知り得たか?フハイの賢老、クヴァールを(本編完結)   作:月光好き

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・仕事がクソ忙しかった。
・凄い難産だった。
・戦闘描写かいてちょっと満足してしまった。

以上の要素が積み重なったため1週間以上お待たせしてしまいました、大変申し訳ない。




『〇〇を殺す魔法』

 

 

 

 

 

ドサリ。

 

普段なら聴き逃してしまうような音量だったが、静まり返ったこの場所で、それはやけに大きく聞こえた。

 

大きく息を吐き、最後の仕掛けが上手くいったことを実感する。

 

 

「ギリギリ……なんて生易しい結果ではないな、これは」

 

 

そう呟きつつ、正面で倒れているフリーレンを見つめる。

 

いやもう、本当にギリギリなんてものじゃなかった。

 

一体いくつの綱渡りをこなした? 

事前知識の整理、人を殺す魔法(ゾルトラーク)の習熟、(主に)フリーレン対策……等々、挙げ始めたらきりがない。

 

言ってしまえばそれほどまでのガンメタを張ったのにもかかわらず、終わってみれば負けても何もおかしくなかったという有様だった。

 

これが葬送のフリーレン。魔族を殺すためだけに千年以上己の魔力を欺き続けた強者、か。

 

 

「……急ごう。儂も、限界が近い」

 

 

そう考え、残った力を振り絞ってフリーレンの頭に手を伸ばし――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔族を殺す魔法(ゾルトラーク)

 

 

――遠くから声が聞こえた直後。

 

衝撃が走り、周囲が光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

空中で構えた杖を下ろし、着弾地点を凝視する。

 

胸の内で暴れる感情を必死に抑えつつ、知らず歯を食いしばりながらも。

フェルンはギリギリのところで、伺っていたタイミングで攻撃をすることができていた。

 

 

「……フリーレン様」

 

 

あの瞬間を、フェルンも目撃していた。

 

全てが終わり、フリーレンが勝利したと思った瞬間。

彼女の杖が真上に吹き飛ばされたとほぼ同時に、その体勢を大きく仰け反らせてそのまま仰向けに倒れたのだ。

 

そしてその間、クヴァールは一度たりとも動かなかった。つまりあの状態から、フリーレンも知らない魔法を使ったということになる。

 

本来ならば、近づくのではなく今すぐ撤退すべきなのだろう。

消耗しているとは言え、相手は歴戦の魔族。今回確認している魔法だけでも対処が難しいというのに、詳細不明の魔法も間違いなく所持している。この時点で、勝ち目はないに等しいだろう。

 

 

「……ッ」

 

 

しかし、それでもフェルンは振り返ることができなかった。

 

一度すべてを奪われ、与えてもらったものの、また失ってしまった大切なもの。

最後に残った唯一のそれをまた失ってしまうかもしれないという恐怖が、彼女を駆り立てていた。

 

思い出すのは先程のクヴァールの行動の様子。

恐らくトドメを刺そうとしていた様子から、まだフリーレンが生きている可能性はある。

 

それに縋るように希望を見出し、フェルンはいつでも魔法を撃つ準備を整えながら、煙が晴れるのを――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――獲物をしとめた直後を狙った、超長距離狙撃。……どんな生物とて油断する瞬間、そこを狙うのはよい――

 

「ッ!」

 

 

頭の中に、声が響く。

本来なら聞こえるはずのない、くぐもった低い声が。

 

そしてその直後。煙の中で光が鈍く輝き、漆黒の光線が何発もフェルンに迫ってくる。

 

何度も見たソレを、彼女は見間違うはずもない。

クヴァールを象徴する魔法、人を殺す魔法(ゾルトラーク)だ。

 

 

(……まさか、もう回復した?)

 

 

あの消耗具合だ、こんなに大量に撃てるとは思えない。

 

そう考えたものの回避しないわけにもいかず、一度思考を中断して防御魔法を展開する。

数が多いが、幸い攻撃パターンは先程と同じだ。正面に集中し、弾道を予測して最小限の展開をすれば消費は――――

 

 

 

 

 

「だが惜しかったのう。狙撃地点は把握されぬよう、都度変えておくべきだ」

「えっ」

 

 

突如背後から聞こえてくる、明瞭な声。

 

どうすればいい? 次の行動を考えながら思わず振り返ると、大きな指がこちらに突き付けられていた。

 

 

――を殺す魔法(ゾルトラーク)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うっ」

 

 

頭が、痛い。

激しいという訳ではないが、鈍く響き続けている感覚がある。

 

 

「なんで……」

「目覚めたか、予想より早いのう」

「ッ」

 

 

その声が聞こえたことで、フェルンは今までの経緯をすべて思い出す。

 

即座に起き上がり、距離を取ろうとする。しかしその意思に反して身体は重く、頭痛も相まって片膝をついたところでふらついて再び倒れてしまった。

 

 

「カカッ、わかっておろう? しばらくはまともに動けぬよ」

「これ、は……?」

「おぬし、一度もその状態になったことがないのか?……随分と優しい師匠なのだな、フリーレンは」

 

 

寝起きでぼやけていた視界が明瞭になる。

視線の先、間に焚火を挟んだ状態で反対側に座っている魔族――クヴァールは、左手を淡く光らせながら口を開いた。

 

 

力を奪う魔法(リゲイン)。直接触れることで、触れた相手の力……今回は魔力を徴収する魔法だ。回復のために儂が使い、結果おぬしたちは魔力切れ状態になったわけだ」

「…………」

「あと2時間は魔法どころか、立ち上がれもしないだろう。どのみちしばらくここからは出られぬし、大人しく寝ているがよい」

「…………」

 

 

抵抗は、無意味だろう。

フェルンの思考がその結果を導き出すのに、そこまで時間はかからなかった。

 

視界の端、彼女の隣に見慣れた白い服が映る。重い身体を動かして視線を向けると、そこにはフリーレンが木に寄りかかる姿勢で置かれていた。

 

 

「……あぁ」

 

 

じわじわと、何かがこみあげてくる。瞳から零れ落ちそうになるそれを拭いたいが、その術を今の彼女は持ち合わせていなかった。

 

なぜ自分は生きているのか。クヴァールはなぜとどめを刺さなかったのか。二人とも食べられていないのはなぜか。

 

考えなければいけないことはいくつかある。しかし目の前の光景が、それらをすべて押し流してしまうような衝撃をフェルンに与えていた。

 

 

「フリーレン様……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたの、フェルン」

「……え」

 

 

声が、聞こえる。

何度も聞きなれた声が。今もっとも聞きたかった声が。

 

もう二度と、聞けないと思っていた声が。

 

 

「……なんでもう目覚めているのだ、フリーレン。おぬしは魔力どころか、体力も根こそぎ奪っておいたはずだぞ」

「おかげさまで指一つ動かせないよ。……でもまあ、フェルンが呼んでる気がしてさ」

「カカッ、筋金入りというわけか」

「フリーレン様……? なんで……?」

 

 

現状を理解しきれず、思わず声を震わせながらフェルンは呟く。

 

 

「なんで、って……おっと」

「フリーレン様!? ……あ」

「……動けぬと言ったろう。師弟揃って学ばんのか?」

 

 

問いかけに答えようとしたフリーレンは背を木から放し、そのまま倒れそうになる。

そしてそれを支えようと動きだしたフェルンもまた、再び体勢を崩してしまう。

 

しかし二人の身体が土で汚れることはなかった。

 

透明な何かが、二人の身体を支えていた。

感覚的に浮遊魔法ではなく、恐らくそれは、今左手を二人に向けているクヴァールが使う何かしらの魔法なのだろう。

 

 

「魔力が完全に空になった事なんて、今までなかったからね」

「……どいつもこいつも、師が随分と優しかったようじゃな」

 

 

まぁいい。そう呟きながらクヴァールが手を動かすと、二人の身体が動き出す。

フリーレンは元の位置に戻り、フェルンは彼女の隣まで移動した。その様子を眺めつつ、クヴァールは口を開く。

 

 

「現状を話しておこう。ここは儂等が戦った場所から少々離れている。万物を腐敗させる魔法(エオニア)の後処理のため、一度離れる必要があったからのう」

「後処理?」

 

 

あぁ。そう言いながらクヴァールは立ち上がり、二人の横まで移動する。

 

それによって彼の後方を見られるようになったのだが、その先の空には淡い赤が混じっているように見えた。

 

 

「戦場一帯を結界で覆い、火を放った。全て燃やし尽くさねば……あれはどこまでも蝕み続ける」

 

 

そう言いながら燃えている方向を眺めているクヴァールの目は、どこか空しげにも見える。

 

 

「おぬしも見ただろう、フリーレン。万物を腐敗させる魔法(エオニア)の花が咲いた後に見た、異形の植物を」

「…………」

「あれの最も忌むべき特徴。それは腐敗自体に感染力があり、儂の意思とは無関係に自己増殖を繰り返すことだ」

「だから、全て殺すのか」

「あぁ、あれが広がる地で生きていけるまともな生命は存在しない。故にすべて燃やし、生命の輪廻を回す」

 

 

念のため、空気も焼かねばならないのでな。そう言い終えるとクヴァールは立ち上がり、二人の傍に鞄と杖を置いて背を向ける。

 

 

「荷はそれだけだな?……フェルン、日が落ちる前におぬしは動けるようになるだろう。フリーレンを担いで戻るといい」

「待った。クヴァール、お前の目的はなんだ? 何故私たちを殺さない?」

「……その質問に、儂が答えると思うのか?」

 

 

この場を離れようとしているのだろう。

歩き出したクヴァールに、フリーレンが声をかける。

 

それを聞いて彼はピタリと動きを止めるが、振り返ることなく言葉が返す。

しかしそれに対し、彼女は当たり前のように口を開いた。

 

 

「昨日、お前の質問に私は答えた。だから今度はお前が答える番だ」

「フリーレン様、流石にそれは……」

「……むぅ、確かに」

「えっ」

 

 

のしのしと歩き、最初の位置に戻って座りなおすクヴァール。

 

二人の会話にフェルンは若干混乱していが、それに構わず彼は話を切り出した。

 

 

「後者の理由から言おう。フリーレンは偶然、フェルンは必然だ」

 

 

そう話を切り出したクヴァールは指先を二人に向ける。

フェルンは一瞬身構えそうになるが、どうやら意味が違うことに気づく。彼は何かしようとしているのではなく、ただ指をさしているだけだった。

 

 

「おぬしたちを支えている魔法、何かわかるか?」

「……飛行魔法の亜種、でしょうか」

()()()()()()だ」

「えっ」

「……そういうことか」

 

 

これが? フリーレンの姿勢を支え、フェルンの背もたれ代わりになっているこれが?

 

意味が分からず遠い目になりそうになるフェルンに対し、事情を若干ながら把握したフリーレンは軽く息を吐いた。

 

 

「フリーレン。あの戦いで儂がやったことはわかるな?」

「……人を殺す魔法(ゾルトラーク)の改造」

「そうだ。儂は今のままではあの防御魔法は貫けないと判断し、どこから来るかわからない透明性を付与した人を殺す魔法(ゾルトラーク)を即席で作った」

「作った、って……」

 

 

言うのは簡単だが、そんなことができる魔法使いは存在しない。

フリーレンに魔法を教えてもらうようになって7年ほどしか経過していないが、フェルンはそれでも断言できた。

 

クヴァールが言っていること。それは部屋に籠って何度も試行錯誤を繰り返しながら行う作業を、図面を広げずに脳内だけでやってのけたということ。しかもそれを命を懸けた戦闘中に、だ。

 

彼がどれほど規格外なことを言っているのか理解すると同時に、彼の魔法使いとしての格の高さをジワジワと実感する。

 

 

「これは元が儂が開発した魔法であること、更に改造を前提とした単純な術式構造にしていたからこそできた方法だ。……とは言ってもいくら脳内で試行したところで、どうなるかはやってみないとわからなかったがな」

 

 

そう言いながらクヴァールは左手の人差し指だけを立てて上に向ける。

目を細め、集中する。すると指先が光り、そこから球体のようなものが浮かび出てくる。

 

ようなもの、といった理由はそれが透明だったからだ。

しかし完全に見えないという訳ではなく、それがある空間が若干歪んで見えることから、そう予測することはできていた。

 

 

「周囲の風景を反射し、疑似的な透明性を。それを付与した魔力で覆うために、光線から球体への形状変化。それらの要素を加えながら精密性と安定性の維持。……ここまでやったのだ、それ以外で反動が出るとは思っていたが」

 

 

クヴァールはそのまま指を二人に向け、どこか自嘲気味に呟く。

 

その話の流れのまま放たれた魔法の球体は勢い良く、しかし目で追える程度のスピードで。

フリーレンが寄りかかっている木の幹に向かって進んでいき――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

「?」

「……やっぱり」

 

 

――木の幹にぶつかり、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「なんとも皮肉な結果だ。あらゆる魔法耐性を貫通してみせた人を殺す魔法(ゾルトラーク)を弄った結果、何も貫通できない魔法が生まれてしまった」

 

 

そう言いながらクヴァールは、戻って来た球体を手で掴む。

その様子をフリーレンは予測していたのか落ち着いて見ていたが、フェルンは本日何度目かの衝撃を受けていた。

 

手でつかんだのだ。魔力で構成された、自分たちにとっての一般攻撃魔法だったものを。当たり前のように。

 

 

「特殊な性能の追加に、形状の変化。これらを構造を崩さぬよう大きさを変えずに詰め込んだのが原因だのう。無理が生じ……肝心の威力を司る部分にしわ寄せが来た」

 

 

掴んでいるそれを何度か握り、今度はフェルンに向かってポイと投げる。

混乱しつつもとりあえず取ってみようとしたが、先程とは違い軌道が予測できないため簡単に見失う。そしてそれから1秒もたたないうちに、頭部に軽い衝撃が訪れた。

 

 

「……痛いです」

「解析され一般攻撃魔法となった魔法が、直撃してそれだ。最早ゴムb……ただの弾力性のある球と言うべきか」

「……あぁ、もしかしてさっきから頭が痛いのって」

「魔力欠乏故の頭痛もあるがな。零距離から最速で頭部にぶつけたのだ、意識を奪う事ならば容易い」

 

 

それに気づいたからこそ、フェルンには躊躇うことなく使えた。そう締めくくった彼は、焚火に薪を追加する。

 

 

意識を殺す魔法(ゾルトラーク)とでも名付けるべきか。……とは言え、儂はこれを狙って付与したわけではない。フリーレン、故におぬしが生き残ったのは偶然だ」

「半分嘘だね。フェルンを気絶させた後、お前には私を殺す余裕があったはずだ」

「……目ざといのう。まあ強いて言うのであれば、それをする理由が儂にはない」

「ない……?」

 

 

パチパチと。燃え続ける焚火を眺めながら、事もなげにクヴァールは答える。

 

 

「1つ、これ以上戦う理由がない。魔王様が死んだ以上、積極的に人間と争う必要がなくなった。……とは言え、襲ってくるのであれば話は別だがのう」

 

「2つ、積極的に殺す理由がない。儂の目的を果たすため、おぬしたちには生きてもらった方が都合がよいのだ」

 

 

指を一つずつ挙げながら、クヴァールは理由を話していく。

しかしその口から語られる内容に、思わずフリーレンは眉をひそめる。

 

 

(……本当に、何なんだこいつは)

 

 

魔族とは、種族的特徴として人間種に対する敵意を持っている。

人間でいう美男美女に似た容姿なのも人間を欺いて喰らうためであり、悪意や罪悪感もないからその行動に躊躇いがない。

 

言葉を話す魔物。

そう魔族を定義したのは彼女の師匠であるフランメだ。それは間違いではないと思うし、これからその考えは覆ることはないだろう。

 

 

 

……しかし、ことクヴァールという存在に限定して物事を考えた場合。そのすべてがかみ合わなくなってしまうのだ。

 

人型ではあるものの、亜人のような容姿。

殺す理由がないと言い切り、実際に生殺与奪の権利を奪った二人に対して害をもたらさない行動。

更には魔族特有の魔力量を基準とした強さへの驕り、それすらもない。

 

敵対している間も、その前も。彼が二人に対して微塵も油断していなかったことがいい証拠だ。

 

 

(……これ以上、考えても無駄なのかな)

 

 

考えれば考えるほど、クヴァールのことが分からなくなっていく。

 

現状、はっきり言ってしまえばフリーレンは開き直っていた。

クヴァールがその気になれば、瞬く間に二人は食われてしまうだろう。しかし彼はそれを選ばず、こうして二人との会話を続けている。

 

いっそ理由を聞いてから結論を出せばいいか、そう思考をまとめたフリーレンは口を開いた。

 

 

「クヴァール。優先すべきことがあると、目的があると言っていたね。……お前は、何がしたいんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――何がしたい、か。

 

私から話題に挙げているとはいえ、まさかフリーレンから急かされることになるとは思わなかった。

 

 

「……そうだのう、それは言うべきだ」

 

 

あの日、突然始まった私の物語。

憧れた存在になった自分が、この世界で何をしたいのか。

 

悩みながら生きていく中でたどり着いた、今世での最終目標。

それを打ち明けることになったのが、まさか友人ではなく彼女たちが最初になるとは。意外だったが、心のどこかでそれを納得している自分もいた。

 

 

「儂はな……不死身になりたいのだ」

「「…………」」

 

 

唖然。文字に表すとするならば、それが一番似合っている事だろう。

フェルンは恐らく処理が間に合っておらず、フリーレンは意図を掴みかねている。多分そんな感じだ。

 

 

「……本気?」

「無論、文字通りの意味ではない。……まず儂にとっての死とは、他者から完全に忘却された時だ」

 

 

例を挙げるのなら、勇者ヒンメルだろう。

 

彼はもう死んでしまったが、その存在を皆が覚えている。物語にも記されるだろうし、確か彼の銅像があちこちに建てられているはずだ。

それらがある限り、世界に勇者ヒンメルはこの世に存在し続ける。癪だが、実は私の理想にかなり近い存在なのだ。

 

 

「皆が儂のことを忘れた時、本当の意味で儂は死ぬ。……ならば不死とは、その真逆」

 

 

そう言って両手を……いや、残った左手だけを空へ掲げる。

生憎とまだ日は沈んでいないので星は見えないが、代わりに太陽に向けて手のひらを向ける。

 

 

「世界に轟く偉業を成す。そして儂の名を……クヴァールの名を、この世界に刻みこむ!」

 

 

クヴァールと言う存在を、世界に残し続ける。それこそが、成り代わってしまった私がすべきことだ。

 

 

「皆が語り継ぐことで、クヴァールの名は永遠のものとなる。これこそ、儂が考える不死よ」

「……まさか、あの時言ってた楽しみって」

「あぁ、人を殺す魔法(ゾルトラーク)を人間が解析するのは織り込み済みだ。まずは魔法使いに、儂の名は刻めたようだのう」

「マジか……」

 

 

ため息をつくフリーレンを眺めながら、カカッと笑う。

まあそう思うのも無理はない。こんな馬鹿げたこと、未来を知っていなければ私だってやるわけがないのだから。

 

 

人を殺す魔法(ゾルトラーク)の可能性に気づいた人類は、必ずそれを利用する。そしてそれは枝葉のように広がり続け、やがて新たな大樹となるだろう。儂が開発した魔法を根源としてな」

 

 

これに関しては原作からそうだったのかもしれないが、どうせなら確実にやってしまおうということで考えたこの一手。言ってしまえば、新たな魔法の開祖になろうという事だ。

 

使う人間が増えれば増えるほど、この魔法は研究される。それはつまり、クヴァールの存在を知ることになるという訳で。

人を殺す魔法(ゾルトラーク)を超える攻撃魔法ができない限り、魔法使いは必ずクヴァールを知る。それすなわち、不死身への第一歩と言うことになる。

 

 

「今回戦った理由はここにある。フリーレン、おぬしなら必ず新たな可能性を見出すと踏んでいたぞ。素晴らしい魔法だった」

 

 

そう言いながら笑うが、彼女は面白くなさそうに目線を逸らしながらため息を吐く。

 

 

「あっそ。……で、これからは……どうするのさ」

「魔法史に儂の名は刻まれた。ならば次は、魔法を使わぬ者たちにどう刻むか。……まあいくつか案はある、焦らず試していくとするかのう」

「ふーん……まぁ……い、い……」

 

 

幸い、どうやら人間は大なり小なり魔力は持っているらしい。とは言え操作性や出力操作は一朝一夕でどうにかなるものじゃない、だからこそ魔法使いは重宝されるわけで。

 

そこに上手いことアプローチできればいいのだが……。

そんなことを考えていると、視界の端でがくんと首が落ちるのが見えた。

 

……ふむ、流石に限界だったか。

 

 

「……フリーレン様?」

「寝かせておけ。先程も言ったが、起きていること自体執念の産物だ。張り詰めた糸が緩んだのだろう」

 

 

体力も魔力もすっからかん。私が以前同じ状況になった時は丸1日寝込んでいたというのに、よく今の今まで会話を続けることができていたものだ。

 

そう考えながら、薪を再び追加する。どうやらフェルンは座った状態ならある程度動けるようになったらしく、フリーレンに自分の上着をかぶせてあげていた。

 

 

「……もののついでだ。フェルン、おぬしは何か聞きたいことはあるか?」

「私が、ですか?」

「あぁ、あの長距離狙撃は見事だった。魔力、出力、操作性……どれもその年齢からは考えられない領域まで研鑽されている」

 

 

正直、あそこは結構ヤバかった。

 

常に魔力感知を広げていたにも関わらずフェルンの反応は薄い。つまりは何をしてくるかの前兆を察知しにくいあの状況。

一応タイミングだけは予想できていたので方角の把握を優先し、急いでフリーレンの魔力を奪って回復。そこから防御魔法をほぼ予測だけで展開したことでなんとか防いだわけだが……もっと魔法の規模が大きかったら、危なかったかもしれない。

 

 

「おぬしは良い魔法使いになるだろう。故にぜひとも儂の名を覚えていてもらいたいのでな、その一手という訳だ」

「えー……」

 

 

……なんか、すごいジト目で見られてる。

流石にあれか。クヴァールさんのことは既に知っています、って顔だ。

 

とは言えなぁ、()()をやるためにも何かしらのきっかけが欲しいんだよな……。

 

 

「……では、1つだけ」

「ほう、なんだ?」

「どうして、フリーレン様と戦ったのですか?」

「……む?」

 

 

何とも妙な質問をされたものだ。

何故も何も、あの場で戦わない選択肢があるとは思えないのだが。

 

 

「先程話したはずだ。儂が残した人を殺す魔法(ゾルトラーク)、その可能性を見てみたかったのよ」

「はい、それは聞きました。……しかし、それだけではないと思ったので」

「…………ふむ」

 

 

……あー、そういう事か。

 

確信はないとは言え、まさか勘づかれるとは思わなんだ。なにせこれは、(クヴァール)ではなく私の目的だったのだから。

 

ちらりと横を見る。

フリーレンはすやすやと眠っており、早々目覚めることもないだろう。つまりは、聞かれる心配がないという事で。

 

ふーむ……まぁ、いいか。

フェルンが私の知ってる通りの人物ならば、ばらされる可能性はそこまで高くはないだろう。

 

 

「確かめたかったのだ」

「…………」

「フリーレンは儂が知る限りでも、最高峰の魔法使い。故に積み重ねてきた研鑽がどこまで通用するのか……それを確かめたかった」

「……そう、ですか」

 

 

想像の範疇だったのか、少し顔を俯かせながらフェルンはそう返事をする。

 

おいおい、まさか私が勝ったからよかったですね。で終わるとでも思っているのか?

 

 

「あ奴には言うなよ?……儂は、フリーレンの事を昔から知っていた」

「……え?」

「その時より目標とするなら、超えるべき壁と見定めるならこやつしかいない。そう考え、この瞬間まで全力で研鑽を積んできた」

 

 

なにせ原作でクヴァール本人を倒した魔法使いだ。手札はどれだけあっても困らないだろう。

ならば時間を浪費する余裕などない。そう考え、文字通り毎日死ぬ気で積み重ねてきた。

 

 

「言っておくが、フリーレンは強い。それは決着した今でもそう思っておる」

「……しかし」

「あ奴は昨晩から、寝ずに儂を見張っていた。さらに奴が考えていたであろう作戦もある程度予測し、先んじて潰していた」

 

 

普段とは違ってその様子を見せなかったが、フリーレンは間違いなく万全の状態ではなかった。さらに彼女の得意とする魔力隠蔽からの奇襲も見抜いて対策していたというのに、結果を開けばこの有様だ。

 

 

「始まる前、それほどまでに儂が優勢だった。だというのに終わってみれば、あと一歩で敗北するまで追い詰められた。……凄い魔法使いだ、フリーレンは」

「……はい。フリーレン様は、凄いです」

「カカッ、おぬしもそう思うか」

 

 

当の本人が寝ているのをいいことに、私は笑う。フェルンも笑ってこそいないが、無表情ではなく少しだけ口角が上がっているようにも見えていた。

 

そう話しているうちに、結界に反応が出ていることに気づく。どうやらほぼ燃やし尽くしたようで、ここにいる理由がなくなってきたみたいだ。

 

 

「さて、そろそろ逃げるとするかのう。……時にフェルン、魔法は好きか?」

「……程々でございます」

「そうか。ならば……これなどちょうどいいだろう」

 

 

そう言いながら魔法で収納していた本を一冊取り出し、フェルンに投げ渡す。

最悪受け取ってもらえないかと思ったが、彼女はとりあえずそれを両手でキャッチしてくれた。

 

 

「……これは」

「儂が研究してきた魔法に関する考察をまとめた魔導書……その一部だ。その中に、人を殺す魔法(ゾルトラーク)の事も書いてある」

「えっ」

「フリーレンに少しでも近づきたいなら読むといい、一助になるはずだ」

 

 

何度も魔導書と私を交互に見るフェルン。

相当意外だったらしいが、これも計画の一部なので実は問題ない。

 

……そもそも魔族が書いた魔導書なんて胡散臭い書物だ、読んでくれるのかは未知数だろう。とは言えあれは原本ではなく複写した魔導書なので、駄目だった場合は次に活かすとしよう。

 

そう考えながら振り向いて歩き出す。一度結界内の様子を見てから本格的に離れるつもりだが、その前に背後で混乱しているフェルンにもう一声かけておくことにした。

 

 

「フェルン、おぬしは強くなる。……が、魔法使いから得る刺激がフリーレンだけでは偏ってしまう。それを考慮した先行投資よ」

「…………」

「儂は可能性を求めて人を殺す魔法(ゾルトラーク)を作った。結果フリーレンは魔族を殺し、儂は意識を殺す魔法を作った。……フェルン、おぬしが()()()()()()を作るのか、楽しみにしているぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――そんなわけで。私の生涯をかけた計画、その大一番はこうして終わった。

 

不敗の賢老クヴァール。私はその名に恥じない在り様を見せる事ができただろうか?

 

今までの行動、それは恐らく原作のクヴァールさんとはかなり違っていただろう。それがこの物語にどれほどの影響を与えるかはわからないが、生憎とそこを気にするくらいなら私は私の目的を果たすために動く。

 

という訳で、計画の第2段階。魔法使いではない者たちに、どうやってクヴァールの名を広めるか。その鍵を握るのは……おそらく()()()()だろう。

 

あれは私が封印される前にはそれほど数が出回っていなかった。だが私の予想が当たれば、大いに役立つはずだ。フリーレンとやることがかぶってしまうが、まあ行動範囲をずらせば問題ないだろう。

 

それに並行して私が書いた魔導書をそれっぽいところに封印する作業もしなければならない。

あそこまで魔法史に貢献したのだ。著者がクヴァールだと知れば、いきなり捨てるなんて真似は流石にしないだろう。もし図書館的な場所に保管されれば、クヴァールの名を遺すのに一役買ってくれるはずだ。

 

 

「……ついでだ。あ奴の墓参りくらいはしてやるとするかのう」

 

 

魔王城があるのは北の端、エンデ。道中計画を進めながらともなると、結構な旅路になりそうだ。

 

とは言え、そこまで時間はかからないだろう。

そう思いつつ、私は肩に乗ってきた鳥達から話を聞きながら歩みを進めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カビを消滅させる魔法?……腐敗への抑止力になるか」

 

「かき氷を出す魔法?……魔力を分子レベルで細かい氷に変えてるのか、興味深い」

 

「音を本に記録する魔法?……声という形で記録に残せるのか、使えそうだのう」

 

 

……多分、そう遠くないうちに着くはずだ。

 

 




※オリ魔法の簡易解説
力を奪う魔法➡︎名はブラボだがイメージはエルデンリングの命奪拳。語感が合わないと判断し、近いイメージであるこの名前を採用。

※主人公がやらかしたことによる原作への主な影響
フェルンが強化されました。リュグナー君マジドンマイ。



感想・評価共にありがとうございます。

これで私が当初書きたかったことは全部書けたので、本編は完結とさせてもらいます。
続きに関してはアニメを見つつ、書きたい内容が出てきたら番外編として書く予定です。マハトの話とか書きたいけど今回のアニメで出てくるかな? 
あとあのラスボスみたいなOPのエルフの話も書きたいですね。この先も楽しみです。

いやー、書き始めた当初は付いて来てくれる人と狂いながら書いていこう。くらいの精神でやっていたのですが、気づけばどえらいことになっていました。クヴァールさんはすげえや(n回目)

ではこの辺りで。改めまして、アニメ+αの知識だけで書きだしたこの小説を読んでくださった皆様、面白いと言ってくださった皆様。本当にありがとうございました!

クヴァールさん最高!!



※11╱24追記
https://syosetu.org/novel/331121/
↑パイマンさんが書かれた、本作がアニメで放映された世界線での反応集です。
私が頭の中でイメージしていた内容そのままでとても面白く、また各所の解釈も一致していたため、許可をいただいて記載します。気になる方はぜひぜひ。

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