※Lostbelt No.6『妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ』の核心的なネタバレのほか、Lostbelt No.7『黄金樹海紀行ナウイ・ミクトラン』〜2部奏章『オーディール・コール』の一部内容に触れています。
※本作は後日、作者本人のpixivアカウントにおいても投稿予定の内容となります。
以上の事柄をどうぞあらかじめご了承ください。
「はあああっ!」
揺れる地面。軋む空間。
「──ははは!」
そこに轟く、
「──素晴らしい! さすがは音に聞こえし、妖精騎士が最強の一角。やはり先の一閃ですら、本気ではなかったか!」
声色に宿る、確かな高揚。
「なんと幸運なのだろう。これほどの技量。これほどの力量! 身をもって味わうのはいつ以来か!」
乗り出す姿勢は、さらなる剣戟を求めるように。
「そして……ああ、この感覚。久しく交わすことのなかった、骨身を震わす戦火の熱は──錆びた身体に油を差すかのようだ!」
この瞬間を賞味する、奴の昂りを表していた。
「喋る余裕があるとでも? 舌を噛むぞ。ま、僕は一向に構わないけど──さッ!」
構わず隙を突き、腰を入れて刃を流す。しかし──
「ほう!」
「──!」
──奴は難なく、真正面から受け止めた。
「(……こいつ。瞬きもせずに──)」
それだけではない。奴は身じろぎもせず、此方の刃を身動き諸共に抑えている。
「(……無理矢理の離脱は危険だ。追撃がくる)」
戦闘を開始してから、すでに三百は刃を交えた。時間にして五分と経ってはいないが、それでも互いの実力を測るには充分。此方の一挙一動の選択に対し、奴がどんな対応策を採り得るのかは予測できる。ここはひとまず、睨み合いに徹するしかないだろう。
「──すまない。つい大声ではしゃいでしまった。けれど……これでも本気で喜んでいるんだよ。私は」
それもまた、剣戟の最中に認められた事柄だった。……だからこそ、何ともやりづらい。
「……らしいね、どうも」
奴の刃に込められたものは、殺意でもなければ敵意でもない。ただ純粋に、此方の刃を受け、弾き、斬り返すという、絶え間なき応酬に対して抱かれた──『
「けれど……だったら尚更、こうして睨み合いを続ける意味はないだろう。そろそろ離れてくれないかな」
ただ、それは奴の都合でしかない。此方が付き合う義理はないし、何より、僕はひとつも楽しくない。さっさとこいつを仕留め、早々に此処から脱出し、『変な奴に声かけられた〜!』と、マスターに愚痴を聞いてもらいたい思いだ。
「寂しいことを言うんだね。私としても、そうしたいのは山々なんだ。かつては時が過ぎ去るのを待つばかりだったが、今はこの一分一秒が惜しい。お預けを命じられた愛玩動物の気分さ。……いや、この状態は自制のそれなのだから、形容すべきは他の文言になるのかな?」
なんだそれ。というか、そんな言葉選びに悩まれても。
「……矛盾がすごいな。だったら間合いを取ればいいだろう。そうすればすぐにでも斬り込んでやるからさ。というか──そんなに自慢の矛を振るいたいのなら、此処に誘うべきは僕じゃなかったろうに。それこそ矛の切れ味を
ついうっかり、あらぬ方向から愚痴の一端が漏れる──ごめん、マシュ。君のことを無駄話なんかのダシに使っちゃった。でも、半分は僕が悪いのかもだけれど、もう半分はこいつらが悪いと思うんだ。それと……ああ。そういえば、
「おお、盾ときた! うん、それも佳い。欲をかくならその御方とも是非、一度手合わせを願いたいものだ。心得ているとも。盾の遣い手といえど、守りに徹するばかりではあるまい。打撃や
「……うん?」
……何だろう、このビミョーにズレた感じは。今のはあくまで、口をついて出た『矛盾』という言葉にカケた文言でしかない。けれどアレって、打撃や投擲なんてポップなワードが踊る
「なるほど貴方の言うとおり、盾の遣い手であれば、我が矛の冴えを存分に験せることだろう。だが、此処に誘うべきは貴方であったことに違いはない。求めるものはより速く、より多くの、技を尽くした剣戟だからね。その相手が……永きを生きる竜種にして、武勇を鳴らした妖精騎士であれば──尚更というもの!」
「──!」
瞬間、互いの得物が
「──甘い!」
当然、これも予測済みの行動だった。弾きざまに速攻をかけるのは、
「ははは! 良い動きだ! ああ、判っているとも。今ので仕留められる貴方であるはずがない。なに。我がことながらいい加減、
「(──……?)」
その言葉にもまた、どこか要領を得ない違和感があった。しかしそれは、先の言葉に抱いた印象とは別のもの。
「……『名残惜しい』と言ったね。それはどういう意味かな」
そう。そんな言葉が出るということは、奴は現状が一回性のものであることを正しく理解し、
……気に食わない。けれど、此処は奴のフィールドだ。戦闘内容だけを見れば状況は拮抗しているが、僕の与り知らないうちに、空間レベルでの策を弄している可能性はある。しかし、奴の様子を見る限り──
「うん? いや、言葉のとおりさ。他意はないとも」
──少なくとも。奴の言葉自体に、偽りはなかったらしい。
「(……嘘、ではないらしいな)」
……判らない。奴の言葉は本音のそれだ。慢心も油断もない、純粋な所感。
「それに、貴方を待たせたままというのも悪いからね。小休止として挟んだつもりだったが、あの鍔迫り合いも悪くなかったよ。……やれやれ。尋常な勝負を望んだ矢先、決着を惜しむあまりにこの体たらくとは。恥じ入るばかりだ」
けどまあ、判らないものは仕方がない。頭で解決できないのなら──
「ああそう。じゃあその恥諸共に──精々矛を振るうといい!」
──この刃で、確かめるだけのこと。
「ははは! それもそうだ! ここは甘んじて──その言葉に与るとしよう!」
叫びを合図とし、互いに間合いを詰める。
「──、ふッ!」
「──! ぬっ!」
初手。刀の如く、居合いに
「はぁあああッ──!」
「──ははは!」
間髪を容れず、レイピアが如く突きの連撃で畳み掛ける。
「まだまだ──!」
次いで繰り出すは、◼︎◼︎◼︎◼︎が如く──
「(────、!)」
──放つ
「ふんッ!」
当然ながら、それはいとも簡単に弾き返され──
「(しまっ──)」
──構えを崩した上体は、容赦のない一撃に見舞われた。
「────かは、っ……!」
矛の質量に加え、僕よりも二回りは大きな体躯の持ち主による、
「──ッぐ、……!」
壁面へと激突し、たまらず呻き声が漏れた。よろめきながら半目を開き、鈍痛に口元を歪ませながら、負傷の程度を確認する。
「(……致命傷は、避けられたらしい)」
あるいは。盾の話題を持ち出したおかげで、無意識のうちに防御の観念が強まっていたのか。急所を一直線に突かれたものの、魔力で編んだ鎧が貫かれることはなかったようだ。……ただ、今のは結構効いてしまった。無理もない。身体の内側にまで及ぶ衝撃ばかりは、ガワの頑丈さでは防ぎようがないのだから。
……いや。今はそんなことを考えている場合じゃあない。急を要して思考するべき問題は、別にある。
「(──何だったんだ。さっきの……)」
猛攻の最中。どういうわけか、繰り出そうとした次の一手が──
「(──、……チッ……!)」
はるか前方。視界を覆う粉塵の先で、奴の魔力が研ぎ澄まされる気配があった。……疑問を拭うどころか、その一部にさえ思考が及ばぬままではある。しかし、このまま追撃を許すわけにもいかない。
「ふうッ──」
陥没した壁面を蹴り、奴の気配を目掛けて跳躍する。立ち込める粉塵を突破すると、その姿が視界に捉えられた。……しかし、この眼に映ったものは。
「(──……?)」
追撃を構える様子でもなく、次なる一手の溜めに努める様子でもなく──まるで何かを
「──おお、なんと! ……ええ。ええ! そう来なくては!」
だが、それも一瞬の出来事。僕の姿を認めた瞬間、奴の
「──はあッ!」
「──ぬぅッ!」
今度は技の如何に依らず、跳躍の勢いを刀身に込め、どうにか刃を重ねる。しかし……やはりどこか、此方が繰り出す攻撃にキレがない。
……なら、ここは──
「……そらッ!」
「──む!」
──加圧が適っているうちに、垂直方向へ刃を振り下ろす。攻撃の勢いに加え、互いの全体重が足元にかかり、地面が深く陥没する。魔力が弾け、直径十メートルほどのクレーターが形成されると同時に、近辺の石畳が勢いよく捲れ上がった。
「ふぅッ!」
「──!」
先の二の舞は演じない。即座に鍔迫り合いから離脱し、奴を目掛け、宙に浮く六十枚余りの石畳を弾き飛ばす。
「はああああっ!」
持ち前の高速移動による、全方位からの石の弾幕。手応えあり──九割命中、といったところか。
「────ふぅ……はぁ、っ」
咄嗟に採り得えた安全策とはいえ、さすがにこれは体力の消耗が激しい手段だった。ひと息に畳み掛けた反動で、間合いをとった途端、僅かに呼吸を乱してしまう。……反省点ができちゃったな。燃費の悪い機体運用に走るだなんて、戦闘機にあるまじき、だ。けれどまあ、これでさっきのお返しにはなっただろう。そこに免じて、プラマイゼロということに──
「──いやあ、すごいな。まさか石畳を弾丸にするだなんて。今のはさすがに不意を突かれた。着弾の衝撃でまだ鎧が震えているよ」
「(──……!)」
──しておこう、と思いかけたのに。奴は何事もなかったかのように、クレーターの中心に立っていた。
「……そっちこそ。外見どおり、ずいぶん頑丈な身体みたいだね」
「ははは。それこそお互い様というものさ。貴方こそ、佳い鎧を纏っているんだね!」
軽口を交えつつ、両鞘に魔力を流して構え直す。
「(……刀身の生成に異常はない、か)」
先の疑問点の件もあり、念のためにと意識を巡らせたが、武装と魔力循環は正常そのもの。生成された刀身はいつもと同じ、超高密度の魔力──もとい、炎によって形を成している。たとえこの腕で振るわずとも、ただ触れるだけで対象を切り裂くだろう。
「(……だとしたら。原因はほかにある──?)」
と、己がコンディションを確かめていた時。
「……その様子……ああ。ついに貴方の自覚が及ぶまでに、症状が露わになってきたんだね。であれば、やはり──先ほどのあれは……そういうことだったのか」
奴の口から、聞き捨てならない台詞が飛び出した。
「(……自覚、症状──)」
その言葉の意味するところは、もはや考えるまでもない。おそらく、先の不調のことを指しているんだろう。そして……奴がその事実を言い当てたということは。
「──何をした」
奴には、その原因に心当たりがあるのだ。
「……ああ、そうだね。確かにこればかりは、『私は何も』とは言えない話だ。意図の有無に拘らず、『私』という存在が関与していることに違いはない」
クレーターの
「すまない。せっかく得られた試合いの席に、栓なき念を混ぜては勿体無い──などと案ずるあまり、明かさぬままに刻限が迫ってしまった。……けれど、戦に冴えやる貴方のことだ。こと現状に至ってはもはや、斯様に案ずる意味もなくなった」
伏せた顔に宿るのは、先刻垣間見た翳りの色。
「ゆえに……うん。単刀直入ですまないが、せめてもの誠意として──結論から伝えるとしよう」
石畳の上で足を止め、静かに此方へ向き直り──
「貴方はもうじき──
──
お読みいただきありがとうございます。
両者奮ってバチバチな回。
矛っちの性格がなんとなく見えてきた横で、何やら不穏っぽい予兆も見えてきました。どうするメリュ子。
引き続き、お付き合いいただけますと幸いです。