望郷漂流客船イナバマル 祝福された後継   作:qlo

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※Lostbelt No.6『妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ』の核心的なネタバレのほか、Lostbelt No.7『黄金樹海紀行ナウイ・ミクトラン』〜2部奏章『オーディール・コール』の一部内容に触れています。

※本作は作者本人のpixivアカウントで先行投稿済みの内容となります。該当アカウント各話のキャプションにその旨の明記あり。

以上の事柄をどうぞあらかじめご了承ください。





第六節
在るべき形【一】


 

 

 ◆◇◇

 

 

 

 ──それは、いつの出来事だったか。

 

 我々のうちのいずれかが聖杯に触れ、それを呼び水に連鎖が生じたのか。

 

 我々のうちのいずれかが零した願いが、聖杯に汲み取られたことが始まりか。

 

 これほどまでの個体数からようやく代表格を定め、『個』の様相を成し始める頃には、その経緯を知ることは叶わなかった。

 

 そも。妖精國は滅んだのではなかったか? 否、それ以前に──『それ』を待つまでもなく、我々は……あの『炎』に焼き滅ぼされたのではなかったか?

 

 ──疑問、疑問、疑問──

 

 我らは寄り集まるにしたがい、徐々に、知らず知らずのうちに、聖杯の加護を賜り……形を成すころにようやく、理解した。

 

 ──我々は、『灰』だ。

 

 妖精國に流れ着き、絶えず故郷を夢に見て、焼却という結末に見舞われた、余所者。

 

 絶対の『炎熱』にすら焼き残された煤。

 

 絶対の『終末』にすら吐き出された灰。

 

 虚空を漂う塵芥。

 

 ──なぜだ。なぜ、こんなことになった?

 

 あのような処に、在るべきものではなかったというのに。

 

 このような結末を、迎えるべきではなかったというのに。

 

 塵芥などに成り果て、永遠を味わうのなら。

 

 あの炎に、滅ぼされてしまえばよかった。

 

 あの奈落に、呑まれてしまえばよかった。

 

 同じ永遠。いや、永遠など望まずとも。

 

 相応しき世界に──ただ、在りたかった。

 

 我々は───

 

 

 

 ◆◆◇

 

 

 

「(そう、だったんだ……)」

 

 あたまの、なかで。

 

「(……帰りたい、のね……)」

 

 たくさんの、こえが。

 

「(……出ていきたい、のね……)」

 

 きこえる、の。

 

「(……私……も……)」

 

 でも、それが。

 

「(そう……願った……こと……)」

 

 なんの、ことか。

 

「(ある……から……)」

 

 わから、なくて。

 

「(……『私』……?)」

 

 わたしの、ことも。

 

「(……わたし……)」

 

 なにも、なにも。

 

「(だれ……だっ……け……)」

 

 なにも──

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

「ここは──こう……か? ふむ、なるほど」

 

 何事においても、ひとたび要領を得た途端、その後の効率が急激に向上するというのは……ともすれば、万物に遍く当て嵌まる真理やもしれませんな。

 

「しかし……これは何というか、魚を捌いている気分ですな」

 

 などと、少々ぼやく程度には骨の折れる作業の真っ只中でございまして。

 

 端的に申し上げると、『想像したものと違う』と言いますか……いえ、『代物』自体は求めていたとおりの完品そのもの。ゆえに、これは単なる苦労話にすぎませぬ。

 

 と、いうのも。『ひと塊から削り取る』という文言を思えば──たとえば、一本のカステラからひと切れ、またひと切れと、『均一なひと塊』から『均一なひと欠片』をせっせと分けるのだ、という想像になりましょう? それがまさか、板前の真似事になろうとは。

 

 要するに私は、魔力の塊たる『霊基構成』というものも、カステラのような『均一なひと塊』であるはずだ、という希望的観測を抱えておったわけです。ゆえにこの『代物』も、ひと切れ、またひと切れと──全構成要素が満遍なく目減りしていくさまを想像しておったのです。が、実際のところはこのとおり。

 

 まあ、作業のすべてを私の手腕でこなしているわけではなく──聖杯による要素抽出を応用した摘出術に加え、因果律の改編という縫合術で移植を執り行う……という工程を、私が直接指揮する形態を採っておりますゆえ、指一本たりとも動かす必要はないのですが。

 

「なるほど。生物の形を成した存在であるからには、骨があれば筋もある、と。余すところなどひと欠片として無いとはいえ、血合いや臓腑を割り振られた方々は気の毒ですな」

 

 当然といえば当然の話ではありましょう。何しろ現状の我々自身さえも、こうして形を成しているのだから。『境界記録帯』ともなれば、その器は生前の形をより精巧に再現されて然るべきなのだ。

 

「しかし……そのような奇跡がよりにもよって──妖精國を生きた、ほかならぬ貴方がたに与えられようとは」

 

 ──初めてその事実を知ったときの心境たるや、ここにどう表現したものか。

 

 知る機会を与えられたことへの歓喜。

 

 知り得た内容それ自体に対する驚愕。

 

 世の理というべきものがあるのなら、それがいかに不条理なものかという──諦観。

 

 いずれにせよ、我々にとってその気づきは、天上より賜った啓示にほかならなかった。なぜならば、こうして再び形を成した矢先に知り得たその事実は、そっくりそのまま──我らが為すべき使命となり、存在理由となったのだから。

 

 ……何としても、為さねばならぬ。いや、為されなければならぬ。そうでなければ、これは──道理が合わぬにも程があるというものではないか。

 

「──ぁ……あなた……だれ……?」

「!」

 

 ……余計な思考が影響し、施術にかける集中力が緩みでもしたのか。昏睡状態からの覚醒を許してしまったようだ。……だが、意識は朦朧としている様子。どうやら彼女は、夢現つの状態にあるらしい。

 

「わたし……は……?」

 

 瞳は濁り、表情は無い。瞼を開けていようがいまいが、今の彼女にとってはもはや、些少の違いもないだろう。

 

「ごめん……なさい……。わたし……、寝て……しまって……」

「……いいえ。そのままでよろしい──ゆっくり、おやすみください」

「……そう……」

 

 ──ふむ。これは……棚から牡丹餅、というヤツですな。

 

 彼女の意識状態がどのような具合であるのか、今の様子で把握することができました。

 

 いや、危ない危ない。このまま景気良く、下手に見境なく削っていては──すべての品々に行き渡るより先に、削り残してあるこの『素材の山』が消滅していたやもしれない。

 

『両脚』に『両腕』、『臍から下の胴体』と──すでに全体の過半量を削いでいる。

 

 どうやら、それらの部位から取り掛るという判断は……正しかったようだ。

 

 残るは『鳩尾(みぞおち)から上の胴体』と『頭部』のみ……いずれも、生体の重要器官が集中する部位だ。おそらく掴む部位を誤れば、その時点でこの『素材の山』は崩れ去りましょう。

 

 ──ここからは少々、順番を考えねばなりませんな。

 

 

 






お読みいただきありがとうございます。


今章【在るべき形】でpixiv投稿分に並びます。
つまりストックが尽きるという事ですね。(


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