

A:核になれば良い。

 

 

 

 

「“アトミック”」

 

 

 

 

★★★★★

 

 

 

 

 

「おい、大丈夫か?」

「………ひ、ろ?」

「おう。気絶しちまったから慌てたよ。せっかく助けたのに目の前で死なれちゃ夢見が悪い」

「………シャドウは?」

「さぁな。ただ一つ言えるのは、アイツが遠くに去って行ったって事だけだ。―――見ろよ」

 

アレクシアに肩を貸して、立ち上がらせる。

そして目の前に広がる凄惨な光景を、彼女に見せた。

 

 

巨大なクレーター。シドの奥義、アイ・アム・アトミックの破壊痕は、まるで地面を超巨大なスプーンで抉り取ったかのようだった。

 

 

「これが、シャドウ……あの男の力……」

「一体何者なのか、何が目的なのか、全てが謎。判明している事は、圧倒的な実力を有するという事その一点」

 

アレクシアを座らせ、自分も座る。

傷口は怪しまれないように治していないのだ。魔力で血液を精製し続けないと今にも意識が飛びそうでちょっとキツイ。

 

 

だがその分、俺もシドも最高のシナリオを楽しめた。

誰にも見てもらえなかったが、空へ飛び去る直前意味深げに笑ったシャドウへ、「シャドウ、お前は何者なんだ……!?」と呟きつつ己の宿命を悟り始める主人公ムーブをキメられたのがデカい。

 

 

 

結論。今回の王女誘拐イベント、最高。

 

「アレクシア!!」

「姉さ―――うわぁっ!?」

 

突如遠くから飛来した赤い髪の女性―――アイリス王女に抱き着かれ、アレクシアが倒れる。

涙を流しながらアレクシアの名前を呼ぶアイリス王女に、アレクシアも自然と涙を流し、彼女を抱き返した。

 

 

 

………ヒロ・ムノーはクールに去るぜ。なんてね。

 

 

 

 

★★★★★

 

 

 

 

「私、好きな人が()()()()()しれないの」

「ふーん、で?」

「だから、この関係も終わりにしようと思って」

「おお、それは大歓迎」

「けど一つ頼みたい事があるのよ」

「えー、それは面倒だ」

「別に、特に何かして欲しいわけじゃないわ。ただ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺、ヒロ・ムノーは何故かアレクシア王女から呼び出しを喰らった。理由は知らない。

憑き物でも取れたかのような表情のシドに言われて校舎裏に行ったら、何故かアレクシア王女が待っていたのだ。

 

なんかのミスかな?と思ったが、挨拶した時に「待っていたわ」と言われたので間違いでは無さそう。

 

俺、告白以降アレクシアを怒らせるような事をした覚え無いんだけど。

 

 

「昨日はありがとう。私の事を助けに来てくれて」

「別に礼を言われる程じゃないだろ。結局、解決したのはシャドウだったし」

 

一応、彼女を助けに行く動機は彼女への恋愛感情にしておいた。一番自然だしね。

だから、好きな人の為に命を懸けるくらい当たり前のことだし「そうだもっと感謝しやがれェ!銭という名の誠意を見せなァ!」とか言うつもりは無い。言ってはいけない。

 

何より俺はゼノン・グリフィという強大(?)な力を持つ敵にやられ、アレクシアと一緒にシャドウに救われた身なのだ。そういう体なんだから、尊大な態度で礼を受け取るわけにはいかない。

 

「もしかしてそのために呼んだ感じ?」

「ええ。これ以外にも後三つ、大事な話があるの」

「暑いし中で聞くじゃダメ?」

「あまり人に聞かれたくない事だから」

「そ。ならどうぞ」

 

アレクシアが一度咳払いをして語り始める。

 

「姉様が先日の一件を経て、独自の部隊を編成する事を決定したの。名前は紅の騎士団」

「あの人赤いもんね」

「私も所属する事になったんだけど、貴方にも入団してもらおうと思って」

「え、こんなどこの馬の骨とも知らない男を?」

「昨日の話と、私からの嘆願があれば姉様も頷かない訳にはいかないわ。それに、既存の騎士団から無理に引き抜いて人員補充しているくらいだもの。猫の手だって借りたいはずよ」

「なるほどねー………」

 

紅の騎士団。アレクシアの姉……王女にして誰もが認める最強剣士、ミドガル王国人気ランキング(多分)ナンバーワンの女が設立した騎士団………それに入団を勧められる俺。

 

これ主人公じゃん!!

 

いやっほぅ!人助けってするもんだな!まさかこんなことに繋がるなんて思いもしなかったぜ!

マジでありがとうアレクシア!愛してる!!

 

「俺なんかで良ければ、是非」

「決まりね。―――で、次の話だけど」

 

ツインテールの先っぽをくるくると指で回して、言いにくそうにするアレクシア。

なんか照れくさい事でも言おうとしてるのか、顔が赤い。

 

「……告白、してくれた時。私の剣が好きだって言ってくれたでしょ?あれ、遅くなったけど……ありがとう」

「へ?いや、アレってアレクシアにとっては侮辱だったんじゃ無いの?」

「今までは、ね。―――でも、人間って結構変わるモノよ?例えば憧れの存在が出来たりして、考え方がガラリと変わってみたり」

「あぁ、確かに」

 

例が実に共感できる物だったのですっかり納得してしまう。

俺も憧れの主人公像が結構な頻度で変わったからな。努力系、やれやれ系、鈍感難聴系、馬鹿系、天才系、等々……俺の考え方は一日単位でコロコロ動いていたと言っても良い。

まぁ、主人公を目指すっていうその一点に変わりは無かったんだけど。

 

「それで、最後の相談……なんだけど」

「うん、何?」

「………ゼノンが、綺麗さっぱり蒸発して、婚約の話も立ち消えたじゃない?」

「他にも候補者いるんじゃないの?」

「あ。………そう。他にもいるの。そして私はその全員を嫌だと思っている。―――けど、シドが「君とのお付き合いなんてこれ以上無理。継続なんてお断りだ」って言ってきてね?」

 

うん。まぁ、アイツとしてはアレクシアとの偽交際をさっさと終わらせたかったことだろうし当然の反応だな。

 

「……だから、その。代わりって訳じゃないけど、貴方に今まで彼にやってもらった役目というか、偽装恋人関係を……やってもらえないかなって」

「え」

 

 

それって、それってつまり、そういう事なのでは?

 

 

俺の恋愛センサーは例の如く稼働中。アレクシアの発言、表情、これまでの動向を鑑みて導き出される答え―――それは。

 

 

「ダメ、かしら」

 

(明らかにシドとヨリを戻す為の当て馬だ俺ぇええええええ!!)

 

魂の叫びが胸の内で響く。

 

当て馬なんて主人公の仕事じゃない。モブに生きる事を志すシドの邪魔なんてしたくも無い。

 

 

 

 

でも、あぁ、俺はなんて弱いんだろう。アレクシアに潤んだ瞳で上目遣いされただけで、道具扱いしか待っていないとわかっていても、断る事が出来ないなんて。

 

 

 

―――こうして俺は、主人公ムーブも何も関係なしに、ただシドとくっつこうとするアレクシアのお手伝い係―――当て馬になったのだった。

部屋に戻って即行泣いたのは、果たして自分自身への不甲斐なさか将又(はたまた)

 

 

 

 

 

★★★★★

 

 

 

 

「………結果、シャドウ様の一撃で重要拠点と思われる施設は消滅。ゼノン・グリフィは蒸発しました」

 

非常に高い品質の見たこともない商品が大量に立ち並ぶということで、現在王都を始め世界各地で噂されている『ミツゴシ商会』。

その店舗の最上階、一般人立ち入り禁止の豪壮麗美な部屋に、【シャドウガーデン】の主要メンバー……七陰の五人が集っていた。

 

何を隠そうこのミツゴシ商会、【シャドウガーデン】のフロント企業。

シドやヒロ………この場合はシャドウとヴォイドと言うべきか。彼らが語った前世の知識こと『陰の叡智』を下に、【シャドウガーデン】の頭脳担当とも言うべき天才、ガンマを始めとしたメンバーが商品を作成、販売する商社……それがミツゴシ商会の実態だった。

 

「ふへへ……ボスは最強なのです……」

「本当に、素晴らしい光でした……!」

 

獣人のデルタ、エルフのイプシロンが同意するように呟く。デルタの方は寝言にも聞こえるが、それを咎める者はこの場に居ない。

 

「これで奴らも思い知った事でしょう。自分達が既に『狩られる側』へと回った事を」

「いずれ全ての敵があの光に消える……()風に言えば、コレは狼煙ね」

 

ガンマ、アルファの二人が妖しい笑みを浮かべると、全員が感じ入るように瞼を閉じる。

今でも彼女達の瞼の裏にはシャドウの放った輝きが焼き付いていた。

 

「ヴォイド様ですが、アイリス王女が新設した騎士団、紅の騎士団に入団しました。アレクシア王女誘拐事件解決の立役者となった事が、入団のきっかけとなったようです」

「……【シャドウガーデン】を敢えて脅威として王女に見せる事で、紅の騎士団設立を促した……昨日の指示は、そういう事だったのね」

「そうなりますと、ヴォイド様はアイリス王女との接近を試みていたという事になりますが……なぜ今、ヴォイド様が直々に?」

 

誰に尋ねるわけでもなく、ガンマが呟く。彼女の言葉に全員が考え込む素振りを見せ、最初にイプシロンが自信なさげに口を開く。

 

「アイリス王女からでなければ手に入らない、或いは精度に難が出てしまう情報を求めている……とか」

「王族なら誰でも良いなら、アレクシア王女とロマンスを繰り広げている時点で目的は達されたはずだものね。きっとアイリス王女である理由がある……その方向で考えるのが最適でしょうね」

「……そもそも。なぜあの女……アレクシア王女と恋仲になる必要があったのでしょう」

 

いつになく低い声で呟くベータに、アルファが苦笑し、ガンマが同意するように頷く。

 

「アレクシア王女との交際まで、アイリス王女へ接近する為の布石、という事かしら」

「………紅の騎士団入団はアイリス王女と物理的に接近する手段、逆にアレクシア王女との交際はアイリス王女と立場的、或いは心理的に接近する手段……それほど接近する事でようやく手に入るほどの機密情報、或いは物品……?」

「待って、そんな大事なモノを手に入れるとするならば、ただの恋人関係では足りない……つまり」

 

 

「「「ヴォイド様が、アレクシア王女と結婚……!!?」」」

 

 

愕然とする三人。デルタは未だぐっすりと寝ている。

 

「落ち着きなさい。話が飛躍しすぎよ」

「し、ししし、しかし!」

「まず、アレクシア王女との交際はあくまで偽り。実際の恋仲になるかどうかすら定かでは無いわ」

「……確かに、そうかも知れませんが」

「ですが、ヴォイド様が直々に動くほどの重要事項です!その為に、王族と血を交わす事になる可能性だって……!」

「あくまで可能性よ。それに、彼が私達に話さなかったのは『私達が気づきもしない事に痺れを切らした』という可能性もある」

 

それはそれで嫌だが、今はそちらの方が余程良い。三人は密かにそう思った。

 

「とにかくアイリス・ミドガル、或いはミドガル王家に何か重大な物が隠されている。それだけは確か。……ナンバーズを何人か動かして調査させなさい。場合によっては七陰を動かしても構わない。ゼータを呼び戻すのも視野に入れるわ」

 

 

かくして、会議は終わる。

少女達の胸中に、無視するにはあまりに大きなしこりを残したまま。

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