望郷漂流客船イナバマル 祝福された後継   作:qlo

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※Lostbelt No.6『妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ』の核心的なネタバレのほか、Lostbelt No.7『黄金樹海紀行ナウイ・ミクトラン』〜2部奏章『オーディール・コール』の一部内容に触れています。

※本作は後日、作者本人のpixivアカウントにおいても投稿予定の内容となります。

以上の事柄をどうぞあらかじめご了承ください。





夢想の城【五】

 

 

 ◆

 

 

 

 今の僕に残された『クリプター』たり得る要素、『大令呪(シリウスライト)』。ノウム・カルデアの連中にとってその存在は、僕の身体から切除することが不可能であったことがむしろ幸いしたというべきか。それはいまだこの身に宿した状態であり──『ノウム・カルデアの千子村正』の霊基、その表層を『アルターエゴの千子村正』へと偽装するために必要な因子……『異星の神との縁』を現在進行形で刻んでいる、ドンピシャのピースとなり得たのだ。

 

 とはいえ、前述のとおり彼らが切除することを不可能と見做した『大令呪(シリウスライト)』だ。今回の『仕掛け』に利用するという方針においても、その事実に変わりはない。ゆえに、千子村正の『レイシフト実行時点』から『特異点突入後の数時間』という限られた時間だけでも有効となるよう、その因果を一時的に関連づける程度のことが関の山だった。が、ことごとく後手に回った末に迎えた現状においては、そこまで漕ぎ着けただけでも僥倖と言えるだろう。

 

 ……まったく。何がどうなったら、こんな巡り合わせになるというのか。この組織に渦巻く縁起の頑強具合にはつくづく頭を痛める。

 

「ふふん。やっぱり、カドックにも私たちの活動記録を共有しておいて正解だったよ。量が量なのと、当事者にしか理解が及ばない内容のものは混乱を招くだろうと端折っていたけれど──そこに至るまで踏み込んで理解を深めてくれていただなんて。嬉しいな!」

 

 と、これまた予想斜め上な所感をダ・ヴィンチが投げかけてきた。

 

 実際、ダ・ヴィンチの言うとおり、僕にもオープンデータを共有するというノウム・カルデアの判断は功を奏する形になったと言えるのだろう。なぜなら──僕の元同僚とでもいうべき『アルターエゴの千子村正』が、アルトリアに代わって『聖剣のエッセンス』鍛造の仕上げを担い、その霊基における現界を全うした……という事実もそのおかげで知り得ており、晴れてそれが、今回の『仕掛け』に思い至ることに繋がったのだ。

 

 ……第六異聞帯における『花の魔術師・マーリン』の影とやらに直々に招かれ、『星の内海』のこれまた影、だかなんだかに訪れたとかいう、魔術協会の連中が卒倒しそうな字面のレポートを確認して軽く気絶した甲斐があったというものだ。

 

「まあ、僕という相手がクリプターという身分でありながら懐に抱き込んだ甲斐があった──ぐらいに思ってもらえたのなら、この件で幾分か家賃が払えた気分だよ」

 

 ノウム・カルデアにおける僕の立ち位置というものは、ひどく歪だ。なにしろ、彼らが現在進行形で相手取っている『異星の神』の勢力に数えられ、ロシア異聞帯で真っ向勝負を張った輩が、こうして居候の格好で所属しているのだから。限りなく黒に近いグレーな立場の人間を、白と見做す懐の広さ……もとい、節操のなさによって存在を許されている有様なのだ。

 

 まあしかし、僕がそうして在ったからこそ現状を導き出せたというのなら、おぼつかないこの立ち位置にもひとつ、地に足を着けられたと考えてもいいのかもしれない──

 

「──おっと、こちらもどうやら完了したようですね。トリスメギストスⅡの演算が急激に活性化したので、『これはアッチも何か上手くいったらしい!』と、報告がてら覗きに来た甲斐がありました。揃いも揃って景気の良いお顔をなさっていますねぇ。重畳(グッド)重畳(グッド)!」

 

 ──などと思考に耽っていた矢先、シオン・エルトナム・ソカリス女史が管制室にふらっと顔を出した。

 

「うむ! 生意気にもそのトリスメギストスⅡ直々の招集という栄誉に与っていたらしい、カドック・ゼムルプスのファインプレーによってな!」

 

 そんな彼女に向き直るなり、ゴルドルフ司令官サマが大仰な台詞とともに嬉々として出迎えた。生意気は余計だろう。

 

「やはりそうでしたか! それはお手柄。我らが後方支援力のタフさを再確認するムーブですねぇ。士気向上待ったなしのグッドニュース、ありがとうございます。……と、今のゴルドルフ氏のお話で、一点だけわからないことが。本作戦において、トリスメギストスⅡは──『カドック氏を直接指名する』なんて回答を出してはいないんですが……何の話です、ソレ?」

 

 ────。

 

 え?

 

「は? いやいやシオン君。現に彼はウチの村正を送り込むための重要ポジションとして見事に役割を果たしたのだぞ。というか、招集のアナウンスにも彼の名は含まれていたではないか。記憶違いでは? さては疲れているのかね?」

 

 だ……だよな。

 

「いやガチですが。確かに招集アナウンスにはきっかり含めました。しかし、トリスメギストスⅡの演算にカドック氏の名前が特筆事項として挙がったのは、つい先ほどの話ですよ。だからこうして、状況確認のために私が顔を出したワケでして」

 

 ──まて。どうなってんだいこりゃ。

 

「……シオン。じゃあつまり、カドックの名前を招集対象に出したのは──」

 

 と、よくわからない笑みを浮かべながら、ダ・ヴィンチが身を乗り出して問いかける。

 

「もちろん、ただシンプルに──『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』なのですが……そこ、何か質問があるカンジ?」

 

 さも当然のコトといった具合で、シオンはそう言い切ってみせた。……顔が熱くなる。これ、火が出ているんじゃないか?

 

「……ヤドカリのように謙虚。つまり君は、ひとりで勝手に──『クリプターである自分が招集対象に選ばれるぐらいなんだから、ノウム・カルデアに利する何らかの打算的な理由があるはずだ』と考え、『そんな結論はトリスメギストスⅡの演算でもなければ出し得ない』……とでも捉えていたんだね」

 

 ──パラシュート、どっかに無いか。今すぐデカめの穴に飛び込みたい。

 

「なんだよもー! 水臭いよーカドック!」

「そうですよー。私たちはもうとっくに、テーブルを囲む仲なんだから!」

 

 と、正午ごろにストーム・ボーダー内の点検を共にしたマリーンが、ベーカリーと一緒に並んでヤジを飛ばしてきた。これに関してはマジで返す言葉もない。

 

 ……って、マリーンはともかく──ベーカリー?

 

「はーい、管制室に掛かりきりで糖分をお求めのみなさんに差し入れですよー! 作戦時にまでご所望の()()()()が押しかけるほどの人気っぷりに気合が入って、ついたくさん焼いちゃった! というわけで。マスターのリクエストから生まれた新作、『大学芋のザクふわロールパン』──どうぞ召し上がれ!」

 

 と、作戦開始から張り詰めっぱなしだった管制室へ、ベーカリーの柔らかな声とともに……焼きたてパンとサツマイモ特有の、ほのかに甘い匂いを漂わせる──例の『新作パン』でいっぱいのバスケットが届けられた。

 

「おお! ちょうどその味と食感が、我が張り詰めたる胃腸に求められていたところなのだ。遠慮なく頂こう!」

「食べ物が入る余裕があるなら大丈夫だろ、おっさん。へへ、ありがとなベーカリー!」

「バカモン! ヒトというものは心身共に参った時にこそ、舌と胃袋を満たすようにできておるのだ。『自分へのご褒美だから』と背徳感を説き伏せ、ケーキ屋巡りへ繰り出すようにな!」

 

 ムニエルの雑なツッコミに対し、どこか身に覚えがあるような語り口でもって打ち返す司令官。なるほど、それでその貫禄が出来上がったのか。じゃなくて。

 

 ベーカリーの気の利いた介入によるおかげで、どうやら独りで早合点していたらしい僕に関する話題がうやむやになってくれて助かった。……いや、名指しのアナウンスで招集されたとあっては、何か求められる役割とか在り方とか、組織にとって何かしらの打算的な理由があるモンだと考えるだろ普通。その実情が、そんな──

 

「──よいしょ。もー、カドックってそういうトコあるよねぇ。立香ちゃんとは違って、デフォルトの姿勢がひねてるっていうか。ま、そんな君だからこそ、こうした類の成果をあげられたんだけどね。改めてありがとう! ん、焼きたておいひい〜!」

 

 と、安心していた矢先に早速、僕の隣に陣取りつつ、ダ・ヴィンチがその件を持ち出してきた。くそっ、これは丸一日イジられるコースに乗り上げてしまったらしい。

 

「そうそう。逆に言えば、トリスメギストスⅡの思惑とかは関係なく、カドックは()()()この『仕掛け』の実現に辿り着いたってコトだろ? それってすげぇよ。マジでよくやってくれたぜ! ベーカリー、おかわり!」

 

 ダ・ヴィンチと並び、僕を挟むようにしてムニエルも歩み寄ってきた。

 

 ──そう言われると確かに、彼の言葉のとおり……よくもまあ早合点の先走りでこんな成果を上げられたものだと、また別の意味で肝が冷えてきた。いまさらながらにゾッとする。……藤丸の『謎のラック』的な何かが、僕の身にも働いたのだろうか。アレって感染るモンだったりするのか。

 

「──ほら、カドックの分」

 

 と、手に取った例のパンを差し出しつつ、キャプテンが真正面から声を掛けてきた。

 

「ここから先、後方支援組の仕事は佳境に入る。今のうちに小休止を取っておこう──ナイスファイトだ。『()()()()()()()()()()()()()()』」

「────」

 

 ──ああ。面と向かってそう言われると、やはり何処かまだ、この組織における自分という存在が、曖昧な立ち位置にあることが拭えていないのだと実感する。『違和感』……いや、『異物感』だろうか。とにかく、そういった感覚がブレーキとなり、わずかに抵抗を覚えてしまう自分が居る。

 

 でも、仕方がないじゃないか。どうあってもそういう風に捉えてしまうのが──僕っていう人間なのだから。

 

 まあ、とりあえずは、だ。

 

「──ああ、頂くよ。『腹が減っては戰ができぬ』だもんな、キャプテン」

 

 差し出されたこの信頼に応えるぐらいのコトなら、こんな僕でも適っていたらしい。

 

「ふふーん!」

「へっへっへ!」

 

 と、両隣に居るふたりが得意げな声を上げつつ……喉にモノを詰めた人間への介抱術もかくやといった勢いで、僕の背中をバシバシと叩き始めた。激励か何かのつもりらしいが、ヒトが今からパンにかぶりつこうってタイミングでそれはやめてもらいたい。これじゃ喉どころか、口にすら詰められないんだが。

 

「──さて。ベーカリーの真心が行き届いたところで、軽くブリーフィングといきましょう!」

 

 そうこうしていると、シオンの掛け声が管制室に響いた。

 

「む、ひと仕事終えて小休止を挟もうという今この瞬間に、まだ何かあるというのかね?」

「アリアリですってば。私はこちらへ『()()()()()覗きに来た』と言ったはずですよ? ……まあぶっちゃけ、現時点では対処のしようがない事柄なので、みなさんはそのままザクふわ食感をご堪能ください。その代わり、耳だけは貸してくださいね。おそらく、そろそろなので」

 

 シオンはそう前置きしつつ、今この場で報告するべき内容の開示を段取った。すると、

 

「はい報告〜。例の『灰』の解析結果が出ました〜。おそらくトリスメギストスⅡの演算が急激に活性化したのは、千子村正氏の投入に加え、こちらの進捗が佳境にあったことも関係しているものと思われますハイ私からは以上続きをどうぞ糖分、糖分をください」

 

 僕が預けた『灰』の解析に当たっていたネモ・プロフェッサーが、パンに向かって一直線に駆け寄りつつ報告を済ませた。どうやらシオンは、彼女の解析が完了するタイミングを予測し、それに合わせてここを訪ねてきたらしい。ホント息ピッタリだな。

 

「プロフェッサー、ご苦労さまでした! と、いうワケでして。例の『灰』の解析が進むにつれ、ある事柄に関するトリスメギストスⅡの演算もまた佳境に至りました。今回はその報告となります。例に漏れず『回答の保留状態』を強引に解きほぐす形のアプローチであることに加え、張り切るあまりビミョーに未来予測の域に達しちゃったので……その結果への対応方針がズレてしまわないよう、この場では概略だけの共有とします。端的に言いますと──」

 

 どう考えても『耳を貸す』だけじゃ受け取る姿勢としては不十分だろう、とツッコミを入れたくなるような重要感満載なワードの羅列。『ちょっと待てよ』と言わんばかりに……この場にいる誰もが彼女に視線を向け、咀嚼を止め、パンでいっぱいの頬を膨らませながら、続く言葉に耳を澄ませ──

 

「──『犯人の真名(・・・・・)』が判明しました。やったね!」

 

 ──口に含んだパンを決して噴き出すまいと必死に呑み込む。各々が目を見開き盛大にむせ返る姿はちょうど、鳩が豆鉄砲を喰らったかのような有様であった。

 

 

 






お読みいただきありがとうございます。

カドックくん、君ってやつはまったくも〜! な回。
ボーダー組の描写は未来予測の内容に影響しちゃうとアレなので、ひとまずこの辺で置いといて。私もシオンさんの方針に則り、次回からは特異点現地に視点を移しますね。

さて、おそらく本投稿が年内最後の更新となります。なんとなくキリも良い感じでしょうか。ときにBOXは順調ですか? 私は今回スロースタートです。まだ一個もりんごかじってない。

当作を見つけてくださった皆さま、ご感想を書き込んでくださった方々、誤字報告でお助けいただいた方々(ホント助かっております)、誠にありがとうございました。

来年も引き続き、お付き合いいただけますと幸いです。
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