望郷漂流客船イナバマル 祝福された後継   作:qlo

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※Lostbelt No.6『妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ』の核心的なネタバレのほか、Lostbelt No.7『黄金樹海紀行ナウイ・ミクトラン』〜2部奏章『オーディール・コール』の一部内容に触れています。

※本作は作者本人のpixivアカウントで先行投稿済みの内容となります。該当アカウント各話のキャプションにその旨の明記あり。

以上の事柄をどうぞあらかじめご了承ください。





在るべき形【四】

 

 

 ◆

 

 

 

 モルガンが新たな術式を発動させてから、数分が経った頃。

 

「──見つけました」

 

 膠着した現状に風穴を空けるように、彼女はその言葉を口にした。

 

「──ってことは、バーヴァン・シーの居場所がわかったんだね……!」

 

 地べたに這いつくばった姿勢のまま、安堵感ダダ漏れな声色で放たれた私の言葉に、モルガンはこくり、と頷いてみせる。

 

「っ、な……! 本当ですか、陛下!」

「さすが! 大天才は伊達じゃないな!」

「いよっしゃぁ~! やったな!」

 

 と、百鬼夜行を捌きつつも、どうやらこちらを常に気にしていたらしい妖精騎士メンバーの耳にまで、私の歓喜の声が届いていたようだ。

 

  ──あれ? なんで今の私の言葉が、彼女達にまで聞こえたんだ? 私とモルガンを覆う遮蔽魔術はまだ、発動しているはずなんだけれど……。

 

「……やっちまったモンは仕方ねぇ! さっきのは『水鏡』を応用した感知魔術だな? なら奴さんとバーヴァン・シーは、船とは別空間に居やがるんだろ!」

 

 ──モルガンの魔術、『水鏡』。

 

 かつての妖精國において『大厄災』が訪れる以前から発生していた、数々の『厄災』を過去に転送し、平和を保つために使われていた、異なる時空間への干渉を可能とする術式だ。

 

 ……忘れるはずがない。私はあの時、ノリッジの港に発生した『厄災』と交戦していた際、その『水鏡』がマシュを巻き込んで発動されたのを、間近で見ていたんだから。

 

 どうやら先ほどのモルガンは、これを感知魔術と合わせて応用することで、別時空に隠されていたバーヴァン・シーの幽閉場所を探り当てようとしていたらしい。それは見事に為され、こうして発見に至ったのだ。

 

 でも……小規模に展開したとはいえ、『水鏡』は別時空に干渉するほどの魔力リソースを必要とする魔術なんだ。クー・フーリン曰く、彼女はそこへさらに、感知魔術までも加えていたらしい。それは、少し──

 

「──よっこいせ、と」

 

 と、どういうわけかそのクー・フーリンが、私とモルガンが残された遮蔽魔術のドーム内へ戻ってきた。

 

 今回はバーゲストが参戦しているぶん、前回彼が担っていた役割を彼女がこなすことはできるけれど……彼が駆けつけるほどに急を要することを、モルガンは実行したということなのか。

 

「……タダで『水鏡』が使えるワケじゃねぇ。だがソレは、先立つモンを支払えば使えるって代物でもねぇ。まずもってお前さんが、()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()

 

 ……『水鏡』が、妖精國以外では使えない?

 

「えっ。じゃあどうして、今……」

「なぜ使えたのか、だろ? それを確認しに来たのさ。……ここは、漂流物といい金庫城のガラクタといい、汎人類史と妖精國の因子双方を混ぜ返したような、メチャクチャな概念で満ち満ちていやがる。だからそこを逆手にとって、妖精國の因子を概念的に手繰り寄せ、本来の一割程度の効果──『転移』ではなく、それ未満のレベル……『路を繋ぐ』ことに限定することで、簡易的に『水鏡』を実現させたんだ。そうだな? モルガン」

 

 ……簡易的、とは言うけれど。それでも相当な大技であることに変わりはないはずだ。

 

「──そうだ。……だが厳密には、『妖精國以外で水鏡が使えぬ』というわけではない。『妖精國という()()()()()()()だからこそ、同世界内に限定し、その過去へ指定したうえでの転移が適う』という話であり……問題の本質は、『隔絶した世界内という環境以外では、転移先を指定できない』という事実のみに帰結する」

 

 ……そうだったんだ。てっきり、あの時ノリッジで見た規模の『水鏡』とまではいかずとも、どうあれ『水鏡』である時点で莫大な魔力リソースを必要とするから、『現在のモルガン』はおいそれと使わないことにしているんだな──と、平生はその程度の理解で捉えていたのだけれど……それ以前の問題として、任意に転移先を指定するためには『隔絶された世界内』という、環境的な条件が必要だったんだ。

 

 ──ん。じゃあ、つまり……

 

「──それはそうだろうがな。だから、この『絶海に浮かぶ、妖精國の因子にまみれた船』っていう『隔絶した特異点』でも、ある程度の効果を期待して『水鏡』が使える、と判断したんだろ?」

 

 ……っていうことだよね。

 

「それはいいんだよ。『水鏡』っていう手段が応用可能な環境と判った以上、それは選択肢に入れて然るべき方針のひとつになるんだからな。……俺が言ってんのはな──」

「──くどいぞ、()()()()()()。私は現時点において必要と判断した一手を、打つべき者として打ったに過ぎぬ。それを貴様が逐一看破することに、いったい何の意味がある?」

「…………」

 

 ……モルガンの言い分は冷徹ながら、しかしそれゆえに、生半可な否定を許さない確かさを含んでいた。彼女の言うとおり、このタイミングで『水鏡』を使うことは必要事項であり、正解と言っていい行動であろうことが──どうしてだか、この状況自体から無意識レベルで感じ取られた。

 

 でも、クー・フーリンの言わんとすることもまた、間違ってはいないものだった。……要するに彼は、今の『水鏡』の行使による、モルガンの魔力消費を真剣に気遣っているのだ。彼にしては珍しく、こうも詰問気味に迫っている様子を見るに、どうやら……モルガンを『諌める』という意図があるらしい。

 

 ここに突入する直前まで、最低限の休息をとる時間はあったけれど……先刻のバーゲストとメリュジーヌの一騎打ちにおける魔力供給の負担や、現在進行形で生じている、魔力吸収現象への抵抗による消耗を経た状態なんだ。

 

 そのうえで、本来の一割の効果とはいえ、それに迫らんと注力し、感知魔術まで混在させつつ、莫大な魔力リソースを要する『水鏡』を使った。そのモルガンに、バーヴァン・シーが囚われている別空間に干渉、ないしは突入する道を、改めて開く余力まで残っているかどうか──

 

「──あ……」

 

 私はふと、この特異点について間もなく、モルガンがとった行動を思い出し──今さらながらに、その意味について思い至った。

 

『では──ひとまず船全体の隅々まで、軽く感知魔術をかけます』

 

 ……あれに対して、『いきなりの大技に驚いた』なんて思っている場合じゃなかった。なぜなら、あれは──到着直後という最も安全かつ、万全のコンディションである『あの時点で打つべくして打たれた一手』──バーヴァン・シーの居所が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()放たれたものだったのだ。

 

 作戦開始前の段階で『バーヴァン・シー本人がこの空間には居ない』と判ってしまえば、船内における捜索目標を『彼女の痕跡』に絞ることができる。あとはそれを発見・しかる後に触媒とし、別空間にまで及ぶ感知魔術を局所的に発動すればいいようにと──必要最小限の手順で済むよう、この瞬間に繋ぐ準備を整えていたのか……!

 

 ……もしかするとモルガンは、あの感知魔術を仕掛けた時点ですでに、自身が最悪、現状のような消耗を強いられることを予期していたのかもしれない──

 

 ──と、思考を巡らせていたとき。

 

「やれやれ……せっかちなご客人だ」

 

 この先へは通さないとばかりに、漂流物ゴーレムの背後から、大量の灰とともに──『スプリガン』を名乗る、あの男の声が響き渡った。

 

「……尻尾を掴まれて早々に出てくるたぁ殊勝なこった」

「いえいえ、窮鼠猫を噛むというやつです。もっとも──」

 

 クー・フーリンが睨みをきかせつつ、男の声がする方へ向き直る。が──すでに私達は、先手を打たれた後だった。

 

「──あなたがたは袋の鼠なわけですがな」

 

 視界を奪っている、大量の灰による陣幕。かろうじてその先が透けて見える隙間を覗くと、そこには──つい先ほどまで私達が居たはずの空間とは全く違う景色が、周囲に広がっていたのだ。

 

「……! バーゲストさん! これが?」

「ああ! 金庫城の幽閉結界だ!」

「僕達を閉じ込めたつもりか?」

 

 その事実を確認すると同時に、バーゲストを警護するように……マシュは盾を、メリュジーヌは鞘を構え、漂流物の使い魔ではなく『スプリガン』に向き直り、臨戦体勢をとりつつ問い詰める。

 

「僭越ながら、そのとおりと申しましょう。だが──それで足りるなどと侮ってはおりませぬ」

 

 彼の言葉と同時に、私にも感じられるほどの時空震が駆け巡り、空間中を大きく軋ませた。

 

「聖杯の反応があります! 彼はここで……本気で決めるようです!」

「チッ……! やっぱりそう来やがったか! 奴さん、さっきの感知魔術に相当お冠のようだぜ!」

 

 ……『スプリガン』が直々に姿を現したこの状況と、マシュとクー・フーリンがそれぞれに発した言葉。それらは、モルガンによる先ほどの感知魔術が、彼にとって『致命的な一手』であったことを意味していた。つまり、彼女は寸分の狂いもなく、バーヴァン・シーの居所を突き止めていたのだ。

 

 が、しかし。

 

「…………」

 

 私は再度、横目にモルガンの姿をとらえる。

 

 ……やっぱり、その一手は捨て身に近いものであったらしく、彼女自身も著しく消耗しており──敵にとっては恰好の『決定的なカウンターを打つ機会』でもあることもまた、明らかな事実なのであった。

 

 ──そうか。さっき、遮蔽魔術の外にいるはずのみんなに私の言葉が聞こえていたのは……バーゲストとメリュジーヌの一騎打ちの最中、著しく効果が減退していた時のように──休息を経た今でさえも、もはや辛うじて発現している状態にまで薄れているからだったのか……!

 

 ここに至るまで、遮蔽魔術の内側に居ようとも、作戦指示に関わる私達の発言に関しては、双方に通じるようにと調整はされていた。けれど、作戦指示とは関係のない、さっきの私の発言まで届いてしまっていたんだ。

 

 ……微々たる差異ではあるのだけれど、おそらくこれは……モルガンにはもう、術式の維持にかける余力が──

 

「やれやれ。まさか現在の貴女に、あれほどの時空干渉魔術を行使するだけの魔力リソースの用意がお有りとは、思いもよりませんでした。何しろこの環境下だ。手を尽くせば、魔力消費の『低減』程度は適いましょうが、『回復』に至ることまでは許さぬよう、我々は全霊を賭したつもりだったのですが──よもやああして、『水鏡』の応用を為そうとは」

 

 ……彼の眼にも、モルガンの状態はお見通しだったらしい。やっぱり、この特異点全体に遍在する『積載物』や『灰』を通して、私達の様子を窺っていたんだ。

 

 しかし、そのうえで……どうやら、モルガンの魔力残量に対する、僅かばかりの『誤算』があったようだ。

 

「貴女が自身に治癒を試みるにも、その行為自体もまた魔力吸収現象の餌食となる。ゆえに、満足な回復など望めぬはず……と踏んでいたばかりに、現状を招いてしまった。──ああ、まったく。我ながら詰めが甘うございましたな」

 

 ……ん? あれ。

 

 その僅かな『誤算』を生むきっかけになったのって、もしかして……さっきの通信中にみんなでシェアした、私の『おやつ』による、気持ちばかりの微々たる魔力補給のせいでは?

 

 ……うん、多分そうだ。だって私は、モルガンが遮蔽魔術のドームを展開してから今まで、一歩たりともドームの外へ出ていないんだ。バックヤードへの潜入時に一度だけ口走ったことを除き、実際の『おやつ』はここに至るまで、彼の眼には一度も触れていない──。

 

「(……っ!)」

 

 私と同じ発想に至ったんだろう。マシュがこちらに向かって、『感激しました!』と言わんばかりの尊敬の眼差しを向けてくれちゃった。

 

 ……言えない。彼にもマシュにも言えない。彼を見舞った『誤算』が、これまた私のしょーもない『誤算』に端を発した皺寄せによるものだなんて。どんなバタフライエフェクトだよ、これ。

 

 ──と、そうこうしているうちに、周囲の状況に変化が生じ始めていた。

 

「……皆様がたには我らの帰郷を見届け、完遂を示す証人となっていただく予定でしたが──真に計画を阻みかねない一手を打たれた以上、もはやそれも諦めざるを得ません」

 

 ──空間の軋む音が鳴り止み、周囲を満たす大量の灰が晴れていく。

 

「ここで滅した後に、ゆるりと」

 

 それを合図とするかのように、彼の『宝具』とでも呼ぶべき、『金庫城』による幽閉結界が完成し──

 

()()()()に勤しむといたしましょう」

 

 ──城の住人たる『宝物』から造られた七体ゴーレムが、私たちを出迎えた。

 

 

 






お読みいただきありがとうございます。


第六節【在るべき形】でした。
本投稿をもってpixivでの公開分に並んだので、連投は区切りとなります。見つけてくださった皆様、ありがとうございました。

次章以降は目下執筆中です。数章分のストックを用意し、ひと月ほどじっくりと推敲の時間を経てから公開したく思います。引き続き、お付き合いいただけますと幸いです。
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