望郷漂流客船イナバマル 祝福された後継   作:qlo

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※Lostbelt No.6『妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ』の核心的なネタバレのほか、Lostbelt No.7『黄金樹海紀行ナウイ・ミクトラン』〜2部奏章『オーディール・コール』の一部内容に触れています。

※本作は作者本人のpixivアカウントで先行投稿済みの内容となります。該当アカウント各話のキャプションにその旨の明記あり。

以上の事柄をどうぞあらかじめご了承ください。





灰色会議【二】

 

 

 ◆

 

 

 

「む、シオン君。そう言えばレイシフト直後からずっと、姿が無かった……ような?」

「(めちゃくちゃ集中してたんだな……)」

「(おっさん……)」

 

 と、司令官サマの反応に対する、キャプテンとムニエルのヒソヒソ話が聞こえてきた。

 

 ずっと管制室に詰めていながら彼女の不在に気が付かなかったということは、彼の意識は常時、相当な集中状態にあったのだろう……何が『心配はムダ』だ、このお人好し。

 

「さて。今回得られた回答は、大きく三点あります。それが……こちら!」

 

 シオンの言葉を合図に、現地通信モニターの傍にもう一枚、新たに情報共有用のモニターが展開された。どうやら、スライドショー形式にデータを爆速でまとめてきたようだ。

 

①……『例の船、イナバマルの行方』

②……『この特異点を看過した場合に生じる人類史への影響』

③……『蓄えられた魔力リソースの使い途』

 

 と、モニターには表示されている。

 

 なるほど。状況は刻一刻と進行し、トリスメギストスⅡの演算にも澱みがなくなってきたようだ。しかし、それは例によって、此方が後手に回っていることの証左でもある。

 

 早速、この各タイトルの字面を目にした時点で気になったことを、僕は問うてみた。

 

「『イナバマル』……ってのは、日本語じゃないか?」

「そのとおり。カドックさんにせっかく国名を出していただいたので、まず①をお答えしてしまいましょう。『イナバマルの行方』……それはどうやら、『日本』のようですね」

 

 割とそのままだったか。そこまでシンプルに繋がるとは思っていなかったんだが──

 

「……」

「……先輩?」

 

 ──ん? どうした、藤丸のやつ。間食の件を抜きに……何か、いつもと様子が違うぞ。

 

 アイツはこれまで、自身の故郷が特異点の舞台となったときでさえ、任務と割り切ることに躊躇いはなく、わざわざ腹をくくる必要もないほどに、感傷の分別をつけていたと聞く。今回の特異点の行方が日本であったところで、それは同じことのように思うが……。

 

 ……マシュも彼女の異変に気がついているな。さすがにここは彼女達自身に任せよう。

 

「行方が日本と定まった……いえ、『日本一ヶ国に絞られた』のは、タイミング的にバーゲストさんとメリュジーヌさんの戦闘終了直後だと思われます。それ以前の候補には、地球全土の国という国、領域という領域がありました。おそらく……『竜の炉心』を丸ごと燃料として得た場合の計画では、それらの場所をノンストップで順繰りに航行する予定だったのでしょう」

「しかしそれは阻まれた……つまり、『最優先の到達目標』が日本、ということだね」

「そう考えるのが自然ですね。まずは到達、然る後にリソースを長い目で見て再収集する、という方針を採ることもできますので。短期即行プランから、長期鈍行プランへとシフトしたのでしょう」

 

 ペーパームーンを背後に、管制室中央で情報開示をするシオンの意図を汲み、補足のコメントを述べるキャプテン。分割思考の持ち主同士ならではの阿吽の呼吸、といったところだろうか。

 

「これらを踏まえて、②の解説を。『この特異点を看過した場合に生じる人類史への影響』ですが……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということが判明しています」

「──は?」

 

 いち早く反応したのはゴルドルフだった。ちなみに僕もまったく同じリアクションだ。

 

 ……整理しよう。現時点ですでに、到達目標は『日本一ヶ国』と絞られている。トリスメギストスⅡが回答した以上、そこはもう揺るぎないだろう。そのうえで、仮に到達してしまった後に人類史へもたらす影響は、『日本一ヶ国に留まるものではない』のだという。

 

 つまり──『イナバマル』というたった一隻の船が日本一ヶ国に着いた時点で、『全世界の人類史に影響が及ぶ』というのだ。ちょっと、いやさすがに、意味がわからない。

 

 くそ……これはどうやら、この瞬間までに僕が用意した、どの推理体系にも当てはまらない話──ここまでまったく秘されていた事柄に端を発する、新出のファクターらしい。なぜなら、そんな影響の与えかたを可能とする要因が、まったくもって思いつかないからだ。

 

「実際問題、本当にそんなことが起こり得るのかね?」

「この回答には、私も初見は面食らいました。何しろ、たかが一隻の船が、たかが一ヶ国に着いただけで及ぼす影響にしては、その範囲が常軌を逸している。加えて、条件付きとはいえ『到達の暁にはそのようなエグい影響が生じる』ことを『確定事項』として位置付けた回答であるにも関わらず、『その理由』に関しての明確な回答は得られなかったのです」

 

 ──何だ、それ。『知らんけど人類史ヤバいのはマジな』と言われたようなものだぞ。

 

「この時点で私は、このように判断しました。『どうやらこれは、先のバーヴァン・シーさんに関する回答がいっさい得られなかった状態と、まったく同質のロジックエラーが起きている』と。実際に、トリスメギストスⅡが『回答保留』の状態であった以上、演算自体は走らされているのです。そのうえで、何らかの理由で対象が『視えているが、断定できない』状態として処理されてしまい、回答には至らず『保留』されていた。そこに思い至って初めて、私が直接精査してみたところ……これまでにやっとの思いで得られた回答のほぼすべてが、『要素が揃い、ようやく回答に至った』のではなく、『回答保留状態が突然解消した』形で提示されていた──という事実が判明しました」

 

 ……頭が痛くなってきた。えっと、つまり。

 

「一度目の回答の際も『不確定要素の解消』が契機となりましたが……そのときの回答だけは、前者の『要素が揃い、ようやく回答に至った』パターンに該当するものでした。それゆえに我々は、その後の『回答保留』状態の演算も、『要素が出揃うまでは回答には至らない』と考えてしまった。それこそが、『犯人』が仕掛けた罠だったのです」

「……それは……トリスメギストスⅡが、騙されていたってことか……?」

 

 僕はたまらず、声に出してしまった。そういう話なら、いよいよシャレにならないぞ。全幅の信頼を置いていた演算機が欺かれてしまえば、作戦の前提条件がパァなのだ。

 

「一見そのような格好になりましたが、それでは()()()()といったところですね」

 

 ……あれ? なんかそれ、さっきも誰かに言われた気が……いやそれより。『半分』?

 

「先ほども申し上げたとおり、トリスメギストスⅡは演算を走らせてはいる状態です。リアルタイムに情報を精査し、あらゆる可能性から『回答』を導く。それゆえに、存在の前提として『騙せる』ような代物ではないのです。そのトリスメギストスⅡが、誤認でも欺瞞によるものでもなく、素直に回答を保留させられる理由……そんなカラクリはひとつしかありません。つまり──『実際に、演算対象の存在が定まらない状態にある』のです」

 

 ……待て。それは、騙されているよりタチが悪いんじゃないか──?

 

「で、では何かね……! トリスメギストスⅡ自体の演算の過程ではなく、特異点内の事象そのものが──概念レベルでコントロールされているということなのか……!」

 

 ……そういうことか。であれば、あの件の理由としても説明がつく。

 

「チェンジリングが感知できなかった件も、それと同じく──聖杯で『バーヴァン・シーの私物』と同質の概念強度にコントロールされた『代替品』を送られていたから、ってワケだな」

「おや、カドック氏に先を越されていましたか。後で触れるつもりでしたが、チェンジリングがスルーされた経緯も、仰るとおりのカラクリでしょうね」

 

 ……どうりで、モルガンの感知すらも掻い潜るわけだ。

 

 マシュや藤丸に聞いた話から察するに、彼女はある意味で、こと愛娘たるバーヴァン・シーに関わる危険感知においては、トリスメギストスⅡよりも出し抜くことが難しい相手であるはずなのだ。

 

 チェンジリングの際、愛娘の身辺で『異物感がある魔力』との入れ替わりが起これば、即座にモルガンは感知できたことだろう。だが、愛娘と『観測上は同質の魔力』が、タイムラグもなくそっくりそのまま入れ替わっただけならば、観測上の数値や魔術の才に頼れば頼るほど、『異物感』を察知することは困難になる。それゆえに、トリスメギストスⅡに加え、モルガンの感知すらも完封されたのだ。

 

 さらに言えば。今回のチェンジリングの対象は、元々『妖精によって生み出された作品のコレクション』同士という『概念的な相似度』の高さを持ち合わせていた。そこへさらに聖杯による概念レベルのコントロールが加わったとあれば、もはや感知は不可能だろう。そこまでされてしまえば、あとは感知に頼らず、五感で差異に気付くしか──、

 

 ──そうか。だから、最後には『灰』の姿に変えられていたのか……!

 

「チェンジリングによって送られた存在は、最終的にバーヴァン・シーさん本人を略奪するための『アンカー』として、ストーム・ボーダー内に残す必要があった。しかし、どれほど観測上はバーヴァン・シーさんの私物と判別が困難であっても──今回の容疑者に限っては、『形状までは改編できない』はずなのです。ゆえに、我々による直接的な手法での発見を回避することが、今回のチェンジリングを完遂するうえでの必要条件だった。なぜなら、送り込まれてきた存在は『ひと眼見ただけで、容疑者が判ってしまう造形』であるはずなのですから」

 

 ……『今回の容疑者に限っては、形状までは改編できない』……?

 

「おそらく、このような実態かと。チェンジリング遂行の瞬間までは『バーヴァン・シーさんの私物』と観測上同質の『代替品』として送り込んだ。それを為し、用済みとなった後は徐々に存在ごと概念強度を下げ、元の『灰』という警戒され辛い外見に還し、『アンカー』として残留。しかし、我々の認識下においては『彼女の私物の紛失』が生じただけにすぎないという、伝承どおりのチェンジリングよろしく、『神隠し』にあったかのように偽装した。もう充分にお分かりと思いますが……敵は、これほどまでに『存在』や『概念』のコントロールに長けた手合いなのです。それゆえに、トリスメギストスⅡの回答保留状態さえも間接的にコントロールし、化かし仰せた──というワケです」

 

 ……このあたりは僕も予想していた内容ではある。にも関わらず、いざ的中してみると頭がクラクラしてきた。

 

「なるほどね。どうりで後手に回るしかないわけだ。つまり『犯人』は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()から順に偽装目的の存在証明を解き、その正体を明かし……『トリスメギストスⅡの回答保留状態を()()()()()()()()()()()()』──そういう理解でいいのかな? シオン」

「ご明察! そのとおりです。あ~ヤレヤレ。我々はものの見事に、真正面から化かされたというワケですねぇ」

 

 ──血の気が引いた。

 

 その所業は、モルガンが編み出した偽装効果よりも、数段上の次元だぞ。なぜなら、彼女の術式は『存在の偽装』であったことに対し、犯人の所業は『存在自体の改編』なのだから。

 

 その挙句、僕らがトリスメギストスⅡから得ていた情報のどれもが、『犯人』にとって『もはやどうでもいい』段階に至ったがゆえに払われた『捨て駒』でしかなかった──?

 

 ……もはや清々しいまでに、現時点までの状況は相手の筋書きどおりになっている。頭が切れる、どころの話じゃない。相手は完全に、僕達の立場から自分がどのように映り、潜みおおせるのかを理解しているのだ。

 

 今、実感した。この相手は本当に、第二陣を含めた総戦力であたるべき──『脅威』だ。

 

 ……などと考えていると。たった今顔を伏せて落胆していたシオンがいつの間にか、両腕で自身の腰をがしっと掴み、両脚をわずかに開いて踏み締め、仁王像のような迫力で立っていた。

 

「しかし! 可愛い可愛いトリスメギストスⅡを弄ばれては、さすがに私も勘弁しかねるというもの。私がトリスメギストスⅡに待たされる分には一向に構いませんが、トリスメギストスⅡを平気で待たせていたなど、身の程を知るべきです! ああ可哀想に!」

「落ち着いてシオン。子煩悩なバンドウイルカみたいなセリフになってる」

 

 何を言い出すかと思えば……そしてここはキャプテンがしっかりと処理してくれた。

 

「子煩悩で結構! そしてすでに手は打ちました。敵が『意図的に回答保留状態を維持・解消している』ことが判明した以上、その『維持』に掛けられている事象を特化的に抽出することで、わずかながら演算を進められるようになり──部分的な回答を先行して引き摺り出すことに成功したのです!」

「おお! つまり、そうして得られた分のトリスメギストスⅡによる回答は、敵にとってはまだ『伏せておきたい事象』にまつわる情報である──ということだな!」

 

 こちらもさすがは、アトラス院の才女なだけある。どうやら、大人しくコケにされてやるつもりはないらしい。

 

「そういうことです! ただし、保留状態にある情報群のうち『上澄み』を浚う程度が限界ではありました。あまりに回答から『遠い情報』を拾い上げたところで、それ受け取る私達にとっては脈絡がなさすぎる情報だからです。まあ、私は結構潜りましたが!」

 

 なるほど。今後は先んじて情報を得られるが、それは敵にとって『間も無くバレても構わなくなる事象』が基本になる、というわけだ。しかし、それでも前進と言えるだろう。

 

「……と、前置きが長くなりましたが。ここから再度②の解説、『この特異点を看過した場合に生じる人類史への影響』の続きとなります。『イナバマルが日本一ヶ国に到達しただけで、世界中の人類史に影響を及ぼす』理由についての回答が得られなかった件ですが──たった今申し上げた対応策を用いて再演算を試みたところ、追加の回答を得ることができました。ただし、これは『上澄み』に止まらず、かなりの深度まで潜って得た情報群に由来するものであるうえ、無理やり引き出した回答ゆえに……その内容はひどく抽象的で、受け手側による解読が必要な『情報のエッセンス』に留まるものでした」

 

 と、アトラス院の才女サマが爆速で述べ立てる解説に、僕は必死で食らいつく。

 

 えっと……つまり、いまだに強固に伏せられている情報群から、ギリギリ解読できる限界まで突っ込み、『敵にとってなるべく致命的な事象』の情報を抽出した、という話らしい。

 

「私はどうにか、その回答を解読したところ──『世界・歴史・消失・情報・数%・抹消』というキーワードに絞られる、という結論に至りました。語順もおそらく、このとおりであると思われます」

 

 ……その理由にしては、ますますわからないんだが。『世界の歴史』から『消失した情報』の『数%』が……『抹消』って何だ? 語順、本当に合ってるのかこれ。

 

 だが、そのキーワードの羅列にすぎない情報ですら、ひとつだけ明らかなことがある。

 

「少なくとも、『歴史の修正力で辻褄が合う範疇の影響じゃない』……ってワケだな」

「はい。今のカドック氏の理解で間違いありません」

 

 今回の特異点の脅威判定は『準・亜種特異点』級。その判定は、この特異点を放置していると人類史上に破壊的な影響を及ぼすことを意味する。その時点ですでに、『歴史の修正力』が追いつかない異変を人類史に刻みかねないことが想定できるが、今のキーワード群はそれを裏付けるように、『世界の歴史』にまで影響を及ぼす事象が『イナバマル』に積載され、おそらく無数に存在することを示唆しているのだ。

 

 そして──僕はこのあたりで、その『事象』が何であるのかに気づき始めていた。

 

 今回の事件の引き金となった、チェンジリング。

 

 イナバマルという船名と、日本という到達目標。

 

 かつてのスプリガンという人物の経緯と、素性。

 

 故郷の名を聞いた途端に強張った、藤丸の表情。

 

 犯人の異常なまでの執念と、妖精國への復讐心。

 

 ……おそらく、そういうことなんだろう。

 

「それでは、解説の仕上げを。これらのキーワードが抽出された時点で私は、この『エグい影響力を秘める存在』に目星をつけました。そして先ほど、マスター・藤丸より共有された、たいへん芸術的な現地レポート──『百鬼夜行~船上のすがた~(仮題)』を拝見したことで、その目星が確信に変わったのです。その『百鬼夜行』たる敵性存在のいずれもが、『妖精國とはまったく関係がない、汎人類史上の多種多様なモチーフ』から成るものでした。この事実がレポートという纏まった情報形式で保存・早期に共有されたことで『観測』済みの確定要素となり、敵の意図とは無関係に『回答保留』状態から解消。例のキーワード群が示唆する『事象』の正体を浮き彫りにする『鍵』となり得たのです!」

「えっ、ウソ! あの雑なドローイングメモがそんな役に立つなんて!」

 

 ……藤丸の奴、マジで『謎のラック』で状況を切り拓きやがった。

 

「では、この『キーワード群が示唆する事象』とは何か。それは──『かつて妖精國に行き着いた漂流物』……即ち、『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』です」

 

 藤丸が何を予感し、どういう心境で居たのかが判った。……そういうことか。

 

 盲点だった、と言わざるを得ないだろう。なぜなら、現時点までに明らかになっていた状況証拠はいずれも、『妖精國の存在』に特化した事柄であったため……『妖精國以外の要素』に割かれた僕達の思考は、微々たるものだったのだ。

 

 ……それも当然か。敵はそういう撹乱目的のために、『妖精國以外の要素』に関する事象を意図的に伏せていたのだろうから。

 

「ゆえに、②の要素──『この特異点を看過した場合に生じる人類史への影響』の結論は、こう導かれます。『歴史上、その時点で失われていなければ人類史は変わっていた』……そういうレベルの影響力を持つチェンジリングの品々が、『イナバマル』には多数積載されており、これが日本一ヶ国に……いえ。『汎人類史における歴史上のいち座標点』に到着した段階で、その存在は全世界に同期・証明され──『失われずに健在だったことになり、各品々にまつわる歴史が同時に改編される』……という内容で、間違いないでしょう」

 

 途方もないことだ、と思った。

 

 それは、『七つの特異点』において危惧された『人類史上の重要なターニングポイント』一点を改編することによって生じる『人理定礎の破壊』のような、『大きな一手で世界を壊す』アプローチとはまったく違った脅威の在り方だ。

 

 この例で対比するなら、今回の事件は──『人類史上で無数に存在する消失事件』をまったくの同時に改編することで生じる、『人類史の書き替え』……『小さな千手で世界を覆す』アプローチによる脅威である、と言えるだろう。

 

「ひとつやふたつなら話は違っていただろうけど、そのレベルの存在が『多数同時に健在だった』と歴史が書き変われば──人類史レベルでの過去改竄に至っても不思議じゃない。失われたはずの絵画作品が一点見つかっただけでも、美術史は書き変わるんだからね」

 

 ほかならぬ、芸術家の中の芸術家である彼女……レオナルド・ダ・ヴィンチによるその所感は、もはや事実の裏付けにも等しい説得力を誇っていた。

 

「わかりやすい例え、ありがとうございます。そんな瀬戸際とあれば、たかが一隻の船であろうと、着港した時点でヤバいに決まっていますよねぇ」

 

 その発言を合図にこの件は区切りがつけられ、シオンは次の話題を切り出した。

 

「さて、最後になります。③点目……『蓄えられた魔力リソースの使い途』ですね。これはもうざっくり言ってしまえば、『前述の①、②を引き起こすためのリソースだぜ!』って話なのですが、その『内訳』についてはここで追及する必要があります。これは、先ほどお話しした②における、トリスメギストスⅡから追加の『回答』を得る過程で覗き見た情報群から、『私自身の分割思考』で導き出した──『回答』ならぬ『答案』となります」

 

 さらっと言っているが……要するにこの才女殿は、原理的にロジックエラーを免れないトリスメギストスⅡの代わりに、一部の演算を人力でやってのけたらしい。

 

「まず、みなさんから略奪した分を含む『特異点内における取得魔力』の使い途ですが──『航行に必要な船体稼働リソース』として、そのすべてが割り振られる模様です」

「『すべて』……? すでに聖杯のバックアップがあるはずではないのかね?」

 

 ゴルドルフ司令官が早速、疑問を差し挟む。

 

「いいえ。聖杯の魔力リソースはある『役割』を実現するために運用されています。船体の稼働リソースとしては、聖杯からはまったく魔力を引き出していないでしょう」

 

 シオンは断言する。そして、その内容が何であるのかは、もはや明らかだ。

 

 彼女はそのまま、トリスメギストスⅡの『回答』に並ぶ価値を持つ、自身の『答案』の内容を開示する。

 

「本事件において聖杯が担う『役割』とは何か。それは──かつての妖精國において灰となった『金庫城の品々と汎人類史の漂流物』……即ち、『イナバマルの積載物』と呼ぶべきもの、そのすべてに対する──()()()()です」

 

 

 






お読みいただきありがとうございます。


シオンさんの解説って良いですよね。
次回も会議が続きます。
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