「おはようシエスタ」
甘酸っぱい微睡みから引き剥がされて私が目を開けると、眼の前には光を失った目でこちらを見つめる助手と、灰色の部屋が映り込んできた。次いで、辺りを見回そうと首を動かすと、微かな痛みと鎖の音が感じられた。理不尽だ。
「...どういうことか、説明してもらおうか助手」
助手を睨みつけながら、私は問う。
「俺はなシエスタ、お前のことが好きなんだ。好きで好きでたまらないんだよ。そんなお前が毎回傷ついて帰ってくるのを見て、俺は我慢できなかった。これ以上お前が傷つくところは見ていられなかった。...だから、お前がもう傷つかないようにこういう処置を施したってわけだ」
「ハハッ。助手がそこまで重い愛を隠し持っていたなんて知らなかったよ」
薄ら笑いを浮かべつつ、私は助手に返事をする。しかし、困った。四肢は鎖で拘束されて稼動を制限されているし、首にも鎖で繋がれた首輪が着けられている。どこで調達してきたんだこんなもの。
「重いと思うかシエスタ?だがこれでいい。お前は一生傷つかずに居られるし、俺も心が傷まずにいられる。身の回りの世話は全部俺がやってやる。どうだ?双方利点しかないとは思わないか?」
確信した。こいつはヤンデレ属性持ちの男だ。ここまで愛が重たい男を私は見たことがない。さて、この状況を打破するにはどうしたら良いか。
「...何か言ってくれよシエスタ。寂しいじゃないか」
顔を上げれば、光一つもない目で私を見つめる助手。何かしら答えなければ今にでも私を殺しそうなオーラを出している。
「君は、私のことが好きなんだ?」
「あぁ、そうだよ。狂おしいほどに愛おしい」
狂気の笑顔を浮かべ、助手はそう言い放つ。
「...最早分かり切っているようなものだけど、一応確認してもいいかな?」
「あぁ、なんだシエスタ」
「愛おしいというのは、likeの意味?それとも...」
「LOVEの方に決まってるだろ。LOVEじゃなければ、こんなことはしないさ」
"こんなこと"っていう自覚はあるんだ。
「...私も、助手のことは好きだよ。愛でてあげたいし、愛されたい。でもね助手」
「うん」
この齢17の少年の心に響くかな?
「...私はこんな愛され方は望んでいないよ。第一、こんなガッチガチに拘束されたんじゃ、動きづらくて仕方ない。それに、君を撫でることもできないじゃないか。...だから助手、この拘束を解いてはくれないかな?」
数秒の沈黙。さぁ、どう出る助手?
「...駄目だ」
「何故?」
すかさず疑問を入れる。
「...だって、外に出したらお前、また傷だらけの包帯だらけで帰ってくるじゃないか。見てて居た堪れないんだよ。苦しくてしょうがない...」
この少年は、相手が断れないような状況を作るのが無駄にうまいなホント。
「だからさ、シエスタ。お前、俺の言う通りにしてよ」
かつて私が助手に言った"私の助手になってよ"という言葉と似たようなフレーズを、眼の前の彼は言った。見れば、彼の顔は苦しそうだった。...でも
「ごめんね助手。流石にそれは受け入れ難いかな...」
私の心には、断る以外の選択肢は...残念ながらなかった。
「そうか、残念だ...」
助手は何か吹っ切れたような顔になる。ようやく分かってくれたのだろうか。いや、助手のことだ。もしかすると何か考えがあるのかも...。そんな私の思考は、頭への衝撃とともに儚く散った。
「残念だよシエスタ...俺は傷ついた。だから...お前がその気になるまで分からせてあげる」
消えゆく意識の中、私が最後に見たものは......狂気に満ちた助手の―――君塚君彦の笑顔だった。
―――それから、私と助手の光も消え失せるような何年間もの監禁生活が始まった―――
fin
ヤンデレ系の話は書いたことがなかったので、今回が初挑戦ですかね。んで、今回君彦にはヤンデレ役を任せました。つーか久々に1500文字ポッチの文章を描いた気がする。