※Lostbelt No.6『妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ』の核心的なネタバレのほか、Lostbelt No.7『黄金樹海紀行ナウイ・ミクトラン』〜2部奏章『オーディール・コール』の一部内容に触れています。
※本作は後日、作者本人のpixivアカウントにおいても投稿予定の内容となります。
以上の事柄をどうぞあらかじめご了承ください。
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虚飾の城下を、光が
地上を離れ、まるで天高く舞い上がるかのように。
とはいえ実際は、はるか天井を穿つほど、という高さでもない。そもそも、上に向かったわけでもない。
まっすぐに、まっすぐに。向かうべき場所へ、一度も振り返ることはなく。ただ己が定めるほうへと、突き動かされるように、導かれるように、一目散に駆けてゆく。
なのに、目の前……つまるところ、水平方向に進軍しているにすぎないそのさまが、どうしてか──翼をひろげて空を往く、渡り鳥の飛翔を思わせた。
──なーんてね。何のことはない。要するに僕は、少し拗ねている。
いやあ、飾り物の羽を持つ者にとっては羨ましい限りだ。そんな奴の目の前で、羽も持たない連中にああもビュンビュン飛んで行かれたら、地上に取り残された止まり木のような気分にもなるというものさ。ま、誰も僕のもとで羽根を休めていたワケじゃないんだけど。
彼女達があんなに動けてるってコトはどうやら、アルトリアは……また、やってくれちゃったみたいだな。やれやれ。二度もあんな仕事を引き受けるなんて、どうかしてる。『バカなコトを考えるなよ』と釘を刺したつもりだったのに、どう捻じ曲がってしまったのか。それどころかむしろ、発破をかける結果になったらしい。
「中継ぎに感謝する! 賢人、千子村正!」
「試し斬りはもう充分だろう? 僕らにも譲ってもらうよ!」
「それはいいけどさ、連携もな! このゴーレム、一体を相手するだけでもキツいんだわ!」
「バックアップはお任せを! 遠慮なく仕掛けてください!」
うわぁ、みんな張り切ってるなぁ。連戦明けだっていうのに、ちょっと働きすぎじゃない? それとも──『出費のすべてに経費が下りるから、底をつかせる勢いで
……アレ? おかしいなぁアルトリア。そのお小遣い、こっちの懐にはまだビタイチたりとも入ってこないんだけど。もしかしてキミ、僕のコトすっかり忘れてない? 魔猪ってない?
「──さあ、反撃開始ですよ。マスター!」
「うん!」
おっと。今のアイツにそんな口を利いちゃ、冗談じゃ済まないんだった。あやうく本当に空の彼方へ飛ばされかねない。くわばらくわばら。
「……いい仕上がりだ」
妖精騎士の面々が前線に派遣されたことで、周囲に目を遣る余裕が生まれたらしい。アルトリアに視線を向けながら、クー・フーリンが呟いた。
「あァ。よっぽど佳い鋼で鍛えられたんだろうぜ。とは言え──」
村正もそれに続き、お得意の審美眼でもって彼女を見やる……『
当事者以外がそれを口にしたのなら、ここで退場してもらうところだけれど──ギリギリ、彼にはそれを言う資格があるのかな。かつての『村正』が混ざりものの別人だったとはいえ、『彼』が千子村正であったという巡り合わせが、あのお転婆娘を導いたワケだし。その眼に抱いた感想なら、ここは大目に見てあげるとも。
ま、そのおかげで僕はメッタクソにやられる羽目になったワケなんだけど。それについての抗議はもう、この場に居る村正にぶつけたって仕方のない話だ。
……まったく、これも何かの因果かな。一度のみならず、またしても──アルトリアをあの姿に仕上げる手助けを、君が担うことになるとはね。
「──此処にゃあそれが、ひとつも面白くなさそうなのが居るがな」
星を眺める魔術師の目は、業を
「……これはしてやられましたな。増援に参じる者が貴方であることは確信しておりましたが──モルガン陛下御自ら編み出された、渾身の術式を移換する用意までお有りだったとは。これは少々、手間が増えてしまったようだ」
アルトリアを見据えつつ、『それ』がうだうだと吐き捨てる……あー、いやだいやだ。何が悲しくて、僕はあんなのをしげしげと観察しなくちゃいけないのか。こんなことなら、借金の返済を迫られる気持ちのほうが幾分かマシというものだ。
「しかしながら……あいにくと現状は依然、『振り出しに戻った』と言うには程遠い。とはいえ、現に復活を叶えた皆様におかれましては、そう悲観されることはございません。どうぞお気の済むまで──懸命に足掻くがよろしい」
『金庫城のゴーレム』に宝物群の弾丸を装填し、迎撃態勢が整えられる。大盤振る舞い……いや、無駄遣いだなこれは。成金趣味にも程がある。だってソレ、ぜんぶブッ放すんだろう? 馬鹿じゃないの?
「──例の弾丸か。同じ芸当を繰り返すばかりでは、早々に身を滅ぼすことになるぞ。木偶人形ども!」
「速度が伴わない掃射じゃあ、せっかくの弾数もお飾りにしかならないな──そら、次!」
ようし。どうかその調子で遠慮なく、けたたましいドンパチを繰り広げてくれたまえ。できることなら、その奥に居る『それ』の声が掻き消えるぐらいの騒音が望ましい。頭を集中させるには、ある程度騒がしい環境に身を置いたほうが良い、という場合があるらしいからね。たとえばほら、とっ散らかったダイニングとかさ。
……さてと。それじゃあ僕も、この喧騒の恩恵に与るとして──舞台のチェックを始めよう。
「スゲー! 糸の伸びがいつも以上に調子良いんだわ! ひゅう〜!」
うーん……そうだな。何よりもまず、この空間の有り様から見ていこうか。こういうのはいきなりゴールは目指さずに、目の届く範囲から、ね。
「はい! しかし──ハベトロットさんの糸捌きはいつだって絶好調であると、ッ! 私がここにっ! 証言します! はぁぁああーっ!」
……『金庫城の幽閉結界』に『金庫城のゴーレム』、オマケに『宝物群の弾丸』とかいう──ええと。整理にするにはちょっと数が多いなコレ。適当に総称しよう。金庫城……成金趣味……魔術礼装……あー……『成金礼装』あたりでいいか。
「えへへー、ってだから照れるって! そーいうのはお茶シバくときの話題に取っておいてほし──ぐわー!」
「おっと──って、ハベトロットのほうがシバかれてるじゃないか! フード掴むよ! 首を守って!」
「は、ハベトロットさん! 大丈夫ですか! メリュジーヌさんめがけて、もの凄いきりもみ回転を……!」
……『成金礼装』を増強する要素として抽出された、『鍛冶場町・ノリッジ』の概念。
「ぐえぇ……ありがとうメリュジーヌ……いってー、何だ今の! 大砲? 大砲だったぞアレ! 当たってないのに、風圧だけで飛ばされた〜!」
「なにっ! 大砲だと? くっ、景気よく放った爆炎で視界が……念のために訊きますが、そう体感したというだけではなく、事実なのですね、ハベトロット!」
……それらを統べる役として、『聖杯による存在証明』を好き放題に操る──『船主の男』。
「マジなんだわ! って。さては今のセリフ、ボクの背丈では『普通の弾を大きく感じても無理はないから一応確認』的な意味か! こらー!」
「ご、誤解だ! 甲板での一件と同じく、そもそも私には、己より小さなプロポーションを持つ者が平生捉えている『普通のサイズ感』というものがだな……!」
「バーゲスト。弁解になってないからそれ。むしろ余計に敵が増えてるから」
……前言撤回。あのやっぱり、もう少しだけ静かにできない? 効果音は有難いけれど、コメンタリーまでは望んじゃいないんだ。
「敵が増え……? まさか増援か! 貴様、それを早く言えというのだ!」
「いや、今のメリュジーヌの言葉ってそういう意味じゃないと思うんだわ……」
「──いいえ、だいたい合っていたようです、ハベトロットさん! みなさんも、すぐに構えてください! この場に残っていた『漂流物の使い魔』とともに、大砲級の弾丸の一斉掃射が、まもなく……!」
……ああ、そうそう。『漂流物の使い魔』だ。そういえば、ソレも此処に居た──
──いや、待てよ。成金礼装以外でこの結界内に居るのは『漂流物そのもの』ではなく……その『使い魔』
「ということは──あの弾丸すらも変形、ないしは合体が可能な対象だというわけか!」
「それだけじゃない。質量が増えたというのに、速度まで上がっているようだった。これってつまり、空気抵抗も慣性も無視できる掃射性能ってコトだよ。あ……もしかしてアレ、僕らが『同じ芸当』や『速度が伴わない』なんて煽ったせいだったり?」
……その理由が何なのかを考えよう。まあ──『漂流物の使い魔』たちは戦力のひとつとして前線に導入したい反面、故郷に還すべき『漂流物の品々』自体の損耗は恐れているため、その心配がない結界の外へと逃している……あたりの事情が、妥当な線になるだろう。
「だから言ったじゃんよー! 敵も攻撃手段に趣向を凝らしてきたんだわ!」
「風圧だけであの威力──まともに当たれば、負傷は免れたとしても、結界の端まで飛ばされてしまいます。この前線が維持できなくては、後手に回る事態は免れません! 受けるのではなく、確実に躱さなくては……!」
……そして。先刻まで散々リマインドされていた、こいつらの目的──『漂流物を元の世界に還す』という内容が、嘘偽りのない、
「皆様、どうやらお忘れのようですが……『鉄』とは本来、妖精が苦手とする代物だ。その概念を聖杯により増強、大質量化したうえで、さらに高密度の魔力を纏わせたのが──この大砲にございます」
こいつらは本当に、今ここで──決着を迎えるつもりらしい。
「並の妖精ならばもはや、触れるだけでも消滅しましょう。そして──妖精騎士たる皆様もまた、『妖精』の名を冠する存在であることに違いはない」
……正直なところ。それだけのコトなら、どっちが滅びようとも、僕にとってはどうでもいい話だ。この特異点で彼女たちが滅びようとも、こいつらの復讐が叶えられようとも、それは『現在の彼女たち』の話にすぎないんだから。
「──我が大砲陣による一斉掃射は、『妖精に防ぎ得ぬ概念』の弾幕にほかならず。いかに皆様がたといえども、この戦局を凌ぎ切ることが適いますかな?」
だからこそ僕は今回、あわよくばお留守番を決め込むつもりでいたんだ。だというのに……『そういうワケにはいかない』と改心させられるほどに、心底ご勘弁願いたい『懸念点』という名の悪趣味な脅迫文が、荷物に紛れて寄越されてしまった。だからこうして、一銭にもなりはしない小間使いに身を置く羽目になって──
「この期に及んで減らず口を……!」
──ああ……なるほどね。どうりでこいつらは、『妖精國の残滓を始末しろ』なんていう、
……は。あっははは! そうか。それで今のうちに『
「相殺──は狙うべきじゃなさそうだ」
「必死で避けるしかないんだわー!」
「一斉掃射、来ます……!」
──大ッキライだな。あの
「いいえ。ご安心を、皆さん」
「!」
──轟々と響き渡る、着弾の炸裂音。その過激さは、先ほどまでのそれとは比べ物にならない。地面を抉るばかりか、まるでページを捲り上げるかのように、足場という足場を浮き立たせ、四方八方に掻き混ぜていた。
……ただし。
「──なに……?」
それはあくまでも、足場だけに限っての話だ。
「──貴方もひとつ、根本的なことをお忘れのようですね。もしくは、ご存知ではありませんでしたか? そうであれば、これより先は認識を改めていただきましょう」
立ちこめる硝煙の、はるか後方。自らが送り出した同胞の傍らにすら位置取ってはいない、城下に瞬く極光が──『それ』を見据えて語りかける。
「先ほど貴方は、金庫城の大砲を『防ぎ得ぬ概念』であると言いました。それはすなわち、その攻撃によって引き起こされる事象が──『粛正』の域に至るものであることを意味します」
……あ。まずいなこれ。ここにきて早速、アイツの悪い癖が出てきたぞ。
「──確かにその砲撃は、並の妖精には逃れ得ぬ暴力、防ぎ得ぬ毒となるでしょう。しかし、現在の彼女たちには、我が宝具の加護──『対粛正防御』が施されている。ゆえに……生憎ながらこのように、完全に無効化させていただきました。これより先はゆめゆめ、彼女たちに危害を加えられるなどと思われませんよう」
見せ場をもらえてテンション上がっちゃうのはいいけどさぁ──負けず嫌いにも程がない?
「この魔力……アルトリアさんの……!」
「ああ。まさか、僕ら全員を遠隔から守り切ってしまうとはね」
「マシュの守りで大幅な威力低減は適っていましたが……一歩も退かずに凌げる攻撃である、などと楽観してはいませんでした。それが、このような──」
素直だなあ、彼女たち。そんなに褒めたらアイツ、ますますつけあがっちゃうじゃないか。
「風圧は喰らって飛ばされちゃったけどなー! ダメージじゃなく、実質ただの配置替えみたいなモンだからノーカンだったのか? でも今の直撃分は助かったんだわ!」
「む。そこは面目ありません。この先は対象範囲を拡大し、そよ風すらも凌いで見せましょう」
ほーら、ムキになっちゃった。こうなるとアイツの意地、テコでも動かないよ。
「──とはいえ、ジリ貧だなコイツは。攻撃を通さない城に、攻撃を受けても修復しやがる城。それもお互い、喰らえばひとたまりもねえ攻撃手段を持った兵力のぶつかり合いときた」
「あァ、矛盾なんてモンじゃねえ。両者が最強の矛と盾を引っ提げちまえば、台無しも台無しだ。まるで話にならねえぞ」
と、戦況を見守る二人組がボヤいてみせる。ああ、まったくもって仰るとおりだ。これじゃあ、いつまで経っても埒が明かない。
「──はっ。こいつは傑作だ」
「……何がだよ?」
「いや、なに。ずいぶん前にも似たような問答を、お前さんに似た誰かともした覚えがあってな」
「──何を言い出すかと思えば、くだらねぇ……こんなモン誰が喋ったって、喩えに出す話なんざ限られらァ」
……やっぱり、妖精國でもそうだったけど──ずいぶん仲が良いよね、君たち。腐れ縁ってやつ? サーヴァント同士だっていうのに、つくづく不思議な話だ。
「ま、それもそうか。ってなりゃあ、今回だって変わりはねぇ。台無しだろうが何だろうが──『智慧で補うのが人間』ってこった!」
「違いねェ。ま、こちとら妖精サンも仲良く混じっちゃいるが──大して変わりは有るめえよ!」
膠着状態に痺れを切らし、前線に合流するつもりでいるらしい。互いに得物を構えつつ、仲良し二人組もまた、介入の機を狙い始めた。
──けどね、村正。
「──楽園の妖精……聖剣の管理者め。原初からそれが造られてさえいれば、妖精國の滅びなど無用な歴史を刻まずとも済んだものを」
先の完封を喫したことが、よほど不服だったのか。金庫城の砲台に惜しげもない魔力を纏い直しながら、『それ』は呟く。
「……ああ。そのような結末以前に、もとより──
────。
「あ~ホント五月蝿いなぁ!」
あれ、誰だい? そんな汚い言葉を放つのは。甚だ同意を認めるけれど、もう少しキレイな言葉を使うべきだと思うなあ。
「聞くに耐えない。頭が割れそうだ」
「──オ、オベロン?」
ん、マスター。どうして僕の名前を呼ぶんだい?
……あ。いけない。どうやら先の暴言は、僕が放ったものだったらしい。いやあ、ぜんぜん気がつかなかったよ。恥ずかしいことこの上ない。こうしてうっかり、口を滑らせてしまうほどに──
「けどまあ……これだけは、今一度訊いておくよ」
──僕は、我慢の限界だったらしい。
「お前はいったい──『
お読みいただきありがとうございます。
オベロンが思案に耽り、内言でよく喋る回。
盛り返すも拮抗しっぱなしの戦況。ただし消耗が命取りなぶん、カルデア陣営にのみリスクが課される泥試合。一発ぐらい喰らわせたい! そんなお話でした。
次話に続きます。