望郷漂流客船イナバマル 祝福された後継   作:qlo

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※Lostbelt No.6『妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ』の核心的なネタバレのほか、Lostbelt No.7『黄金樹海紀行ナウイ・ミクトラン』〜2部奏章『オーディール・コール』の一部内容に触れています。

※本作は後日、作者本人のpixivアカウントにおいても投稿予定の内容となります。

以上の事柄をどうぞあらかじめご了承ください。





第七節
夢想の城【一】


 

 

 ◆

 

 

 

 私達の行く手を阻むようにして配された『金庫城のゴーレム』。聖杯の存在証明による影響なのか、彼らの威圧感はその巨躯による物理的な由来ばかりでは決してなく──存在そのものが敵性であることが解るほどに、滲み出る魔力は害意に満ちていた。

 

「本当に、金庫城の宝物を魔術礼装として使役してる……」

 

 バーゲストの戦闘報告が共有された時点で、それが事実であると裏付けている話ではあった。けれど、『スプリガン』の姿をとった存在がそれを成して見せている現状は、実際にこの眼で確かめたうえでも──やっぱり、どこか納得がいかないと思わざるを得ない光景だった。

 

「木偶人形どもめ……!」

「多勢に無勢……は僕らのほうか」

 

 本作戦においては二度目の対面となることも相まって、バーゲストはひときわ判りやすく戦意を滾らせている。その傍らで、彼女とは対照的に……メリュジーヌは状況を静観し、彼らの出方を窺っていた。

 

「先ほど、その眼でご確認なされたこととは当方承知のうえながら……お急ぎのご客人とは得てして、乗艦時の注意事項を読み飛ばし、お忘れ物を残して往かれるもの。ゆえに、念のため申し上げておきますが──我らが艦には貴賓をお招きしている。そのことをどうぞお忘れなきよう」

 

 ……その言葉は、『漂流物のゴーレム』に移植されたバーヴァン・シーの一部のみならず、現時点で残されている彼女本体の処遇に関する決定権をも自分は有しているのだぞ──という脅迫だろうか。

 

 彼らが画策している復讐劇には、『妖精國の代表的存在を拐かし、漂流物にせしめる』という理想形がある。でもそれは、彼ら『汎人類史の漂流物』の第一目的──『帰郷』という本懐を天秤にかけたとき、後者に勝る重さを示すとは限らないものだった。

 

 つまり、彼らは今……『帰郷』を阻みかねない事態に陥った場合には、その瞬間にでもバーヴァン・シーを殺害することも辞さない、と警告している──

 

「(──でも、それにしては)」

 

 さっきの通信でシオンの話を聞いたときから感じていたんだけれど……やっぱり、何かヘンじゃないか……?

 

 仮にそういう思惑があって、場合によってはバーヴァン・シーを殺害することも厭わないと考えているのなら──移植対象が人質としても機能するとはいえ、聖杯のリソースを割いてまで、彼女を生かしたままバラバラにするというのは……どう考えたって割に合わないのではないか。

 

 彼らの『帰郷』とまったくの同時に叶えるという例の復讐手段に拘るより……まさしく今この瞬間にでも、モルガンの目の前で──私達に奪還手段が存在しない現状をいいことに、これ見よがしにバーヴァン・シーを消滅させてしまうことのほうが、手間も少なく、より決定的な結果をもたらす復讐手段になるはずじゃないのか。というか……本当に何で、彼らは『そうすること』で復讐を叶えようとしないんだ……?

 

 ……確かにその場合、『バーヴァン・シー自身を漂流物にせしめる』という理想形は叶わなくなるけれど……この場にいる彼らが遠隔で彼女を殺害し、否応なしに現在から消し去ってしまうという選択肢もまた、こと『モルガンに苦痛をもたらす復讐手段』としては、決して前者に劣るものではないはずだ。

 

 ──ほんと、嫌な想像、慣れない憶測この上ないんだけれど……今回の『敵』を相手にするにあたっては、そういう方向にも想像力を働かせる必要がありそうなのもまた事実なんだ。……モリアーティ教授がくれた邪悪教典、もう少し読み込んでおくべきだったんだろうか。

 

「(──何か、ほかにも理由がある……?)」

 

 ……根拠はない。つまるところ、これは単なる直感に基づく話なのだけれど……そのあたりの事柄にはやっぱり、釈然としない何かが、依然として残されている気がするんだ。

 

 ……何か、見落としている要素がありはしないか。何か……そう、もっと確固たる、この事件の大前提に置かれてもおかしくはない事柄であり……なおかつ、彼らの打算に基づいた何かが、その思惑に隠されているような──

 

「下衆が!」

 

 クー・フーリンも先ほどの言葉に害意を察したらしく、遮蔽魔術のドームから飛び出した勢いそのまま、彼らの目前でルーン魔術の炎を放とうとした──途端。

 

「!」

 

『金庫城のゴーレム』達による攻撃──自らを形造る宝物群を弾丸とした一斉掃射が、彼の身を襲った。

 

「おい! 大丈夫かクー・フーリン!」

「チッ……! ああ!」

 

 巻き起こった砂埃を吹き飛ばし、瓦礫の山を蹴散らしながら無事を告げる彼の姿が見えた。……先ほどの攻撃は、直径およそ三十メートルに及ぶ範囲を覆うほどの弾幕だったんだ。それが予備動作なしのノータイムで炸裂したとあっては、さすがのクー・フーリンも離脱は難しかったらしい。あるいはランサークラスの彼であれば、即座の離脱も適っていたかもしれない。

 

「本当にエミヤさんの魔術のような様相を……それに、宝物群を掃射するスタイルはまるで、ギルガメッシュ王の『王の財宝』のように際限がありません……!」

「例えにしても最悪の組み合わせだなそりゃあ! 個人的にだが! まあ、野郎どもの曲芸に比べりゃ些か物足りねぇがよ!」

 

 ……確かに、ギルガメッシュ王のそれに比べると見劣りはするだろう。しかしそれは、そもそもあの王様の戦闘スタイルがデタラメすぎるという側面が大なのであって──少なくともそんな彼が引き合いに出されるレベルにまで『金庫城のゴーレム』の攻撃が至っているらしいことは、些か以上に驚異的な事実であった。

 

 加えて、聖杯によるバックアップのおかげとはいえ、オカン……もとい、カルデアキッチンの守護者の投影魔術に比肩するほどの精密さで、存在証明の応用を最大限に引き出した強化まで付与されているんだ。

 

 一斉掃射された宝物群は即座に『金庫城のゴーレム』の元へ帰還し、その図体の一部として再構成されている。着弾の際に破損があったのか、無かったのか──個々の宝物は即座に修復・ないしは無傷で済むほどに強固な保護効果を有しているらしく、損壊した様子は見られなかった。

 

「まったく。『妖精國の縁者を招く』と定めたばかりに、貴方にまで搭乗を許す羽目になるとは……たかが一時、異郷の空気を吸った程度で自らを縁者の一員に数えようなど──図々しいにも程がありましょう」

 

 クー・フーリンを冷ややかに見据えながら──蔑むような、それでいて怒りを湛えるような口調をもって、『スプリガン』が語りかける。

 

「貴様如きが妖精國を語るな!」

 

 彼らの言葉の牽制を切り裂くように、バーゲストの糾弾が響き渡った。彼女のその語気から感じられる熱もまた、蔑みと怒りに類するものだ。

 

「あの国を焼き滅ぼした、他ならぬ貴方がたには語る資格があると?」

 

『金庫城のゴーレム』を構えつつ、彼は言葉を投げ返した。

 

「……妖精國を想う心があるのか? だとしたら矛盾しているだろう。貴様らは──妖精國に対する復讐こそを願って現状を企てているではないか!」

「……」

 

 バーゲストは今にも飛び掛からんとする勢いで叫ぶ。それを諌めるようにメリュジーヌが半身を乗り出し、彼女が先ほどのクー・フーリンの二の舞となることを阻止してくれている。

 

「何やら見当違いをなさっているご様子ですが……理解されずともよろしい。我らが願いに貴方がたが理解を示すなど、それこそ矛盾と呼ぶに相応しいのですから」

 

 彼が突き放すように呈するその言葉には、心の底から相容れないと言わんばかりの侮蔑と諦観が込められていた。その感触はさながら、灰の山に埋もれた火種がもたらす熱に、指先をさらしたときのように──聞く者の心をじわりと焦がし、鈍い痛みを伴わせるものだった。

 

「え……?」

 

 私と同じくその言葉の意味が解せない様子で、無意識に疑問の声を零しているマシュが横目に映った。

 

 ……彼の言う『理解』とは何なのだろう。それも、妖精騎士のみんな……いや、今に在る妖精國の面々には望むべくもない類の──

 

「──そりゃあ話が早い。そもそもてめぇには人質を返すって選択肢が無ぇ。バーヴァン・シーはすでにほとんどバラしてやがるな?」

 

 と、この空間を満たす禍根の色に濁った空気を払うかのように──『金庫城のゴーレム』の牽制姿勢に対抗し、再びルーン魔術の刻印を身辺に施しながら、クー・フーリンが声を発した。

 

「なら、俺達の仕事は決まりきっている。この結界をてめぇらごとブチ破って、外のガラクタどもをバラし返して──盗られたモンを取り戻すだけだ」

 

 その発言に紛れ、私とモルガンが残された遮蔽魔術のドームの中に、ジャラジャラと何かが転がり込んできた。

 

「あっ……」

 

それは、クー・フーリンが到着した直後と同じく……防御の術式が仕込まれた『ルーンストーン』だった。どうやら先ほどの啖呵の最中に、彼らの目を盗んで送り込んでくれたらしい。

 

 前回と違うのは、その数である。あのときは五つだったのに対して、たった今送られてきたルーンストーンは──十、二十……四十個はあるだろうか、というほどの数だった。

 

 その数の差はつまり、これから先……クー・フーリンを含めた仲間達には、私とモルガンの護衛に回る余裕が見込めないことの表れであり──『そっちの守りはこれで何とかしろ』あたりを意味するものなんだろう。

 

 ……そうか。おそらくクー・フーリンは先ほど、現状の敵陣営が有する脅威の程度を探り、私とモルガンに必要な防衛策を事前に施すために、危険を承知のうえ単身で突っ込んでくれたんだ。

 

「妖精國で屈指の堅牢さを謳った概念の檻の中……加えて、モルガンさんは身動きが取れません……!」

「でも──どうやら幸い、『漂流物のゴーレム』は金庫城の結界の外にいるみたいだ。使い魔たちは幾らか巻き込まれているようだけれど」

「あっ、そういえばそうなんだわ! じゃあ少なくとも、ここでは人質を気にせずに戦えるってコトだな!」

 

 ──本当だ。大量の灰の陣幕に紛れた後に周囲の風景が変貌し、直後に七体もの『金庫城のゴーレム』が出現したために、その変化に対する意識が薄れていた。確かに、例の使い魔たちはこの空間内に存在しているものの、彼らの出本となっている『漂流物のゴーレム』の姿はない。

 

「ああ。黒犬どもも、あの木偶人形どもにはバーヴァン・シーの痕跡を見出すような反応を示してはいない。ならば遠慮なく叩けるというものだ。マスターと陛下にまで危害が及ばぬよう、我々で彼奴らを制圧するぞ!」

 

 それは心強いし、そうせざるを得ないこともまた確かなんだけれど……彼らにとって貴重な概念であるはずの『バーヴァン・シーの一部』を移植された『漂流物のゴーレム』が、こうして結界の外に出されているということは。

 

「悪あがきの攻勢か。無論そう来るでしょうとも」

 

 それらを気遣わずに済むようになった、私達の反撃を煽りやすい状況を作り出すための策略でもあり──

 

「こちらはすでに、貴方がたをこの場で滅すと申し上げた。内装が散らかったままの艦で凱旋の時を迎えるわけには参りませぬ。火急的、速やかに──掃除を始めるといたしましょう」

 

 同じく、漂流物達の損壊を恐れずに済むようになった彼らにとっても──遠慮なく猛攻を仕掛けられる環境になったことを意味していた。

 

「聖杯、急速励起します! 存在証明の対象である『積載物』の一種、『金庫城の宝物』──そのすべての敵性反応が上昇!」

 

「──っ……!」

 

 マシュによる注意勧告に応じ、私は遮蔽魔術のドームの中、モルガンの前に身を乗り出し……いつでもルーンストーンを投げられるように構え、臨戦体勢を整える。

 

「来ます……!」

 

 七体のゴーレム達による、宝物群の次弾装填。それらを構成する個々の弾丸は、先ほどクー・フーリンに放たれた一撃の総数を遥かに超えていた。

 

 ──百。千。いや、それが七体分──

 

「アレ、一万発はあるな……!」

「どうなってるんだ! さすがに多すぎるんだわ! 『金庫城の宝物』ってそれほどの収蔵数から成るモンだったのか!」

 

 言われてみれば……『金庫城の宝物』は『妖精による作品、その選りすぐり』であったはずだ。それも、かつてのスプリガンその人が自ら鑑定し、特に気に入った代物をメインに収蔵していた──と、マシュからはそのように伝え聞いている。……そういった選定基準を経て収蔵品に加えられた数にしては、あのゴーレム達が構える弾丸は多すぎやしないか。

 

 ……というのは、あくまで第三者の憶測の域を出ないものであり、生前の彼が数十年の間に千、万に及ぶ数を蒐集するに至っていたとしても、べつに不思議ではないのかもしれないけれど──

 

「……気が付いていますか、マシュ。これは──」

「──はい、バーゲストさん。あの数に加えて、充満するこの匂い……間違いありません。この幽閉結界を形成する『金庫城』には、『鍛冶場町・ノリッジ』の概念が紐付けられており──かの街において、妖精達の手で数限りなく造られた『鉄製の武器』までもが再現され、『宝物群の弾丸』として無数に生成されている模様です……!」

 

 ……なるほど、そういうことか。それが理由であれば、あのデタラメな弾数が実現していることにも頷ける。つまり彼らは、ノリッジで妖精達が造っていた鉄製品を『妖精による作品』として位置付けることで、『金庫城の宝物』の一部としてカウントしており──かの地が『鍛冶場街』であったという概念を抽出・付与し、ゴーレム自体を『弾丸の生産工場』に仕立て上げているんだ……!

 

「さすがは一度、あの街と金庫城をご案内しただけのことはある。ここは素直に御名答と申しましょう──」

 

 彼の言葉と同時に……装填された弾丸に魔力が込められているのか、個々の纏う鋭い光が徐々に強まっていく。

 

 これは、まずい──

 

「──マシュ! お願い!」

「──はい、マスター!」

 

 危険を察した私は、即座にマシュへ声をかける。彼女も同様の判断をしていたらしく、その返答はまるで用意されていたかのように迅速で、信頼に満ちた声色だった。

 

「──真名、投影補完」

 

 盾を構え、精神を研ぎ澄まし、脅威を眼前に捉えながら、真っ直ぐに向かい合う彼女の姿を見やる。

 

「これは多くの道、多くの夢を過ぎた遠望の城──」

 

 ──その詠唱を認めないと言わんばかりに、弾丸が纏っていた無数の光が一斉に弾ける。

 

「──証明せよ! 」

 

 それらが掃射される寸毫の合間。回帰か、あるいは新生か──

 

「『いまに在りし夢想の城(ロード・キャメロット)』!」

 

 かつての輝きに迫りつつある、我らノウム・カルデアが誇る人理の砦──『白亜の城』が展開した。

 






お読みいただきありがとうございます。


VS『スプリガン』開始!な回です。

プロット作成時はまだアプリ本編のマシュの宝具が『モールド・キャメロット』のままだったので、二部七章で『ロード・キャメロット』の名を再び冠するとは!と驚いた思い出。

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