望郷漂流客船イナバマル 祝福された後継   作:qlo

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※Lostbelt No.6『妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ』の核心的なネタバレのほか、Lostbelt No.7『黄金樹海紀行ナウイ・ミクトラン』〜2部奏章『オーディール・コール』の一部内容に触れています。

※本作は後日、作者本人のpixivアカウントにおいても投稿予定の内容となります。

以上の事柄をどうぞあらかじめご了承ください。





夢想の城【二】

 

 

 ◆

 

 

 

「はぁぁぁぁ──!」

 

 雷雨の如く降り注ぐ、高密度の魔力を纏う宝物群の弾幕。マシュは自身を鼓舞するように声をあげ、細い身体の全霊を、自身の背丈よりも大きな盾に宿しながら──そのすべてを受け止める。

 

「──ッ!」

 

 この場に立っているだけでも、足の先から頭のてっぺんまで振動を伝えるほどに、轟々と鳴り響く着弾の衝撃波。それが畳み掛けるにしたがって、霧散した魔力による硝煙が空間中に立ち込める。

 

 ……実際の時間にして一分に達しようかというところで、ようやく轟音は鳴り止んだ。そして、誰もがその状況を認めた頃。視界を曇らせている硝煙を盾のひと振りで吹き晴らし、自身の背後に居る私達を向き直り──

 

「みなさん! ご無事ですか!」

 

 ──己が矜持の完遂を問いながら、盾の騎士が舞い戻った。

 

「聖杯のバックアップ付きの弾幕を防いじゃったんだわ! スゲ〜!」

「ああ。『妖精騎士ギャラハッド』を名乗っただけのことはある!」

「見事な(つよ)さでした。元より貴方の守りに不安などありませんでしたが!」

 

 と、マシュに対して妖精騎士の面々が口々に賞賛の声を送りつつ──彼女と入れ替わるようにして、『金庫城のゴーレム』へと駆け出していった。

 

「大丈夫だよ〜! ありがとう〜!」

 

 私も両腕を頭上に伸ばし大きく『◯』の字を書きつつ、遠目に居るマシュに大声で応える──と。

 

「ほう……精神の概念防御とな。よりにもよって、ああ。よりにもよって……貴方がたを守る壁の名が──『いまに在りし夢想の城』と来ましたか」

 

 ──背筋を凍らせるほどに冷たく、重く、昏い圧を秘めたその言葉は、私達に対するものではあるものの……ほとんど彼の独白に近く、まるで呟くように吐き捨てられていた。

 

「しかしながら、時間稼ぎなど無駄なことです。この程度の弾幕であれば、幾度なりとも敷いてみせましょうぞ──」

 

 マシュの守りを目にしたことで、彼の中で何かが焚き付けられてしまったのか。砲身たる『金庫城のゴーレム』に帰還しつつある無数の弾丸を再装填しながら、『スプリガン』は次弾の照準を──私とモルガンの居る遮蔽魔術のドーム、そのただ一点に向けて定めていた。

 

「次弾が来るぞ! 今の嬢ちゃんが展開する『白亜の城』はそう何度も出せるモンじゃねぇ! せめて俺達で狙いを逸らすぜ!」

 

 妖精騎士の面々に連携を進言しつつ、クー・フーリンが先行し、二体のゴーレムの足元目がけて集中砲火を試みている。二つの巨体はバランスを崩し、私とモルガンに向いていた照準ははるか天井を示し──蓄えられた魔力が暴発したのか、次弾のすべてが不完全なまま放出され、方々に飛び散っていった。

 

「防御だけではない! ねじ伏せてくれる!」

「接合部を切り刻む! 自重で潰れるがいいさ!」

 

 クー・フーリンに続き──バーゲストは大量の鎖と爆炎で、メリュジーヌは両鞘による斬撃で対処に当たり、それぞれ二体ずつゴーレムを相手取る。いずれも次弾の照準は乱れ、彼女達の猛攻によってその巨躯は倒壊しつつあった。

 

「このっ! 大人しくしろってんだ〜!」

 

 残る一体のゴーレムに向かったハベトロットは、対象を魔法糸でぐるぐる巻きにし、他の三人の機転によって制圧されつつあるゴーレムに引っ掛ける形で倒壊に巻き込み、彼ら共々に押し倒すことに成功した。

 

 ……よし、みんなのおかげでなんとか、七体のゴーレムすべての体勢を迅速に崩すことができた。これで七体の連携は断絶し、こちらに向けられる弾丸もバラけざるを得なくなるだろう。あとは彼女達が各個に相手取っているゴーレム戦を遠隔で支援しつつ、こちらに弾丸が飛来した時には、クー・フーリンに預けられたルーンストーンで防御を試み、自衛に徹することにしよう。

 

 そして、ええと、それから……そう。そのまま、万が一にでも複数体のゴーレムが連携を取り戻してしまうパターンを想定して、マシュの宝具展開のクールタイムを充分に稼いで──

 

「──っ……」

「えっ」

 

 ──それが聞こえた一瞬、懸命に駆け巡らせていた私の思考は、ぶつりと音を立てて中断された。まるで、それ以外の音のいっさいが唐突に鳴り止んでしまったかのように。

 

「(うそ)」

 

 ああ。理屈のうえでは、この展開を予期していなかったわけではない。それでも、こんな状況が実際に生じる場面を想像することなんて──いいかげん、恐れ多くもそれなりに場数を踏んでいるんだなぁと自認し始めた私にも、やっぱり難しかったんだ。

 

「……ぁ……」

 

 だって、本当に──本当にあのモルガンが、ただただ純粋に、『魔力切れ』に陥るなんて──そんな状況をいったい誰が、明確に想像し、覚悟すらもできるというのか。

 

「──モルガン!」

 

 私は彼女の元に駆け寄り、ふらふらと揺れる身体を全身で抱き止め、その姿勢を支える。

 

 ……回復魔術のスクロールはもう、バーゲストが暴走させられていたときに、モルガンに対して使ってしまった。この期に及んではもう、私の『おやつ』による魔力補給なんかで間に合うかどうか。いやそもそも、この様子じゃあ、咀嚼も嚥下もできるとは──……

 

「ちっ──言わんこっちゃねぇ……! お前さん、さっきの逆探知に相当魔力を使ったな……!」

 

 ……どうりで、さっきのクー・フーリンの忠言が急を要したはずだ。まさか、あの『水鏡』による感知魔術の発動から、こんなにも早く──

 

「マスター! モルガンさん! 伏せてください!」

「──っ!」

 

 マシュのその声を聞いた瞬間、私は反射的に手持ちのルーンストーンを十個、できるだけ広範囲に向けてばら撒いた。

 

 簡易防壁が展開したのと同時に、鋭い光が断続的に炸裂する。どうやら、ギリギリのところで対応が間に合ったらしい。ただ、防壁の隙間から漏れた数発の光弾が遮蔽魔術に接触し、ドームが何度か大きく揺らいでしまった。

 

「宝物群の弾丸……!」

 

 さすがに、無数の飛び道具を有した七体のゴーレムを制圧し続けることには無理がある。マシュが中間地点に陣取り、私とモルガンに迫る弾丸を捌いてくれているけれど──こうして流れ弾や、あるいは逸らしきれなかった掃射が到達してしまう可能性は、十分にあった。

 

「まだです、マスター!」

「!」

 

 次いで飛来する弾丸。先ほどマシュが宝具で防いでくれた時のような弾幕ではないことが、辛うじて私にも対応できる要因となっている……けれど、今のモルガンから目を離すワケには──

 

「くっ!」

 

 私はもう一度、モルガンを支えつつ、十個のルーンストーンを散開する。今度は私とモルガンの真上から前方にかけ、先ほどよりも防壁同士の重なりが過密になるよう調整した。

 

 防壁に阻まれ、炸裂する光弾の雨。……よし、今度は遮蔽魔術のドームを覆いきれたみたいだ。防壁に阻まれた弾丸は軌道を逸らされ──待て。

 

「──しまっ……」

 

 ──状況を確認するべく、周囲に泳がせた視線の先には。

 

「(漂流物の、使い魔──!)」

 

 金庫城の結界内に取り込まれていた『百鬼夜行』の分隊が、光弾の炸裂を目眩しにしている間に──私とモルガンの周囲に配されていたのだ。

 

 ──油断はなかった。……いや、これはもう、完全に意表を突かれたと言うべきだろう。モルガンを介抱しつつ、迫りくる弾丸をギリギリで防ぐことだけで、私の注意力は余すことなく総動員されていたんだ。そのうえ、単独行動が可能な伏兵の動きまでもを考慮するなんて──

 

「はぁぁあああっ!」

 

 と、その声がぐるりと時計回りに聞こえたと同時に──周囲に配されていた使い魔達が、マシュの盾さばきによって瞬く間に弾き飛ばされていた。

 

「よかった、間に合──えっ、モルガンさん……? っ、周囲に配置された『使い魔』の対処は私が! 先輩はモルガンさんの介抱をお願いします! 念のため、引き続き流れ弾にご注意を!」

「うん、ありがとうマシュ!」

 

 マシュの即断のとおり、そうするほかに採るべき対応はないだろう。しかし、マシュが戦闘に出突っ張りになると、二度目の宝具展開が必要な時に発動が間に合わなくなるかもしれない……。

 

 手持ちのルーンストーンはもう、半分の数になってしまった。自力で防ぐことができるのは、おそらく多くてあと二、三回──

 

「いい加減にッ……潰れなさい!」

「再構成が厄介だ……! こいつら、叩かれる箇所から遠いパーツを集中的に修復しているんだ!」

「その精度もだんだん上がってるんだわ! ボクらの攻撃パターンが読まれてる!」

 

 バーゲストとメリュジーヌ、ハベトロットは、誰からともなく三騎での連携を開始していた。ゴーレムの再構成が徐々に最高効率化されることに対し、さらに攻撃速度を上げている……でも。

 

 連携することで、各個が分担して対処に当たるよりも、いくらか省エネが適うであろうとはいえ……どうあっても、これは──

 

「────」

「っ!」

 

 ──もっとも恐れていた事態……それを招く瞬間を早めるのには、充分に過ぎる魔力消費を要した行動でもあったのだ。

 

「──しっかり、モルガン……!」

 

 私に支えられ、辛うじて姿勢を保っていたモルガンが──ついに、膝から崩れ落ちてしまった。

 

「……楽な姿勢、楽な姿勢……」

 

 ──意識は……あるのかどうかわからない。呼吸は静かだけれど、その容態は浅くて速いものになっており、霊基の機能が著しく減衰しているらしいことが見てとれた。

 

「(脚を寝かせて、膝を軽く曲げて、胴を少し起こして。首が楽になる形で頭部を支えて、呼吸がしやすいように、気道を確保して……)」

 

 その場にゆっくりと座り込み、モルガンの上体を私の両膝に預かりつつ、お互いになるべく負担の少ない姿勢を探る。

 

 いつかのタイミングでナイチンゲール婦長に教わった人間用の介抱術を、咄嗟に試してみる。……不思議なことに、自分の手で他人の救護活動が要求される状況というものは、いざという時に身体が勝手に動いてくれるらしい。少なくとも一度身体で覚えた処置方法に関しては、不慣れであろうと関係なく、こうして自然に対応手順が頭に浮かんでくれたのだ。

 

 ……サーヴァントが相手で、なおかつ魔力切れに対する処置として適切なのかはわからないけれど──ただ横たわらせるだけという対応よりは、きっと良いはずだ。

 

 と、モルガンの介抱に集中しているときだった。

 

「!」

 

 彼女が私と自身を守るため、辛うじて展開が維持されていた遮蔽魔術のドームが──まるでシャボン玉が弾けるように、音もなく消滅した。

 

「まさか──モルガン陛下……!」

「……保たなかったか!」

「まずいぞ! この感じ──モルガンの魔力供給が途絶えてるんだわ!」

 

 遮蔽魔術のドームが消えたのと同時に──ゴーレムの対処に当たっている妖精騎士の三人も、モルガンの身に生じた異変を感じ取ったらしい。当然というべきか、魔力供給が途切れたことで、彼女達が連続して繰り出していたすべての魔力行使が停止している──。

 

「──モルガンさん、先輩!」

 

 百鬼夜行を引き受けて身動きが取れないでいるマシュが発した、その声と同時に──過半数に及ぶ体積の再構成が完了したゴーレム達によって、宝物群の弾丸が装填されている様子が視界に入った。

 

「……っ!」

 

 私は咄嗟に、残りのすべてのルーンストーンを握り込み──飛来するであろう弾丸の軌道を予測して、その方向へ投げ放った。

 

「ちっ……!」

 

 すると、前方で宙を舞うルーンストーンの間から……魔力行使が適わなくなった妖精騎士の面々と入れ替わりに、七体すべてのゴーレム達を阻むように佇む、クー・フーリンの姿が見えた。

 

「おらぁぁあああ!」

 

 彼が行使する通常攻撃の中では、最上級に位置するであろう規模の爆炎が巻き起こり──七体すべてのゴーレムをわずかに押し返し、一斉掃射の直前に照準が逸らされ、約半数の弾丸が散り散りに駆け抜けた。……残り半分、どうにか防がなきゃ──!

 

「全部投げたんだから、足りてよね……!」

 

 そうボヤきながら、眼前に展開した簡易防壁に飛来し、絶え間なく炸裂する光弾を睨み返す。爆発音が鳴り止むのと防壁が砕け散るタイミングは、ほぼ同時のことだった。

 

 ……マシュの宝具は発動したばかり。

 

 ……モルガンの偽装魔術は潰えた。

 

 ……ルーンストーンも底を尽いた。

 

「──『金庫城のゴーレム』、次弾を装填している模様です……!」

 

 ……考えろ。

 

「(さっきの一斉掃射までに砲身の再構成が間に合っていたのは、全体の六十パーセントほど……)」

 

 ……考えろ。

 

「(現在行われている次弾の再装填は、過半数に及ぶ弾丸の一斉掃射をした直後だ)」

 

 ……考えろ。

 

「(だから……連携が乱れ、小刻みに掃射されていたときよりも、この再装填にはそれなりの時間が必要なはず──)」

 

 ──だったら……!

 

「(……っ!)」

 

 その身ひとつで七体のゴーレムを相手取る、クー・フーリンの背中を見やる。その瞬間──

 

「──マスター(・・・・)!」

 

 まるでこちらの思考を見透かし、後押しするかのように発せられた彼の言葉を合図に。私は──

 

「──うん!」

 

 ──空に向かって、手を伸ばした。

 

「『令呪を以て命じる!』」

 

 ──お願い……!

 

「来て──アルトリア! オベロン!」






お読みいただきありがとうございます。


かつて金庫城が存在したノリッジ全体に鍛冶場の概念が根付いていたばかりにエラいことになりました。
さすがに満身創痍な第一陣。藤丸は奥の手を切ります。

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