望郷漂流客船イナバマル 祝福された後継   作:qlo

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※Lostbelt No.6『妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ』の核心的なネタバレのほか、Lostbelt No.7『黄金樹海紀行ナウイ・ミクトラン』〜2部奏章『オーディール・コール』の一部内容に触れています。

※本作は作者本人のpixivアカウントで先行投稿済みの内容となります。該当アカウント各話のキャプションにその旨の明記あり。

以上の事柄をどうぞあらかじめご了承ください。





妖精騎士【三】

 

 

 ◆◇

 

 

 

「──■■■■■■──」

「ぐ……ッ」

 

 相変わらず、爆炎は止まない。

 

 湖は干上がり、空間内は水蒸気でホワイトアウトしている。鎖が繰り出される間隔も、避けるべきタイミングも定まらない。ただ、繰り出される鎖の様子は変わった──もちろん、悪いほうになんだけれど。

 

「──■■■■■■──」

 

 一度に放たれる鎖の本数が、増えている。

 ……それに、厄介な変化が、もうひとつ。

 

「っ、まったく……水臭いなぁ、陛下も」

 

 正直、そんな気はしていた。

 

 この『偽装魔術』──その実態は、額面どおりのものではなかったんだ。

 

「──■■■■■■──」

 

 本当は、陛下からの魔力供給術式であることに加えて。

 

「はぁ、ふッ!」 

 

 その陛下の魔力がそのまま、偽装のためのカバーになっていたんだな……!

 

「ッ……それはちょっと……ムッとしたかも」

「──■■■■■■──」

 

 燃費が悪いなんてものじゃない。何だっけ。『宝具の使用は一回が限度です』だったっけ?

 

「……当たり前じゃないか、そんなこと!」

 

 だって陛下は──サーヴァント三騎分の魔力を肩代わりすることにるんだぞ。

 

「──■■■■■■──」

 

 それを言うなら、『一回だってキツい』の間違いだろう……!

 

「うッ……!」

 

 さっきから少しずつ、技を繰り出すたびに……陛下の魔力を感じられるようになった。つまり、初めは()()であると気付けないよう、細工が施されていたということだ。

 

「──■■■■■■──」

 

 上乗せされる魔力が陛下のものだと、敵味方両方にバレないようにするための偽装──

 

「──そういう意味でもあったのか……ッ!」

「──■■■■■■──」

 

 だとしたら──陛下にはもう、それを隠す余裕がなくなってきたってことだ。

 

「熱ッ……」

 

 ……さっきの陛下の表情──

 

『──まったく……本当にお前は……よく食べますね……』

 

「──■■■■■■──」

 

 ──あれは、バーゲストの魔力喰いによる消耗じゃない。バーゲストに与えた分の偽装魔術……そちらに魔力を回して疲弊していたんだ……!

 

「大人しく……しろッ!」

 

 だって、魔力喰いによる消耗だったのだとしたら──あの場にいたマスター達より先に、陛下がバテるはずがないんだ。

 

「──■■■■■■──」

 

 つまり……陛下はあのタイミングでも、バーゲストから偽装魔術は解いていない。今もまだ、バーゲストに付与されたままなんだ。

 

 ……陛下はどうして、彼女の術を解かない──?

 

「──■■■■■■──」

「くそ……、──っ!」

 

 爆炎をギリギリで躱す。

 

 体勢を整えるために、石柱の側面へ着地する──が、その足元に異変を感じた。

 

「しまった──」

 

 迫りくる爆炎とホワイトアウトによる視界不良。加えて、諸々の懸念材料の情報処理に思考を回したせいで──石柱に仕掛けられた『それ』を、まったく視認できなかった。

 

「鎖の、束……!」

 

 着地から体勢維持……ここまで一秒にも満たない時間ではある。だが──僕は今、何十本と束ねられた鎖の()()に足を着けてしまったのだ。

 

 ここから離脱するには、この鎖の束をさらに踏み込んで跳躍する必要がある。踏み込むことをやめ、鞘による打撃の反動を利用して離脱しようとも、より接触せざるを得ないことに変わりはない。

 

 ──わずかに眼が慣れ、鎖の張り詰める先が見渡せたことで、さらに確信が強まる。……拘束の回避は、難しいだろう。なぜなら、僕が居るこの石柱群は──

 

「マジか……!」

 

 ──数百本の鎖によって作られた、鋼鉄の包囲網の中心だったのだから。

 

 二秒。……時間が掛かりすぎた。もうすでに、回避行動の猶予は消費している。予定外の出力になってしまうが……ここはもう、かなり強めの魔力放出で──

 

「──ん?」

 

 ……三秒。なぜか、状況に変化がない。

 

「っ、え?」

 

 五秒。そのまま鎖の束を蹴って跳躍し、離脱に成功してしまった。

 

 十秒──いつまで経っても、鋼鉄の包囲網に僕をめがけて襲来する気配がない。それどころか、包囲網を構成する鎖の内の一本すら、微動だにしてはいなかった。……あんな様相をしておいて、捕獲トラップじゃないのか……?

 

 ホワイトアウトで視界が奪われた環境。

 

 爆炎にまぎれて、数拍置いて迫りくる鎖。

 

 石柱群に張り巡らされた、百の鎖の包囲網。

 

 魔力リソースとして狙われている、僕自身。

 

 これらの要素が揃っているにも関わらず、捕獲トラップじゃないなんてことが──、

 

「──■■■■■■──」

「っ!」

 

 爆炎の襲来を警戒したが、バーゲストが例の唸り声を上げただけだった。

 

 そういえば、さっきからバーゲストの動きが止まっている──。

 

「──■■■、■■■……」

 

 その瞬間。ガラン、という音とともに、彼女の剣が地面に落ちた。

 

「……バーゲスト?」

 

 爆炎が途切れたことで、周囲の様子を伺う余裕が生まれた。

 

 天井に視線を向けると、溜まりすぎた水蒸気が雲となっている。雲は、元の湖の姿へ還るかのように、雨となって洞窟内へ降り始めた。空気中の粉塵が洗い落とされ、ホワイトアウトも晴れていき、雨の間から洞窟内が見渡せるようになる。

 

 そして──ようやく捉えることができた洞窟の全貌に、驚愕した。

 

「なっ──!」

 

 ……僕が着地した石柱に限ったものではなかったんだ。

 

「──■■■、■せ■……!」

 

 数百本どころの話じゃない。千本を超える鎖からなる鋼鉄の包囲網は、洞窟全域の石柱群に及んで張り巡らされていたらしい。

 

「──■■て、■せ■……!」

 

 そして、その包囲網を構成する千の鎖が束なる先には──

 

「──()()()()()()……!」

 

 洞窟の質量そのもので自身の動きを封じてみせた、バーゲストの姿があったのだ。

 

「……バーゲスト──!」

 

 この鎖は最初から、君自身を拘束するために張り巡らせた包囲網だったんだな……!

 

 ──そして、バーゲストの言葉がようやく聞き取れたと思った、その瞬間。

 

「っ……これは!」

 

 バーゲストが張り巡らせていた鎖に、陛下の魔力が惜し気もなく上乗せされた。その魔力は、彼女の霊核にまで食い込んだ一部の鎖に集中している。そこが締め上げられるに伴い、彼女の動きは抑えられているようだった。

 

 ──それを見てようやく僕は、陛下がこの後に及んで、バーゲストに偽装魔術を掛け続けていた理由を理解することができた。

 

 陛下は──『己の意志で、自身の暴走を抑えるために魔力を使う』ことを信じて、バーゲストへの魔力供給を守り続けていたんだ──!

 

「──ッ、■■、だ……!」

 

 バーゲストの必死に踏み止まろうとする呻き声と同時に、締め上げられた彼女の霊核部分に巻きつく鎖から、ひときわ強まっていく陛下の魔力を感じた。

 

 間違いない。陛下があの術式越しに、バーゲストの『患部』に干渉しているんだ。

 

 陛下による何らかの追加魔術による影響なのか、心臓に近い位置にあるその『患部』は体表へと浮き上がり、実体化と霊体化の中間のような霊基状態をキープしている。

 

「──()()だな……!」

 

 ──両鞘を構える。

 

 その現象が何を意味するのかを瞬時に理解し、僕は全神経を集中させる。

 

 その最中、バーゲスト自身の意志が篭った、覚悟に満ちた声が聞こえた。

 

「今だ──『()()()()()()()()()()』……!」

「……ああ!」

 

 ──彼女の命と、陛下の命。

 

「生命境界、捕捉」

 

 ──どちらも、脅かさない。

 

「一撃、一瞬で終わらせる」

 

 ──その境界を、守ってみせる。

 

「切開剣技開始!」

 

 ──繋げ(・・)……!

 

「『()()()()()()()()()()()()』!」

 

 ……円卓の騎士が一、ランスロット卿の宝具──『アロンダイト』。

 

 彼自身と彼の宝具の名を借り受けたにすぎない僕にとっては、その名を冠することなど『枷』でしかない。仮初の名をもって発揮する技の威力など、たかが知れているからだ。

 

 この仮初の宝具は、仮初ゆえに、僕本来の力を発揮しきれない。その威力は極端に低減し、魔力放出の規模も狭まるため、ごく一部の出力しか実現できないのだ。

 

 しかし、この場においては、その『枷』に助けられたようだ。陛下への負担を抑えられ、バーゲストに致命傷を与えず、暴走の原因となった『患部』を切開するに止められ──『妖精騎士の掟』を守ることさえ叶えられたのだから。

 

「──……」

 

 霊核を侵食していた『強制の術式』らしき発生源は取り除かれ、鎖と共に消滅した。

 

 バーゲストの全身から吹き出していた爆炎も治まり、白銀の鎧を覗かせている。

 

 僕は──彼女をここへ連れてきたときのように、腹部に片腕を絡め、抱き止める。

 

「……見事だ。『()()()()()()()()()』」

 

 騎士の名を呼び、賞賛の言葉を贈る。

 

「……世話を……かけた……」

 

 騎士は、安堵と疲労の色を滲ませた声で、仰々しく謝罪の言葉を返した。

 

「ああ、まったくだよ」

 

 ()()なんて野暮をこの後に及んで言う奴だ。これくらいの悪態は許してもらうよ。

 

「……陛下に……礼を……言わねばな……」

「……君も気づいていたか」

 

 おそらくバーゲストも、僕と同じタイミングであの『偽装魔術』の実態に気づき始めていたんだ。そして、それに気づけたということは、先ほどの戦闘で初めて鎖を繰り出したあたりから徐々に、強制の術式に抗えるようにもなっていたんだろう。

 

 暴走を強いられているか否かに関わらず、サーヴァントの魔力放出の仕組みを燃焼機関として利用している以上、敵はバーゲスト本来の魔力行使手順を流用することになる。彼女はそれを逆手にとって、魔力放出の一瞬に合わせて自身の意思を捻じ込み、『爆炎を放った勢いに乗じて鎖を放つ』という荒技をどうにか実現し──それを繰り返すなかで抵抗力を強め、辛うじて意識を取り戻してみせた……といったところだろう。

 

 そこまで漕ぎ着けたうえで、陛下の術式に鎖への魔力供給をオーダーし、陛下がバーゲストの『患部』を表出させ──僕が切開できるようにと、二人で状況を整えてみせたんだ。

 

「……醜態を……晒して……しまったな……」

 

 少し、怒ってやろうか。

 

 懸命に抗ってみせたあの姿の、いったいどこが醜態だというのか。あれほどの吸収量だ。余りが出るほどの魔力を絶え間なく流し込まれておいて、よくぞ霊基を強制的に再臨させることもなく、騎士の姿を貫き通せたものだ──他ならぬ、君が。

 

 ……かつて妖精國に訪れた『大厄災』。

 

 これを迎えたとき、バーゲストは『妖精騎士ガウェイン』の名を失った後だった。それは、『バーゲスト』という存在自体が抱える宿命──『獣の厄災』を押し留める、『(せき)』が失われたことを意味する。その結果、彼女は自身を抑えることができなくなり、妖精國全土を燃やし、際限なく魔力を貪り喰う『獣』へと成り果ててしまったのだ。

 

 そして、先ほどまでの彼女もまた、魔力の吸収量といい暴走状態といい、かつての『獣の厄災』となる直前の状態にまで迫っていたが──彼女は今度こそ、それに抗ってみせたのだ。

 

 ……そんな彼女の姿が、醜態であるはずがない。

 

 かくいう僕も、『妖精騎士ランスロット』としての自身を保つことができなくなり、『堰』を失い──妖精國における厄災が一、『炎の厄災』に成り果てた過去がある。

 

 今回、僕はバーゲストのように特化的な搦め手を被ることはなかった。だが、彼女が自身を抑え込まず、本気の魔力喰いを常時発動していたなら──『妖精騎士ランスロット』のままで居るための霊基情報ごと剥ぎ取られ、僕本来の姿、『アルビオンの竜骸』の姿を曝け出し──『竜の炉心』が直接狙われる危険があった。

 

 そうなった場合……僕は力を抑えられず、バーゲストを殺してしまい──直後に僕も『妖精騎士の掟』に従って、彼女を殺した罰として死ぬことになっていたかもしれない。

 

 ……まあそれは、アルビオンの状態になった後まで『掟』が有効だった場合の話だ。『掟』が無効になった場合、僕が彼女を一方的に処断する結末になっていただろう。

 

 しかし、どのみち『そうなる寸前まで状況が悪化した場合』にも、『妖精騎士の掟』を厭わず……僕はバーゲストを、この手で処断する必要があった。

 

 なぜなら、そこまで状況が悪化している時点で、『バーゲスト一騎の存命』よりも、『敵にこれ以上の魔力リソース与えないこと』を優先させるべきだからだ。たとえその代償として、同じ妖精騎士である僕が『掟』の咎を受け、絶命するとしても。

 

 でも、そうはならなかった。

 

 あのとき、陛下がきっと──『決して、そうはならない』と信じてくれたから。『妖精騎士ランスロット』という『着名(ギフト)』の音をもって、僕のことを送り出してくれたんだ。

 

「──醜態だなんて。この後に及んで何を言うんだ、君は」

 

 僕は腹を決め、彼女に真っ直ぐ語りかける。

 

「君は、強制的な魔力代謝に耐え続けた。むせかえるほどの魔力を吸い、吐き戻すほどの魔力を喰い、溺れるほどの魔力を飲んでも。それでも、自らの内に潜む『獣』に成り果てず、白銀の鎧姿を守り通し、限界まで抑えきった。……僕は、君が『騎士』のままでいてくれたおかげで──『竜』に成らずに済んだんだよ」

 

 淀みなく、ひと息に言葉を紡ぐ。すると、

 

「──あ……」

 

 僕に掛けられる言葉にしては珍しい文句なのか、バーゲストは面食らっているようだ。……ふふ。彼女には悪いけど、この表情、ちょっと面白いかも。

 

 ま、こんな機会だからね。オマケに──これくらいの言葉があってもいいだろう。

 

()()()()()()()()。今度こそ──『厄災の宿命』に」

 

 ……かつての僕が迎えたその宿命は、決して悔いるばかりのものではなかった。その結末は、僕達が妖精國に在り、妖精國に生きた証左そのものでもあったのだから。

 

 ──でも、現在(いま)は違う。

 

 マスターに喚ばれたサーヴァントとして、その縁に報い、彼女らの未来を繋ぐため、此処に在る。この身は妖精國を生きた記録を有する霊基であっても、そこには一線を画すべき境界がある。

 

 だって──僕達に与えられた現在は、妖精國に生き、妖精國とともに眠りに就いたことの証であり……あの世界(ゆめ)の続きなんだから。

 

 だから、今度ばかりは。いや、これからはもう二度と──あの『宿命』に身を捧げるわけにはいかないんだ。

 

 マスターのためにも、陛下のためにも。

 

「──ああ。……そうだな……!」

 

 ……やれやれ、やっと笑顔を見せたよ。

 

 よし、じゃ……帰りもまた、バーゲストを抱えてエスコートしようかな。さすがに僕も疲れたし、彼女も安静にしなきゃまずい。マッハは封印。

 

「ほら、立って。お疲れのところ悪いけど、時間が無い。歩いてもらうよ」

「言われるまでもない……それに、疲れているのはお互い様のようだがな」

 

 ……前言撤回。ほらさっさと歩け!

 

 と、言い返そうとしたけれど──息が上がって、声に出せていない自分に気づく。

 

 ……はぁ。まいったな。罵り合いに息を上げているようじゃ、この後が思いやられるんだけど。

 

 ──僕達以上に口の悪い同僚が、この船のどこかで待っているんだから。

 

 

 

 ◆◆

 

 

 

「なんと──」

 

 それは、真に想定外の結末だった。

 

 妖精騎士同士が刃を交える以上、処断という最終手段を打てば『掟』に裁かれる。それを回避させぬため、持久戦を選択することが最大の悪手となるように仕向けたのだ。

 

 ゆえに、どう足掻いても『共倒れは免れない』と確信していた──それが、ものの見事に覆されるとは。

 

「獣にも成らず。竜にも成らず。騎士などという、生駒(なまごま)の真似事を断つまじ……と」

 

 やれやれ。詰み筋を破られては、折角配した駒も使い物にならぬ。挙句に獲り返されてしまっては、もう目も当てられませんな。

 

 ……しかし。

 

「お二人のご健闘に拍手を贈るべきところですが。生憎と、我が目的はすでに成りました」

 

 そう。先の計略における最重要事項は、『魔力リソースの奪取』なのだ。妖精騎士の共倒れは、その過程に望むことができる副産物であったにすぎない。

 

 そして──あの接戦を経た時点で、お二人の消耗はもちろん、モルガン女王陛下のご負担も相当なもの。この場を存えたところで、皆様の置かれた状況に好転の機はない。

 

「いい頃合いだ。ご挨拶にあがりますかな」

 

 

 






お読みいただきありがとうございます。


妖精騎士の着名が健在である彼女たちが、かつて着名を失ったことで潰えた・あるいは正しく終わりを迎える事になった宿命に、今の在り方を繋ぐため、今度こそ抗ってみせる姿をどうしても見てみたくなったんですよね。

本作はそういうところを私が自給自足するべくして執筆されています。
第三節『妖精騎士』でした。

第四節『埋み火』に続きます。カドックくんの推理回。
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