ようこそ元海賊がいる教室へ 作:てつお
ガタンゴトンとバスに揺られる中、俺は窓から変わり行く町の風景を眺めていた。
やはり違う。前にいた世界では煉瓦や木製が多く、鉄骨製の建物でもメカメカしい極端なものしかなかった。そう考えるともしかしたらこの世界よりあっちの方が文明は発達しているのかもしれない。
だが今思えば、戻って来た当時は、こうしてゆっくりこの世界とあちらの世界の景色の違いを楽しむ事なんて出来なかった。本当、色々あったからな。
勿論進学や勉強の事もそうだが、戻って来て直ぐ、俺が気になったのは今の自分のスペック……つまり実力についてだった。
あちらの世界とこっちの世界は別の次元。つまり根本から違う世界なのだ。だから向こうで鍛えた身体能力も、覇気も元の世界に戻った以上使えない事を覚悟していた。
だが実際には違った。あちらの世界で培った身体能力も、必死で鍛えた覇気も、普通にこっちの世界でも使う事が出来たのだ。
どうやら俺があっちの世界で得たものは、こちらの世界でも引き継がれるらしい。その証拠に大事な宝物であるブローチも目覚めた時から何故か付けていた。どうやら看護師の話しだと、俺が目覚める数日前、何時の間にか付けられたらしい。
まぁ確かに、ブローチは大切なモノだし、必死に鍛えた身体能力とか覇気がこっちの世界でも使えるのは嬉しい。だけどこれは少し俺にとって厄介な事でもあった。そう、何せこれらは俺が海賊稼業をしていた証であり、バレたら大騒ぎになるのだから。
身体能力に関してはそれほど大きな問題ではないだろう。確かに、海賊稼業で鍛えられた俺の運動神経は下手したらオリンピック選手以上だ。と、いってもそこは上手い事誤魔化せばいい。
だが問題は覇気だ。見聞色は使う分には問題ないだろう。だが武装色、覇王色は論外だ。覇王色はいうまでもなく、武装色硬化して真っ黒になった手とか見られたら、流石に言い逃れできない。
まぁ、そもそも覇気なんてこの現代社会で使う事なんて早々ないと思うけど……いざと言う時に備えて誤魔化す言い訳とか用意しないとな……
そんな事を考えながら、お尻から感じるバスの揺れをひっしりと噛み締める。しかしこうしてバスに乗るなんて何時ぶりだろうか。彼方側では海路が普通だった事も有ってか、こうして陸路を使う事自体少なかったからか、こうして車に乗っているだけでも新鮮だ。しかし車は船より早いな‥‥ウチの船も波に乗っている時ならスピードで負けないけど、もしレーシングカー並みの速度で移動できる船があれば、あっという間に
「…ん?」
だが次のバス停が近付いた頃、俺は車外から妙な気配を感じた。この気配、どこか怪我しているな……それとも病気か? 見聞色を使って見てみると、一人の老婆が眼に入る。どうやら腰を痛めている様だ。
でも腰痛か‥‥この世界に来てからは解消されたけど、俺もあっちの世界で40近くになった頃に突如襲ってきたものだ。あれ結構しんどいんだよな……きっとこの婆さんの腰の痛みは、きっと俺のそれよりずっと辛いのだろう。ならばやる事は一つ。この婆さんの辛さを少しでも楽にしてやる事だ。
「おばさん、こっち、空いてるよ。」
「あら、ありがとうねぇ。」
席を譲り、婆さんをそこまで誘導してやる。すると婆さんは俺の方を見て温かい笑顔を浮かべてくれた。『有難う』か‥‥海賊時代では感謝された事なんて片手で数えられるか怪しい程だったのに、こうして気軽に礼を言われる様になったのは喜ばしい。戻って来れて良かった。
その後は吊革につかまり、幾ばくか強くなったバスの揺れをしっかりと足腰で受け止める。嵐の中の航海に比べればこの程度の揺れ、大した事はない。
そんな事を考えながら立ったままバスに乗っていると、今度は突如背後から何者かに話し掛けられた。
「ねぇ、そこの君。」
振り返って見てみれば、そこにはボブカットの茶髪に自分と同じ高校のであろう制服を着た女子校生が一人、だがその時、一瞬だけだが俺の身体はフリーズした。何せ、その女子生徒が滅茶苦茶な美少女だったのだから。
あっちの世界では海賊と言うむさ苦しい職業と言う事も有ってか、中々女性とは会う機会に恵まれず、その反動も有ってか、大袈裟に感じるかもしれないが。おそらく目の前の彼女は100人中ほとんどがノータイムで『美少女だ』と認めるレベルだ。きっとレイリー辺りはすぐに口説いていただろう。
「え、えっと…何かな?」
「あのお婆さん。腰痛めていそうだったから、席譲ってくれてありがとうって言いたくて。」
こんな美少女が俺に何の用なのか気になったが、彼女の言葉を聞いて何となく納得する。先ほどのお婆さん、明らかに腰を痛めていた様な仕草をしながら乗車してきたが、誰も直ぐに席を譲ろうとはしなかった。あっちの世界なら天竜人とかロックス海賊団の輩でもない限り譲っていただろうに。いや‥‥それは余りにも極端な例えか。
「いや、別にそんな大した事はしてないよ。」
「そっか…優しいんだね。」
女子生徒のそんな言葉に『そんな事ないよ』と返しながら、俺は彼女から目を逸らす。そう、俺は別に優しい訳ではない。あっちの世界で海賊稼業をする以上、多くの海賊や海兵の命を奪ってきた、それに俺が海賊である以上市民にとっては恐怖の対象だったのは違いないだろう。そう考えると、先程席を譲ったのは一種の贖罪の様なモノなのかもしれない。
「そっか……私は櫛田桔梗。君は?」
「ああ……俺は海原進。」
「そっか、よろしくね海原君。そういえばその制服、私と同じ高度育成のでしょ? よかったら一緒に学校まで行かない?」
「うん、良いよ。」
櫛田桔梗……だったか。勢いでOKしたけど、この子随分コミュ力高いな……流石にロジャーの会って10秒で「おい、仲間になれ!」には及ばないけど、こうして相手から誘ってくれるのは同年代のノリを知らない俺に有難い。
でも何故だろうか、彼女から妙な何かを感じるな……きっと見聞色が何かを感じ取っているのだろうけど、無意識での発動にはムラがあるからな……けど明確な敵意を感じればすぐ解るし、気にしなくても良いか。
『次は高度育成高等学校前、お降りの方はお知らせ下さい』
すると車内放送が鳴り響き、目的地が近い事を知る。
高度育成高等学校―――国が設立した教育機関であり、東京の埋立地にある日本政府が作り上げた、未来を支える人材を育成する全国屈指の名門校。希望する進学、就職先にほぼ100%応える学校。3年間外部との連絡は断たれる上、学校の敷地内から出るのは禁止された寮生活になるが、広大な敷地内は小さな街になっており、不自由なく過ごす事のできる楽園のような学園。
「あっ、海原君! 着いたよ!」
「そうだな、降りようか。」
バスを降りると、櫛田と共に学校へと向かう。ここが高度育成高等学校……これから3年間過ごす場所か‥‥
周りの光景を見渡しながら、前を歩く櫛田についていく。周りには多くの人がクラス分けが張り出させてる屋外提示板に集まっていた。
「これは……クラス分けか。」
「うん、AクラスからDクラスまで有るみたいだね。」
掲示板を見つめる櫛田を尻目に、Aクラスから順に自分の名前を探す。どうやら櫛田が先に名前を見つけた様であり、俺が自分の名を見つけるより先に声を上げた。
「あっ! 私と海原君、同じDクラスだって!」
「そうか、これからよろしくな。」
「うんっ!」
嬉しそうに飛び跳ねる櫛田を見て、思わず頬が緩む。だが俺は別の世界で何十年も海賊をやったいた身だ、もしこの世界で同年代でもあっちの世界の年齢を合わせれば立派なアラフィフ。色々価値観のズレだったり、考え方のズレも有るかもしれない。そこが不安だな‥‥ジェネレーションギャップなんて事は無いと思うけど、あっちの世界との違いでカルチャーショックとか勘弁してくれよ‥‥
念願の高校生活、やはり慣れない環境である以上、皆緊張はするだろう。だが俺は皆が感じているだろう別のベクトルの不安を覚えながらも、櫛田と共に校舎内へと入って行くのだった。
一応ここで海原君のデータを少々。
氏名:海原進(うみはら すすむ)
クラス:1-D
誕生日:11月5日
評価
学力:Ⅽ-
知性:B+
判断力:A+
身体能力:A+
協調性:Ⅽ
面接官からのコメント
対話スキルは非常に高いようで、自然と彼の話に耳を傾ける様なカリスマ性が有る他、身体能力や判断力は目を見張るものが有るが、中学時代に交通事故に遭い、昏睡状態となり、長期間欠席や、学力不審の他、破天荒でやや過激な言動が多く、少々マナーなどに難が有る事を考慮し、Dクラス所属とする。
ご感想お待ちしています。
海賊時代の主人公の役割は?
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