※Lostbelt No.6『妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ』の核心的なネタバレのほか、Lostbelt No.7『黄金樹海紀行ナウイ・ミクトラン』〜2部奏章『オーディール・コール』の一部内容に触れています。
※本作は後日、作者本人のpixivアカウントにおいても投稿予定の内容となります。
以上の事柄をどうぞあらかじめご了承ください。
◆◇◇
騎士の問いに、『私』は答える。
「────」
返答の言葉はなかった。……ゆえに、彼女が何を思ったのかは判らない。とはいえ此方も、特に感想を求めていたわけでもない。その沈黙は必然として、この場に静寂を
「(……ああ)」
……そして、私たちは理解する。繋ぎに繋いだ問答の果てに訪れた、この静寂が──得難き
「(……実に、名残惜し──)」
などと思いかけた、その刹那。
「(──!)」
手に持つ『矛』に、突如として熱が走った。
「(──これは……)」
いや。異常なのは、それだけではない。
「っ! ……何だ──?」
彼女もまた、事態の変化に気づいたらしい。……それもそのはずだ。異常をきたしている場所は、我が手の内などという、極小の範囲に収まるものではないのだから。
「……空間全域の魔力が──『矛』に流れ込んでいる……?」
抽出に特化した空間が、その機能を放出に転じ始めた。それは、すなわち──
「……ああ。貴方にも異常の気配が伝わったようだね。どうやら──」
──この空間の担う『役割』が、果たされてしまったという事にほかならない。
「──『彼ら』の存在強度が、臨界点に達したらしい」
「…………!」
しかし……どういうことだ。ここ数十分の間、私たちは休戦状態にあったのだ。刃を交わしていない以上、存在強度の抽出源である『技』もまた発現してはいなかった。つまり、『彼ら』が抽出するべき資源の経路は、その大元から途絶えていたのだ。にも拘わらず、こうして臨界点を迎えるなど──
──まさか。
「……僕が君から話を聞いたことで、言及対象たるご同輩の『存在証明』が補完され、存在強度の増大に繋がってしまった──といったところかな。これは」
……やれやれ。どうやら此方などよりも、彼女のほうがはるかに冷静らしい。客観的にみても窮地の渦中にありながら、希望的観測にすがることも、思考停止に陥ることもなく、此方が事態を認めるよりも早く、その実情を言い当てたのだから。
「──そうか。懸念していた事とはいえ、まさか本当に、情報開示がそのまま『彼ら』のメリットになってしまうとは。休戦の姿勢を守ってさえいれば、臨界点への到達だけは防ぎ得ると考えたのだが……どうやら、此方の見積もりが甘かったらしい」
落胆を禁じ得ない。事態の停滞を目論み、二度に及んで休戦を試みたはずが、むしろ促進を招く結果になろうとは。これでは本末転倒もいいところ。滾る戦意に蓋を被せ、自制に努めた甲斐がないではないか。……こんな末路になるのなら、初めから不本意な休戦など──。
「(────)」
後悔の念が押し寄せた、その最中。『彼ら』が此方に齎した、有機的でありながら無機質な──あの宣告が脳裏をよぎる。
『──形を此処に。其は薫習を招くもの。記憶を薪に。汝は忘却を払うもの──』
……『
それはすなわち、香りが物に移し取られる様相を、事象が知らず浸透するさまに喩える言葉。現状に照らし合わせるならば、彼女から『技』を抽出し、己が存在強度に転ずるという、『彼ら』の図りし一連の事象こそが、それに該当するのだろうと……そのように思っていた。
「(──浅はかだった)」
我が身はこの空間の一部にして、存在強度の大元を汲み上げ、『薫習』に繋げるための抽出装置。端末たる『矛』を振るい、抽出源たる彼女の『技』より『縁起』を浚う実戦個体。そのように在れと定められたがゆえに、現にこうして此処に在る。
しかし。それはあくまで、与えられた
そして──『私たち』にとって、それこそが最大の盲点であり……『彼ら』の付け入る隙を生むに足る、決定的な綻びだったのだ。
「(……はは。そういうことか)」
そう。袂を分つに至った以上、『彼ら』には本来、『私たち』の固有性……すなわち、『自我』を残すという慈悲も、譲歩にかける義理も必要ない。『自我』など消し去り、己が益となる存在強度を抽出させる事のみに利用し、ただただ冷徹に、装置として使い捨ててしまえばよかったはずだ。
しかし。『彼ら』はあえてそうしなかった。……思えば、それも道理ではあったのか。潤沢な固有性を此方に残しておけば、己が一部たる『私たち』そのものを『被・観測対象』として利用でき──ただ装置として使い捨てる場合よりも、はるかに多くのメリットが見込めるのだから。
万が一にでも『私たち』が『彼ら』の実情を明かす事があれば、それ自体を観測行為と見做し得るばかりか、『存在証明』の補完さえも叶えられる。ゆえに、この身には──『彼ら』の証人にもなり得るという、秘された利用価値があったのだ。
「(……道理で、此方の望みを汲むわけだ)」
そして。漸く思考が及んだことで、『彼ら』の言葉──その続きに含まれた意味もまた、理解に届くものとして立ち現れた。
『お前たちは望みの中で──我らが悲願、その礎となるのだ』
……『己が腕を磨きたい』。それこそが、『私たち』の理想にして願望であることに違いはない。ただしそれは、あくまで平生の基本姿勢……日々に見出せし生き甲斐にして、望みの過程に対する志向性なのであって、望みの
『……では、其方の望みも受け入れよう』
そうだ。腕を磨いたのなら、高みに至ったのなら、それを
それぞまさしく、望むところというもの。ゆえにこそ、斯様な願いを抱くのだ。『ただ仕合いの中に身を投じ、己が全霊をもって、その在り方を験したい』と──
『あれと仕合えるというならば──この身も、世界も、どうなろうと構わない』
……だからこそ、と云うべきなのだろう。
「(…………そうか)」
そこで初めて、現状が孕む『彼ら』の
「(……これが、『君たち』が味わった──『絶望』の感覚なんだね)」
──あえなく『理想』が鎖される、その感覚を……筆舌に尽くすでもなく、情報に託すでもなく。実感をもって理解させるためにこそ、この身に『自我』を残すという選択をしたのだ。
「(……ああ、まったく。それほどまでに『君たち』は──)」
『彼ら』の存在強度が臨界点に達したのは、『私たち』が自らの『理想』を明かした
「(──『私たち』の在り方が……許し難かったのか)」
「(……やってくれたな、本当に)」
要するに。『彼ら』はそれが為される事と同時に、己が存在強度の臨界を迎えるようにと──此処に至るまでのすべての事象を、来るべき形に仕組んでいたということなのだ。
「! ──く、……!」
そうと気づいた時には、もう遅かった。
「(──この感じ……身動きを強制されているのか……!)」
己が全身に、声なき号令による制御が掛かる。……咄嗟に抵抗を試みるも、振り払うことは不可能だった。
すると──
「──はあ。察するに、ご同輩が待ちぼうけに痺れを切らしたらしいね。その魔力の供給量……まるで、さっさと仕上げろと言わんばかりの大盤振る舞いだ。そのまま放出を渋っていれば、君は自壊を免れないだろう。……僕が言うのも何だけど、それ以上の自制はお勧めしない」
──どういうわけか、彼女は極めて冷淡に……しかしながらに、此方を気遣う気配さえ滲ませて、現状を受け入れるかのような言葉を口にした。
「……っ……はは。そこについては、心配には及ばないよ。こと現状に至った以上、自壊なんて逃げ道を『彼ら』が許すはずはないからね。ただ……すまない。貴方の言うとおり、『彼ら』が痺れを切らしたという見立ては正解だ。どうやら──」
そう。逃れ得ない強制力を誇る、その志向性の意味するものは──ただひとつ。
「──この仕合いを……終わらせる刻が来たようだ」
どれほど惜しかろうと、終わりを望むまいと。目の前の『好敵』を、消し去る以外の路はないということ──。
「……さようなら。世にも得難き、無垢なる『技』の遣い手よ。今や為す術もなくなった貴方に対し、一方的な粛清を手向けなければならないこと……本当に申し訳なく思う」
──地に着く『矛』を掬い上げ、悔恨諸共に握り締める。
「そして……此処に来てくれてありがとう。貴方は紛れもなく──」
名残惜しさを踏み締めて、置き去るように跳躍し──
「──我らが望み、そのものだった」
──全霊を込めた一閃をもって、己が『理想』に別れを告げた。
◆◆◇
「……さようなら。世にも得難き、無垢なる『技』の遣い手よ」
思えば──初めに『
「(────…………)」
巡る疑問のスピードは、まるで走馬灯のように。迫る光の奔流を前にして、一瞬のうちに駆け巡る。
「(……僕にとっての、『技』──)」
『失って初めて、対象にかかる価値の有無に気づく』……そういう話があることは、心の機微に疎い僕でも知っている。言葉の方向性としては、単なる結果論以外の含みもあるんだっけ。たしか──何かを手放すこと、あるいは損なうことに際し、その時になって悔やまぬようにと、現在に持ち得る者を戒める意味合いがある──とかなんとか。
不思議な話だ。だって……価値の有無くらいなら、初めから判る
大切な存在。重要な概念。肝要な事象。己が外を占めながら、己が内をも占めるもの──それらの対象にかかる価値の有無なんて、明確に認められて然るべきだ。対象が平凡なものである場合も例外じゃあない。自己と対象の関係性を鑑みれば、価値への理解は容易に及ぶ。
認められなかったというのなら、それは対象の所在を見誤っていたか、認知が歪んでいたかのどちらかだろう。いずれにせよ、理解が不足していたという話にすぎない。対象自体の価値は失う以前から存在し、失ってから生じるものではないのだから。
では、失って初めて気づくものとは何なのか。……少なくともその本質は、対象自体の価値じゃあない。それよりもっと根本的で、観念以前の無垢なる『何か』。対象と自己、その境界を繋いでいた──『
価値ある対象を失ったから惜しい、のではない。『縁』を失った事が惜しいのだ。ゆえに、先の一文はこう言い改めるべきだろう──『失って初めて、繋いだ縁の形に気づく』──と。
……どうしてそんな事を思うのかって? それはもちろん──
「(────これが、僕の……)」
──こうしている僕も今、『それ』を感じている最中だからさ。
「(……ああ、憶えているとも。これは──)」
事象の境界を
けれど。
「(──似ている。空っぽの胸に奔った、あの時の
この感覚だけは、例外だった。
「(……『失って初めて気づく』、か)」
この戦いの中で、僕は『技』を失った。
「(……ああ)」
失って
「(……なんて、誇らしいんだろう)」
僕が『それ』を身につけたのは、何のためだったのか。……いや、
「(……なんて、幸福なんだろう──)」
何のためだったがゆえに──『それ』を身につける事ができたのか。
「(──ありがとう)」
如何なる『縁』の名のもとで──
「(ありがとう、モルガン陛下。おかげで僕は──)」
──『私』は、『僕』で在れたのか。
「(──『失いうるもの』を、得られたんだ)」
その刹那。走馬灯の終わりと同時に──
「……此処に来てくれてありがとう。貴方は紛れもなく──我らが望み、そのものだった」
──視界のすべてが、白一色に覆われた。
◆◆◆
光の奔流が、彼女を呑み込む。
「(──────)」
英霊が持つ『宝具』とやらに例えるならば、真名解放にも等しい魔力放出。対象の霊基はおろか、霊格を消し去ることさえ容易に叶えよう。加えて、この攻撃範囲──此処がこれほどまでの広大さを有していなかったのなら、眼前の空間すべてが削ぎ取られていたことだろう。
「…………さようなら」
眼を閉じながら、『私たち』は再び、敬意を込めて小さく呟く。『技』を失い、丸腰となっていた彼女に、この粛清を逃れる
「……役目は果たした。不服が無いと言えば嘘になるが、こうして望みも叶えられた。……ああ。充分だとも」
光が細く収束し、天井高くへと消え入る感触が伝わった。それを認めたのち、静かに開いた眼に映ったものは、地中深くにまで抉り取られた石畳の残骸と──
「なんだ。もう満足しちゃったの?」
──青白い炎を鞘に宿した、凛然たる
「(────、────)」
──これは……都合の良い幻覚か?
「やれやれ。あれほど粘ってみせたわりに、ずいぶんと諦めるのが早いんだね」
……いや。幻覚などではない。
「はあ。それはちょっと、ガッカリしちゃうな」
膨大なる魔力を
「僕がせっかく、
──紛れもなく。今、此処に在る質感なのだから。
「(…………
だからこそ、余計に理解が追いつかない。
「(あの一撃を、どうやって──)」
為す術を失ったはずの彼女が、なぜ……何事もなかったかのように、今もこうして立っている──?
「うん? ……ああ。もしかして、僕が無事なことに驚いたのかい? それは心外だな。あれで勝った気になるだなんて、見当違いも甚だしい」
「…………あ……え────?」
おや。これはもしかして、『私』はいま……彼女からお叱りを受けているのか?
「……まだ混乱してるみたいだね。それはとても困るな。僕をガッカリさせた事について、今すぐ君からお詫びの言葉が欲しい気分なんだ。だからほら、早く平静を取り戻してくれないかな?」
「……あ──ああ。す、すまない──」
いや、そうじゃなくて。
「と、いやいや待ってくれ。言葉が欲しいのは此方も同じなんだ。どうやって……貴方は今、どうやってあの一撃を凌いだんだ──?」
そうだ。『技』を持ち得ぬ今の彼女にとって、先の広範囲にわたる一撃を相殺することはおろか、避けることすら不可能だったはずなのだ。だというのに──彼女の身には、新たな傷はひとつたりも見当たらない。ゆえに、己が耐久力に身を任せ、真正面から受け切ったとも考え難い。
──つまり。
「どうやって、って。そんなの決まっているじゃないか」
『技』を用いず、回避も為さず、その身で耐え切ったわけでもないとすれば──
「
──ただ単純に。此方の一撃が、彼女の刃に捌かれていたという事なのだ。
「(──そんな、ことが──)」
……あり得ない。この空間においては尚更に、だ。なぜなら、それがただの『構え』であったとしても、遣い手が防御の効果を
それでもなお、現状に別の仮説を挙げるのなら、あとは得物自体が持つ強度のレベルが──などと展開したいところだが、それもおよそあり得ない話だろう。あれほどの魔力放出を真正面から受けたのだ。如何に優れた得物であろうと、遣い手の『技』を介さずしては、到底無傷ではいられまい。
しかし。その疑問の答えは──
「信じられないかい? 単純な話さ。わけあって失念していたんだけど、僕……いや。私は本来──
──到底、想像に及び得ないものだった。
「…………『技』を、意識する必要がない──?」
理解が追いつかないあまり、思わず声に出してしまう。……無理もない話だろう。それは如何に思考を巡らせようとも、容易に計り知れる事柄ではないのだから。
「正直、僕もうっかりしていたよ。少なくともこうして失念なんてしちゃうくらいには。さっき……と言っても、もう数時間は前になるのかな。バーゲストとやり合った時の姿勢が尾を引いたらしい。魔力吸収現象の対策として、僕が僕自身に課した──『この特異点での竜形態換装は禁止』という制限がね」
彼女ら一行を招き入れた直後の経緯は当然、『私たち』にも共有がなされている。左舷客室群の異界化空間における、『彼ら』が図りし奸計──すなわち、妖精騎士の同士討ち。その最中に放出される、彼女の内に宿る資源……『竜の炉心』の魔力を汲み上げ、この艦の動力に利用するために展開された一戦だ。
「竜の姿に成れないのなら、騎士の姿で戦えばいい。言ってしまえば単なる縛りプレイだ。制限には違いないけれど、戦う手立てが無くなったワケじゃない。それ以上でも以下でもないと──そう思っていた」
妖精騎士を手にかけた妖精騎士は、殺めた相手と共に滅ぶという。その『理』がある以上、たとえ同胞の鎮静が目的であれ、無闇に傷を与え合うべきではない。さりとてその同胞も、防戦一方で敵う相手ではない。そのうえ状況は、絶えず魔力を汲み上げる『法則』の只中にあった。ゆえに、己が魔力放出を最小限に抑えるため、彼女は騎士の姿を貫く必要に迫られたのだ。
──しかし。
「けれど。この空間においては、それが大きな間違いだったと気付かされたよ。……騎士の姿を貫く以上、騎士たる僕としての『技』をもって戦うことになる──僕は別段、その本質を深く考えることをしなかった。そして、その中にこそ、失って初めて気づくものが……感じられる『意味』があった」
彼女にとって、その制限は──
「かつての『僕』が
──期せずして、或る気づきを齎す結果になったらしい。
「……もちろん、かつての僕が『そう』と認めていなかった、というワケじゃあない。なにしろあれらの『技』は、その一念で身につけた記憶なのだから。けれど……此処に来て再び、『そう』だったんだと感じられた。本来の『私』では持ち得なかった、後天性の『技』に繋がれた『縁』の輪郭を。この欠落を受けてこそ──もう一度、実感する事ができたんだ」
……それは紛れもなく、ひとつの『縁起』の形を成していた。持つがゆえではなく、失ったがゆえに認められる『何か』が在った──これはもはや、皮肉な話でも何でもない。彼女の語る対象は、そんな次元を優に超越したところに在る、余人には侵しようのないものなのだから。
と──いや。斯様な物思いに
「……あれらの『技』の数々は、本来の『貴方』では持ち得なかったものだ──と言ったね。……それはどういう意味かな?」
驚嘆か、あるいは興味の類か。己が抱きし感情、その自覚も及ばぬままに──『私たち』は遠慮を排し、眼前の『騎士』に問いかける。
「どうって、言葉のとおりだとも。この空間に限っては、騎士として身につけた『技』だけが、僕の有する『失いうるもの』だったという話さ。本来の『私』にとって、それは望むべくもない、縁遠き対象であったがゆえにね。……その点でいえば、『騎士たる僕』から『技』の記憶を汲み上げるという、其方のご同輩が下した判断は──そうだな。
────それは、つまり。
「…………まさか────」
微かな期待が、この身を震わせる。
「ふふ。気がついたみたいだね。言っただろう? 僕はこと戦闘において、『技』を意識する必要はないんだ──ってさ」
視線の先には、不敵に笑う騎士の姿が。
「──いいかい。『技』という観念は、意識のうえで形成される表象なんだ。本来の『それ』は『現象を齎すもの』であり、そこへ『技』という名を付けたにすぎない。ようはフレーミングの一種だね。意思あるものがそのように認める為の、便宜上の『形』というワケだ」
……ああ、そうか。
「意識のうえに成り立つものである以上、それは同じく意識活動の典型たる、記憶の回路に紐づけられる。その『形』を覚えている限り、何度も何度も、繰り返し用いられるように。幾つも幾つも、新たに憶えられるように」
……先の感情の正体は、これだったのか。
「だからこそ、『彼ら』は此処で……僕が後天的に身につけた、騎士たる自意識に紐づいた『技』を──その記憶を、汲み上げることができたのさ」
……は。ははは。ああ、なんてことだ──
「…………では。では貴方は、今も────」
……『名残惜しい』など、とんでもない。
「うん、そういうコト。僕が此処で失ったのは、後天的に『そう』と意識して身につけた、騎士としての『技』の記憶だけ。つまり──」
どうやら此方は、とんだ見当違いをしていたらしい。なぜならば──
「──繰り出す事象に意識は介さず、機能の結果として現象を齎す……戦闘機たる『私』本来の性能は──騎士の姿であったとしても、失われることなく健在なのさ」
──彼女本来の戦いは、始まってすらいなかったのだから。
「…………!────」
直後。眼前の騎士……あるいは、戦闘機たる彼女を中心に──爆ぜんばかりの魔力が
「──ああ、そうそう。せっかくの機会なのに、期待に応えてもらえないのは困るから……念のため、僕がその気になった理由を伝えておくよ」
青き炎を宿した両鞘が、気高き騎士の刃なら。
「
鋭く見据える眼光は、獲物を捉えし竜のそれか。
「……君は僕に、 『なぜゆえ今なお、此処に在る』と問うたね。それも今、答えてあげるよ──」
──ああ。そういえば、『私たち』が彼女に投げかけた、あの問いの答えは聞けず仕舞いだったんだ。
『──ゆえに問うのだ。忘れ得ぬ者を、忘れ得ぬまま記憶に抱きし貴方が。その者を欠いては本来、在り得ぬはずの貴方が。そうして個たる形を成し、別の想い人さえも見出して……なぜゆえ今なお、此処に在るというのか──』
……問うた動機は単純だ。つまるところ『私たち』は──個たる在り方を手放した同胞と、彼女の在り方を重ねることで、同胞の選択を……その理由を、僅かにでも垣間見ようとしたのだ。
『理想』そのものたる存在を失ってもなお、いまに在らんと志す彼女。
『理想』を失ったことで、いまに在ることを手放さんとした同胞。
両者の選択を分かつに至ったこの差は、いったいどこから来るものなのか──と。
……とはいえ、今となってはもはや、彼女が言葉を尽くすまでもなく。問いの答えに代わるものは、もう充分に得られていた。
「──
しかし。
「かつての己が抱いた『理想』を、その記録を持って
それでもなお、彼女は答えた。いや──儀礼をもって、答えてみせたのだ。
「いまに在る『私』は、かの國を生きた『私』の証。新たな縁に結ばれながら、かつての縁をも繋ぐもの。その境界を守るためにこそ──僕は今、此処に在る──!」
翳りなど微塵もない、純粋無垢なる『
「……と。そういえばまだ、此方の名乗りを済ませていなかったね。独り名乗らせた非礼を詫びよう。騎士の礼に則り、此処に改めて宣言するよ」
──期待が溢れる。
「この身は境界の守護者。機体の
──鼓動が高鳴る。
「──我が名は『妖精騎士ランスロット』。借り受けた円卓最強の音に偽りなく、真実、妖精國最強を謳われし存在なれば! 如何なる略奪に見舞われようとも、この
……ああ。
「──さあ、来るがいい。『君たち』の望みを叶えてあげよう。腕に覚えがあるというのなら、その在り方を。『理想』の成果を、存分に示してみろ!」
やはり、貴方こそは──
「……なに、退屈なんてさせないさ。『君たち』は実に運がいい。なぜなら、こと戦闘において、他所の『水瓶』のいずれにも──僕を凌ぐ
──我らが『理想』、そのものだ。
お読みいただきありがとうございます。
さすがは最強竜種っ娘! な回。
案の定一万字を超えてました。長いの続きですみません。
本章はもう少しだけ続くのです。
奏章Ⅲ、前編読了。バリバリ型月な世界観で超楽しいですね!
いよいよ明日が中編配信という。ぼちぼち進めてまいります。
引き続き、お付き合いいただけますと幸いです。