※Lostbelt No.6『妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ』の核心的なネタバレのほか、Lostbelt No.7『黄金樹海紀行ナウイ・ミクトラン』〜2部奏章『オーディール・コール』の一部内容に触れています。
※本作は作者本人のpixivアカウントで先行投稿済みの内容となります。該当アカウント各話のキャプションにその旨の明記あり。
以上の事柄をどうぞあらかじめご了承ください。
絶海にて【一】
◆
「レイシフト完了、現地からの通信を待機!」
第一陣の送り出しが済んだことを告げる、ムニエルのアナウンスが管制室に響いた。
「やれやれ。いつものこととはいえ、斯様に気味の悪い状況下で敵地に強行とはな……」
と、開始早々に胃を痛めたらしいゴルドルフ新所長がひとりごちる。
「アンタら……特異点が発生するたびに、こんな調子でポンポン飛んでたのか?」
「ああそうとも、新米のカドック・ゼムルプス君! その都度ぽんぽんもトんでいたよキリキリとな! いたた……またネモ・ナース君に胃薬を処方してもらわねば……」
「はいそこ、カドックにゴルドルフくん! もう作戦は開始しているんだ。気を緩めない!」
って、僕もか。それなりに緊張しているんだぞ、これでも。
元々、マリーンを手伝う流れで管制室には居たが、そのうえでさらに名指しで招集がかけられたのだ。たまたま居合わせただけ、という方便は利かない……言うつもりもないが。
トリスメギストスⅡの思し召しか何か知らないが、僕もガッツリと、今回の特異点攻略に関わるポジションに組み込まれているらしい。後方支援役として僕に何ができるのかは、今のところまだわからないのだけれど。
「さて……では、第一陣のお耳に入る心配がない今のうちに、ひとつだけ確認しておくとしましょうか」
第一陣の送り出しが完了するのを待っていたかのように、シオンが切り出す。
「罠を見越しての二陣分割案を採択したワケですが──理由はそれだけではありませんね?」
「おっと、バレてら──いや、サボりたかったワケじゃねーですよ?」
と、クー・フーリンが聞いてもいない弁明付きで返した。ん、罠対策だけではなかったのか。何やら、腹に一物あっての提案だったらしい。
……というか、そもそも二陣分割については思うところがあるのだ。
「あー……ひとつ訊きたいんだが。さっきの第一陣の面子、あれは明らかに過剰戦力だろう。アンタ達も含めた全騎投入どころか、第二陣が出張る必要もないんじゃないか?」
そう。考えてみれば、だ。
マシュと藤丸、最近ではハベトロットも基本戦力だとして。
──全異聞帯の王の中でも屈指の魔術を誇る、モルガン。
──その腹心である最高戦力が一、妖精騎士ガウェイン。
──魔術史上でも最強の冠位竜種、アルビオンの妖精体。
何だ、この冗談みたいな面子は。大国でも落としに行くつもりか?
この際、もう正直に告白すると、シリアスモード全開の彼女らと同じ空間には居たくないと思ってしまったほど、さっきまでの管制室を占めていたプレッシャーは尋常じゃなかった。あれに慣れてしまっているここの連中は、ちょっとおかしいと思うぞ。
今回が過去に例を見ない……いや、例によってイレギュラーな状況にあるらしいことは僕もわかっている。だが、それでもだ。これだけの傑物達が名を連ねる第一陣で、どうにもならない状況をイメージしろというのは、少し無理があると思うのだ。
そして、そんな彼女らの後ろに控えている面子が、
──ケルト神話に名高い光の御子、兼、北欧主神の代理。
──星の内海で花の魔術師に鍛えられた、聖剣の管理者。
──ブリテンを呑むとされた白き竜の名を冠す、妖精王。
何だ、この反則級の上位存在達は。世界でも作り変えるつもりか?
第一陣だけでもやりすぎに思える戦力なのだ。そのうえで、この第二陣が追加投入される前提で待機しているという。それも、通常の特異点の規模であればまだしも、今回のような極小の特異点ひとつに対してだ。
……いくら『準・亜種特異点』級であるとはいえ、スケールに対してギャップが大きすぎるように思うが──。
「いーや。今回、第二陣は間違いなく要るだろうぜ。そして残った面子は、これが最適解だ。まあ、お前さんの言いたいコトもわかるがな」
と、クー・フーリンは即答してみせた。
「……マジかよ。あのモルガンと妖精騎士が揃い踏みで、なおもアンタ達ほどの増援が必要な事態だってのか……?」
「その逆だ。
「…………は?」
もはや、僕の思考では理解が及ばないレベルの話になっていたようだ。これは、判断基準そのものから状況分析を間違えていたらしい。……こうなってはもう、凡人らしく素直に、お歴々の意見を乞うほかない。
「確かに、大抵の特異点攻略なら、モルガンひとりが出た時点で解決だ。なんたって正攻法が反則級の大天才様だからね」
「ただ、今回だけはその限りじゃなくなったんだ」
と、オベロンはどこか憎々しげに答え、確信のこもった……それでいて不安げな口調で、アルトリアが続けた。
「なるほど。第六異聞帯でのモルガン女王陛下崩御──その原因となった事態の『再演』を、みなさんは危惧しているのですね」
と、シオンはここまでの会話から何かを察し、彼らの懸念点を看破してみせたようだ。
「……『再演』?」
これまたこちらの理解の外にある発言を耳にして、僕は訊き返した。
第六異聞帯に関する記録は、オープンデータにあったものはすべて、ひととおり目を通している。妖精國において、モルガンが失脚したという記録も確かにあった。しかし、それ以上の詳細は記載されていなかったはずだが……。もしかしたら、オープンデータには含まれていない事実に基づく所感を、シオンは口にしたのかもしれない。
と言うのも、あの異聞帯ならぬ異聞世界・妖精國におけるノウム・カルデアの立場というものは、他の異聞帯攻略における立場とはまったく異なっており、『干渉者』というよりは『鑑賞者』のような側面が大きかったらしいのだ。ゆえに、藤丸をはじめとした現地調査員が得られた情報は、断片的かつ偏向的な感を否めない内容となっていた。
なので、オープンデータに記載するには散り散りになりすぎる情報は、記録こそされていても公開はされていない──という可能性が十分にあったのだ。現地調査員や現地関係者各自にしか知り得ない事柄ならば、なおのこと僕には知り得ない話だろう。
「あのときの、あの子──私達は……モルガンに決戦を挑んで、彼女の一方的な蹂躙を前に完敗したの。そして、モルガンの複数の分身達が構えるトドメの一撃が、地に伏せる私達目がけて降り注ごうとしたとき──玉座の間に居た本体が謀殺されたんだ」
見るからに心中複雑そうな表情で、アルトリアが僕の問いに答えた。
「いくつか要因はあったが、その決め手になったのがバーヴァン・シーだ。それまで水面下で動いていた反女王勢力の連中があの娘を人質に取り、モルガンが居る玉座の間へと連れ出した。そして、それを目の当たりにしたモルガンはなす術もなく、叛逆を煽られた妖精達によって滅多打ちにされた」
と、クー・フーリンが続けて解説する。
「つまり……今回もまた、何者かに人質に取られた状況にあるということかね?」
「さあな。敵にその意図があるかどうかに関わらず、状況は結果的にそうなっているが──問題は、こうして現に人質を取られる状況までの『擬似再演』が、バーヴァン・シーを拐った時点で完成しちまった、ってことだ。魔術的にこれは、最悪の概念構築だぜ」
──おい。それはもう、現時点でチェックメイトまであと数手の窮地にある、と言っているようなものだぞ……?
「! そうか、敵は──それを呼び水に!」
「なんだ、冴えてるじゃねえかゴルドルフ! そうだ。モルガン失脚の再演を本気で狙ってやがるなら、その後の狙いも自ずとわかる。それは──モルガンの制御下で力を与えられ、その力を『
と、僕の知り得なかったものを含めた情報開示が、ひととおり済まされた。
「『再演』ってのは、その。そういうことか……」
自分から訊いた癖に、その内容が驚くほど凄惨なものだったので、つい口籠もってしまった。……どうりで、オープンデータには記載されなかったはずだ。
「ま、そういう事情でな。バーヴァン・シーが拐われたこの状況じゃ、実行犯が待ち構える現地で、モルガンと妖精騎士がどうなるかわかったもんじゃねえ。だから今回は割とマジで、陣営の編成を考えておかねぇとマズいってコトだ。かといって今回、モルガンを前線に出さないワケにもいかねぇ──そうだろ?」
「ええ。私の可愛いトリスメギストスⅡの回答に名指しで挙がったこともそうですが……今回の構成要素を総合的に見ても、現地調査において彼女以上の適任者は居ませんからね」
……なるほどな。そういう話なら、この冗談みたいな面子を総動員することにも頷ける。
モルガンにとってはおそらく最大の急所であり、汎人類史における英霊でいうところの『死因となった逸話』にも該当しうる、致命的なファクター。それを、モルガン本人を含め、ストーム・ボーダーの誰にも悟らせず、ピンポイントで掌握してみせるほどの存在。そんなふざけた奴が、自らの居城──得体の知れない特異点で待ち構えているのだ。
万が一、先の懸念のとおり、モルガンがなんらかの窮地に陥るようなことがあるとする。そうなった場合、彼女ら妖精騎士の命運までもが左右されかねないのだ。これは、各個の戦力の話ではなく、彼女らの出自にまつわる因果の話である。
もちろん、現在の指揮系統の優先順位は、マスターである藤丸のほうが上だ。だが、妖精國におけるその出自に根ざした要素──『かつてモルガンに力を与えられ、存在を担保されていたという因果』は、サーヴァントが情報の塊である性質も相まって、彼女らの存在に強く紐づいている。ゆえに、この因果を何らかの形で魔術的に突かれた場合、モルガンひとりが窮地に陥るだけでも、彼女ら妖精騎士全員が連鎖的に破滅を強いられる状況も考えられるのだ。
つまり、今回の敵は──『モルガンひとりを制することで妖精騎士全員が連鎖的に破滅する可能性』という盲点を、『バーヴァン・シーただひとりを手中に収める』というたった一手のみで曝け出した挙句、当の彼女ら全員を、自らの居城へ招き入れることさえも実現してみせたのだ。
だからこそ、『妖精國の存在を欲する者が待ち構える特異点』に対して、レイシフト適性を持つ面子が『妖精國に縁がある者のみ』であるというできすぎた構造に、クー・フーリンは何らかの罠がある可能性を予測した──。
……ああ、そうか。だからこの面子を第二陣に残したんだな。
モルガンと妖精騎士が全滅しても、その縛りに囚われない者が対応できるように。
「……真偽は不明だが、人質か。これだけ計略じみた手段を採るなんて、まるで──」
そう言いかけた僕は、自分が保留した言葉に、何か引っかかるものを感じた。
「……へぇ……」
と、どこか感心したような声色で、オベロンが呟いた気がした。……妖精眼、か。
僕の勘は、当たっているということだろうか。
「ともかく、二陣分割の件はこれでコンセンサスが取れました。では第二陣のみなさん、第一陣が有事の際はよろしくお願いします!」
「はいよ。問題はその『有事』次第、ってコトだな。敵サンがどこまで考えて対策を打ってやがるかで、こっちに可能な動きが限られてくるワケだが──」
そこから先は、実際にその場へ赴いた者にしか知り得ないことである。とにかく今は、現地からの連絡を待つのみだ。
お読みいただきありがとうございます。
おはなしの中でカドックくんが触れたデータベースの公開状態周りの事情については、筆者の想像上のものとなります。
これは実際に2部6章をプレイしていた時に感じられた「ユーザーと登場人物間に開示される情報の隔たり」を取り入れたもので、おそらく藤丸たちの現地レポートにも同様の「観測情報の隔たり」がある程度影響したままデータベース化されているんじゃないか?という着想からこのような調整に至りました。
管制室で触れられた人質事件云々のくだり、オベロンはやや耳が痛いシチュエーションだったでしょうね。
次回から現地パート。本章は計五話に分割する予定です。