※Lostbelt No.6『妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ』の核心的なネタバレのほか、Lostbelt No.7『黄金樹海紀行ナウイ・ミクトラン』〜2部奏章『オーディール・コール』の一部内容に触れています。
※本作は後日、作者本人のpixivアカウントにおいても投稿予定の内容となります。
以上の事柄をどうぞあらかじめご了承ください。
城下の星【一】
◆◇
「お──おじいちゃん……!」
想定外のゲストの登場に心底驚きつつも、それと同じぐらいの安堵感を滲ませた声を漏らす──立香の様子が目に映る。へへ、ビックリさせちゃった。
でも、こればかりは許してほしい。先に私達を到着させ、令呪に引っ張られた私自身をアンカーにしてのレイシフト……っていう手筈だったから、彼の到着に多少のタイムラグが生じるのは仕方のないことだったんだ。
とは言っても、半分くらい『賭け』みたいなところのある作戦だったものだから、かくいう私も私で、ちゃんと成功するか心配になって……到着早々、つい周囲をキョロキョロと見回しちゃったワケなのだ。あーよかったぁ。
「……こいつはまた意外な顔が出てきたな。お前さんが管制室に居た覚えはねぇが」
私とオベロンより先に突入したクー・フーリンも、立香ほどではないにしてもそれなりに意外そうな顔をしている。ただ、予想外の事態だ、という感じの様子は見せなかった。……もしかしたら、『理屈の上ではできないこともない』程度には、彼の中でもこの作戦は選択肢として頭にあったのかもしれない。
「おう。
「えっ。まさか、カドックさんが……?」
村正さんの応答を聞き、マシュが遠巻きに面食らう。彼の到着自体に驚いていたぶん、事の仲介者として挙がったその人物の名前にまで思考を割くだけのキャパが足りていない様子だ。
「何だったか、確か──そこに居るちんちくり……杖の嬢ちゃんと自分の縁を
モルガンの看護に集中していたけれど、せっかく名指しで呼ばれたのでマシュに向けて『そうだよー』と手を振っておいた。……ん? いや、呼ばれてないじゃん名前! 今ちんちくりんって言いかけたなァ!
「カドック、そんな営業スキルまであったんだ……! やるぅ……」
「普段は一歩引かれるお方ですが、もともとよく気がつくお人柄ですからね。今回も見事に助けていただいたようです!」
うん。濁り……いや、アレは隠れ蓑かな。どこか自分の気持ちを霞ませるような癖を有していたけれど、その奥には澄んだ
「よっこいせ、と」
「あん?」
とかなんとかしていると、いつのまにか村正サンがクー・フーリンのもとへ歩み寄っていた。そこは手筈どおりに覚えてくれていたんだね。ついさっきは私に失言カマしかけたくせに、あんにゃろう。この場で霊基再臨してとっちめてやろうか。
「オイ、バテてんなよ青いの。儂らでしばらくひと仕事だ」
羽織を片手に、もう片方の手には新たに造り出された刀剣を握り込み、再構成が完了しつつある七体の『金庫城のゴーレム』とかいう敵性存在を睨みつつ、クー・フーリンに作戦方針を進言している。ていうか──不意打ちそのものの格好となったあの斬撃ですらも、彼らを無力化するには決め手に欠けるんだ……。
「チッ……なるほどな」
と、どこか気に入らないといった態度を見せつつも、クー・フーリンはその申し出を了承した。まあ、彼のことだからそれも仕方のないリアクションか。あの様子じゃたぶん、増援がなくてもこのままひとりで
──クー・フーリンとオベロン、そして私を含めた第二陣は元々、
ただし、クー・フーリンが特異点現地へ先行したために、三人一緒に乗り込むという大前提は早々に変更されることとなった。それは同時に、『第二陣の投入直後に採るべき行動』において、クー・フーリンひとりに強いられる負担が、単純計算でサーヴァントもうひとり分増加することを意味していた。
ゆえに、クー・フーリンの意地に乗っかる形で、彼には『めちゃくちゃ頑張ってもらう』しかないと思っていたんだけれど……本作戦における『異邦の魔術師』とでも呼ぶべき存在である、あの青年がファインプレーを決めてくれたおかげで──当初このタイミングで彼が担うはずだった役割を引き継ぐ形で、村正さんという追加戦力を動員することが叶ったのだ。幸いにも現状は、当初の予定以上のコンディションで迎えることができたと言えるだろう。
──さてと……私も急がなきゃ。
「……これは驚いた。まさか貴方までもが介入してくるとは──いや、『別人』なのか? ふむ……なるほど。境界記録帯とはどこまでも──」
目を瞑り、全神経を集中していても判る──いや。だからこそ、なのかな。彼らの敵性反応を示す喧騒が、より一層濁りゆくのが感じられる。ただしその濁りは、紅茶とミルクが完全に混ざり合うようなものではなく──個々がそれぞれに粒立った、膨大な数の固有色が密集した総体から成るものだ。
「──度し難き代物でありますな」
再構成が完了したらしく、『金庫城のゴーレム』達からはその全身に高密度の魔力を纏いゆく気配が滲み出ている。纏われた魔力の個体数は……あ、もう数えるのやめよ。今の私が知ったところで、それを想定した身の振りかたをするのはムリだ。だってアレぜんぶカッ飛んでくるんでしょ? 馬鹿じゃないの?
「まァた厚く膨れ上がりやがった! 大名の姫サマもそこまで重ねて着やしねェぞ!」
「お姫サマの着替え事情に詳しいたぁ、生前は相当お愉しみだったみてぇだな!」
攻撃態勢を採った敵影に向かい、私語をバリバリに交えつつ迎撃に出る二人。うるさいなぁもう。ただでさえこの特異点、背中がぞわぞわするような声が轟々と木霊しているんだから。お愉しみの件については是非とも聞きたいところだけれど、もうちょっとクールにさぁ。
「テメェに言われたかねえよ! さっきは眼鏡の嬢ちゃんを口説こうとしたそうじゃねえか!」
「オイ誰だ! ジジィに余計なコト教えやがった奴は!」
あっ。ごめんなさい。それ私です。
「誰がジジィだこの助平が! 表に出やがれってんだ!」
「その表に出るためのドンパチを今やってんだろうが!」
もうめちゃくちゃだよ。大丈夫かなアレ。
「失礼。少々お静かに願えますかな?」
「あ? うおぉ馬鹿野郎! 数撃ちゃ
「馬鹿はお前だ! 状況が分かったなら黙ってちゃっちゃと捌きやがれ!」
そんな中、当然のことながら、よくわからない方向にヒートアップした二人を目がけて宝物群の弾丸が掃射され始めてしまった。敵対者に向ける言葉としては『アンタの攻撃もうるさいよ!』と突っぱねてやりたいところだけれど、この場における船主さんに対する言葉としてはむしろ、『ウチの人達がごめんなさい』と謝らなくちゃいけない感があるのはどういうわけか。
「……いろいろと……すごいですね……」
「ニ人には偽装魔術の必要が無いとはいえ、あの賢人も先の戦闘で相応の消耗を経ているはずだが……」
「うん。村正に合わせて、段々元気になってる感じだね。いいなぁ」
「ランナーズハイってやつ? 意地の張り合いが止まらないんだわ……」
安全圏を維持しているマシュと妖精騎士三人がメンズのしょーもないケンカを見守りつつ、口々に感想をこぼすのが聞こえてくる。疲れているところごめんねホント。
「ちょっとー! 相手が誰だか忘れないでねー!」
と、小競り合いを始めている二人に向けて立香がお灸を据えてくれた。この手のゴタつきには慣れっこ、といった具合である。
うん。二人が当初の予定どおり、時間を作ってくれている間に──私も今は、向き合うべき相手に集中しなきゃ。
「……起きてる? モルガン」
──視れば判るコトを、私はあえて口にする。彼女の彩に変化はない。依然として昏睡状態にあるのは明白だ。ゆえに、返答には期待しない……でも。
「……任せて。貴女がみんなのために用意してくれた『
この期に及んでまた、こんな巡り合わせに身を置いたというのなら。これらの言葉は、やっぱり──貴女に伝えるべきなんだ。
「……
今度こそ──貴女に。
「貴女を犠牲になんてさせない。私も犠牲になんてならない」
言葉を紡ぎ出すごとに、モルガンを抱くこの手につい力が篭る。同時に──『私』の霊基に贈られた、かつての記憶が呼び起こされてゆく。
『……モルガン。最後まで、ひとりだった……』
──脳裏によぎったのは、嵐の前の静寂。無音のままに訴えかける、救世の結末を示す色彩。
雨のように、雪のように。罪都の戦火に降りしきる、彩度を喪くした灰の声。阻まれることも、払われることもなく。思うがままに舞いながら、空を支配するそのさまは──決して余人が触れ得ない、彼女の孤独を表していた。
……でも。
「──もう、ひとりじゃない。だから、ひとりで潰れることもない。……おつかれさま、モルガン。貴女はここで休んでいてね」
──貴女をひとりにする結末なんて、もう二度と許してやるもんか──!
「──妖精炉、接続」
……熱が駆ける。
「回線、使用魔力を──『モルガン女王陛下』から『アヴァロン・ル・フェ』に」
……全身が軋む。
「『魔力提供・偽装術式』を──『着名術式』に換奏」
……全霊を懸ける。
「──対終末・対粛正防御、始め」
……霊基階梯、強制再臨。
「──集え、円卓の守護者たち──」
──宝具、展開──!
「──『
……世界が切り替わる。いえ、これはむしろ──私という存在がひとつの、極小の世界……『
ただしその要因は、己が霊基の再臨による影響に由来するものではなく。魔力の容量、経路、流動。そのすべてが、私ひとりの存在で完結するものではなくなったことに起因する。それは同時に、モルガンが先刻まで敷いていた法律……『魔力提供・偽装術式』の
「これは──偽装魔術に加えて……!」
「ああ、楽園の加護だな!」
「やった! これでまた動けるんだわ〜!」
「アルトリアさん……!」
ああ。やはり……こういうカラクリだったのですね。そうであれば、なおさら──私が引き継ぐ以外に、私が納得できる路は無かったでしょう。
──妖精騎士ガウェイン。
──妖精騎士ランスロット。
──妖精騎士ハベトロット。
──妖精騎士ギャラハッド。
ええ。十二基には及ばずとも……此処には聖槍にも優る輝きを秘めた、貴女が見た夢の軌跡──人理に瞬く星が在る。
「……さあ。モルガン女王陛下が腹心、妖精騎士たちよ──」
城下の星々に掌をかざし、敬意を以て命を
「──冷厳なる勝利を刻め!」
出力を抑えての敗北など、私達が認めません。
◆◆
「感謝する、予言の子!」
「もう立派な王様だな!」
「よぉ〜し、いくぜ〜!」
「行ってきます! マスター!」
安全圏を自ら脱し、我こそ先にと戦火へ飛び込む妖精騎士の面々を見やる。これより先は総力戦。術式移換に要する時間稼ぎを任されていたクー・フーリンと村正に合流したことで──『スプリガン』および『金庫城のゴーレム』の制圧……すなわち、本格的な城攻めが開始した。
「──……」
と──喧騒が増すばかりの最前線に視線を向けた、その最中。駆け出していく妖精騎士の面々を眺めつつ佇んでいる、オベロンの姿が目に入る。
……まったく。なにが『いいかいアルトリア、
「──はっ。えっ。アルトリア、まさかモルガンの術式を?」
突然の霊基再臨に術式移換と、真横でいろいろなことが目まぐるしく発生していたために、今の今までポカーンとしていたらしい。ひとまずの疑問点を捻り出しつつ、マスターが問いかけてきた。
「ええ。なので妖精騎士たちのことはご安心を。ここからは私がきっかりと、この特異点における彼女たちの存在を保証しましょう」
「よ、よかったぁ……ありがとう……! でも、なんでそんなことが……?」
おそらくマスターは、私がモルガンの術式を引き継ぐことが適った理由を問うているのでしょう。ということは……さてはモルガン、マスターが察するに足るほどの詳細な告解は、まだ済んではいなかったようですね。
「それについては単純なお話。モルガンが自身に施した魔術……その原型が、かつての彼女が妖精國に用意した──『決戦術式』に由来するものだったから、ですよ」
「──え。じゃあ、あの魔力提供の仕組みって、もしかして……!」
──妖精國ブリテンに刻まれた歴史、女王暦。その王政を執っていたモルガンは、罪都キャメロット城下に空いた大穴に眠る最大級の脅威……『祭神ケルヌンノス』の復活を予期し、在位期間の二千年余りに亘り、数多くの準備を重ねていた。
復活した祭神を迎撃するべく、大穴を取り囲むように建造された罪都の城壁。その砲門には、十二基の聖槍──『ロンゴミニアド』を。
十二基の聖槍を発動・制御するべく、魔術礼装として機能するように設計されたキャメロット。その心臓部には──『モルガンの玉座』を。
そして……その心臓部に蓄えるべき魔力リソースの徴収源として、妖精國ブリテン全土に敷かれた法律。すなわち──
「ええ──これは『
──当時のそれは、妖精國ブリテンを守るために。『己自身と、己が世界』以外のすべてを奪い、代償に捧げるという、冬の女王の諦観に根差した法律だった。しかし、今回の彼女が行なったことは、当時のそれとは正反対に位置するものだ。
なぜなら。己以外の世界から奪い取り、己が世界の礎とするのではなく……己自身が礎となり、己が世界に分け与えるという──現在のモルガンが『己が世界』そのものと見做すに足る存在を守り、証明するために敷かれた、最新の法律なのだから。
「……そっか。そういうことだったんだね、モルガン──」
マスターはそう溢し、唇を強く噛み締め──仄かに目を赤らめながら、私のもとで力なく横たわるモルガンを見つめる。
……まったく。彼女にこんな顔をさせた罪は重いですよ、モルガン。やれやれ、仕方ありません。この場はひとまず、私がマスターの気持ちを晴らしておくとしましょう。『それはむしろ役得だろう』と詰められては否定する言葉がありませんが──貸しひとつ、ですからね。
「ま、ともあれご安心を。かつての妖精國において、聖槍を聖剣に換奏するという大仕事を一度は為してみせた私です。二度目も成功してみせるのは当然、もはや道理と言っていいでしょう。それも──モルガンが同術式の原型から応用を叶えたものであるとくれば、尚更というものです」
と、仕切り直すためにつらつらと述べ立てた手前、己が負けず嫌い加減に少し呆れてしまった。結局のところ──私はこの期に及んでも、モルガンがまたしても実現してみせたその偉業に、心の何処かで張り合いたいという意地があったらしい。
「……うん。まあ私としては、それもそれでまた……なハナシなんだけどね、も〜。って、あ……そういえば。偽装魔術が完成してすぐ、モルガンもアルトリアと似たようなことを言ってた気がする。たしか、『聖槍を聖剣に換奏する手間に比べれば易いものです』とか何とか……」
「は、へ?」
いろいろと想定外の内容を擁したマスターの告白に面喰らい、己が腕のなかに眠るモルガンの寝顔に視線を落とす。……なんだ、ふふ。貴女のほうこそ、もとよりその気があったのですか。であればなおのこと、私も負けてはいられませんね。
「ああ、そうでしたか。これはどうやら、同じ穴のムジナと言われても文句は言えないようです。ソレ、教えてくれてありがとうございます。私達にとっては、たいへん重大なお話でしたので」
「えっ。う、うん。なんかわかんないけど、どういたしまして。……こっちこそありがとう、アルトリア。おかげでしゃっきりした!」
あ。元気づける魂胆、どうやらお見通しだったみたい。むむ。これじゃあ貸しとは言えないかもですね。と……それはそれとして。
「(…………)」
いまだに予断を許さない具合ではありますが、モルガンの容態は安定しているようですね。決戦術式を展開した際、私自身のアレンジ版ではあるものの──モルガン自身に施されていた『対抗魔術』と、この場を守る『遮蔽魔術』の再現も済んでいます。この分なら、結界内に居る限りはより回復が進むことでしょう。
──ええ。手負いの相手にムキになるのもどうかとは思いますが、売られた喧嘩は買いましょうとも。どうぞそのまますーすーと、優雅に仮眠を取っていてください。私達がきっかり、貴女が残した仕事を完遂しておきますので。
またしても丸投げを喰らった格好ですが、先の奮闘に免じて、そこは善しとしましょう。……ああ、しかし。そのあとは容赦なく叩き起こすので悪しからず。『あと五分』とかゴネようものならぶっ飛ばしますよ。だって──
「──さあ、反撃開始です。マスター!」
「うん!」
……迷子であれば、なおのこと。あの
お読みいただきありがとうございます。
新年一本目の投稿となりました。あけましておめでとうございます。
メンズとアルキャスがそれぞれ意地を見せる回。
だいぶ賑やかになってきました。
今回は普段よりやや長めですね。あまり文字数上限を厳密に考えてはいませんが、一本平均5000文字ぐらい、一章平均2、30000文字ぐらいになるボリュームが個人的に快いので、7000文字はまあまあ許容範囲という感じです。
今回アルキャス視点で執筆して改めて認識できたのは、「アルキャスの言動って、自分が思っている数倍はキラキラしてるんだな……」ということです。
仰々しくはなく、目が眩むほどでもなく。ただそこでしゃらんと光る、恥ずかしがり屋なお星さま。そんな感じ。
期せずしてまたひとつ、彼女の魅力に触れられた気がします。
引き続き、お付き合いいただけますと幸いです。