望郷漂流客船イナバマル 祝福された後継   作:qlo

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※Lostbelt No.6『妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ』の核心的なネタバレのほか、Lostbelt No.7『黄金樹海紀行ナウイ・ミクトラン』〜2部奏章『オーディール・コール』の一部内容に触れています。

※本作は後日、作者本人のpixivアカウントにおいても投稿予定の内容となります。

以上の事柄をどうぞあらかじめご了承ください。





城下の星【四】

 

 

 ◆◇

 

 

 

 鱗粉が散華する。

 

「──え? ……まさか。ダメ、待って!」

 

 それが何を意味する現象であるのか、いち早く察知することが適ったらしい。遮蔽魔術のドームから飛び出しかねない勢いで、マスターが必死に叫ぶ。

 

 眼前に顕れたのは、かつての『奈落の虫』を彷彿とさせる漆黒の渦。先刻まで森の様相を呈していたそれは竜巻のように旋回し、聳え立つ『金庫城のゴーレム』諸共に互いの主人を呑み込んだ。

 

「オベロン、お願い、戻って──!」

 

 当時の規模には遠く及ばない。それでも、かの存在が『崩落』の具現である以上、外界からのあらゆる干渉は遮断される。しかし、その影響が外界にもたらされることはなく、あくまで内界のみを隔絶するものとして在るらしい。その証拠として、周囲のすべてが呑み込まれる様子は認められなかった。

 

「(…………)」

 

 第一陣が獲得してくれた現地情報の甲斐あって、妖精國の概念に特化した妨害効果は、自らを存在レベルで偽り得るオベロンには通用しない……あるいは、回避が適う可能性が望めるものと考えられた。

 

 しかし、此度の敵性存在である相手側もまた、こと『存在』や『概念』においては超越的な猛威を奮う手合いであるため──オベロンという存在が秘める『詐称者』の特性に対し、何らかの対策を打たれてしまう恐れがあり……現に先ほど、彼個人に特化した魔力吸収・妨害術式を施す動きが見受けられた。結果的にオベロンが自身に施した概念制御は、相手側のそれを上回る形で雌雄を決した。

 

 ゆえに、私がモルガンから引き継いだ『決戦術式』は不要と判断し、彼には自身の『仕事』とやらに専念してもらうつもりでいたのです。そのはずが、こんな──

 

「(──レイシフト直前、『着いたら裏でちょっと仕事が』とか顔に書いていたくせに、あの御仁ときたら……横から全部持っていくなんて聞いていませんよ)」

 

 またぞろ彼方此方を奔走し、柱を喰う白蟻が如き細やかな工作内容でも企んでいるのでしょう──と、高を括っていた自身に頭を痛める。柱どころか、あろうことか土台から根こそぎ丸呑みにしてしまうだなんて……これではもはや解体工事です。工作なんてお行儀の良いものではありません。

 

『え、僕がこれからどうするかなんて、ひと言だって話してないけど?』と言われてしまえばそれまでですが……さすがにこれは話が違うと思うのです。

 

「……えーっと……どうするんだコレ?」

「我々の周囲に影響はないようですが、しかし……」

「あやつの幻籃に包まれた以上、もはや双方ともに手出しはできぬぞ……」

「──……」

 

 先陣を切っていた妖精騎士の面々も、今や想定外の事態に待ちぼうけを喫した格好である。それに……彼女達の中でも特に、メリュジーヌの心中は穏やかではないはずだ。

 

 バーゲストが『獣の厄災』の再演を強制される寸前まで陥った事例がある以上、メリュジーヌもまた『炎の厄災』の再演を誘発されてしまう可能性が依然としてある。彼女はそれを最大限に警戒し、本特異点に限っては竜の姿を封じるという制約を自らに課している。だというのに──オベロンは小規模とはいえ、かつての厄災そのものと見做せる水準の『奈落の虫』を、持ち前の口八丁で真正面から押し通して見せたのです。彼女にとってその光景は、少なからず口惜しく感じられたことでしょう。

 

「……『妖精も人間も大した違いは無い』、だったか?」

「オイオイ誰だ、そんな出鱈目を吹きやがった野郎は」

「オメーだよ! 珍しくアテが外れたな。どこぞの妖精王サマは智慧で補うどころか、矛盾ごと台無しにしちまったらしいぜ」

「うるせえな。アレでも考えあっての行動には違いねェよ。まあ──智慧は智慧でも、働いたのは『悪智慧』だったらしいがな」

 

 ……『状況に矛盾が生じたのなら、もう状況ごとぜんぶパァにしちゃえばよくない?』──などと、悪びれる素振りも見せずに言い切るオベロンの様子が目に浮かぶ。それができれば世話は無いというのです。

 

 とはいえ、オベロンは余程のことでもない限り、己が危険を顧みずに身を挺してみせるような性格ではない。その彼が、このような大仕掛けに踏み切ったのならば。村正の言うとおり、あの突貫が何らかの『悪智慧』に基づいた行動であることは間違いないでしょう。

 

「(……問題なのは、その結果──)」

 

 オベロンは自らあの『崩落』へ、相手諸共に身を挺したのです。たとえその概念が己の分身であろうとも、彼自身にも相当の負荷が強いられるはず。それでもなお、妖精騎士の皆が維持している前線を横取りしてまで、ほかならぬ彼自身の意思によって断行されたものであるという事実──

 

「(……ヘンなことを考えていなければ良いのですが……)」

 

 ……少なくとも、これより後でも先でもなく、今この瞬間に打って出る必要に迫られたがゆえの行動なのは確かでしょう。……それが現状打破に通じる事柄であるのか、彼個人の問題であるのかは、あの中に居る本人にしか解らない話なのですが。

 

「……ん? アルトリア! あそこ、何か落ちてくる!」

 

 などと思案していた最中。金庫城のゴーレムを覆い隠す漆黒の渦を見つめていたマスターが、渦の最上部あたりを指差しながら語りかけてきた。

 

「ほらアレ! 白い、多分フォウくんぐらいの大きさの──」

 

 彼女の言うとおり、絶え間なく回転する渦から弾き出されたように、弧を描きながら落下する何かが目に入る。しかし、あの軌道……『落ちる』と言うよりは、真っ直ぐこちらに向かって飛んで来ているような。

 

「────ブランカ……?」

 

 その光景を目にしたマスターは、まるで何か思い当たる節があるかのような声色で、その名を呟いた。

 

 ──しかし。

 

「いいえ。どうやら、彼女ではないようです」

 

 ──降り注ぐ何かは、その軌道にぽつり、ぽつりと、白い容姿にそぐわない黒い鱗粉を舞い散らしている。ただしそれは、一身に浴びた『穢れ』を振り払うために生じた類のものでもなければ、その重さに耐えかねて失墜しているわけでもない。あれはむしろ、その逆……まるで己の身体を、自らの意思で削り落としているかのようだった。

 

「────オベロン……!」

 

 ブランカと見紛うのも無理はない。なぜなら彼女の容姿は、オベロンが稀に採るあの姿のシルエットにそっくりなのだから。というか──

 

「──貴方、なんで私に向かって……っと!」

 

 まるで私のキャッチに身を委ねるかのように、ふわりと真っ直ぐに飛んできたことが幸いし……モルガンを私の片膝に寝かせ、介抱したままの姿勢でもどうにか受け止めることができた。

 

「ナイスキャッチ、アルトリア! ちょっとオベロン、戻ってくれたのはいいけど、どうして小さい姿に──ん……?」

 

 マスターはすぐさま此方へ駆け寄り、目の当たりにした現状をオベロン本人に問いかける。おそらく、この姿は渦からの脱出の成功率を上げるために採られたものでしょう。しかし、彼を抱いたこの腕にもたらされる感覚は──それ以外にひとつ、彼の身に大きな異変が生じていることを捉えていた。

 

 ──軽いのだ。オベロンの身体が、異常なほどに。

 

 確かに、この姿を採るオベロンは平生、ブランカの背に搭乗しての飛行が可能であることから、人間体時の重量に比べれば相応の軽量化がなされている。しかし実際は、外見からのイメージよりもはるかにズッシリとくる重さではあるのだ。マスター曰く、『ぬいぐるみくらいの重さだと思って抱えようものなら、うっかり腰を痛めてしまう』との話である。そのはずが、現在の彼はまさしく──綿とフェルトで象られた、ぬいぐるみそのものの軽さとなっている。

 

 私もマスターの詰問に続き、オベロンにはそれについて問い糺したいのですが……

 

「(スヤァ……)」

「……思いっきり寝ていますね……」

 

 ……このとおり、渦中の御仁はぐっすりとご就寝中ときました。しかしどうやら、その眠りは狸寝入りなどではないらしく、正真正銘、深い眠りに落ちている模様。モルガンの手前であることに加えて、今は作戦行動中。これが狸寝入りだったのなら、私がその辺に投げ飛ばしていたところですが──

 

「オベロン、貴方さては……自分諸共に敵陣を巻き込んで宝具を使いましたね。確かにこの姿であれば、第三者によるアフターケアが容易になりますけれど……」

 

 ──それが捨て身に等しい献身による後遺症であることは、明白だった。作戦をサボるための仮病ではないというのなら、そう邪険に扱うわけにもいきません。

 

「……失礼、モルガン」

 

 こちらも相変わらず昏睡状態にある、返答の望めないモルガンに断りを入れつつ……右膝半ばに寝かせている彼女の頭部を、私の胴へ接するほどに近く寄せる。そうして余裕が生まれた左側の膝先へ、新たに昏睡状態に陥ったオベロンを寝かしつける──というか……何ですかこの状況。揃って居眠り中のモルガンとオベロンを、私が同時に膝枕?

 

「……今新たに特異点反応が観測されるとしたら、その座標はアルトリアの膝の上だろうね」

 

 と、私の膝上の現状を見て、微笑とも苦笑とも取れない名状し難き表情を浮かべつつ、マスターが呟いた。おそらく私も同じような顔をしているに違いない。……それはそれとして、斯様にレアな光景は滅多に見られませんからね。バッチリ記録に残してもらいましょう。

 

「……あの様子、オベロンは渦から離脱したらしいな。ってことは──仕事だ、村正! お前さんの一刀なら、オベロンの幻藍ごと『金庫城』を叩っ斬れる!」

 

 オベロンが飛来し、私が対処するまでの数十秒、一連の様子を伺っていたらしい。オベロンがもたらした現状の『意味』を察したクー・フーリンが此方へ向かいつつ、次に求められる一手を──打つべき者へと促した。

 

「お願い、おじいちゃん!」

「村正、頼みます!」

 

 ほぼ同時に発せられた、発破の掛け声。一瞬の差でしたが、私が少々出遅れてしまったようです。マスターもオベロンの現状を一目見て、先の突貫に込められた彼の意図に理解が及んだのですね。

 

「──ったく……贅沢な注文だ」

 

 村正は大袈裟にため息を吐きながら、大仰な態度で『よっこいせ』などと溢しつつ、浅く腰掛けていた瓦礫から身を起こす。

 

 妖精騎士の面々が前線を張っている間じゅう、『敵』の観察に集中していたことで身体が縮こまっていたのでしょう。すでに先刻、準備運動には充分な戦闘を経てはいるものの、彼は改めて身体をほぐし、金庫城を内包した渦に向かって──まるで自身の鍛冶場へ赴くかのような、迷いのない足取りで歩み始めた。

 

「頑固潔癖極って、己が代物に手垢のひとつも付けまいたあ、一端の蒐集家よろしく見上げた根性を見せやがるモンだ──と思いきや……逆の腹積りッてんならガッカリだ。こともあろうに、()()()()()()()()()()()()()()なんぞしやがって……そりゃあ一体どういう了見だってんだ」

 

 ──目に映ったのは、彼の背中。右肩に掛けられた羽織はその無造作な扱いの反面、抜かりなき手入れの恩恵を示している。染みのひとつも、皺のひと筋も認められないコンディションは美品そのもの。はためく衣が翻るたび、羽裏の装飾が目を奪う。

 

「煤に塗れ、灰に埋もれ、砂埃に見舞われようとも意に介さず。端ッから指一本触れる気も無ェ甲斐性ナシってのが素顔なら、まるっきり話が違ってくらあ。挙げ句、これ見よがしに振り翳す割に、肝心の代物は他人様から掠め獲った遺品ときた。……故人の矜持を尊ぶ気概もねえテメェらに──そのお宝は勿体ねえよ」

 

 その言葉が発せられたと同時に、空間中の音が鳴り止んだ。

 

「──投影、開始」

 

 焔が起こる。

 

「──其処に到るは数多の研鑚」

 

 鉄の音が響く。

 

「──築きに築いた刀塚」

 

 無限に等しい剣製が、

 

「──縁起を以て宿業を断つ」

 

 無元の一に帰結する。

 

「──八重垣作るは千子の刃──」

 

 手に握られたのは、剥き身の一刀。

 

「……『城』の名を()()()のが運の尽きだ」

 

 業を凝視める匠の一振りは、

 

「ちったぁ成仏していきな」

 

 寸分の狂いもなく──『金庫城』を斬り裂いた。

 

 

 

 ◆◆

 

 

 

「(──お見事)」

 

 ──『無元の剣製』。

 

 かの名工が生涯に亘り培った、理念と技法。その真髄を籠めた一刀は、物理的な存在を斬るのみならず、対象に刻まれた因果をも断ち得る概念の刃へと昇華した。

 

 縁を斬り、定めを斬り、業を斬り、我をも断たん、『都牟刈村正(つむかりむらまさ)』。彼の一振りとは即ち、宿業からの解放にほかならない。その証拠に──金庫城のみならず、妖精國において最高峰の堅牢さを謳った逸話を抽出し、幽閉結界へと変貌せしめたこの空間までもが、雲を割くかの如く斬り払われていた。

 

「……よし。結界が剥がれたってコトは、聖杯からのバックアップは途絶えたと見ていいんだな?」

 

 いつの間にか遮蔽魔術の傍へと位置取っていたクー・フーリンが、状況の確認を促すように語りかける。

 

「ええ。正確には……結界の破壊は村正によるものですが、聖杯への妨害についてはオベロンの仕業です。先の突貫による影響で、彼らが聖杯によって実現していた──()()()()()()()()()()()()()()()。『金庫城』および『金庫城の宝物』における任意の要素を抽出する精度はこれ以降、際限なく暴落し続けます」

 

 例の渦に『金庫城のゴーレム』が巻き込まれてからというもの、幽閉結界に巡っていた魔力の流れは徐々に減衰していた。……それが司令塔である『スプリガン』が隔離されたことによる影響なのか、オベロンの仕業によるものなのかは判然としなかったものの、こと現状に至ったことでようやく理解に及んだ。

 

「……そいつはちと考えモンだな。アレが幻術だってんなら、制圧状態は術者のコンディションに依存することになる。オベロンがこの有様とくれば、いずれ効果は薄れちまうぞ」

 

 そう思い至るのも当然でしょう。オベロンが少々……いえ。大いに強引な格好でもって現状打破を実現してくれたとはいえ、術者本人が戦闘不能であるのなら、施された魔術の類は持続面に一抹の不安が生じて然るべきなのだ。

 

 ただし。それが魔術などではなく──()()()()()()()()によるものであれば、話は変わる。

 

「いいえ、それについては心配ありません。ええと、お見せしたほうが早いですね……ほら、こちらを」

 

 左側の膝先へ寝かせたオベロンをひょいと掬い取り、現在の彼の重量感を判りやすく示すべく、左手ひとつで軽々と持ち上げてみせる。

 

「わあ、すご。アルトリアって力持ちだね」

「何か言いましたかマスター?」

「えっ?」

 

 そうじゃねえのです。

 

「なんだ。突然の力自慢、ってワケじゃなさそうだな。つーことは──まさかとは思うが……」

 

 ……ちょっとお待ちを。この明示的な所作を受け、二人して先に出る感想がそれというのはどういうことか。貴方達はいったい、平生の私にどんなイメージを抱いているのですか──じゃなくて。

 

「はい。オベロンが採っているこの姿……普段の小型化の様相に覆い隠されてはいますが──」

 

 ……漆黒の光槍群という外観へと偽装されていた、『奈落の虫』。

 

 ……飛来する彼の身体から舞い散らされていた、『無数の鱗粉』。

 

 ……彼の身を受け止めた際に感じられた、異常なまでの『軽さ』。

 

「──この小型化は決して、『渦』からの離脱を叶えることのみが理由で採られた姿、というわけではありません。オベロンは実際に、()()()()()()()()()()()()()()

「────!」

「…………」

 

 そして──これらの状況証拠はそのまま、戦況の実情を示している。

 

「先ほどのオベロンの突貫は、幻術によって間接的な妨害効果をもたらしたわけではなかったのです。その実態は、より直接的な妨害工作……金庫城の品々ひとつひとつに()()()()()()()()()()()()をまぶし──『金庫城』と『オベロン自身』の概念、その境界を曖昧にすることで、聖杯による存在証明に()()()を与えてみせたのです」

 

 先刻私は、オベロンの突貫に対して『工作なんてお行儀の良いものではありません』という評価を下しましたが……その認識は再度改める必要がありそうですね。見た目こそ強引この上ない所業ではあったものの、その内容はこのとおり──綿密な計算が基となった、歴とした知略の類だったのですから。

 

 ……まったく。『金庫城』に付着した貴方の断片が無事で済んだのは、攻撃対象の『概念』を見定めて断つことが叶う、村正の斬撃を浴びたからこそですよ。他のサーヴァントが真正面からトドメを差していたのなら、危うく心中の格好となっていたところです。ギリギリにも程があるでしょう。

 

「……なるほどな。アレが幻術にしろ何にしろ、存在証明に妨害を与えることが狙いだろうってのは察しがついたが──まさか文字どおり、身を粉にして働いてやがったとは驚きだ」

「……ホント、何が『やあ、無理してない?』だよ。他人の心配ばかりしておいて、自分はこんな状態になっちゃってさ……」

 

 仰るとおりである。いくら本特異点における大仕事をやり遂げたからといって、無防備になった身体を周囲の者に委ねた挙げ句、後始末を丸投げというのは如何なものか。

 

「で、こうもやり切った様子でご就寝中ってコトは……漂流物に付与されたバーヴァン・シーの一部同様に、全部片付けた後で俺達に回収、再構成させるつもり──あたりの魂胆でいやがるワケか。はっはっは! こいつは考えたな!」

「あ……褒めちゃうタイプの人ですか貴方。お守りをする側の身にもなりなさいって話なのですが」

 

 ささやかな抗議のついでに、それを言うなら『仕事がまたひとつ増えてしまった』でしょう──と、心の中で付け加える。

 

「おっと悪い。ま、遅参のご身分にしては早すぎる中休憩だが、この際文句は言うまいさ。あとは思う存分──夢の中で道草でも食ってやがれ!」

「……寝ている相手に『道草でも』って、そんなヒトを食いボケみたいに……あっ、行っちゃった。アニキは今回も働き者だなあ」

 

 そう吐き捨てるや否や、クー・フーリンは前線へと蜻蛉返りを決め込んだらしい。私の膝に眠る重症患者は二人して戦闘不能ではあるものの、この戦況においては私とマスターが付いていれば問題はないと判断したのでしょう。

 

「(──……)」

 

 束の間の静寂が訪れたことで、改めて膝上に眠る二人に視線を向ける余裕が生まれた。

 

「それにしても……よりにもよって、真っ先に動けなくなるのがこの二人になるなんて──いや……うん。むしろ、()()()()()()()()()、なのかな」

「……ええ。そうですね」

 

 マスターが零す言葉と同時に、先刻の管制室での一幕が思い起こされる。

 

『──それがスプリガンなものか』

 

 聞く者を底無しの虚へと引き摺り込むような、静かで昏い、拒絶と否定の彩を湛えた、重々しい音節。しかし、声を発した者の意思──その奥底にあったものは。

 

『なあ──そうだろう、モルガン』

 

 自身の、そして、かの物語を生み出した者が誇る矜持。それを嘲笑うかのような狼藉を働いた者へと向けられた──確かな熱を帯びた『憤り』だった。

 

『────…………』

 

 かの國を治めていたモルガンにとって、かの國に滅びをもたらしたオベロンという存在は、現在においても紛うことなき宿敵であることに違いはない。それでもなお、互いの存在を心底から憎みながらも、それぞれの矜持……妖精國にかけられた想いだけは、決して蔑むことはしなかった。

 

「……まったく。貴方達ときたら、二人してどこまでも──」

 

 モルガンが身を挺して守り抜いた、現在の妖精騎士達がそうであるように。オベロンもまた、一度は完結した物語の一部たる『登場人物』……それらの存在が、得体の知れない何者かの手で、この期に及んで改編されようとした現状を──決して認めるわけにはいかなかったのでしょう。

 

「──器用なくせに、不器用なんですから」

 

 

 






お読みいただきありがとうございます。


オベロンとおじいちゃんが連携プレーを決めてくれました!な回。
アルトリアのお膝が特異点()になっちゃいました。カオス。

第八節『城下の星』は本投稿までとなりまして、次節へ移ります。

引き続き、お付き合いいただけますと幸いです。



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