望郷漂流客船イナバマル 祝福された後継   作:qlo

39 / 70


※Lostbelt No.6『妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ』の核心的なネタバレのほか、Lostbelt No.7『黄金樹海紀行ナウイ・ミクトラン』〜2部奏章『オーディール・コール』の一部内容に触れています。

※本作は後日、作者本人のpixivアカウントにおいても投稿予定の内容となります。

以上の事柄をどうぞあらかじめご了承ください。





死灰復然【二】

 

 

 大広間を覆う、灰の陣幕。

 

「──そういうことでしたか」

 

 モルガンとオベロン、そして私を覆う遮蔽魔術のドームに魔力を巡らせ、防御態勢を改めつつ、アルトリアが傍らで呟いた。

 

「(……──)」

 

 ……この光景を目の当たりにするのは、これでいったい何度目になるのだろう。

 

 眼前に渦巻く、無数の『灰』。彩度を手離したそれは、軽く、脆く、およそ質量を感じさせることのない、かつての在り方を失った『何か』の成れの果て。形あるものであればいずれ行き着く、決定的な『死』の姿。だけど──

 

「また大量の灰が現れたんだわ! でも、今回のは何だ……? これまでのやつとは全然違うぞ……!」

 

 ──空間内を漂う『それ』は、重く、堅く、まるで実存を誇示するかのように。終わりを迎えた姿でありながら、燻る熱に身を沸かし、紛うことなき存在感を湛えていた。

 

「敵性反応、初動解析の暫定値が出ました! 励起した魔力は暴走による無作為なものではなく、指向性を伴った『固有の現象』とみて間違いありません! そして……その波形には──バーヴァン・シーさんの魔力パターンとの相似がみられます……!」

 

『漂流物』にはバーヴァン・シーの霊基の一部が移植されている。ゆえに、彼女の魔力反応が計測されること自体は、さして驚くべき話じゃない。ただし──

 

「ですが……バーヴァン・シーさんにまつわるもので、かつて我々が妖精國において観測したデータ群には、このような様相を示した現象の記録は存在しません! つまり、これは──ノウム・カルデアが初めて遭遇する、未知の脅威です!」

 

 ──それが、『漂流物』のすべてを励起させるほどの強度を有しているということは。

 

「(……漂流物のほうは、まだ──聖杯による存在証明が途絶えてないんだ……!)」

 

 戦況は依然として『敵』の支配下にあることを示す、紛れもない証左となっていた。

 

「……なるほどな」

 

 その光景をひと目見て、如何なる現象が生じたのかを察したらしい。全方位に注意を配りつつ、クー・フーリンが声を低くして呟いた。

 

「──奴らが復活を叶えていた要因は、聖杯による存在証明だけじゃなかった、ってワケだ。それに加えて奴らはまず、『()()()()』を抽出して聖杯に繋げ、因果律の増強を図っていやがったんだ」

 

『漂流物』とは対照的に、聖杯との繋がりが絶たれた影響か──今や灰塵の山へと成り果てた、先ほどまで『金庫城』として在ったものたちが目に入る。クー・フーリンはその頂を睨みながら、矢継ぎ早に私見を続けた。

 

「……復讐対象を拐うため、なんて取って付けたような理由がすべてじゃねえ。奴らにとっちゃそれ以前に──略奪の対象は他の誰でもなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 彼らの計画を実現し得るものであり、なおかつ、私たちノウム・カルデアが直接的には遭遇したことのない事柄──それらの条件を満たす、バーヴァン・シーにまつわる『要素』とは何か。

 

「……バーヴァン・シーの魔力反応に、再起の様相を呈した敵性反応……その二点が明らかとなった時点で、もはや疑いの余地はあるまい……!」

 

 ──そんなものは、ひとつしかない。

 

「(…………!)」

 

 ──先の通信を経たあと。シオンの解析結果を耳にしたうえでさえ、私の中ではどうしても、『敵』の動機を示すものとされる状況証拠に対して、依然として腑に落ちないことがいくつかあった。

 

 航行に充てるべきリソース。そして、彼ら自身の一部でもあったはずの『金庫城の宝物』を投入し、厳戒態勢下にあるストーム・ボーダーに感知されてしまうリスクを負ってまで、バーヴァン・シーを略奪したという事実。

 

 その一連の出来事が、『妖精國の代表的存在を拐かし、これを生きたまま分解し、漂流物の帰郷と同時に島流しの刑に処す』という、モルガンをはじめとした『妖精國の存在』に向けた『復讐』を叶えるために引き起こされたとする推測。

 

 ……割に合わない、いや。一見、割に合わないと思われるそれらの所業を、『彼ら』はなぜ、迷いなく実行するに至り、その必要に迫られさえしたのか──私のなかでそれが、どうしても腑に落ちない『違和感』として残り続けていた。

 

「……そのようだね。これは──」

 

 しかし、その答えは。

 

「──『()()()()()』だ」

 

 厳然たる事実として、いまや目の前に在る。

 

「ご名答」

 

 ──赤黒い光が、空間を染め上げる。

 

「聖杯の加護単体に頼りきったままでは、航海を終えた後の世界において、我らの各個体が独立して存続することに一抹の不安があった」

 

 ──見る者の網膜を射抜くほどの彩度。

 

「当然の話だ。到達を叶えて間もなく、何らかの理由で聖杯の加護が途絶えることが()()()()()()()()()()──その姿形は元の灰へと戻ってしまう恐れが、我らには依然として残されていたのだから」

 

 ──立つ者の足を竦ませるほどの深度。

 

「ゆえに。その様相が()()()()()()に相似する、『蘇りの厄災』の因子を有した代物の存在は──我らが唯一の懸念材料を払拭し得る、恰好の略奪対象だったのだ」

 

 ──惑う者の心を置き去るほどの確度。

 

「(これ……『スプリガン』の、声──)」

 

 実存を示す、色彩の波濤。その猛威を惜しげもなく溢れ出しながら、奈落に呑まれ、業を断たれ、沈黙を喫したはずの人物が──灰の陣幕越しに姿を隠し、またしてもその声を響かせている。

 

「ウソだろ……? あれだけ宝具の猛攻を浴びせたってのに、何事もなかったみたいに復活するなんて……! 何かの間違いじゃないのか!」

「──表出した魔力反応に続き、対象魔力の発生源は現在解析中です! しかし、この声紋は確かに……!」

 

 ハベトロットとマシュは灰の山から距離を取り、魔力反応の正体に次いで生じた異常事態に注意を向ける。……先ほどの初動解析の結果はあくまで表層の観測に止まるものだったようで、解析は現在進行形らしい。例によって魔力や概念がノイズに塗れているせいか、その発生源の正体を数値として観測することは容易ではなさそうだ。

 

 ……けれど、皮肉にも。

 

「……観測に遅れが生じるほどの規模を有する存在が、『アイツ』の声を放っているんだ。内容はともかく、大枠の理解に及ぶだけなら、もう解析を待つまでもないさ。というか……前線復帰と言うより、これはむしろ──」

 

 私たちの困惑など意にも留めず。

 

「……同感だ。あれなる存在は、奴らの切り札であった『金庫城』でもなく、『金庫城の宝物』でもない。さりとて、妖精にとって毒となり得る『鉄』でもない。剥き出しの『漂流物』そのものだ。にも拘らず、これほどの存在強度を湛えているということは……!」

 

 口籠る計測機器とは対照的に。

 

「こいつらにとっては、現在の状態こそが──『()()()()()()』だった、ってことなんだわ……!」

 

 目の前の現実は、雄弁だった。

 

「──素晴らしい。お早い理解、痛み入る」

 

 灰が踊る。

 

「またも灰の陣幕越しのご挨拶となり、失礼いたしました。目下のところ、我々を定義する主要概念の総入れ替えの最中でして。何卒、ご容赦賜りたく」

 

 声が響く。

 

「しかしながら。そうして辛抱強くお待ちいただいた甲斐あって、それも仕上げの段を終えることができました」

 

 足音が鳴る。

 

「さて──改めまして、御目通りを願うとしましょうか」

 

 灰塵の山より顕れたのは、

 

「──いまに在りし、空想の代物達よ」

 

 どこか見覚えのある──()()()()()()()()を目元に刻んだ、『スプリガン』の姿だった。

 

「──やはり、貴様か……!」

 

 敵影を認めた途端、バーゲストは即座に臨戦態勢を整える。……彼女の言うとおり、先の言葉を耳にした時点で、その声の主が『スプリガン』であることはほとんど確定的だった。しかし、その姿は──

 

「いや、さっきまでの彼じゃない。『金庫城』の概念を自己定義から切り離したうえ、『蘇りの厄災』を操っている状態なんだ。ノリッジの領主として振舞っていたそれとは、まったく別の存在と言っていい。それに加えて、目元のあれは──バーヴァン・シーの再臨した霊基に見られるものだ……!」

 

 ──想像を遥かに超えるほどに、『蘇りの厄災』との調和を保った出立ちをしていた。

 

「(……凄い、圧──)」

 

 存在のすべてに圧されるような、五感が軋む感覚があった。……幻覚などではない。それは紛れもない現実であり、この場に居る誰もが同質の印象を抱いていることだろう。

 

「(でも──どうしてだろう)」

 

 無力化したはずの敵が、再び私たちの眼前に立ちはだかった……それはいい。良くはないけれど、それ以上に、仕方がない。ここは戦地のど真ん中で、その戦地は『敵の領域』なんだ。加えて──聖杯まで有している相手とあっては、何らかの手段で再起される展開も、最後の最後まで有り得ない話ではないんだから。

 

「(──目が、逸らせない)」

 

 だけど。そんな『敵』に脅威を覚えてしまうこともまた、無理もない話だ。モルガンやストーム・ボーダーのみんなをはじめ、現地・後方の総力をあげ、あらゆる手段を尽くした激闘の末にケロッと起き上がられては、さすがに驚かずにはいられない。この特異点においてはとりわけ、持久力の損耗は死活問題なんだから──でも。

 

「(今までも、こうしてきたのに)」

 

 何度も陥ってきた。何度も潜り抜けてきた。いまだに慣れることはないけれど、ピンチの『次』に気持ちを向ける姿勢だけは、どんな状況であっても持ち続けてきた。なのに……どうして私は、こんなにも強い──『焦燥感』に囚われているんだろう。

 

「(…………ああ、そっか)」

 

 ……いや。どうして、も何もない。この感覚はべつに、今初めて抱いたもの、というわけではないんだ。ストーム・ボーダーへの通信のために船首甲板へ向かう際、船内に背を向けたあの時から……あるいはそれ以前から、ずっと──自らの意識に警笛を鳴らすかのように、私の内から湧き出ていたものだったんだから。

 

「(やっぱり、これは)」

 

 ……ああ、そうだ。この感覚は──

 

「(『()()()()()()()』なんだ)」

 

 ──私自身が無意識のうちに見出していた、『畏れ』に由来するものだったんだ。

 

 

 






お読みいただきありがとうございます。


事態急変な回。

ご無沙汰しています。丸1ヶ月以上空いてしまいましたが、ようやく更新に漕ぎつけました。

執筆・推敲に加えて、私事でどストレートに長風邪を引いたり、fgo怒涛の季節イベントに続き奏章Ⅱにどっぷり浸かっていたりと、あれよあれよと時間を要してしまいました。お待ちくださっていた方には申し訳ありません。

そう、奏章Ⅱ。最高でしたもう好き。まだまだ余韻に浸ってます。
そして本日4/1はFGOエイプリルフール2024。1日限りではもったいない限定アプリ、今年はサッカーみたいですね。思い出すはコワスギ11、デイノニクス11兄弟、監督役の監督役……ブリテン勢もノリノリで登場したりするんでしょうか。

さて、次話にあたるパート分も用意がありますので、【三】の投稿は今回ほど間を空けずに行える予定です。


引き続き、お付き合いいただけますと幸いです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。