望郷漂流客船イナバマル 祝福された後継   作:qlo

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※Lostbelt No.6『妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ』の核心的なネタバレのほか、Lostbelt No.7『黄金樹海紀行ナウイ・ミクトラン』〜2部奏章『オーディール・コール』の一部内容に触れています。

※本作は作者本人のpixivアカウントで先行投稿済みの内容となります。該当アカウント各話のキャプションにその旨の明記あり。

以上の事柄をどうぞあらかじめご了承ください。





絶海にて【三】

 

 

 ◆

 

 

 

 かくして、特異点現地からストーム・ボーダーへ待望の通信があった。

 

 先のマシュによる口頭説明から間もなく、現地到着から通信直前までの行動記録の詳細なデータが送られ、管制室の面々が目を通している。

 

「妖精國寄りの行動は無効になるばかりか、魔力までもが吸収される環境だと……?」

 

 落ち着きを取り戻したゴルドルフ司令官殿が、消化しきれない報告内容を反芻する。

 

 無理もない。先ほどまで僕らが管制室で内密に検討していた懸念事項よりも、はるかに対象範囲の広い妨害工作が仕込まれていたのだから──もはや懸念すべきは、モルガン率いる妖精騎士の連鎖的破滅に限った話ではなくなった。それ以前の問題として、『妖精國の存在』である時点で身動き自体が取れない状況にあることが判明したのだから。

 

「チッ……やっぱりそういう路線で仕掛けていやがったか」

 

 と、クー・フーリンは厄介この上ない現状を心底鬱陶しがってみせた。

 

 しかし、こうも早期に露骨な妨害工作の存在が明らかになったのは、見ようによっては僥倖と言えるだろう。そこはさすが、魔術の大天才──女王モルガンの手腕といったところか。現地に到着して間もないタイミングで、致命的な罠の発動条件を看破してみせたのだ。これがもし、戦闘が始まってから判明していたならば、即座に対応することは難しかっただろう。

 

「魔力吸収の発動条件に抵触しない活動とかはできないの、バゲ子?」

 

 裏を返せば、そういう話にもなるだろう。

 

 妖精國由来の霊基を持ちながらも、モルガンは汎人類史に寄せた魔術行使が可能だったようだが……しかしこれには、明らかな問題がある。

 

「貴様は満足に動かぬ肢体で舞い踊れと言うのか? 誰もがモルガン陛下のようにはできんのだ」

 

 というコトである。さすがに、モルガンの所業は万人向けの参考にはならないだろう。

 

「マジか……モルガンにはできるんだ……」

「いいかいアルトリア、よく聞いて。むしろ僕らの中じゃ、それができるのはモルガンぐらいしか居ないんじゃないかなぁ。ほら、『汎人類史の在り方に寄せた魔術』なんて芸当を、現に彼女は披露してみせたそうじゃないか。まさか、もう忘れたのかい?」

「うるさいなぁオベロン! そんなコトわざわざ言われなくたって……!」

「まあまあ、二人とも!」

 

 と、通信越しに藤丸の仲裁が入った。

 

 さっきまで彼らのことを過剰戦力とか言っていた自分が言うのも何だが、こんな調子で大丈夫だろうか。この二人からはどことなく、藤丸と同じ類いの空気を感じる気がするのだ──なんかこう、なんとかトリオとか名付けられそうな感じの。

 

「ノウム・カルデア所属のサーヴァントとして現界している今、ある程度は彼女たちも汎人類史側の存在に看做されるとはいえ、彼女達の技能は妖精國で身につけたものだ。依然として、中身は妖精國成分のほうが多くを占めていることに変わりはない。個別に発動しているデフォルトの魔力吸収の程度に関わらず──妖精國メンバーによる魔力行使は、最大限に警戒したうえで慎重に行う必要がありそうだ。……この件については、こちらから遠隔で対処することは難しい。どうにかそちらでも、活路を見出してくれたまえ!」

「要するにほとんど詰んでいるんじゃないかね!」

 

 ゴルドルフ司令官のお手上げボイスが響く。だが、その様子を見て『情けない』と蔑む者などいまい。実際に、第一陣の妖精國メンバーの現状はお手上げというほかないのだから。

 

 妖精國メンバーの中で唯一、対抗手段を見出しうる可能性が高いモルガンはその反面、最も行動を抑制される要因──バーヴァン・シーを人質にとられたという弱みを抱えている。そのため、彼女らは現状のままではどうあっても、万全の能力を発揮することは叶わないのだ。

 

 ゆえに、今の第一陣に与えるべき作戦指示は、待機・撤退を除いてひとつのみだっだ。

 

「ええい! 藤丸! キリエライト! これまで同様、君達がメインで捜索するほかないぞ! 同行サーヴァント──妖精國出身の四騎は、現状打破の見込みが無いうちは基本、魔力の伴う行動を控えるように!」

 

 有無を言わせぬ勢い、それでいて的確な指示が、ゴルドルフ司令官から投げられた。

 

 ……そうだ。マシュと藤丸は、そもそもツーマンセルで『七つの特異点』に臨んでいたんだったな。現状における妖精國メンバーの存在がプラスになるもマイナスになるも、彼女ら二人次第ってことだ。

 

 いまさらに思うが、この状況以上にデタラメないくつもの特異点を、アイツ──藤丸が中心となって解消してきたという事実が、嫌というほどに見せつけられている気分だ。その道程がいかに困難なものだったのか──今回の状況に直面する様子から、その片鱗が窺えるようだった。

 

 僕は改めて、マシュの目の前で藤丸に対して言い放った言葉を思い出す。こうした状況のことを指して豪語してみせた──『僕にだってできたはずだ』という、あの言葉を。

 

 カドック・ゼムルプス。お前は、そんな馬鹿げたことを何度もやってのけた後輩を前に、いったい何をしている。後方支援役として思いつく仕事がないのであれば、発破のひと声でも掛けてやればどうだ。

 

 ……よし、ここはひとつ──って、あれ。

 

「ふう……まったく、現地組の第一報がいいニュースだった試しがないのではないか?」

「今回の特異点の脅威判定からしても、これぐらいのことは起きて当然だと考えるべきじゃないかな──そういえば、さっき内密に話していた懸念点については、結局彼女達には伏せておいたけれど……良かったのかい?」

 

 ────。

 

「うん。あのときの再演を警戒するように──なんて伝えたところで、モルガンには挑発としか受け取られずに『現界が苦になったか?』とか言われてデッドエンドだし。妖精騎士に対しても、いたずらに不安を煽るだけだったと思う。特にバーゲストは……ほら、ね。それに──モルガンはきっと誰よりも先に、このことには思い至っていたはずだから」

「だろうね。いやぁ、それにしてもやってくれるねぇ。どこの誰だか知らないけどさ」

 

 ……もう切れてるじゃないか、通信!

 

  必要最低限の報告が済んだとはいえ、彼女らのあの窮地に対して、こうもスッパリと切り上げてしまって良かったのか? もっとこう、綿密にあれやこれやと対策や言葉を、

 

「ふう──あれ、どうかした? カドック。 そんな風に手も目も口もぱくぱくさせて。まるで水中の酸素濃度が薄くなって、海面へ必死に逃れてきたボラのようだよ」

 

 と、そういえばしばらく管制室中央から離れていたキャプテンに、側から見れば明らかに挙動不審だったであろう痴態を見られてしまった──顔が熱くなる。穴があったら入りたい──ウツボのように。あるいはチンアナゴのように。

 

「あ、いや。あの状況に置かれたアイツらを確認しておきながら、随分と手短に通信を済ませてしまうんだな……と思ってな。てっきり、もう少し時間をとるものだと考えていた」

「ああ、そういうこと。何か訊き忘れたことや、言い忘れたことでもあったの?」

「……ま、そんなところだ。意外とそのあたりはドライなんだな、アンタら」

 

 本音を吐露しつつ、僕は答える。と、

 

「なぁ~にがドライなものか! ここから大変なのは我々もなのだよ、ゼムルプス!」

 

『これだから素人は!』と言わんばかりの語気でもって、むしろこちらが叱責されてしまった。

 

「そうだよ~カドック。現地が混沌を極めていればいるほど、後方支援組の解析シークエンスは複雑化する。それに比例して、現在から数時間先までの状況予測・分析を怠るわけにはいかない……のに、立香ちゃんときたらいつも、新たな通信のたびに──こちらの状況予測をあらゆるベクトルで超えた現地リポートをプレゼントしてくれるのさ!」

「つまり! 奴らの動向など心配するだけム・ダ! どうせその心配などはるかに超えた状況を、謎のラックで自分から作り出してみせるのだからな!」

 

 ……なるほど。だんだん腑に落ちてきた。これ、一周して心配しなくなった的なやつだ。

 

 もちろん、彼女らが無事に帰還することを願っている以上、人並み以上に心配はしているという理解で間違いはない。ただ、作戦時にそれを改めて認識するという段階が、彼らの中ではより高次な何かに置き換わっているのだ。

 

「と、二人の言うとおりだ。わかるかい? カドック。僕らは仲間の心配もそこそこに切り上げてしまったワケじゃない。これは、『彼女達を心配する程度の気持ちで構えていたら、彼女達が切り開く状況に対応が追いつかない』からこその距離感なんだ」

 

 ゆえに彼らは、たとえ不明点にまみれた敵地であっても、二人を信じて送り出すのだ。それはおそらく、ここに居る彼ら司令部メンバーの様子からして、マシュと藤丸も承知している──これが、熟練のチームワークというべきものなのだろう。

 

「そう。だから私達が徹するべきは──彼女達が戦況を切り開くことを大前提とし、その先に迎える好機をブーストしてあげること。情報、アイテム、魔力リソース、何でもいい。その好機に必要な一手を、現地に送り届けられるよう、全力で調整することなんだ」

「今回の場合はそのひとつが俺ら、第二陣ってコトになるんだろうな。幸い、現時点であの特異点に仕掛けられた罠の効果は割れている。あとは必要なタイミングで、必要なポイントにどう合流するかってワケだ。そこんトコ、よろしく頼むぜダ・ヴィンチ!」

 

 ──マシュや藤丸達にとって、この場にいるクー・フーリンは『特異点・冬木』からの縁者であり、何気に最古参のベテランサーヴァントでもある。その彼をしてこの様子とあれば、どうやらこれが彼らの平常運転ということらしい。

 

「まっかせて! レイシフト開始からさっきまで、先手を許してしまった悔しさのあまり、ひと言も会話に混ざらず解析シークエンスに分割思考をフルドライブさせていたキャプテン同様──完璧の称号をほしいままに、後方支援を遂行させてみせるとも!」

「そういうの言わない約束でしょ、ダ・ヴィンチ」

 

 と、やや恥じらい気味に言うキャプテン。

 

 そうか。ネモ・シリーズは総動員で解析作業に注力しているんだったな。どうりで、キャプテン含めた彼らネモの声が聞こえてこなかったはずだ。

 

「まあ、そういうわけだから。マリーン達をはじめとした作戦時の主要シリーズは全員、ここでカンヅメなんだ。ボクもまたすぐに彼らと合流する。現地からの通信がない限り、キャプテンとして納得がいく理論構築に仕上がるまでは詰めているよ」

「本当はその辺、私の管轄なんだけどねえ。まあそこは、雪辱を果たしたがってるキャプテンの顔を立てることにしよう──よし! それじゃ、次の通信に備えるよ!」

「奴の通信は津波か何かかね?」

 

 ああ、色々と納得だ。

 

 アイツだけじゃなく、アイツに負けず劣らずのお人好しがこうも揃っているからこそ、今の今まで、やってこられたんだな。 

 

 

 






お読みいただきありがとうございます。


本作はこのように、『特異点現地』と『ストーム・ボーダー』双方でそれぞれ事態が展開する構成になっています。事件は会議室でも起きている。

とはいえ、交互にせわしなく視点が切り替わるような頻度ではありません。比重を置く時はドシっと描写してパス、という感じですね。ただでさえ謎解き(?)風味な語りなので、大枠自体はパキパキ進めたい。

次回から特異点フィールドワーク開始。
引き続き、お付き合いいただけますと幸いです。
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