平凡な日常も、ある日突然終わる時が来るかもしれない…と誰かが言っていた。今のところ僕の日常は壊れていないので、それは遠い未来のことなんだろう。

君の幸せが僕の幸せだ。

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君に幸あれ

平凡な日常も、ある日突然終わる時が来るかもしれない…と誰かが言っていた。今のところ僕の日常は壊れていないので、それは遠い未来のことなんだろう。

 

君の幸せが僕の幸せだ。

 

 

朝起きて朝食を食べる。そしていつものように彼女に挨拶をして家をでる。

 

「行ってきます、サチ」

 

返事はない。先月したケンカがまだあとを引いているようだ。こうなったらサチはずっとこのままだ。彼女の機嫌を取る方法を考えながらバイト先の喫茶店へ向かう。坂を登り橋を渡る。渡り切ってすぐにある交番の前の掲示板を横目で見ながら歩く。

 

『この顔にピンときたら110番』『何処かの小学生が描いたと思われる交通安全ポスター』『詐欺の注意喚起』『行方不明者の情報募集』

 

お心当たりのある方はご連絡お願いします

 

 

「サトウくん、大丈夫?」

 

掃除をしている僕に店長の心配そうな声がかかる。彼女のご機嫌取りをどうするか、考え込んでいたのが顔に出ていたのだろうか。

 

「顔に出てました?僕の彼女が…ほら」

 

機嫌が悪くて。彼女のことは前に話したことがある。僕の言葉に何か察したのだろうか。

 

「そっか、やっぱりさ顔色悪いから今週いっぱいは休んでいいよ」

 

こういう従業員のことを第一に考えてくれるところが店長の魅力だ。まったく、いいバイト先を見つけたものだ。お言葉に甘えて休ませてもらうことにする。

 

「あんまり思い詰めないようにね」

 

大げさな店長の言葉が耳に残る。

 

 

 

「おかえりなさい」

 

家に帰った僕をいつもと同じ、明るい声が迎えてくれる。サチの声だ。

 

「ただいま、サチ」

 

笑顔のサチは今朝とは変わって機嫌がいいようだ。コロコロ変わる気まぐれな性格は、猫のような可愛らしさがある。

 

「店長が休みくれたからさ、一緒にどこかに出かけようか?」

 

機嫌が直ったと言っても油断はできない、ここでポイントを稼いでおかないと。それに折角の休みなんだからサチとたくさん遊びたい。

 

「今週は休みだから、この前言ってた遊園地とか新しくできたショッピングモールもいいよね」

 

彼女はいつだって僕を引っ張って出かけたがる。そういえば喧嘩した理由もたまには誘って欲しいとかそんなことだった気がする。いつだって些細なことがきっかけだ。たまには僕から誘えばサチも嬉しいかもしれない。

 

「サトウ君、週末は部屋で一緒に過ごそう?」

 

活動的なサチには意外な提案だ。だけど僕はサチと一緒にいられればいい。

 

「ふたりきりでいっしょにいようね」

 

サチさえいればいい。

 

 

坂を登り橋を渡る。今住んでいるところは家賃は安いし部屋も広いのはいいが、橋を渡らないとお店が無いのが難点だ。だけど冷蔵庫に食料が入っていないので、面倒でも買いに行かないといけない。橋を渡ってすぐそばにある交番に差し掛かり何時ものように掲示板が目に入る。

 

『この顔にピンときたら110番』『何処かの小学生が描いたと思われる交通安全ポスター』『詐欺の注意喚起』『行方不明者の情報募集』

 

お心当たりのある方はご連絡お願いします

 

「何かお気づきのことありますか?」

 

掲示板の前で少し立ち止まっていたのが見えたのだろう、警察官が声をかけてくる。

 

「いえ、なんでもないです」

 

少し慌てて答えた僕を不審に思ったのか警察官は胡乱な目を向けてくる。

 

「あの、ほんとなんでもないんで、失礼します」

 

僕は視線から逃げるように走り出した。早く買い物をして帰らないと。サチが待ってるから、早く。

 

 

朝目が覚める。昨日は買い物をして帰って、すぐに寝てしまったのだ。疲れていたのだろう。昨日、警察官に声をかけられたのは、疲れて顔色が悪かったせいかもしれない。

 

「おはよう、サチ」

 

返事はない。珍しく早朝からどこかへ出かけてのだろうか。いつだってサチは僕より遅く起きる。例外は一緒に外出する日くらいだ。

 

玄関にサチの靴があるのを確認する。普段履きのスニーカーも仕事用のヒールもすべて揃っている。外には出ていないみたいだけど。どこかに隠れて僕を驚かそうとしているのかな。

 

浴室、トイレ、クローゼットどこにもいない。そんな筈はない、サチは外に出ていないのだから。キッチン、昨日買った食材がテーブルに置かれたままになっている。それだけじゃないもともと冷蔵庫に仕舞っていたいたものもまとめて置いてある。買い置きの卵、牛乳、入っていたはずお食材。そういえば昨日は食材しまったっけ。開けた覚えはない。何かが思い出せそうな。冷蔵庫に近づき扉に手を掛ける。

 

「どうしたの、サトウ君」

 

後ろから声がかかる。そこにいたのはいつもと変わらないサチだった。

 

「何でもないよサチ、すぐにご飯作る」

 

 

気が付かない、思い出せない、サチと喧嘩した時僕はどうしたんだっけ。口論してサチを突き飛ばして。やめよう、もうサチの機嫌は直っているし、いつだって何時もと変わらないサチがここにいる。

 

冷蔵庫の中には何が入っているんだろうか。もう開けられないから新しく買わないと。今度サチと一緒に選びに行こう。最近虫が多い気がするから防虫剤を用意しよう。においも気を付けないといけない。

 

何時もと変わらないサチがいる。昨日もその前も先月も同じ姿のまま変わらない。きっと明日もずっと未来も、必ずそばに居てくれるだろう。僕はサチを抱きしめる。君が何かなんてどうでもいいんだ。君はサチだから。

 

 

キミはサチであれ。




君に幸あれ、きみはさちであれ

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