町の一角のとある路地裏に、輝く柱が立っていた。
真っ白い柱だ。
路地裏の入り組んだ建物の隙間から青空に向かって、煌々と輝く雲のような柱が天高く屹立している。
柱から放たれる光は、強い輝きを放ちながらも周りを優しく照らし、不思議と優しい印象を携えていた。
そんな柱の根本に、潰れたミミズのような黒ずんだ残骸が纏わりついている。
何かの生き物の死体のようにも見えるが、血や肉にあたるであろう箇所が異様に黒く染まっており、形の残る部分は原型となる生物のイメージが全くつかないような形状をしている。
柱の根本を中心に纏わりついているために、一見すれば「何かの生き物がいるところに突如柱が降ってきて、生き物を貫き潰して殺した」と容易に想像できるような惨状。
その下手人が、残骸を横目にしながら呟いた。
「大丈夫?もう安心していいわよ」
背が低い。
髪が青い。長い。
目が青い。
超絶美少女。
ロリータファッションが地味に見えるほどの派手さに年相応の可愛さを重ねたような意匠の青いドレス。
右手にはハートマーク杖。
独特な雰囲気。
「もう息はないだろうし」
魔法少女が不思議な力で化け物を倒したのだと、否が応でも認識させられるシチュエーションがそこにあった。
一応、と青い少女が杖を振るう。
降ってきた二本目の光の柱が、地面に釘付けにされている黒い残骸を欠片も残さず粉砕した。
そんな様子を俺は呆然と見ていた。
俺は、有り体に言えば殺人鬼である。
まあ特筆すべきことはそんなにない。
ガキの頃に殺人衝動に目覚め、それから人をけっこう殺しつつもなんだかんだ捕まらずに生きている。
他の奴らより少し殺してて、他の奴らより捕まりにくい普通の殺人鬼である。
そんな俺がブラブラと街を歩いていると、丁度いい感じに殺せそうなオッサンを見つけた。
白シャツの腹がでっぷり突っ張っていて、顔は汗でテカっている。
左右確認。
ヨシ。
いつものようにと俺がズカズカ近付いて行けば、こちらの意図を察したのか唐突に逃げ出し、路地裏の方に走って行く。
あれ逃げるんだー大抵の奴は刺されてからこっちの意図に気付くのになー、見かけの割に速いなー、つか人のいる方じゃなくて路地裏に逃げるんだーテンパったのかなー、とか考えながらダッシュで追いかける俺。
袋小路に追い詰めさあ殺るぞと獲物のナイフを取り出せば、オッサンの体がブルブル震えだし、もりっと膨らんだ。
「ああ…運がいいなあ。この体になってから、スカッとすることが多い」
「ボクの体はこうなってから、よく悪い人間が寄ってくるんだ。不良学生とか、ヤクザみたいな輩とか──」
ボコンボコンと膨らんで──オッサンは、俺が見上げられるくらいのサイズの赤いミミズになった。
所々ツルツルしていて、図体に対して少し短い赤い腕を撫でさすり、胴体についた顔にテカテカにニヤついた顔を張り付けている。
「だから、誘ってはこの体で返り討ちにするのさ。たまらないなあ、本当に。ぐぷふふふ」
「な…なんじゃこいつぁー」
(殺してえーーーーーーー!)
(でけえーーーーーーー!)
(ナイフが頼りねえーーーーーーー!)
早い話が、俺はおっさんのふりをした化け物に路地裏に誘い出され、これから殺される所ということか。
こんな化け物がいるとは。
殺人鬼が殺されるとはなんという因果。
殺される恐怖と殺人衝動の興奮にわなわなと震える俺に向かって、ミミズの胴が迫りくる。
「今日は通り魔っ!」
「う、おおお──!!」
俺がナイフを振りかざしたその時、光の柱が降ってきた。
回想終わり。
俺は極太の光の柱と、それに相対する魔法少女を見ていた。
普段の俺には珍しくぼんやりした気分でだ。
後ろ姿だけ見れば、派手なドレスを着て、ハートの付いた杖を持ち、派手な髪をした小学生くらいのちまい女の子。
パッと見の容姿の特徴しか頭に入らないような出で立ちだ。
が、何故か、目につく容姿より、この状況より、もっと雄弁に語りかけてくる雰囲気が場を包んでいた。
この異常なシチュエーションで、何よりもこの少女の存在感が際立っている。
自然とこの少女の言葉を待ってしまう自分がいた。
魔法少女が此方を見据え口を開く。
何を言う、俺に何を伝える。
「これは悪魔。人ならざるもの。あなたが殺してもいいモノよ。殺人鬼さん」
青い瞳で俺の目を見据え、そう言う魔法少女。
今日はまだ一度の出番も終えていないナイフが、柱の光をキラリと反射させた。
供養