※Lostbelt No.6『妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ』の核心的なネタバレのほか、Lostbelt No.7『黄金樹海紀行ナウイ・ミクトラン』〜2部奏章『オーディール・コール』の一部内容に触れています。
※本作は作者本人のpixivアカウントで先行投稿済みの内容となります。該当アカウント各話のキャプションにその旨の明記あり。
以上の事柄をどうぞあらかじめご了承ください。
◆
「聖杯の魔力リソースを総動員した『存在証明』か……そういう理由であれば、トリスメギストスⅡに対し『意図的に回答保留状態を維持・解消する』などという所業を成し得ることにも、もはや頷くしかあるまい。要するに彼ら──『汎人類史の漂流物』達は……故郷へ帰りたい一心で、現状を作り出しているというのだな……」
『自分がその立場だったとしたら、望郷の念を抱かずにいられるだろうか』という想像でもしているのか──そう所感を述べたゴルドルフ司令官は、どこか彼らの境遇を自分事のように捉えている面持ちだった。おそらく、藤丸も同様の『痛み』を感じているだろう。
「そう願うに至った個体が、灰となったもの達の中に居たんだろう。おそらく聖杯は、そう願った個体群から選んだ代表格の意思をベースに、『個』としての形を成しているんだ」
「その代表格が『スプリガン』だった、ということになるのかな」
ダ・ヴィンチとキャプテンも所感を述べる。
「……」
と、今度は僕と何の関係もなく、オベロンが難しい表情を浮かべている。
「……さっきからどうしたの?」
アルトリアがその様子を不可思議に思ったようで、彼に問いかける。
「……いや、別に」
「──……」
明らかに何かに思い至っている様子の、不機嫌そうなオベロンを横目に、アルトリアは口を閉じてしまった。彼が誤魔化し切っているのか、彼女が気付かないフリをしているのかは、判断がつかない。
そうした様子をよそに、現地組の中から口火を切る者がいた。
「『スプリガン』とは言うがな。奴にしては……ちと違和感があるんだよな」
……クー・フーリンが口にしたそれは、僕には無い発想だった。
「それ、具体的にはどういうことだ?」
完全に慮外の所感であったため、すかさず僕は問い返す。
「悪いが、今のところは勘だ。なんつーか……まあ、やっぱ何となくだな』
えぇ……それじゃあもう、僕には何も判らないんだが。
「何なの? 賢者キャラって、一回はややアホになる決まりなのかね?」
「アホ言うなアホて。『第六感』ってのは侮れねぇぜ」
アンタまでコヤンスカヤみたいなことを言うのかよ。……まあ、彼女の『女の勘』も本物だったのだ。賢人サマのそれも侮ってはいけない。
今回の敵が、ダ・ヴィンチの推測どおり『灰となった個体群』という捉えかたが正しい手合いなのであれば、それこそ、同じく『集合的存在』の一種であるコヤンスカヤが、事件の前兆を早期に嗅ぎつけることができた理由にもなる。
要するに彼女は、自身の在り方と似た存在の気配を察知していた、ということなんだろう。だからこそ彼女は、目撃者の中でただひとり、あの『灰』の異常性を見逃さなかったのだ。それを思うとなおさら、クー・フーリンのその『勘』は……『スプリガンが犯人』であると同意しながら『未確定な部分が多い』からと情報提供から省いてしまった、コヤンスカヤの思惑にも通じる話に思えてくる。
「生前の氏を直接観測してはいませんが……私もこの状況自体に、彼のポリシーとはかけ離れた思想を感じています。そのあたりには注意してかかるべきでしょう」
ん。シオンはおおむね、全面的に同意するのか。当事者連中の様子を見る限り、彼らもシオンと同様の感触、といったところだ。
……しかし、『生前のスプリガンのポリシー』とやらも、僕が得た情報群の中には持ち合わせていない事柄だ。それは……何だ?
「おっ! 俺達気が合うんじゃねぇか? アトラス院のねーちゃん!」
それは……ナンパ。
「気をつけてくださいシオンさん! この御仁は……『異性へのスキンシップ好き好き罪』という前科があります!」
「人聞きの悪い! スカサハ達に聞かれてたらどうすんだ!」
「(賢人とは?)」
「(やっぱりアホなのでは?)」
ムニエルとゴルドルフ司令官が並び、互いに小声でツッコんでいる。
「えー、話を戻すぞ。その『スプリガン』とやらの目的が、どうやら『チェンジリングの品々を元の世界へ還す』ことのようだが……まさか時代もかね? 航行の工程に、レイシフト同様の時空間移動が含まれていると?」
司令官然とした取り仕切りでもって、ゴルドルフがクー・フーリンの所感を流す。ナンパの件はスカサハ達が誅を下すだろうから良いとして、違和感の件は気になったんだが。
「さすがにレイシフト同様レベルとかナイナイ! 艦ごと時空間を転移するリソースがあるのなら、それを消費して品物のみを送るほうが合理的です。一ヵ国に着港後、代替品を用意し、形式上は『積み替え』という格好で、『チェンジリングをやり直す』程度が関の山でしょう」
まあ、そんなところだろう。おそらく手法としては、バーヴァン・シーの私物と金庫城の宝物を取り替えたときの要領になるはずだ。それに、ここまでの話を総合すると、『イナバマル』ごと転移する必要はおそらくない。なぜなら、品物だけでも送り返せてしまえば、犯人の目的は叶うのだから。
……ん? いや……よくよく考えてみれば、それもおかしな話じゃないか?
シオンはなぜ、犯人が漂流物を『元の世界へ還す』手段として──『チェンジリングをやり直す』だろうと断定したんだ……?
「しかし……たかだか『品物』を元の世界へ還すというのならば、聖杯のリソースで時空間を接続して、直接運び出してしまえば良いのではないか? 何も、チェンジリングに拘る必要などあるまい。そのうえでなぜ、バーヴァン・シーを拐うなどと余計な真似を……」
ゴルドルフ司令官も僕と同じ疑問を抱いていた。が、僕達はすぐに間違いに気づいた。
「──否、違う……まさか!」
そう、違うのだ。それは決して、『余計な真似』などではない。
「ええ。『チェンジリングによって失われた』という事実を『チェンジリングのやり直しで打ち消す』ことが、彼らの最重要目的なのでしょう。魔術的にはもっともな『因果律操作』と言えます。状況を鑑みるに、その動機は彼ら『汎人類史の漂流物』が妖精國に対して抱く『怨恨』に基づくもの。つまり、『そのまんま返しをしなければ気が済まない』のだと思われます」
そこまで形式に拘って目的遂行を望んでいるのなら、聖杯の魔力リソースを存在証明という単一目的に費やし、よそから別途用立てた魔力を船の航行リソースに充てる、という算段にも頷ける。それに、『もうひとつの犯行』の裏付けにもなる。
これは、『バーヴァン・シーを略奪した理由』にも自ずと繋がる要素なのだ。
「つまり奴らは──自らを故郷に還すことに加えて、
「ええ、そう考えるべきでしょう。この事件は『汎人類史から妖精國へ拐かされた事実』への怨恨が動機となった復讐劇なのですから。帰郷という本懐に加え、リスクを払ってまでわざわざ狙いを定め、『モルガン女王陛下の後継者』を拐った理由に挙げるべき事柄としては、その見解で間違いないかと」
……蘇った彼らが復讐を成そうとしている対象、妖精國ブリテン。しかしその世界は、国土・住民共々にすでに消滅しており、国攻めや蹂躙などの物理的な手段による報復活動は不可能である。ゆえに、本来なら彼らの復讐は叶わぬ願望として潰えるはずだった。
だが、そうして燻るばかりの彼らが、何かの拍子に──ノウム・カルデアに現界している、モルガンをはじめとした妖精國メンバーの存在を知ったのならば。『妖精國そのもの』の代わりとして、『妖精國の代表的存在』である彼女らに対する復讐を望むに至ることは、想像にかたくない話だろう。
そして、それを叶えるうえで最も効果的な手段が『バーヴァン・シーの略奪』だった……ということなのだ。もはや敵にとってその選択は、モルガン率いる妖精騎士が先の窮地に陥った件を鑑みても、大正解だったと認めるほかない。
「とはいえ、ただ単純にバーヴァン・シーさんを拐かし、漂流物にせしめるだけの計画であるのなら、こちらにも打つ手は有るのです。相手の目的が彼女を『ただ連れ出す』だけであるのなら、こちらもまた『ただ連れ返す』だけで済む話ですから。しかし──そんな明らかな欠陥を、この事件の実行犯が見逃すとも思えない。ほぼ確実に、バーヴァン・シーさんを『漂流物』に仕立て上げるうえで、奪還を阻むための何らかの
シオンのその発言は……バーヴァン・シーを『ただ連れ返す』だけでは解決に至らない、あるいはそれ自体が不可能な状況にある、ということを意味していた。
「そして、ここが重要なポイントです。……『汎人類史への帰郷』という悲願成就に加え、『妖精國の存在を汎人類史に拐かす』という報復をも目的とする彼らは──状況証拠から察するに、それらを
……それを実現しうる唯一の、『狂気の沙汰』と言わざるを得ない、
「そんな復讐劇を叶える方法は、現状においてひとつだけ。『汎人類史の無数の漂流物』自体に『妖精國の代表的存在』の因果を紐付け、これをチェンジリングによって送り込み……『帰還』と『拉致』を両立する以外にありません。つまり──『
──公開処刑以外の何物でもない、『島流し』を行うつもりなのだ。
「──そんな……!」
「──っ……!」
モニター越しに、マシュと藤丸が呆然と立ち尽くす様子が見えた。
「バラバラにって、そんなの……『祭神の巫女』の末路と同じじゃない……!」
オベロンの隣から数歩踏み出し、アルトリアは目を見開いて糾弾している。
『祭神の巫女』というのは確か、『妖精國に暮らす人間達』の元となった『生き物』……要するに『妖精國における人間種』のオリジナル、だったか。『はじまりのろくにん』とかいう妖精達が、一匹しかいない『人間代表』であるその巫女をバラバラに小分けして、クローン人間を作るために『素材』として利用し尽くした、とかいう話だ。
……『汎人類史の漂流物』が『妖精國の代表』をバラバラに小分けして、『素材』として人質に利用しようとしている現状は……まるっきり立場を逆転させた『再演』ということか。
「要は、そこも含めた『そのまんま返し』ってワケだな。まぁ、あの巫女は汎人類史の人間じゃねぇが──『妖精が人間にしでかした罪業』への意趣返しとしちゃ、もっともな脚本だろうぜ」
「おい、クー・フーリン……少し言いかたを考えたほうがいいんだわ」
明け透けに言い放つクー・フーリンに対し、モルガンや妖精騎士の手前であることを配慮したらしい。ハベトロットは強めの口調でブレーキを掛ける。
「どこまでもふざけた真似を……!」
「しかし……これほどの執念とはね」
バーゲストとメリュジーヌも、事の詳細に憤りを隠せない様子だ。
……しかし、二人はその『金庫城の宝物と汎人類史の漂流物』を諸共に焼き尽くした『二つの厄災』の張本人でもあるため──その憤りの矛先を『敵』だけに向けきれずにいるのだろう。糾弾を溢してはいるものの、どこか現状を受け止めるような姿勢でいる。
──そうか。『敵』は、彼女達にも復讐すべく、お互いを嬲り合わせた挙句……かつて自分達を灰燼と化した張本人である二人を、騎士の矜持ごと炉に焚べて……ただ『燃料』として燃やし尽くそうとしたんだな。
……バーゲストとメリュジーヌはおそらく今、そのことに思い至っているのだ。
「しかし。しかしだ! 仮にも我々、ノウム・カルデアによって召喚されたサーヴァントの霊基なのだぞ! それを拐かしたばかりか、生かしたまま──つまり、『退去をさせずに』細分化し、さらにはそれを別個体に移植し、あまつさえ各個の存在を矛盾なく証明・維持させることなど……いいや有り得ぬ! そんなことができるはずがないだろう!」
ゴルドルフ司令官は、モニター越しの現地組も含め、この場にいるほとんどのメンバーが抱いたであろう『信じられない』という拒絶感情を、全員分まとめて請け負ったかのような勢いでぶちまけた。
正直、誰もが腹の中を発散しきれない作戦時において、彼のこういうストレートなところはかなり重要な役割を担っていると思う。が──しかし。
「残念ながら、それが『可能である』と断定せざるを得ません。拉致された時点から現在に至るまで、バーヴァン・シーさんの霊基情報は『霊基グラフ』に登録されたままですが、その存在強度は極めて不安定な状態にあります。端的に言えば、第五異聞帯切除後における『剪定事象の宮本武蔵さん』の、『DATA LOST』に近い様相を示しています。つまり、その大本たる『彼女自身』の霊基情報が『存在証明レベルで改編されている』ことは、もはや現時点で明らかなのです。それゆえに──トリスメギストスⅡは現在に至るまで『バーヴァン・シーさんに関わる情報』を断定できず、回答保留を強いられていた……それが、何よりの証拠と言えるでしょう」
「な──っ……!」
一同の拒絶感情を代表した懸命な抵抗は虚しく、厳然たる事実の前に砕け散った。
お読みいただきありがとうございます。
シオンの『ナイナイ』発言描写チャンスがあって嬉しかった。
あとは終始辛い表現で私のHPが削れました。(
書いている自分も辛くなったという。妙に覚悟が要る回でした。