主人公になりたくて! 作:無名魔剣士
アレクシアが入院した。アイリス王女からそんな話を聞かされたのは、ミツゴシ商会を訪れた翌日―――色々な事情が重なって、シドに「走りながらウンコを垂れ流した男」という最悪なあだ名がついた日の事だった。
昨日は散々だったな。まさか帰り道に剣戟音が聞えたからって、ウンコ漏れそうなフリしてその場に残るとは。
流石にシドがその言い訳をした後で「じゃあ俺も」とは言えなかったから、仕方なく俺は帰ったけど……まぁ、目的の「シャドウガーデンの名前を勝手に使うバカ」は見つかったみたいだし良しと―――して良いのか?マジで?
「思ったより元気そうだな、アレクシア」
「あら、来るのが遅かったわね。仮にも恋人なんだから、事件に巻き込まれて酷い怪我を負ったって聞いたらすぐに来てくれると思ったんだけど」
「学校サボる口実にしては弱いな」
「酷いのね」
「ま、その分お見舞いの品持ってきてやったから。それでトントンって事で」
聞いていた話の割には結構余裕そうなアレクシアに、果物とか本とか色んなモノを手渡す。
そして最後に、昨日ガンマからタダで譲ってもらったチョコレートをあげた。
アレクシアは微かに肩を震わせると、窓の外を見ながら尋ねてくる。
「……これ、チョコレート?」
「ああ、なんか最近、チョコレート渡して云々ってのが流行ってるらしいし。一応一番高いヤツだから、お気に召さない事は無いと思うけど」
「い、一番高いの。へぇー、そう。ありがと」
「良いよ別に、手作りって訳でも無いし」
「え、手作りなんて出来るモノなの?」
「なんなら今度作ってやろうか?」
「ええ、是非」
その後も適当な会話を交わして、のんびりとした時間を過ごす。
今頃ヒョロ達、チョコレートを渡すために奮闘しているんだろうなぁ。どうせ失敗するだろうけど、応援くらいはしておいてやろう。
「……ところで、昨日私が遭遇した『人斬り』についてなんだけど」
「ああ、怪我の理由もソレだって話だったな」
「【シャドウガーデン】を名乗っていたけど、シャドウと敵対していた。―――多分、別の組織が勝手に名乗っているんだと思うわ」
「別の組織、ね」
「個人なはずが無いわ。だって、私が戦ったのは4人。―――全員、馬鹿の一つ覚えみたいに「我らはシャドウガーデン」って繰り返してた」
「………同じ言葉だけを繰り返し?」
「そう。同じ言葉だけを、繰り返し」
ボロが出ないようにするために、セリフを一つだけにした……いや、もしかして簡単な一文程度しか喋れない程
確か3rdが人格壊れてて、1stでまともなんだっけ。教団の重要拠点に単独攻撃仕掛けた時に何度か戦った事あるけど、どれもさほど強くなかったしあまり覚えてねぇや。
「……私、またシャドウと会ったわ」
「そうか……何か言ってたか?」
「関わるな、みたいな事を言われたわ。それ以外のことは何も」
関わるな、ねぇ……コイツの場合そういう事言うと逆に燃え上がっちゃうからなぁとは思うけど……どうせカッコよさ重視で言ったんだろうなアイツ。
「ま、今は大人しく休むこったな。お前の事だし、治ったらすぐ動くんだろ?」
「そうしたいんだけどね……ちょっと、色々あって謹慎する事になったの」
「は?何したんだよ」
「………証拠品の所持?」
すっとぼけた顔をするアレクシアを、俺は半眼で見つめる。
よくわからんが持ち前の行動力で要らんことして、それがバレたようだ。
居心地悪そうにしている彼女に、俺はため息一つ吐いて手を伸ばした。
俺が使ってもおかしくない程度の魔力が、淡く輝く。
「今さら応急手当て?」
「ただのおまじないだよ。早く治りますようにってな」
「ふーん……ありがと」
「どういたしまして」
あまり長い事怪我が続くと、治った時に何するかわからないからな。早めに治るようにして、ストレス軽減を図っておくのがベストだ。
もう日も傾いてきたという事で、俺は病室を後にする。
なんだか名残惜しげに見つめてきたような気もするが、多分気のせいだろう。
★★★★★
ブシン祭選抜大会。世界各地から腕自慢が集まって戦う超大規模な武闘会、ブシン祭の出場枠を競う、学園随一のイベントだ。
俺は当然、主人公として出場……は、しない。なぜなら早い段階から実力を見せれば驚きが薄れるからだ。
出るんならブシン祭に直接関係しない小規模大会。そこを荒らしまくって「アイツ強いらしいぞ」とか「お手並み拝見ってとこだな」とか注目される土壌を用意して、いざ本番になって「やっぱアイツ強ぇ!」と驚かれる……うん。メインイベントで初めて修行の成果を見せつける主人公、これが俺のやるべき事だろう。
だが紅の騎士団に所属させてもらっている以上、メンドイからパスとか言って休むことは不可能。
だから俺は骨折した。階段から転げ落ちて足を折った……という体で、自分で片足へし折ったのだ。なおアイリス王女の温情で騎士団としての仕事も休ませてもらう事になった。
俺、王都の巡回を三回やったくらいしかまともに仕事してねぇな。ちゃんとお給料貰ってるせいで、詐欺師にでもなった気分だ。
「まだだッ!!」
血反吐を拭いながら立ち上がるシドを、俺はまぐろなるど(ハンバーガーの店。前世でも有名だったチェーン店にそっくり)で買ったドリンクを飲みながら眺めていた。
モブらしく無様に敗北する為に出場を決意したシドは、第一回戦にして
ローズ・オリアナ王女は芸術の国オリアナと呼ばれる国の王女様で、金髪ロールのザ・お嬢様。
生徒会長を務める人気者で、アイリス王女という絶対強者が居なくなってすぐにこの学園の最強の名を手に入れた、いわゆるネームドキャラクター。
モブらしくやられるにはうってつけの相手だ。
「ぶぐぅっ!?」
しかし凄いな『モブ式奥義』。ただふっ飛ばされてるだけに見えるがその実、様々な工夫が盛り込まれている。
昨日自信満々に「刮目せよ!」とか言ってきただけはあるな。血袋まで用意してたなんて……お、また飛んだ。
「まだだッ!」
「まだッ!」
「まだまだァッ!」
十数回程同じ事を繰り返し、それでも気迫あふれる表情でローズ会長を見つめ、シドは剣を構える。
もっと、もっと僕に奥義を使わせてくれ!と言っているように俺は見えるが、多分会長には違う意味で捉えらえられているのだろう。
大方「それほどの傷を負っても立ち上がるなんて!それほどまでに、この戦いに懸けているのですね!」みたいな。そんな感じの事を、口の動き的に言っていたような気がする。
『モブ式奥義』は苦戦する主人公ムーブの参考になるので可能なら最後まで見たかったが、結局シドが瀕死だと勘違いした審判の善意によって試合は強制終了。シドは担架で運ばれ、見事に一回戦負けとなった。
包帯でぐるぐる巻きにされ不本意そうな表情で保健室から出てきたシドに、健闘祝いのハンバーガーをプレゼントして、駄弁りながら帰路を行く。
「あのきりもみ回転するヤツ良かったな」
「きりもみ
「今度俺も負けイベ演出する時真似させてもらうわ」
「コツは足の指先の力の込め具合だよ」
「なるほど、体だけじゃ無くて指先でも回転を……」
「あ、あのっ」
「「ん?」」
自分でやるならどんな風に、どんなシーンで使おうかなーとか妄想しながら話を聞いていた俺の耳に、可愛らしい女の子の声が聞えて来る。
声の発生源を見ると、ピンク色の髪をした小さな子―――騎士団の報告会で副団長が言っていた、シェリー・バーネットだ。
見れば制服も学術学園のモノだし、アホ毛もピロピロ動いている。いやアホ毛は関係ないか。
「え、えっと。さっきの試合、負けちゃったけど……でも、何度も立ち上がって、凄いなって」
「え、あ、うん。ありがとう?」
(この子、誰か知ってる?)
(シェリー・バーネットだな。前にグレン副団長が言ってた)
(バーネットって言うと、ルスラン副学長の義理の娘……どうせ戦わないだろうと思ってすっかり忘れてたけど、ローズ会長に匹敵するネームドじゃん)
俯いたままボソボソと喋る彼女を前に、シドは微かに嫌そうな顔をした。
ネームドとは基本的に関わらないようにするってのがコイツのスタンスだからな。
俺は下手に隠れて会うよかマシという事で例外扱いだけど。
「……あっ、あの、そちらの方は……」
「俺はヒロ。ヒロ・ムノー。えっと、シェリー・バーネットさん、だよね?コイツと知り合い?」
「し、知り合いというか……その……」
ごにょごにょと何を言っているのかわからない。口の動きも見れないせいで、読唇術で解読する事も出来ない。
だが俺の恋愛センサーは見逃していない。どうやらまたシドがフラグを建てたらしい。
またかこの野郎、という殺意混じりの視線を一瞬シドに向け、すぐに咳払いをして器を取り直す。
アレクシアとアイリス王女の時と同じだ。俺はクールに去れば良い。
「ま、後は若い二人でごゆっくり゛ッ!?」
「ヒロも十分若いじゃん。シェリーも気にしないでしょ?」
「え、えぇっ!は、はい。大丈夫、です……ただ、やっぱり他に見ている人がいると恥ずかしいなぁ〜なんて」
「よし、じゃ続きはあそこの喫茶店で」
松葉杖をついて立ち去ろうとした俺の首根っこを掴み、シドは俺を喫茶店へと引きずる。
シェリーは明らかに俺の存在を疎ましく思っているだろうに、図太いヤツ……いや聞いてねぇだけだな。
適当に座ると、店員さんにコーヒーを三つ頼む。
シドはさっさと話を終わらせたいのか、どこか急かすように発言を促した。
「……えっと、あの時のお返事、したくって」
(お前告白とかした?)
(チョコ渡した)
(適当に渡すとは言ってたけどさぁ)
「あ、そ、その前にこれ……クッキー、焼いてきました。お返しに……」
「ああ、どうも」
可愛らしく包装されたクッキーを受け取る。律儀な子だなぁとか呟いているが、多分違うぞ、シド。
「まっ!まずは、お友達からお願いします!」
「うん、良いよ」
立ち上がり、伸ばしてきた手をシドは特に気負うこともなく握る。
……あの、これただボッチな女の子が勇気を出して友達を手に入れようと奮闘しているのとは違うと思うんだけど。
もっとラブ的な何かが秘められていると思うんだけど。シド君絶対わかってねぇなコレ。
「やった、友達になれましたよ、お義父様!」
お義父様。つまりはルスラン・バーネット副学長。ブシン祭優勝の経歴を持つ剣豪。
シェリーが振り向いた先……つまり喫茶店の店内(俺達は屋外席にいる)に、彼は居た。
なるほど、シドが適当に選んだこの店は、ルスラン副学長がシェリーを見守っていた場所だったのか。
「シド・カゲノー君だね。それと……君はヒロ・ムノー君か」
「シドはともかく、なぜ俺の事を?」
「先日王都を騒がせた同時多発テロの、中心的事件とされるアレクシア王女誘拐事件。その解決の立役者である君を知らない者は王都に居ないだろう。というか、新聞に顔写真が載っていたよ」
新聞読まないタイプだからな俺。
……いや、顔写真載せるなら本人に許可取れよ。コンプライアンスどうなってんだ。
「それで、怪我は大丈夫なのかい?随分酷いやられ方をしていたようだが」
「あ、ああ、大丈夫です。ローズ会長の手加減が上手だったからですかね」
「なるほど、彼女であれば相手に合わせて加減するのも可能だろう。だが無理はいけないよ。ちゃんと医者に診てもらうと良い」
「は、はぁ」
行かないんだけどね。とシドの瞳はそう語っていた。
「怪我と言えば、君も足を痛めているようだが」
「寝ぼけて階段から転げ落ちまして、べっきり折っちゃったんです。真っ二つに。医者には診てもらったばかりですし、問題無いですよ」
「そうか。なら治っても
「まぁ、そうですね」
適当に相槌を打つ。綺麗にへし折ったので魔力を使えばすぐにでも再生できるが、それを言う必要は無いだろう。
その後はルスラン副学長がシェリーに気をつかって離れ、俺もその流れに乗って立ち去り、シドとシェリーを二人きりにしてやった。
なんかお邪魔っぽかったしな、俺の存在。
ちなみにシドは療養と言って五日ほど休んだ。
その間教室ではアイツを讃えるような風潮すら流れていたのだが……ま、アイツの場合知らない方が良いよな。
またモブから遠ざかったような気がするって。