※Lostbelt No.6『妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ』の核心的なネタバレのほか、Lostbelt No.7『黄金樹海紀行ナウイ・ミクトラン』〜2部奏章『オーディール・コール』の一部内容に触れています。
※本作は作者本人のpixivアカウントで先行投稿済みの内容となります。該当アカウント各話のキャプションにその旨の明記あり。
以上の事柄をどうぞあらかじめご了承ください。
妖精騎士【一】
◆◇◇
「多い多い多い、多いって!」
眼前に迫りくる、なんかもうありとあらゆる種類の個体で構成された大群。簡易スキャンを終えマッピングが済んだエリアから、それらは突如として発生した──つまり、さっきまで何も無かったところからご一行様は湧いていらしたのだ。何でよ?
「来るぞ! どーする!」
これじゃさっきのバーゲスト戦と同じく、後退を余儀なくされる一方じゃないか~!
「仕方ない! マシュ、さっき言いかけたやつ + ハベにゃんトラップ戦法でいこう!」
「わかりました、マスター! 大変素敵な作戦かと。特にトラップ部分の名称が!」
「うん、ハベにゃんトラップってなに?」
「ラウンドシールドで防御、敵影を跳ね返しつつ、こちら側に回り込まれないようにハベにゃんは糸で捕獲網を張ってほしい! そこを私が、簡易召喚で押し返──」
そう言いかけたとき、またしても通路内を爆炎が吹き抜けてきた。ただし、今回は前方からではなく、背後からである。
作戦指示の最中であることも重なり、私はまったく反応することができなかった。
「熱っ……く、ない……?」
それも当然だろう。なぜならその爆炎は、防ぐことも弾くこともしていないのに──私達を避けるようにして吹き抜けていったのだから。
「いーや。その必要はねぇぜ」
バーゲストとメリュジーヌへの魔力供給による負担から、著しく効果が薄れてしまっているらしい遮蔽魔術のすぐ近く──十数メートルほど離れた背後から、炎を放った張本人らしき人物の声がした。
「ここは余力を残しときな」
バーゲストのときとは違い、発生量が最小限に抑えられた煙と煤の中から現れたのは。
「お嬢ちゃん」
我らが頼れる、青い髪のアニキだったのだ。
「クー・フーリンさん!」
「加勢か! 助かる~!」
マシュとハベトロットも気がついたようで、それぞれ歓喜の声を上げている。
「おうおう。こりゃまた、ドンピシャのタイミングで来たもんだぜ」
前方の大群を見据えながら、クー・フーリンはやれやれといった口調で言う。その流れで、彼は顔だけを少し後ろに向かせ、モルガンの姿を視界に捉えた。
「……」
深く目を瞑ってはいるが、クー・フーリンに視線を向けられていることは承知しているのだろう。モルガンはややバツの悪そうな、あるいは神経を逆撫でされたような表情をうっすらと滲ませている。
「──なるほどな。そりゃ、お前さんが動くワケにはいかねぇ。そこでじっとしてろ」
「……」
そう言われて、モルガンはよりいっそう機嫌を損ねてしまったのか、すでに視線を外しているクー・フーリンの背中を片目だけ開けて睨んでいる。
モルガンはそんな様子だけれど、たったの一瞥だけで彼女の状態を理解してくれたクー・フーリンの察しの良さは頼もしい限りだった。端的に言って、非常に心強い。
「第二陣のみなさんがこちらへ?」
「いや、俺だけだ。第二陣の
どうやら、クー・フーリンは予定を変更し、先行して駆けつけてくれたようだ。
「それより、ちゃっちゃとコイツらを片付けるぜ。話はその後だ!」
「マスターはモルガンと一緒に下がって。余力を残さなきゃらしいから少しガマンだ!」
「うん、わかった!」
実はとってもアネキなトコがあるハベにゃん。そんな彼女のアドバイスに異議は無し。
「じゃ、ボクが糸で敵を大雑把にまとめる! マシュはハミ出た奴らを叩いてくれ!」
「わかりました!」
「クー・フーリンはボクらがまとめた敵の塊を何とかしてくれ~!」
「よォし──景気良く燃やしてやらぁ!」
と、二人の連携を援護するついでにもう早速、炎のルーンを炸裂させ始めている、賢人になってもケルト全開なアニキなのであった。
しかし、賢人であることも確かなようで──私とモルガンの足元に、防御の術式が仕込まれたルーンストーンが転がっていた。
◆◆◇
「──■■■■■■──」
──爆炎が巻き起こる。
「ふっ!」
──両鞘を振り抜き、両断する。
「──■■■■■■──」
──爆炎、両断。爆炎、両断。爆炎、両断。
……その繰り返し。
「っ……まずいな……」
このまま周囲の魔力を喰い続けたら、彼女はまた『獣』になってしまうかもしれない。
「……そうはさせるものか」
それを阻止するためには、一秒でも早く戦闘不能に追い込まないと。
……この調子でかれこれ、半刻は競り合っているけれど、言語機能や意識まで操られている様子はない。本当に、ただひたすらずっとこの調子だ。
「──■■■■■■──」
こうして彼女が唸り声を上げるたびに爆炎を放つから、僕はそれを斬り払っている。
……ここまで時間を要しているだけあって、彼女の状態もよく判ってきた。魔力喰いで周囲の魔力を吸収し、霊基自体を燃焼機関として燃やし続け──処理しきれない魔力を溜め込んで内部爆発を起こさないために、僕への爆炎攻撃に費やしているんだ。
要するに──あくまでバーゲストは、この一連の魔力代謝を強制されている
「──■■■■■■──」
「──おっと」
だから、ほとんどの攻撃がこの爆炎。
剣は大振りばかりで
燃焼
それが霊基自体に破損が生じている影響なら、ここからの損壊はさらに早いぞ……!
「──■■■■■■──」
「なっ!」
鎖──!
爆炎の放出から一拍遅れて、鎖まで繰り出してきた……! 狙いこそ定まっていないが……拘束を目的とした彼女の能力まで使われ始めた──?
敵が彼女の暴走状態に指向性を加えてきたのか? それとも、霊基どころか霊核にまでガタがきて──敵すらも意図しない挙動を採るほどに、彼女は壊れているのか。
「──■■■■■■──」
また、一拍遅れて鎖が飛んできた。
今度放たれた鎖は僕の真後ろの石柱に突き刺さり、周囲を突き崩している……徐々に狙いを定められるようになっているのか。
それに──爆炎によって湖の水の一部が蒸発して、この空間に水蒸気が充満し始めた。石柱が破壊され始めたことで粉塵も巻き起こるし、灰も煤も舞い散るしで視界は最悪。爆炎から鎖が放たれるまでの間隔もバラバラで、避けるタイミングが定まらない。
「──■■■■■■──」
「ちっ……!」
……持久戦にもつれ込むのだけは、絶対にダメだったんだ。だから、あのメンバーと状態では、僕ひとりで相手をするのがベスト──だったのに。
「──■■■■■■──」
……僕の魔力がこのまま喰われ続けて、竜形態換装まで強制されれば。
「このッ」
吸収すべき魔力リソースとして、『竜の炉心』がダイレクトに狙われる。この状況……敵の狙いはきっと
そうなる寸前まで陥ったときは──
「──■■■■■■──」
◆◆◆
「……こちらも気付く頃合いですな」
そう。貴方がたは決して、その拮抗した状態から脱却できない。否──
『妖精騎士を手にかけた妖精騎士は自滅する』
かつてモルガン陛下ご自身が定められた、貴方がた妖精騎士を縛る絶対の理だ。
しかし、貴方がたは最期まで、その理に抗うことだろう。
それで良い。なぜならば、此方は時間を要せば要すほどに潤沢な魔力が蓄えられ、その先に約束された共倒れを、ただひたすらに待つだけで良いのだから。
致命傷を避けてばかりいては、バーゲスト殿を止めることは叶わず。
致命傷を与えては、与えた側もその時点で致命傷を負ってしまう。
そして、貴方が単騎でバーゲスト殿の相手をする以外の選択肢など、どこにも無い。
貴方がたは、盤面に着いた時点で詰んでいるのだ。
両者が力尽きるまで、異界化空間と『竜の炉心』より汲み出した莫大な魔力を、燃焼機関たるバーゲスト殿に燃料として与え続け……我らが艦の駆動エネルギーに変換する。
ゆえに──もとよりバーゲスト殿を収めた後の狙いは、貴方ただひとりだったのだ。
「さあ。
お読みいただきありがとうございます。
そう。ハベにゃんって実はとっても『アネキ』なトコがあるのだ。
引き続き、お付き合いいただけますと幸いです。