※Lostbelt No.6『妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ』の核心的なネタバレのほか、Lostbelt No.7『黄金樹海紀行ナウイ・ミクトラン』〜2部奏章『オーディール・コール』の一部内容に触れています。
※本作は作者本人のpixivアカウントで先行投稿済みの内容となります。該当アカウント各話のキャプションにその旨の明記あり。
以上の事柄をどうぞあらかじめご了承ください。
◆◇◇
ストーム・ボーダーの個室ラウンジを一室貸切にし、たまにこうして、妖精騎士の三名でちょっとしたお茶会を開いている。
人理の危機だの何だのと言う割に、召喚されてみればここは意外とゆとりのある雇用先だった。
ノウム・カルデア所属の戦闘員としての仕事は、雇用主であるところのザコ……もとい、マスターによる簡易召喚に応じたり、直接同行して作戦行動を共にすることだ。しかし、近ごろはその頻度も少なくなった。だからこうして、腐れ縁の面子同士で茶菓子を持ち寄ったり(メリュジーヌが持ってきたコトはいまだかつて一度もないが)、私の場合、自室で靴づくりに興じたりと──各々が思うように、仮初の肉体を得た現在を満喫している。
なんでも、『人理濫用による淀みの清算・歪みの解消』という名目の『試練』に臨むにあたり、司令部の連中は相当に慎重な姿勢をとっているらしい。さすが、私達みたいな異聞世界の存在さえもサーヴァントとして召喚しやがる連中だ。そりゃ、淀みも歪みもあるだろうぜ。
特異点や異聞帯の対応に日夜追われていた様子に比べると、近ごろの司令部は一見暇そうに映るかもしれない。だが、発生した端から修正すればいい特異点のようなわかりやすい問題ではないため、より慎重な姿勢をとることは避けて通れないのだ。むしろ、今までとは勝手が違う対策を練らなければならないだけに、今まで以上に脳ミソを絞られているはずである。
まあ、それはあくまで司令部のハナシ。出番の少なくなった私たちサーヴァントのほとんどは、リソースを圧迫しない範囲でくつろがせてもらえている。出突っ張りで相変わらず忙しい一部のサーヴァントどもはご愁傷様ってもんだ。あの田舎妖精とか。
……あ~あ。マスター共々ざまあみろ!
「──それで、バーヴァン・シー。『厄介事』とは何だ? 少なからず悩みの種になっている様子だったが」
妖精騎士ガウェイン──もとい、バーゲストがテーブル越しに問う。
「ん? あー……」
わりと参った感じで、私は答える。
「ま、そうなんだよ。なんか身の回りの物がいろいろとどっかいっちまって……」
不可解なことに近ごろ、私のコレクションが次々と紛失するといった状況が続いているのだ。まあ、私物が無くなることぐらい、べつに他人にするほどの話でもなかったが、さすがにその状況が長く続きすぎている。そのうえここ数日は、頻度も内容もだんだんエスカレートしているようだった。だからこの場で、つい無意識にそれを『厄介事』などと愚痴ってしまったらしい。我がことながら、気が緩みすぎではないか。
……そんな私の失言を、バーゲストはあえて拾い上げてくれたのだ。
「いつもみたいに壊しちゃって、そのコトをサッパリ忘れただけなんじゃないの?」
と、苺のショートケーキを頬張りながら、妖精騎士ランスロット──もとい、メリュジーヌはテキトーなコトをほざきやがる。うるせぇ。テメェもいいかげん、茶菓子のひとつでも持ってこいっつーの。その大事そうにとってある苺、私が食べてやろうか。
「バカにしてんの? そんなコトなら探したりしないわよ。昨日なんて作りかけの靴が消えちまってんの。どう考えてもおかしいだろ?」
「靴までもか……それはさすがに、当人の問題とは思えんな」
「靴は本気で大事にしてるもんね。うん、そうなると妙な話だ」
そうだ。私が靴を蔑ろにするわけがない。あれほどまでに私の心を掴んで離さない造形物を、それも心血注いで制作真っ最中の作りかけを、どうして壊すことができようか。
……ん。ていうか、第三者から見た靴に関する私の信頼度、そんなにも高いんだ。
「だろ?」
少し得意げに、私は答える。
「カルデアには海賊や怪盗気取りの輩が居るって話だけど。私のコレクションが節操なく狙われるなんてコトある?」
実際、盗まれたとしか考えられない状況なのだ。
紛失したコレクションはいずれも、私が自室で、拘って決めた位置に飾っていたものだ。それが私の与かり知らぬ間に
たとえば黒髭──もとい、エドワード・ティーチ。彼の場合、何らかの理由で靴を求める可能性こそあれど、それが作者の拘りが詰まった『作品』である以上、盗むどころかむしろ『対価を払わなければ気が済まないでござる!』と譲らないタイプなのである。彼ほどの鋼の精神ではないが、他の海賊や怪盗に関しても彼とほぼ同様の節度というか、作者に対するリスペクトはあるように思う。なのでいずれにせよ、ここの連中にかぎって『盗む』という手段を採るはずがない、という信頼だけはあった。
まあ、ヒゲはヒゲでも、転売とかしそうな筋金の入ったヒゲも居るには居るが。ただアレに関しても、後々悪用目的で扱うつもりであろうと、作者から作品を直接購入する段階は惜しまないだろう。
とまあこんな具合で、ここノウム・カルデアの面子に限って、今回のような狼藉をはたらくような者には誰ひとりとして思い当たらなかったのだ。容疑者不在、である。
「陛下にはもう話したの? あとケーキ、いらないならもらうけど」
お菓子泥棒ならここに居るんだけど。
「おやめなさい、食い意地の悪い。おかわりの分なら作ってあります」
バーゲストに言われたら終わりだぜオマエ。
ていうかこのケーキ、バーゲストの手作りだったんだ。へぇ、ならなおさら戴かなくちゃ。こいつの料理、結構美味いんだよな。
「お母様に? ……話せるワケないじゃない。身の回りの不始末なんてくだらないコトで、わざわざ忠言を賜るのも申し訳ないし」
そう。お母様──もとい、モルガン女王陛下。その娘たる私が、こんなくだらないことで、お母様の手を煩わせるわけにはいかないのだ。
「忠言とは言うが……これが盗難であれば、お前は一方的な被害者だろう。陛下に咎められることはないのではないか?」
……まあ、そう、だけど。
「うーん……でも、迷惑かけたくないし……」
本当に、お母様に相談するほどの話だろうか。
「憂いを残すよりは、打ち明けたほうがいいと思うけどね」
……それも、そう、だけど。
「うん……ま、考えとく……」
と、我ながら気の抜けた返事をし、ケーキにフォークを──
「──えっ?」
つけようとした瞬間。
視界は閉ざされ、世界が暗転した。
◆◆◇
天井から突如として現れたそれは、瞬く間に三者を分断した。
「バーヴァン・シー!」
咄嗟に私は叫ぶ。
直撃だった。目の前に降りかかったそれは、彼女を頭から飲み込んだのだ。
「……これは」
反射的に目を庇った際、突き出した自身の左腕。そこに付着した、降りかかった何かの一部を見やる。
「灰──?」
そうとしか形容できないような、それそのもののような、何か。
「バーゲスト! 君も早く魔力感知を!」
「!」
何らかの魔術か、物理的な攻撃か──その灰らしき何かに気を取られたことで、状況把握に遅れを取った。空間にはこの灰らしきものが充満しており、視覚が意味をなさない。
「(この程度で何を怯んでいるのだ、私は……!)」
どこか、妙な感覚があった。虚栄などではない。実際に、この程度の事態で怯むなど、普段の私にはあり得ないことなのだ。それが、なぜ。
いや、今はそのような些事に意識を割くべきではない──と、自身を戒める。しかし、それも一瞬のこと。実際の時間にして、コンマ数秒にも満たない遅れだった。ゆえに私は、メリュジーヌが視認するのとほぼ同時に、現状を目の当たりにする。
──視界が晴れる。そこには、先ほどまでと変わらず、茶会のセットがそっくりそのまま残されている。だが、それと対照的に、明らかな異常が起きていた。
「バーヴァン・シー……?」
──彼女の姿が無い。
あの一瞬の間に、灰らしき何かと入れ替わりに、この空間から完全に失われていた。そして、つい先ほどまでこの場に充満していた灰らしき何かも、跡形もなく消え去っている。
「……」
彼女が座っていた席を凝視する。
傾いたティーカップから、テーブルクロス上へ逃れるようにこぼれたハーブティー。それは、つい先ほどまでこの空間に存在した、彼女の痕跡を示すかのように──淡く、赤色の染みを作っていた。
◆◆◆
「ストーム・ボーダー内に異常な魔力反応を検知!」
「実行者は不明!」
「艦内にはおらず!」
マリーン達が慌ただしく、口々に現状報告をする。
管制室はつい先ほどまでの様子とはうって変わり、臨戦体制に入っていた。
「原因不明の魔力振動が局所的に発生、直後に消失! 加えて、カルデア契約サーヴァント一騎の霊基反応がロスト!」
カルデアスタッフの一員、ムニエルによって、およそ最悪の部類に入る事態にあることが、観測データをもとに告げられた。
「ぐぬぬ……! どうなっている! ティータイム云々が見事にフラグとなったではないか!」
ああ、美味かったな、ベーカリーの新作パン。じゃなくて。
「何事も起こるときは唐突なのさ、ゴルドルフくん! それよりも糖分補給はできたかな!」
「言っとる場合か! シオン君の報告はまだか! それにサーヴァント一騎というのは──」
と、首脳陣二人によって繰り広げられる慌ただしい掛け合いを切り裂くように、
「ご報告を!」
青白い光を纏う鎧に身を包んだ、二名の騎士が馳せ参じた。
「先ほどの魔力振動の際、バーヴァン・シーが我々の目前で消失しました!」
「僕らも同席していたけど、このとおり無事だ」
「なんだと……!」
簡潔な報告だった。それは限界まで要約した内容なのだろう。その実態は決して単純なものではないはずだ。しかしそれでも、現時点でひとつの確信があった。
──すでに盤面を掌握した何者かに、僕らは先手を打たれたのだ。
「シオンより伝令! スタッフは全名持ち場に着け!」
キャプテン直々のアナウンスは、こういう場面で実によく効く。硬直した身体は血流を叩き起こされ、滞った思考回路はフル回転し、各員に円滑な行動を促すのだ。
「マスター、マシュ、カドック、ゴルドルフ司令官、ダ・ヴィンチ技術顧問、並びに──」
と、一拍おいたのち、
「第六異聞帯に縁ある者全名に告ぐ。直ちに管制室へ集合せよ!」
やけに限定的な面子が、盤面へ並ぶこととなった。
お読みいただきありがとうございます。
妖精騎士三名はこんなふうに、なんだかんだで定期的にお茶会とか開いていそう。
メリュ子は朝よわよわドラゴンなので、アフタヌーンティーはちょうどその日の一食目になっちゃうんだろうな〜と思ってこうなりました。