大きな池の上に展開されていた領域が解かれる。
それと共に宙に浮かぶ二人の男。それと単眼の生首、一人の女性が現れた。
宙に浮かぶ白髪の男、五条はアイマスクをつけながら生首と女を岸の方へとぶん投げた。
「ほべぶっ!」
「…、…。」
漏瑚は勝負に負けたことや、無量空所の影響もあり、放心状態となっている。
双子、と五条に呼ばれていた輝夜に関してはもう一体の方は消え、一人となった状態だ。そして頭から地面へとスライディングし、尻を突き上げる体勢となっている。
そこに五条悟が虎杖悠仁を抱え降りてきた。
「さて、」
漏瑚の頭を踏みつけ、右手は輝夜の方に向けながら『赫』をいつでも打てる状態にする。
「誰に言われてここにきた。ああ、動いたり、関係ないこと喋ったら祓うよ?」
先程までの軽薄な態度は消え、冷徹さをもって質問をする。漏瑚は初めて恐怖を感じる。
その呪力をもってすれば、それだけで殺されそうな威圧感。
驚愕、恐怖、絶望。
「うぅ、顔痛えし脳みそガンガンす、アヒャン♡」
「…」
先ほどの宣言通り関係無かった声なので、軽い赫を喰らわせたが美声を上げ、体をビクッとするだけで終わってしまう。
先ほどの緊張感が一気に抜けた空気となってしまった。
「…せんせー。この人…人?本当に呪霊?」
虎杖が訝しみながら、聞いてくる。まあ無理もない。何せ見た目が完全に人間だ。
翼とか、ツノだとか。そう言ったものは全くない。
気になるものといえば首にかけている、鏡型アクセサリーの呪具ぐらいである。
しかし虎杖は直感で呪霊、と感じ取っていた。だが喋れる呪霊、さらに呪霊らしき様相をしていないこともあり、戸惑っていた。
五条もこんな呪霊は見たことない、と考える。
しかし
「いいや。確実に呪霊だね。僕の眼がそういってる」
五条の眼は特殊だ。それによって呪力から。術式から。肉体構造から。
確実に呪霊だと断言できる。
少しよく見えない部分もあるが許容範囲内。
「誰かに命令されて行動するタイプじゃないでしょ?オラオラ、さっさと言えやこら。言わんと祓うぞ?言っても祓うけど。」
「っていうか呪いって喋れるんだね。当たり前に喋ってたからさ。」
すると突然、五条の目の前に木の根のようなものが降ってきた。その衝撃で漏瑚の頭が転がり、五条と漏瑚との間が広がる。
「「!!」」
突然降ってきた木の根に漏瑚も、虎杖も驚愕の表情を浮かべる。五条は油断なく構え、輝夜に関してはさっきまで地面に顔をつけていたため、「なにごとぉ?!」と、飛び上がった。
すぐさま木の根から多種多様なお花が咲き始める。
戦意、恐怖といった負の感情の類が一切消え、ほっこりとした空間ができた。
「わーい、お花だー。」「あっはっは」「うへへ、うへへへへ。」
五条もほっこりとしている中、虎杖は和み、あの漏瑚ですら笑っている。少しシュールであるが。
輝夜はよくわからないが、気色悪く笑っている。何かの写真集を出して笑っているので、置いといた方がいいだろう。
早速五条が正気を戻した瞬間、虎杖の足を掴む樹木が現れた。
「げぇ!?」
虎杖が木の根に襲われている間に、白肌の木の目を持つ呪霊、花御が漏瑚の頭を持ってその場から離脱する。
「五条先生、俺のことはいいからそいつを追って!ーーーゴメン嘘!!ヘルプ!!」
すぐさま五条は術式を使って樹木を潰す。その場で反転、白色の呪霊が逃げた方向に眼を向けるが、既におらず気配すらまかれていた。
(へえ!!気配を消すのが格段に上手い。さっきの火山頭よりも余計に不気味。このレベルの呪霊が徒党を組んでいるのか!逃げられちゃったけどーーー)
後ろで虎杖が言い訳を行っているが、それよりも奥、お花畑でいまだに笑っている女呪霊を見据える。
「まだもう一体いるからいいでしょ。」
「あ、忘れてた。」
誤っていた虎杖もすぐさま立ち直り、そちらの方を見据える。
「うへへへへ、へ、へ?」
やっと正気が戻った輝夜は周りを見渡す。
いつのまにかいない漏瑚。花御の残穢が付いているお花畑、そしてこちらを見据える術士二人。
「えーっと、あはは。こんばんわ?」
輝夜による一人だけの逃走劇が始まった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「死ぬ!死ぬ!まじで死ぬ!洒落にならんから一旦ストップし、んぎゃー!!」
森の中で赫色の閃光が木々を破壊する。
「ヤッベ、あっぶな!ちょっと、警察呼ぶぞゴラア!…冗談!冗談だから一旦その腕をおろそうか!そーっと、そー、ぐへっ!」
池の上で蒼色の球体が、水を巻き込みながら蹂躙する。
「私のこと、捕まえて酷いことするんでしょ?!服とか諸々剥いて『ピー』したり、『ピーーー』したり『ピーー』した後『ピーーーーーー』とかさあ!獣め!保健所呼んで捕獲したるわ!こんちくしょうがこうなったら、どぐほお!」
道路の上で、相手を引き寄せてから呪力を纏った拳を繰り出す。
だが、それでも全くもってダメージを与えたような気がしなかった。いや、ダメージごと呪力が飲み込まれているような。
攻撃が相手に通っていない。そんな感触は初めてだった。
「くそう、こうなったら電話で救援を!…よし!ねえねえ助け欲しいんだけどさ、ちょっときて…、?。これバナナやないかい!
あぎゃふう!」
「ネタ古っる!!あははははっ!」
戦いの場であるからか最初は緊張しながら、五条に持ち上げられていた虎杖。しかし戦いが膠着し始めたため笑いが溢れる。
元からお笑い好きの虎杖。そんな彼を見て輝夜は喜色満面。
さらにボケを続ける輝夜。爆笑する虎杖。そんな中、五条は冷静に分析をしていた。
(攻撃が上手く効いていない。僕の無限みたいに当たっていないわけじゃない。どちらかというと当たった瞬間に、衝撃が何かに呑み込まれている。厄介な術式の使い方だ。それに術式がよく見えない。何かの術式の副作用か?)
続いて一発芸を始める輝夜とそれに「絶妙に似てねえwww!」と爆笑する虎杖を横目にさらに思考する。
(だけど呪力量は確実に減っている。このままいけば確実に祓えるだろう。上手くいけば捕獲もできる。よし、決めた)
虎杖がいるため『茈』は撃てない。そんな五条は短期戦から持久戦へと移行した。
つまりは戦闘から作業へと変わった。
五条は戦うのが好きだ。しかし今は生徒の前。大人の対応を見せるべく冷静に動くために、思考を切り替える。
瞬間、輝夜の雰囲気が変わる。
「…あー、辞め辞め。私帰るね。つまんなくなった。」
「は?帰すと思ってんの?」
ふざけていた態度が一転、飽きたと言わんばかりの表情となった。
突然帰ると言い出した輝夜に、五条は少しだけキレる。攻撃が入らない、しかも相手は飄々としている。
五条にとっても初めての経験であった。
「いやさ、眼がつまんない。」
「「眼?」」
立ち止まって喋り出す輝夜に二人は聞き返す。五条は戦闘を楽しむタイプのため、輝夜の口上を止めるなど無粋なことはしなかった。
輝夜はそのまま言葉を続ける。
「私さ。深い深い感情が好きなんだよ。甘いものとか好きだけどさ。それ以上に大好き。
そんでさ、自分でやっといてなんだけどさ。その眼嫌い。最初っから楽しんでない。透明でさ、真っ黒くもなく、真っ白でもなく。
そっちの坊やの方が真っ白で好きなんだけどさぁ。対して今の君は
全くもってつまんないよ?」
久しぶりのに受ける挑発。先程からのイラつき。そして目の前にいる極上の敵。それらのことにより、五条はいつもは言わないことを言う。
いつもなら言わずにそのまま行く。いつもなら答えない。そんなものは今は関係なかった。
「へえ、それじゃあ。
本気出すよ?」
「…いい。いい!あぁ、最高だ!」
輝夜の口が笑う。
「今まで感じたことのないほどの感情の発露!いや、呪力か?だけど未だ本気ですらない!でもこの際どうだっていい!」
その頬は狂おしいほどに美しく。綺麗で。官能的で。恍惚的で。
「ああ。やばいよ、これは。イっちゃいそう。」
しかしながら恐怖の塊で。暴虐な存在で。荒々しくて。
「こりゃあダメだ。鼻血出そう。我慢できない。」
最も
呪いだった
「いいでしょう!そこまで純粋な白色を見てしまったのなら、カッコつけないなんて愚の骨頂!!」
「闇に潜み、闇を伝え、闇を喰らい、闇となる。
恐怖であり、色欲であり、権謀であり、道化である。」
「さあさあ皆様お立ち合い!これより演目始まります!」
「踊りゃな損損!笑わりゃダメダメ!全力で演じましょ!」
「即興演劇。演目No.1」
「饗宴」
「始まり始まりっ♡」
そして彼女は今日一番の笑顔を咲かせた。
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ぶふぅー(ぶふぅー)