望郷漂流客船イナバマル 祝福された後継   作:qlo

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※Lostbelt No.6『妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ』の核心的なネタバレのほか、Lostbelt No.7『黄金樹海紀行ナウイ・ミクトラン』〜2部奏章『オーディール・コール』の一部内容に触れています。

※本作は作者本人のpixivアカウントで先行投稿済みの内容となります。該当アカウント各話のキャプションにその旨の明記あり。

以上の事柄をどうぞあらかじめご了承ください。





埋み火【四】

 

 

 ◆

 

 

 

『スプリガン』が消えた後。私達はしばらく、周囲を警戒していた……のだけれど、これといった異常は皆無だった。本当に何もせず、挨拶だけして帰ったようだ。

 

 安全を確認し、モルガンが例の遮蔽魔術を展開しつつ、私達は行動を開始した。

 

 ひとまずの目的地は、船首甲板。クー・フーリンを加えた現地メンバー全員が再び揃ったので、前回通信以降の現状報告などのため、ストーム・ボーダーへ通信可能なポイントに行く必要がある。管制室からの観測情報にも、新たな発見があるかもしれない。

 

「あの人、言うだけ言って帰ったな……」

 

 と、半ば状況がよくわかっていないハベにゃんが呟いた。ね。本当だよね。

 

「こっちの状態を思えば、見逃された格好でもある。人質をバックに、手負いのお前さん達を叩くことだってできたはずだ。そのチャンスをただの挨拶に費やすとはな」

 

 実際、クー・フーリンの言うとおりだ。静かな異常性を醸し出す会話劇に思考を持っていかれたけれど、『バーゲストとメリュジーヌ、モルガンへの追い討ちがいつ来るか』と、身体のほうが構えっぱなしで気が気じゃなかったんだ。マシュも同じ状態だったようで、すぐにでも防御に飛び込めるよう、しっかりと盾を構えていた。

 

「……本来の目的は、我々の幽閉や撃滅ではないようですね、マスター」

 

 翻って、そういう意味にもなるだろう。最初からそうであったのか、あるいはこと現時点に至っては、もはや私たちがこの船で『何をなさろうが構いませんぞ』と言わんばかりの態度だった。というか実際に、『後はどうぞごゆるりと』とか言っていたし……もちろん、それは皮肉として放たれた言葉、『方便』なんだろうけれど。

 

 現状、いまだに魔力吸収現象は継続しており、私とマシュ、クー・フーリンの三人はノーリスクで活動できるものの──バーゲスト、メリュジーヌ、ハベトロット、モルガンの四人は、それぞれ程度こそ違えど、魔力吸収現象の影響で、動くほどに余分な魔力を失うことになるのだ。

 

 先のバーゲストとメリュジーヌの戦闘を経た今、モルガンの疲労も相当なものだろう。ゆえに、スプリガンがこれ以上手を下さずとも、四人の動きはすでに封じられているのだ。可能なことと言えば、汎人類史組の三人がメインとなって、妖精國組四人の消耗に気を配りつつ……この迷宮のような船内を、各自の足で捜索する以外にないだろう。

 

 極端な話。魔力吸収現象をガン無視して、ここに居る全サーヴァントが魔力リソースを一気に使い、この特異点自体を丸ごと破壊する──といった強行策も、この状況では最終手段にもなりはしない。そしてこれは、そこまで極端な規模じゃなくとも同じ話だ。どこにバーヴァン・シーが居るとも判らない状況で、無闇に破壊活動を行うわけにはいかないのだから。

 

 そして、この特異点が『準・亜種特異点』級という脅威判定を有している時点で、たとえ一時的な選択であったとしても、現地時空から離れるわけにはいかない。それでいて、この特異点の外には足を着けられる場所はなく、大海原が広がるのみである。

 

 要するに──私達はどうあっても、『後はどうぞごゆるりと』するしかないのだ。

 

「奴の狙いは、この船──『イナバマル』とやらを何処かへ向かわせることのようだ。そのために私を燃焼機関にと鹵獲し……メリュジーヌの竜の炉心を燃料として求めていた」

「そして、それは未遂に終わった。だけどさっき……あいつは僕らに追撃をしなかった」

 

 バーゲストは暴走状態を強制される直前、あの男とすでに接触していたらしい。モルガンも、バーゲストの暴走が始まってからすぐに、この船の出力が上昇したと言っていた。状況的に見ても、二人の言葉を鑑みても、航海が目的なのは間違いないだろう。

 

 しかし、妖精騎士の二人は無事に帰還した。それはつまり、二人を鹵獲するという目的が果たされなかったことを意味するのだが……追い討ちをかけ、リカバリーを目論むには絶好の機会であったはずの先ほどのタイミングから、彼はあっさりと身を引いてしまったのだ。

 

「要するに、『もう充分頂きました』ってコトだな。奴め、引き際を弁えてやがる」

 

 心の中で、クー・フーリンの意見に同意する。しかし、敵戦力を削ぐという観点において、手負いの獲物を見逃すというのは……普通に考えれば悪手ではないだろうか。

 

 利用価値を見出し、敵人員を制御下に置くことを叶えたものの、それが解除・奪還されたとあれば……対象を放置するのではなく、とどめを刺すのが本当のところではないのか。いくら彼女達が万全の力を発揮できないとはいえ、反撃を試みない保証などないのだ。

 

 となれば、彼の行動の意味するところは絞られる。つまり、『生き存えさせる選択自体にメリットがある』ということだろう。おそらく、『ここで彼女達を消してしまう』よりも──『魔力吸収現象の餌食にし続ける』ほうが、得られるメリットが大きいと判断されたのだ。

 

「特異点である以上、ここも聖杯の影響から成立した領域のはず。そしてその聖杯は、この船の主だという彼が所有しているものと思われます。……すでに聖杯が手中にありながら、さらにリソースが必要ということなのでしょうか?」

 

 ……そういえば……それもおかしな話だ。

 

 特異点全域の魔力吸収現象といい、バーゲストとメリュジーヌに狙いを定めた計略といい──いずれもこちらの勢力に『消耗』をもたらすものではあっても、『撃滅』を目的としたものではなかった。あくまで、彼の目的は『魔力リソースの奪取』だったのだから。

 

 ……彼がもし、聖杯を『所持していない』状態かつ、何らかの目的遂行のために聖杯級の魔力リソースを求めているのであれば、現時点までの行動は絶対の必要条件と言えるだろう。しかし、おそらく彼はすでに、聖杯を『所持している』──。

 

「聖杯を所持しているうえで、さらに竜の炉心を求めるってことは……少なくとも『聖杯もうひとつ分のリソース』が欲しかった、ってことになるよね……」

 

 と、マシュの疑問に応じる形で、私も所感を述べる。

 

 それにしても、合計で聖杯二つ分以上……それほどの魔力リソースを蓄えて、彼はいったい──この特異点をどこに向かわせ、何をするつもりなんだ……?

 

 そうこう考えて歩いていると、通路に充満している例の独特な匂いに混じって、徐々に潮の匂いが強くなるのを感じた。……どうやら、外気に触れるエリアが近いみたいだ。

 

「みなさん、じき船首甲板です。ひとまず外へ出て、ストーム・ボーダーに通信を」

 

 ……背後に過ぎていく船内を見やる。

 

 その何処かに囚われているであろうバーヴァン・シーのことを思うと、こうして一旦離れざるを得ない現状は……言葉のとおり、後ろ髪を引かれる思いだ。

 

 と、私はそんな焦燥感に駆られながら、彼女の心配とはまた別に──

 

「……」

 

 ──徐々に強まる、得体の知れない『後ろめたさ』のようなものを感じ始めていた。

 

 

 






お読みいただきありがとうございます。


狐につままれる現地組。
次回、再びボーダーのカドックくんに視点が移ります。


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