望郷漂流客船イナバマル 祝福された後継   作:qlo

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※Lostbelt No.6『妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ』の核心的なネタバレのほか、Lostbelt No.7『黄金樹海紀行ナウイ・ミクトラン』〜2部奏章『オーディール・コール』の一部内容に触れています。

※本作は作者本人のpixivアカウントで先行投稿済みの内容となります。該当アカウント各話のキャプションにその旨の明記あり。

以上の事柄をどうぞあらかじめご了承ください。





在るべき形【三】

 

 

 ◆

 

 

 

「──黒犬の鼻にかかり、漂流物の品々が戦闘形態を採ったか」

 

 皆様がたは『あれ』に向かわれた様子。首尾は重畳ですな。

 

 実のところ、あれを形成するために用いた漂流物に関しては、()()()()()()()()()()()()()()、ああして真正面から差し向けたのですが……ご丁寧なことに皆様がたは、あれらの漂流物にも彼女の一部が移植されていることを考慮して、一切の手傷を負わせぬように立ち回っておられるご様子。

 

 どのみち、そうして慎重に動かざるを得ないとはいえ……あれらの漂流物は命拾いをしていることに違いはない。むしろ、皆様がたに対して感謝をせねばなりませんぞ。

 

 そう申しますのも──恥ずかしながら我らの中には、『帰還を望まぬ』存在も少なからず居りまして。まあ、『我々』という集合的存在を形成する過程で浮上した『異端分子』というヤツでありますな。要するに──皆様がたにお相手いただいている、そこな漂流物達で拵えた巨人は……その『異端分子』の寄せ集め、というワケなのです。

 

 しかし、『乗り掛かった船』という言葉がございますように──異端分子と判明したからといって早々に切り捨ててしまうのは、我々のように『帰還を切望する』大多数の存在にとっても、愚策と言わざるを得ない事情があったのです。つまるところ──『総体』としての存在強度を担保するための個体数は、多ければ多いほど良かった……という、至極単純なお話ですな。

 

 ゆえに、彼らにも『積載物』として航海を共にさせ、帰還を切望する我々の『見送り役』を、便宜上担わせていたのです。現在、そちらでお相手いただいておりますのは、同じく『見送り役』としてお迎えした皆様がたとともに、その広間で今しばらくお待ちいただくため。そのために泣く泣く、いくつかの異端分子の個体に、貴重極まる『彼女の一部』を移植し、皆様がたを招き寄せる役割を与えた──というのが、事の経緯でございます。

 

 いやはや、そこを惜しんで『捨て駒』への移植を渋っておれば、このように巨人一体で事足りる話ではなかったやもしれませんな。窮すれば、帰還を望むでも望まぬでもない中立の漂流物達をも、巨人の素材として繰り出す羽目になっていたことでしょう。

 

 ……彼ら異端分子は『非情だ』と糾弾するやも知れぬが、それは筋違いというもの。

 

 これなるは、我々漂流物を永遠に拐かした妖精國への復讐にほかならず。ゆえに──帰還を望まぬということは、妖精國の罪業を是とする意思表明に等しく。そも、こうして我々同様に聖杯の加護を賜り、蘇る必要すらもなかったということなのだ。同じ漂流物という同胞でありながら、望むものが違うとあらば──袂を別つほかありますまい。

 

『罪あるもののみ通るがいい』──そう謳った、かの國と同じ運命を辿りなさい。

 

 同罪の謗りを受けようと恥にも思わぬ半端者には、お似合いの末路であろう。

 

 ──などと、益体なく思考を巡らせていたときだった。

 

「!」

 

 空間内に一瞬、濃密な魔力の大波が走った。

 

「これは──逆探知か……!」

 

 ──前触れはなかった。それもそのはずである。この室内に異常……すなわち、我々の意図しない事象が発生することがあるとすれば、それは必ず、前触れなく生じるものであって然るべきなのだ。

 

 この貴賓室は、余人はおろか外的干渉の一切を通さぬ環境となっている。ゆえに、たとえ彼女らが船内の隅々に至るまで捜索しようとも、船体全域を魔術によって感知しようとも、絶対に発見することは叶わない。なぜならこの部屋は、船体の存在する時空から切り離した位相の異なる場所──『特異点内の特異点』とでも言うべき隔絶空間なのだから。ノックやコールなどという観念とは無縁の、完全なる密室なのである。それが、こうして捕捉されたということは──

 

「時空の断層さえも透過してみせる精度の干渉術式……なるほど。これは──『水鏡』を応用した感知魔術というわけですな……!」

 

 淡い光を伴う魔力の波は空間中を駆け巡り、指向性を伴った動きを見せている。その挙動はまるで手触りを確かめているかのように精緻なもので、装飾品や備品の細部に至るまで覆って回り──ついに、この寝台にまで到達した。

 

「……いやはや、恐れ入った」

 

 半ば呆れ返るような思いでそう溢し、この所業を為してみせた何者か……いや、もはや何者かは明らかであろう。私は、かの御仁に向けて──溜め息混じりに賞賛の言葉を贈る。

 

 位相を異にした隔絶空間への干渉を叶えるということは、その位相差を股にかけての転移活動を可能にする、『レイシフト』なる偉業と遜色ないほどの魔術理論に加え──それを実行するための莫大な魔力リソースを要する、ということを意味する。そして、それをかの御仁が己が身ひとつで可能とする事実を、我々は承知していたのだ。

 

 だが、かつての彼女が行使していたそれは、妖精國という環境に特化させ、過去に集中して転移させることへ限定したがゆえに実現できた偉業である。こと現在において、あれほどの効力を発揮することは、原理的に不可能なのだ。

 

 しかし──相手が相手であるがゆえに。万が一にも有り得ぬはずのそれが『為されてしまう可能性』を否定しきれないのもまた事実だった。

 

 ゆえに、策を講じた。罠を設けた。刻を稼いだ。思いつく限りのことはもちろん、聖杯による恩恵を徹底的に利用し、我々という全存在による『()()()()』では思い至らぬであろう事柄にまで思考範囲を拡張し、あらゆる障害の可能性を演算したうえで、それらの芽を根刮ぎ摘んできたのだ。

 

 その甲斐あって実際に、かの御仁に残された貯蔵魔力量は、こと現状においてはすでに──当艦へお越しになった時点の二割にも満たない有様となっている。それは先刻、直接ご挨拶に赴いた際にこの眼で確認した事柄であり、聖杯による遠見の真似事をもってしても同様の結論に至った、歴とした事実なのだ。

 

 なればこそ、この段階に至っては、御息女の一部を移植し終えた漂流物を『足止め兼・人質』として差し向けたところで、その移植部をもとに逆探知を試みようとも、この空間が発見される可能性は無いに等しいと判断したのだ。なぜなら、たとえ逆探知に打って出ようとも、位相を跨ぐほどの術式に必要な魔力消費はもはや叶わず、船体の存在する時空を精査することが関の山であることは、火を見るよりも明らかだったのだから。

 

 それでもなお──かの御仁はこうして、異なる位相に在るこの空間への干渉をやりおおせたという。これでは、溜め息のひとつも出るというもの。

 

「……絶え間ない魔力吸収への抵抗。複数騎に対する惜しみない魔力供給。先の戦いにおける致命的な魔力消費。……並の英霊ではとうに退去を免れぬ状態となっているであろう、それらの負担を一身に浴びながらもなお、このような偉業を為しうるなど……やれやれ。度し難いにも程がありましょう……!」

 

 現状において限りなく不可能な事柄であろうと、それが不可能と断定されるものではない以上──確かに、いまだ可能な範囲に収まるものであるとも言えましょう。しかしそれは、そうとも捉えることができるという、希望的観測の域を出ずに潰えるのが常というものだ。なぜならそこには、実現の難易度というものがあって然るべきなのだから。

 

 それを考慮したうえで、こうも易々と為してしまうというのは……かねてよりそのような御仁であることは重々承知ながら、やはり些か、やりすぎではないかと思うのです。

 

 この局面。確かに、彼女らの置かれる立場を思えば、この機を逃せば逆探知を試みる望みはより薄まっていくことだろう。なぜなら、この逆探知に充てられる魔力リソースは、巨人と接敵した時点から早ければ早いほど多く、遅れれば遅れるほどに少なくなるのだから。

 

 そして、比較的余力が多く残されている現時点で手を打てば、逆探知の次なる一手──位相の異なる()()()()()()()()()()()という、城攻めの段に踏み込む作戦を練る猶予もまた多く得られる。逆に言えば、今より遅れて逆探知を行なっていては、城攻めに充てるべき魔力リソースが潰えてしまい、彼女らはその時点で詰みになるのだ。

 

 ──だが、先刻観測したモルガン女王陛下の残存魔力量は正確なものだ。加えて、こうして位相を跨ぐほどの魔術行使を為した以上、相応の魔力消費は免れない。

 

 あの巨人に移植した御息女の一部は、我が手中にある聖杯による『因果律の改編』という『縫合』が成されているため、物理的な手段はおろか、魔術による手法でさえも摘出することは困難を極める。そも、仮に摘出を為し遂げたところで、聖杯による存在証明が途絶える以上──御息女の欠片はその存在を維持できず、程なくして消え去る運命にあるのだ。

 

 ゆえに、彼女らはどうあっても、あの巨人に手出しはできない。かといって防戦に徹していては、我々の計画を見過ごすことになるばかりであり、漂流物の縁から抽出した歩兵どもを延々と相手取らねばならず、消耗を強いられる一方である。

 

 そんな中、そうせざるを得ない側面が大きかったとはいえ──残りわずかな貯蔵魔力から、多大な魔力を消費するという代償を払ってまで、かの御仁はこうして、埒外な感知魔術に打って出た。

 

 ──悪手、というほかないだろう。

 

 ここで逆探知なぞに余力を割いてしまっては、魔力供給術式に充てるべき貯蔵魔力は大幅に消費され、他の妖精國出身者に掛けられるべき偽装効果の消滅が早まるばかりだ。

 

 つまり彼女は、御息女の居所を感知することの代償として──他の一切を窮地に陥れることになる選択をしてしまったのだ。

 

「……どうやら貴女は──またしても、逸ってしまわれたようだ」

 

 余人の望み、願い、祈り……その一切を蹂躙し、侵略し、奪取した世界の最果てに打ち建てられし、かの御仁の大望たる理想郷──妖精國ブリテン。そして、己が世界のすべてに等しいそれを手中に収めてなお、それ以上の価値を見出した対象たる──御息女。

 

 かつて貴女は、御息女ひとりの犠牲を善しとしなかったばかりに、妖精國ブリテンそのものに裏切られることになったというのに──この後に及んでもなお、自ら進んで同じ末路へと歩み出されようとは。

 

 そう、同じなのだ。そのまま大人しく、そこな巨人より湧き出でる歩兵と戯れていただきさえすれば、譲歩の用意があったものを。

 

 ……否、現在の彼女の選択は、かつての彼女の選択よりもなお始末が悪い。彼女はおそらく、この後に及んで──『現在』と『御息女』、そのどちらをも守るつもりでいらっしゃる。

 

 だが、それはもはや叶わぬ望みだ。こうして居所を捕捉されてしまっては、こちらが皆様がたに用意した唯一の譲歩──『御息女の最期を看取る』ことさえ、もはや許すわけにはいかなくなった。

 

 ……これも因果というべきか。つくづく、妖精というものは救えない。

 

 どうやらこの後に及んでさえも──滅びを求めて止まない魂らしい。

 

 

 






お読みいただきありがとうございます。


渾身の一手。
次回は藤丸たち視点に戻ります。
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