望郷漂流客船イナバマル 祝福された後継   作:qlo

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※Lostbelt No.6『妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ』の核心的なネタバレのほか、Lostbelt No.7『黄金樹海紀行ナウイ・ミクトラン』〜2部奏章『オーディール・コール』の一部内容に触れています。

※本作は作者本人のpixivアカウントで先行投稿済みの内容となります。該当アカウント各話のキャプションにその旨の明記あり。

以上の事柄をどうぞあらかじめご了承ください。





序幕
煤払【一】


     

 

 ◆◇◇

 

 

 

 正午過ぎの出来事である。

 

 文明の痕跡も生命の軌跡も、その一切が失われて久しい真っ白な大地を眼下に見据え、ノウム・カルデアの現本拠地──ストーム・ボーダーは当て所なく、漂流するかのように滞空している。

 

 その艦内某所。清掃の行き届いた通路に人知れず、骨董品のような代物が横たわっていた。

 

 見た限り、どうやら『船』をモチーフに作られたらしいその五寸程の造形物は、精巧ながら稚拙で、写実的ながら空想的で、作りは佳いが中身は無い──と、なんともちぐはぐな様相を成していた。

 

 その外見をたとえるならば、『素人と職人による合作』……いや、それはあまり正確な表現とは言えないだろう。なぜなら、その造形の素人らしさの中にはどこか職人らしさがあり、職人らしさの中には明らかな素人らしさもあり、かといって、その中間にあたる半端者の手で作られたようには見えず、実に評価しがたいクオリティで仕上がっているからだ。

 

 つまりこの骨董品は、素人にも職人にも半端者にも属さず、意欲的ながら無関心な立場を両立し得る者によって作られた代物だ──ということになるのだろう。

 

 とはいえ、ここノウム・カルデアにおいて、このような珍品が転がっている光景自体はさほどおかしなことではない。なぜならここは、さまざまな出自の英霊──『サーヴァント』の面々が所属する居住区なのだから。

 

 彼らの持ち物はいずれも、現代においては『聖遺物』として語られるほどに希少な代物である。が、それらが転がっていても不思議ではないほどに、この艦には数多の英霊達がおり、まさに石を投げれば当たるほどの大所帯なのだ。何なら、その投げられた石でさえも、彼らのうちの誰かが落とした私物である、という可能性もあるだろう。

 

 ただでさえそのような魔境であることに加え、ここはクリエイター精神の旺盛な者も数多く所属している始末なのだ。たとえば、フィギュアづくりに熱を浮かす者。果ては元より、発明や制作を本業とする者など……じつに多彩な専門家諸兄が日夜、第二の生とも言える現在を享受すべく腕を奮っている。

 

 と、そうした環境ゆえに、およそ現代ではお目にかかれないような──時代錯誤どころか、時代が錯綜したような代物が形を得る、といった可能性はいくらでもあった。

 

 ……しかし。

 

「なぜ──」

 

 どうやらこの骨董品に限っては、そのような代物ではなかった模様。

 

「──これが、此処に在る?」

 

 見るからに不自然な存在であるそれは、自らの重量に耐えかねるかのように……あるいは、本来その姿であることがふさわしいかのように。

 

「……──」

 

 灰の山へと崩れ果て──消えることはなく、いつまでも残り続けた。

 

 

 

 ◆◆◇

 

 

 

「この区画で点検ルーティーンはおしまい! あとは管制室に戻って、記録と報告を済ませたら完了だよ~」

 

 ネモ・シリーズのうちの一種、マリーンのひとりが楽しげに言った。

 

「ああ」

 

 疲労感を漏らしつつ、僕は答える。

 

 正直、ストーム・ボーダー内部がこんなに広いとは思わなかった……いや、そこそこ以上に広いだろうとは思っていたが、そこそこ異常に広かったのだ。いざ自分の足で隅々まで歩いてみると、実際の広さは想像などはるかに超えていた。

 

「カドックもずいぶん、ストーム・ボーダーに詳しくなったよね!」

「まあ、現地作戦以外はずっとここで過ごしているからな」

 

 クリプターである僕が目を覚まし、彼らと共同歩調をとるようになり、はや数ヶ月。七つの異聞帯は消え、決戦の地と目される、我らが古巣でもある南極基地『フィニス・カルデア』への入館切符を掴むため、ノウム・カルデアに与えられた試練──『オーディール・コール』の渦中に、僕もまた身を置いている。

 

 とはいえ、例の試練とやらはそう頻発するものでもないらしく、普段は白紙化地球の地表調査を主としている。が、これだけ広大な体積の艦だ。空中を漂っているだけでも際限なくリソースは消費する。自給手段がないわけでもないらしいが、現地調達で得られる資源の質と量には及ばない。組織運営、あるいは軍事作戦においては当たり前の話だが、大質量にして大所帯であるこの方舟ともあればなおのこと、ランニングコストは抑えられるだけ抑えたいものなのだ。

 

 ゆえに、現在は緊急時を除いて、白紙化地球調査は必要最小限の規模で行うものとなり、普段は艦内における各人員の役割に徹することになっている。一番の新顔である僕は、当然ながら一番手の空いた人員だ。役割らしい役割はなく、かといって何もしないのも居心地が悪い。

 

 そんな風に考えていたとき……ちっこいダ・ヴィンチ(の姿に慣れてきたのも最近の話だ)から、

 

『ノウム・カルデアの一員として行動を共にする以上、これまでの情報の共有はしておきたい。平時はデータベースやログにガッツリ目を通しておいてくれたまえ、新米君!』

 

 と、謎の先輩風を吹かせつつの提案があった。断る理由もないし、むしろ今の自分にとっては当然の義務だと納得し、平時は各種データベースやログの内容に目を通している。で、そればっかりというのも何なので、こうしてマリーン達の仕事を手伝うことにしているというワケだ。そして現在──先ほどマリーンが言ったとおり、今日の点検がひと区切りついたところなのである。

 

 ちなみに。記録と報告、とマリーンは言うが、その実、彼らにとってそれらはあまり必要のない手順だった。それは、そうした手順を蔑ろにするような意味ではない。単に『そうするまでもない』というだけの話だ。

 

 ネモ・シリーズは、アトラス院の技術『分割思考』を基にして作られた、オリジナルのネモから派生した分身である。これは、ただ個体数を増やすだけの分身ではなく、『オリジナルの各側面』を『シリーズ』として抽出し、そのシリーズ各個にオリジナル由来の人格が与えられた存在だ。そして、同一人物から文字どおり『思考』を『分割』された存在であるがゆえに、個体ごとの感覚や記憶は全シリーズ間で共有されているのである。そのため、ネモ・シリーズ間では、各個体が経験した瞬間に情報の共有は完了しており、改めて記録や報告という手順を踏む必要はない──というワケだ。

 

 しかしながら、ネモ・シリーズ以外の者に情報を共有する場合は別だ。そのため、こうして第三者に向けた記録や報告体制が採られているのである。

 

 ……などと、彼らマリーン達の便利な能力について聞いたことを復習しつつ、管制室に向かっていた道中。数メートル先の曲がり角から、ぼそり、と声がした。

 

「……またですか」

 

 声の主は、ナイチンゲールだった。彼女もまた今の僕やマリーン達と同じく、平時は艦内の巡回を担当している。もっとも、彼女の巡回の目的と、マリーン達の巡回の目的とは別物だと思うが。ただこのときは、彼女とマリーンの感想は一致していたらしい。

 

「えぇ~? またぁ~? これでいったい何回目だよ~!」

 

 マリーンはあきれ気味に憤慨している。どうやら、巡回頻度が同等の二人ならではの共通の発見があったようだ。残念ながら、あまり嬉しくはない類の。

 

「ああ、マリーン。失礼、あなた達の仕事をとってしまいましたね」

 

 ナイチンゲールはマリーンの顔を立てるように言葉を返す。環境美化という観点において、艦内の管理や点検を担うネモ・シリーズへの好感度は、彼女の中でもかなり高いらしい。

 

「ううん! こちらこそ手間をとらせてごめんね~! あとはボクらでやっておくよ!」

 

 マリーンが引き継ごうとすると、

 

「いえ、ちょうど資源回収室に向かうところでしたので。このまま私が処分しましょう」

 

 と、ナイチンゲールは後始末を買って出た。

 

「ホント? じゃあお言葉に甘えるね! ありがとう婦長!」

「礼には及びません。あなたたちこそ、艦内美化の努めに感謝します」

 

 この上なく自然に礼を尽くす二人。互いの矜持を根本から認め合うがゆえの素直な関係性を前に、ひねくれ者の僕は少し羨ましく思った。

 

 と……それはさておき。

 

 そんな彼らが手を焼いているものとは何なのだろうか。二人の足元に視線を落とすと、それはすぐに目に入った。

 

「(……灰?)」

 

 ……何かがある、というか、むしろこれは何もない、というか……ともかく二人は、同様のものを何度も発見しているということらしい。

 

 とはいえ、たかが灰である。ここノウム・カルデアにおいては、それぐらいの残留物なら珍しくもないだろう……と、(悲しいことに)今の僕ならば考えられる──が。

 

「……」

 

 姿が映るほどに磨かれた清潔な通路と、異物以外の何物でもない灰の山。

 

 残酷なまでに対照的なふたつが同居するその光景が、不思議と僕の頭から離れなかった。 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

「微小特異点?」

 

 管制室に着くなり、奥のほうからゴルドルフ・ムジーク新所長の声が聞こえてきた。

 

「うん。今朝、シバが観測したものだ。とはいえ、脅威判定は最低基準にも及ばないらしい。幸いなことに緊急性はないね」

 

 と、ちっこいレオナルド・ダ・ヴィンチ技術顧問(現在は経営顧問も兼任している)は答える。

 

「当艦は慢性的なリソース不足だ。イレギュラーへの対応は慎重を要する……望めるものなら、このまま自然消滅を待つのもいいだろう」

 

 ネモ・シリーズのリーダー、キャプテン・ネモも後に続いた。

 

 どうやら、観測された微小特異点への対応について話し合っているようだ……発生しすぎだろ、特異点。

 

「脅威判定が増大する可能性はないのかね?」

「今はどうとも言えない。観測直後からシオンがトリスメギストスⅡの回答を待っている。その結果次第で検討する手筈だ」

 

 シオンこと、シオン・エルトナム・ソカリスとキャプテンは、元召喚者とサーヴァントの関係にある。現在のマスター権はアイツ──藤丸立香に委譲されているが、元相棒同士の名コンビっぷりは健在だという。そして、シオンがネモの召喚者かつ、彼女の出身であるアトラス院の技術──『分割思考』のエキスパートであったことが、ネモ・シリーズの実現を叶えた理由なのである。

 

「それにしては随分と時間が掛かっているな。もうじきおやつの時間といった頃合いだぞ?」

「そこは私も気になっているんだよねぇ。回答を得るには不確定要素が多いのかもしれない」

 

 おやつの時間を気にする司令官様に、ダ・ヴィンチは答える。

 

 不確定要素……ごく微小とはいえ、すでに特異点として観測されている状態で、トリスメギストスⅡが回答を保留するという状況は確かに気になる──が、こっちも自分の仕事の途中である。かのハイスペ演算機の保留状態をとやかく言えた身分ではない。

 

 報告はあのマリーンがやると言い走っていった。すでに報告済み……かと思ったが、ちょうどネモ・ベーカリーのパンが焼きあがったらしく、進路を直角に変えて向かってしまったようだ。まあ、首脳陣が取り込み中である以上、キャプテンを含むネモ・シリーズ間で感覚共有が成されているだけでも、ひとまずは十分だろう。

 

 仕方ない。任された記録の方を進めつつ、首脳陣の話が落ち着き次第、僕が報告も兼ねることにしよう。まあ、『艦内設備に不備はございません』と告げるだけの話なのだけれど。

 

 ……彼らの作戦立案の段階に首を突っ込むのは、今の僕の立場を省みると、さすがにまだ少し躊躇われるのだ。まあ、彼らに対してこういった考えは杞憂らしいということは、薄々わかってきたんだが。

 

「ま、現状は待機一択だ。対策を練ろうにも情報が無いに等しいからね。というわけで、ティータイムでもキメて休んでいるといい!」 

「そうだね。たった今、ベーカリーの新作も焼けたようだし……マリーンばかりの品評会、というのも偏向的でいただけない。うん。ここはやっぱり、キャプテンとしての意見も反映してもらわないとだ」

 

 僕も腹が減ってきた……いや、それでいいのか首脳陣。あと、しっかり目をつけられてるぞ、さっきのマリーン。

 

 と、心の中でツッコミを入れた直後。

 

「それより最近、『ボーダー内のいたる所で燃え滓のようなものが放置されている』と、ナイチンゲールから苦情をもらっているんだ。まったく、名だたる英霊達が火遊びなんて勘弁してほしいね」

「マリーン達からも何度か報告が上がっている。当然その都度、清掃措置は採られているけれど……そういう問題じゃない。徹底的に美化意識を引き締め直すべきだ」

 

 ──記憶に新しい、異物感が残る話を耳にした。 

 

 

 






まずはここまでお読みいただき、ありがとうございました!

一年前、支部に投稿した妖精國メンバーの漫画が二本ありまして、その制作の傍らでどうしようもなくどんどん膨らんだイメージをもとに、「ああもう、これも形にしたい!」と、勢いそのままプロット作成へ着手し始めたのが本作です。もうほんと妖精國愛が止まりません。

今章を含めた七章分までは小説の形になっており、ひとまずそこまではコンスタントに投稿する予定でおります。プロットはセリフオンリーで最終話まで用意済み、物語ラストまでの詳細な展開も決定しているので、あとはぼちぼちと小説の形に仕上げていくスタイルでの進行になります。

表現手段としての小説には不慣れも不慣れな身ですので、何かと粗があるかと思いますが、お付き合いいただけますと幸いです。
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