※Lostbelt No.6『妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ』の核心的なネタバレのほか、Lostbelt No.7『黄金樹海紀行ナウイ・ミクトラン』〜2部奏章『オーディール・コール』の一部内容に触れています。
※本作は後日、作者本人のpixivアカウントにおいても投稿予定の内容となります。
以上の事柄をどうぞあらかじめご了承ください。
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「──よし、この感触……成功したみたいだ!」
特異点現地の藤丸がアルトリアとオベロンの投入をいつ求めても構わないようにと、コンソールに張り付いてスタンバイしていたダ・ヴィンチから安堵の声が上がる。
「うむ。突如としてその席が用意された、本作戦のビックリ仰天枠──千子村正が送り出せたということは、どうやらそのようだな。フッ……藤丸の奴め、今ごろ鳩が豆鉄砲を喰らったような表情を浮かべているに違いない! つい先ほどの私と同じようにな!」
と、現地の藤丸が愉快なリアクションを炸裂させていることを期待しているらしい。ツッコまれるべき事柄を棚上げにしたゴルドルフ司令官サマがしたり顔で、がっはっはと笑ってみせる。
「……その言い方だと、『サプライズ』というより『ドッキリ』って感じになってないか?」
どうでもいいが、今の彼の言葉は『突然の贈り物で喜ばせる』と言うよりは、『不測の事態で驚かせる』ことを企んでいる立場からのセリフに聞こえたぞ。さてはアレか。毎度メチャクチャな状況に見舞われては、それを現地リポートの形で見舞ってくる藤丸への、気の利いた仕返しか何かのつもりなのか。
「いかにも! 平生はこちら側がひっくり返るような事柄ばかり寄越してくる奴なのだ。たまにはこちらも驚かせる側に回りたくもなるというものだろう! 満を持してのカウンター攻撃というワケだよ君ィ。ハッハッハ!」
元気そうで何よりだ。限界が近いのかもしれない。
「いやいや、攻撃って。あんまり悦に入ってるとしっぺ返しが来るよ、ゴルドルフくん。まだまだ作戦は進行中なんだし。……というか、まるで君が村正を用意したみたいに聞こえるけれど。根回しに奔走してくれたの、カドックだからね?」
と、ここは慣れた口調でダ・ヴィンチがお灸を据えてくれた。僕が云々あたりの発言はまあ、やるべき者がやったに過ぎないことだから、べつにフォローとかそういうのはいいんだが。群れの中では得てして、下っ端の功績というものはトップの手柄になるものなのだ。
「アルトリアと一緒にしばらく姿を見なかったと思えばアレだもんなぁ。その前の不在時だってボーダー中を駆けずり回ってくれたんだろ? それも、コヤンスカヤとの商談まで済ませて来たなんてさ。やるなぁ!」
「まあ、成り行き半分ってところだけどな。正直、上手くいってホッとしたよ」
第二陣のレイシフトが完了したことで、解析シークエンスに束の間の余裕を得たムニエルから激励の言葉が贈られる。さすがにライブ感に身を任せすぎたせいか、その言葉はわりかし心身に沁み入った。
「まったく。そういうコトなら言ってくれたらよかったのに」
ネモ・ベーカリーのもとへ駆け込み、理由も告げずに新作パンを用立ててもらった僕に対して『抜け駆けをしたな』と言わんばかりのジト目を向けたことが後ろめたくなったらしい。キャプテンがややぶっきらぼうにボヤいてみせた。
「ああ、悪かったよ。でもまあ今回は勘弁してくれ。アレに関しては、現地組への通信を介して万が一にも『敵』に情報を漏らしてしまわないよう、隠密にコトを進めるっていう配慮で精一杯だったんだからな」
──先の現地通信から間もなく。直前に合図を送っておいたとおり、僕はアルトリアを連れて、これまた事前に約束を取り付けておいた──『
彼も準備が済んだ頃合いだったようで、アルトリアを含めた改めての顔合わせも早々に済ませ、僕達は蜻蛉返りの格好で管制室にUターンすることになった。出撃依頼の次なる工程……村正を特異点現地へ送り込むにあたって、僕達三人の間に必要な──ある『仕掛け』を構築するために。
「しかしまあ、あのような抜け道をよくぞ思いついたものだ。我々の立場ではどうあっても、それが『可能』であるなどという希望的観測を抱くことは難しかっただろう」
「ああ。改めて考えてみれば、そのわずかな妥当性に気がつく余地もあるとはいえ……私達の身近にそれを叶えうる手札が揃っているなんて認識は希薄だった。まさに『灯台下暗し』といった話だね」
──妖精國出身者が餌食にされる特異点。そして、その餌食となる者達に対象を絞ったかのようなレイシフト敵性者。第二陣がいくら温存された戦力であったとしても、彼らもまたその影響下に身を投じる必要があることに違いはない。
ゆえに──アルトリアとオベロンに加え、妖精國出身者ではなく、なおかつ現地での活動を可能とする『新たな戦力』が望まれたのだ。それこそ、本作戦におけるクー・フーリンのように、魔力吸収現象の影響を受けない、トランプで言うところの『ジョーカー』とでも称するべき存在が。
「アルトリアとオベロンの存在が本特異点攻略には必要な戦力であることに疑いはない。けれど、それでもあと一手が足りないこともまた事実だった。あの二人が必要になるタイミングとはつまり……先のモルガンによる対抗手段では劣勢に置かれているか──それ自体が意味をなさないほどの窮地に陥っていることを意味するんだからね」
欲を言えば、キャプテンのその言葉に『あるいは作戦のフィニッシャーとして喚ばれた可能性もある』と付け加えたいところだが……こと今回の状況を鑑みるならば、その発想はあまりに楽観的であると言わざるを得ない。
「ああ。その可能性が濃厚になるだろうと予測できたからこそ、コヤンスカヤと僕は彼……千子村正を追加戦力として送り込む段取りを立てたんだ。まあ──『ノウム・カルデアの彼』をそのまま送り出すというのは、さすがに無理な相談だったんだが」
ノウム・カルデア契約サーヴァントの千子村正は、『千子村正その人』の霊基で現界している純正存在だ。……まあ、聞くところによると彼は依代を得ている存在らしいので、純正の千子村正とは何だという話にもなるだろうが、そこはそれとしてだ。とにかく、妖精國と縁ある『彼』でもなく、今回のレイシフト適性者に選出されてもいない『ノウム・カルデアの千子村正』をそのまま送り出す、というワケにはいかなかったのだ。が、しかし──
「──条件を満たし得る『仕掛け』を施すことが叶うのならば、その実現を阻んでいる不足点を補えるんじゃないか……という可能性に思い至ったんだ」
要するに──そのままでは送り出すことができないのであれば、
「本特異点へのレイシフト適性者と見做すに足るファクター……このノウム・カルデアに現存するいくつかの該当因子を彼の霊基情報の表層に結びつけ、妖精國に縁のある──『聖剣鍛造の仕上げを担った千子村正』に偽装することができはしないだろうか、とな」
さっきゴルドルフ司令官が『カウンター』と言っていたのも、実のところ割と間違っちゃあいない表現なのだ。まさしくこの仕掛けは、概念偽装のジャブを浴びせまくってきた敵に対する、僕達渾身の『意趣返し』なのだから。……ここまで散々にボコられてきたのだ。こっちからも一発ぐらい、アゴあたりに重いやつを見舞ったってバチは当たるまい。
「──『
ノウム・カルデアにおける切り札にして、それを搭載するストーム・ボーダーの主人であるキャプテン。彼はアポ無しの無茶振りに驚かされたことに対してなのか、ほんのりと抗議の気配を滲ませた声色で先刻のやりとりを振り返る。
……ああ。世界から託されたその力の重みを、自身の誇りと隣り合わせに預かる彼の立場を慮ると──必要な注文であったとはいえ、彼の矜持に踏み込むどころか、跨ぎ越す勢いの失礼を僕はカマしてしまったのかもしれない……と心の中で反省しつつ、合掌と低頭の姿勢でもって詫びを入れる。ともあれ、その成果がひとまず上がったことに免じてくれると助かる。
「うむ。『聖剣のエッセンス』を生成する役を担った集積装置にして、守護者へと昇華した存在であるアルトリア・キャスター。その霊基なればこそ、同じく『聖剣のエッセンス』より編み出された『
ゴルドルフ司令官は改めて状況を整理してみせる。その理解で間違いはない。しかし──事の説明としては足りない要素が、まだひとつあるのだ。
「ああ。だが、たとえ二人をその条件に調整できたとしても……そこまでなんだ。そうして用意できる千子村正は、どうあっても『ノウム・カルデアの彼』の域を出ず、レイシフト適性者たる『妖精國の縁者』としてねじ込むには、決定的な要素が足りない。なぜなら、『聖剣鍛造の仕上げを担った千子村正』は── 『
「なるほど……! カドック、君はそれで──」
──今回の事件が表面化してから今まで、当事者達にまつわる情報は徹底的に掻き乱され、満足な成果をほとんど望めなかった『トリスメギストスⅡ』による回答。しかし、その内のひとつ……それも、極めて早期の段階で開示された回答のなかには、明らかに他の情報と比べて『特異な事柄』が存在していた。
言わずもがな──『僕が本作戦における招集対象者に含まれていた』という点である。
「……不思議だったんだよ。第六異聞帯の縁者でもなければ──というか、それ以前の問題だよな。当時はまだガッツリと昏睡をキメていた有様だった僕が……どうして、今回の招集対象者としてトリスメギストスⅡのご指名を
その『理由』として思い当たる事柄は、正直なところまったく無い、ということもなかった。そのため、コヤンスカヤとの一件のさなか……事件発生前に僕が例の『灰』を目撃していたことが、おそらくそれに該当するんだろうと考えることぐらいはできた。実際、その点も関わっていることもまた、事実に違いないんだろうとは思うが。
しかし──自然と思い至るにはもう充分な時間を経ていたのか……あるいは、コヤンスカヤが相手であったことがそれを連想させたのか。彼女と言葉を交わしていくにしたがって、僕はより根本的な『理由』の存在を捉え始めた。
── 『
──その聖剣のエッセンスの集積装置として在った、アルトリア・キャスター。
──妖精國に縁がある者以外という条件で望まれる、新たなレイシフト適性者。
──レイシフト適性の当該要素を有していない、ノウム・カルデアの千子村正。
そして……妖精國に縁が無いにも関わらず、今回の作戦の構成員としてトリスメギストスⅡ直々に招集された──僕。
ここまでお膳立てが整っているとくれば、もはや嫌でも思い至るというものだろう。つまり、トリスメギストスⅡは最初期の演算の時点で、この局面におけるカドック・ゼムルプスという存在が──現地へ送るべき『ノウム・カルデアの千子村正』を、『異星の神の使徒・アルターエゴの千子村正』と見做すに足る『因果』を有した……『概念付与の抽出源』になり得るただひとりの人員となることを予測し、後方支援要員の頭数に含めていた、ということだろう。
「……カドックめがトリスメギストスⅡの慧眼に適った理由。それは、要するに──」
ノウム・カルデアに与する現在にあっても断ち切られることはない、この身の根幹に張り巡らされた、その『因果』。
「ああ──僕が『クリプター』だったから、というコトらしい」
お読みいただきありがとうございます。
カドックくんがやってくれました!な回。
ホント、彼が居たから「これいけるじゃん!」と採用を許せた展開なのです。当作の物語設定上で『千子村正』を扱うワケですからね。「よくわかんないけどレイシフトいけました」なんて半端な理由でお出しするワケにはいきません。なので気分的には私も管制室の面々と同じ気持ちで執筆しておりました。
次話に続きます。