※Lostbelt No.6『妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ』の核心的なネタバレのほか、Lostbelt No.7『黄金樹海紀行ナウイ・ミクトラン』〜2部奏章『オーディール・コール』の一部内容に触れています。
※本作は後日、作者本人のpixivアカウントにおいても投稿予定の内容となります。
以上の事柄をどうぞあらかじめご了承ください。
◆◇◇◇
──ソールズベリー滞在期間、三十八日目。
「おはようございます、シルキーさん。休暇はとっておられますかな?」
午前中の作業に区切りをつけ、お昼休みに入ったころ。今週もいつものように、オーナーさんが様子見がてらお越しになっていた。
「おはようございます、オーナーさん! ちょうど今から昼食にするところです。ご一緒にいかがですか?」
「ありがとう。では、飲み物だけよばれようかな」
「はい!」
軽食とふたり分の紅茶を用意し、台所から事務室に移動する。お互いに椅子へ腰掛けて、平和なランチタイムと洒落込んだ。
「ああ、そうそう。先日いただいたピクルス、おかげさまで好評のようですよ。店の者がいたく気に入り、臨時のメニューに採用したらしくてね。お客様間でもたいへん評判だとか」
「わあ、本当ですか! それはよかったです!」
ウィールドさんと採取した大量の山菜。そのほとんどはピクルスに加工して、オーナーさんが抱える飲食店に一部、内々でお譲りすることになった。毎週のように品質チェック用のバゲットをお裾分けしてもらっているので、そのお礼を兼ねてのものである。
「それはそうなんですがね。昨日、『うちの調理師として派遣してくれ!』なんて言われてしまいました。『彼女はそのような契約で雇っていませんから』と丁重にお断りしましたが、なかなか諦めてくれなくてね。『材料なら採ってくるから、そっちで加工だけでも頼めないか』と食い下がる始末です。……私も彼らと同じ妖精ながら、あの底なしの好奇心には参りますね。まったく……」
おや。いつになくお疲れのご様子だとは思ったけれど、其方ではそんな押し問答があったのか。
しかし、そういうお話なら。
「あの。材料を用意してもらえるなら、私はいつでもお作りできますよ。オーナーさんと店主さんさえよろしければ、ピクルスの仕込みを承りますが」
「えっ。本当に?」
「もちろん! ピクルス作りは私の趣味のひとつですから。素人の身から本業の方にお譲りするのは恐縮ですが、それでもよろしければ」
私の知るレシピはもともと、設備の乏しい野営時にも作れるようにと、マーガレットさんが考案してくれた簡易的なものだ。工程自体はさほど難しくないし、趣味の延長線上に人助けまでできるなら、まさしくお安いご用である。
「……わかりました。シルキーさんがそうおっしゃるなら、店の者にもそう伝えましょう。ただし、無茶な量はお断りする方向で。いくらご趣味のこととはいえ、業者レベルの注文となれば話が変わる。プライベートに差し支えのない範囲でお願いします」
「わかりました!」
バゲットの返礼品として作る限りは、金銭のやりとりが発生することもない。妖精國において食事は基本的に必要がないため、オックスフォードの菜食主義しかり、飲食法の類も妖精さん基準で敷かれていると聞く。オーナーさんも問題視をしていない以上、ひとまず心配はいらないだろう。
──私が昼食を終えたころ、オーナーさんは次の話題を切り出した。
「物騒なニュースがひとつ。かねてより戦火の兆しが見えていた『シェフィールド』が昨日、とうとう陥落したようです」
「はい。今朝、常連さんから伺いました。『女王軍が出陣し、たった一夜にして焼け落ちた』──と……」
開戦から終戦までの速度はもとより、『女王軍』が派遣されるほどの内紛事案であった事には驚いた。一都市を丸ごと壊滅させることも厭わない姿勢から、事の深刻さが窺える。
「……無理もありません。『女王軍』のみならず、三名の『妖精騎士』全員までもが粛清に参じたのです。一時は『牙の氏族』の長の座を争ったボガード公をもってしても、一堂に会した彼女らに太刀打ちなどできるはずもない。この場合はむしろ、戦が長引かなかった事がせめてもの幸運でしょう」
──『妖精騎士』、全員……。
「(……『ガウェイン』さまも、あの日見た『ランスロット』さんも、シェフィールドに──)」
目の当たりにした境遇こそ違えど、両者の驚異的な戦力には覚えがある。あの二名が出陣し、粛清の王命に従ったのだから、都市のひとつくらい、一夜のうちに落ちてしまって不思議はない。戦に疎い私でさえそう思えるほどに、『妖精騎士』の強力さは常軌を逸しているのだ。
「(……)」
私はあの日、『ガウェイン』さまに救われた。モースをいとも容易く撃退なさるほどのお力は、誰かを護ることのみならず、誰かを誅することにも転じるというわけか。
「ボガード公に致命傷を与えたのは、『妖精騎士・トリスタン』様であったとの噂です。他の二名を差し置いて、よもやあの御仁がそれを為そうとはね」
──『妖精騎士・トリスタン』さん。三名のうち残るおひとりは、そのような名の御方らしい。
「……『牙の氏族』の首領級を屠ってしまえる力を、かの御仁がお持ちだったとは驚いた。しかし、真正面から仕掛け得たとは考え難い。直接的な戦闘では無類の強さを誇る公を下したとなれば、それに勝るほどの何か、間接的な手段を用いたとみるべきでしょう。女王陛下肝入りの後継者であらせられるという話も、いよいよもって本当だというわけですな」
……『後継者』……それはつまり、次代の女王陛下となるべき御仁であるということか。
「ともあれ、すべては終わってしまった事です。都市ひとつを巡る情勢の行く末は気がかりですが、此方はこちらで考えるべき事がある。……シルキーさん。午後はどうか、当庫の顧客リストのうち、現所在がシェフィールドと記された者の洗い出しをお願いします。彼らは全員、もう此処を訪れる事はありませんので」
──それは、つまり。
「……わかりました。洗い出しが終わり次第、『寄託管理庫』にある彼らの該当項目は、『処遇検討品』に移行しておきますね」
「ええ。よろしくお願いします」
……どうりで、今日のオーナーさんの顔色が優れないわけだ。都市ひとつが落ちたとなれば、犠牲となった現地の住民さんのなかには、此処の顧客が含まれていてもおかしくない。要するに彼は今、その方々と交わした『契約』の如何に思い悩み、自らの『目的』の綻びと向き合われている只中なのだ。
「──オーナーさん。どうか、気を落とされませんよう。持ち主の方々が居なくなったとしても、預かったお品物は此処に健在です。このひと月にあった数例のように、代理の引き取り手や、新たな譲渡先が見つかる可能性は残されています。彼らとの契約は、まだ生きているのです」
今の私が、彼にしてあげられる事はひとつ。損なわれかけた彼の『目的』を、少しでも見定めやすくできるよう、言葉を尽くして示すこと。不安を取り払えば、自ずと視界も晴れるだろう。
「だから、ご安心ください。私のほうでしっかりと、今件の処理は進めておきますので」
──淀みの所在を探るように、濁りの原因を捉えるように。私は慎重に意識を巡らせ、彼の不安要素を見定める。……誰かに対し、意図的に『払拭』を試みるのは、この瞬間が初めてだ。
「(……上手くできるといいんだけど)」
……『妖精國外の人間であることが露呈しかねないから、この事実は秘密にしておくように』という、ウィールドさんからのアドバイスに従い、山菜狩りの日以来、私は自身の『起源』のことを誰にも明かしていない。不誠実な感は覚えるものの、私たちにとってそれは必要なことだった。
でも、今はそんなことを案じている場合じゃない。何よりもまず、目の前の彼のことを考え、私にできることをやらなくちゃ。
「……ええ、そうですね。そのとおりです。……ありがとうございます、シルキーさん。おかげでかなり、気持ちを落ち着かせることができました」
オーナーさんは表情を和らげて、今の今まで手に付けずにいた紅茶を口にする。……よかった。彼から醸し出されていた『淀み』の気配も、先程までよりずいぶん薄くなっている。
「(……致命的な症状ではなかったとはいえ、今のオーナーさんは少なからず、『モース化』の兆候を見せかけていた。このぶんだと、またいつ不安定になられるかも判らない。しばらくはこうして、定期的にお話を伺う習慣をつけてみよう──)」
──と、今後の方針を密かに決めていた矢先。
「はあ、はあ……、おーい! 誰か居るか!」
倉庫入り口のほうから、息を荒げて呼びかける──フェノゼリーさんの声が響き渡った。
「(フェノゼリーさん……? 何を慌てておられ──)」
そういえばあれ以来、彼が『資材集積庫』に訪れることはなかった。本来ならひと月に二度は此処に通われるとのお話だったから、不思議に思ってはいたのだけれど……あの慌てた声色を聞く限り、そのぶんお仕事が溜まっているのかもしれない。
「……! まさか──、すぐに向かいましょう、シルキーさん!」
「──え? は、はい!」
しかし。私の想像とは裏腹に、オーナーさんはより事態の緊急性を感じておられるようだった。私は呼びかけに応じ、彼のあとをついて走る。
……嫌な予感がする。
「ああ、オーナー、シルキー! ふたりとも居たんだな。大変だ、聞いてくれ──」
そうして。駆けつけた私たちが、眼を血走らせるフェノゼリーさんから聞かされたのは。
「──ノリッジが……ノリッジが、見捨てられちまった……!」
「────え?」
およそ信じ難い、我が耳を疑うようなお言葉だった。
◆◆◇◇
「……さて。ノリッジで何があったのか、聞かせてもらえますかな。落ち着いて、ゆっくりと」
此処は右室群、『資材集積庫』の一号室。あのあともしばらく錯乱気味だったフェノゼリーさんを案内し、息が整うのを待ってオーナーさんが問うた。
「……ああ。さっきは取り乱しちまってすまん。しかし何から話したモンか──とにかく、ノリッジがヤバい状況ってのが話の大枠だ。向こうで色々あったあと、居てもたってもいられず此処に来たんだよ」
フェノゼリーさんは資材の丸太を椅子代わりに腰掛け、お顔を片手で覆いながら話し出す。
「……少し前から発生していた、『厄災溜まり』の件だ。ウチの領主はあろうことか、その脅威からノリッジを見捨てる判断を下したってんだよ」
──────は?
「──な、……それは確かな情報なのか? 住民たちが悪質な噂に翻弄されているのではなく?」
「誇張でも何でもねえ、事実ありきの情報だよ。……現にノリッジじゅうに避難勧告が出されて、上の連中には『金庫城』への退避命令が敷かれてる。住民たちは表面上いつもどおりに生活しているが、公私問わず大きな事業は止められて、水面下じゃもう都市仕舞いの雰囲気だ」
……うそ。でも──
「待ってください。『厄災溜まり』については、女王陛下が直々に対処なさるものと聞きました。避難勧告というのはただ、その影響に備えよという意味ではないのですか?」
──そうだ。私はウィールドさんから先日、『厄災に関わる案件は、女王軍を挙げて解決を図るのが通例だ』と伺った。つまり、領主さんは本来、己が治める都市の方針は定めても、『厄災』そのものへ直接的な対処を採る立場にはない、ということになる。
……そう考えれば、フェノゼリーさんが見聞きしたという都市の状況も、まだ『見捨てられた』とは言い切れないもののはず──
「──そうか。お前も知ってたんだな、シルキー。……『厄災』への通常の対処についてはそのとおりだが、領主の魂胆は違う。アレは避難勧告とは名ばかりの、自分の立場と責任を示しただけのアピールだ」
──アピール?
「……領主直轄の衛兵が話しているのを盗み聞いたんだよ。『スプリガン様はノリッジを見捨てるおつもりだ。この期に及んで、罪都キャメロットへの進言がまだらしい。……金庫城の中だけは厄災の脅威を凌げるから、俺たちも早いとこ、私財をまとめて逃げ込もう』──『しかし、酷な話だな。住民たちが都市から離れる気は無いと知ったうえで、避難勧告は済ませたという既成事実だけは作るんだから』……ってな」
────、────。
「……愚かな。領主ともあろう者が、都市と住民を見捨てるだと? それも、自らは私邸たる『金庫城』に逃げ込み、肥やした私腹のみは守るつもりで居るなどと……きな臭いにも程がある。領主の立場から両者を天秤に掛けるなら、領地領民の保全を最優先にするべきところだ。彼の採る姿勢を聞く限り、まるでそれらを失っても構わぬとでも言いたげではないか」
……『金庫城』。その造りはモースをも寄せ付けないと云われ、ノリッジ内はもとより、妖精國でも随一の堅牢さを誇るとされる建造物だ。そこならば確かに、『厄災』の脅威を凌ぎ得るとしてもおかしくはないだろう。
「『厄災』のどさくさに紛れ、領地領民の壊滅に見出せるメリットなどそう多くはあるまい。おそらくその魂胆は、領主という立場を逆手に取った利権の清算だ。住民間で交わされた現行の『契約』を、不当に放棄しようとしている……といったところでしょう」
オーナーさんは憤りを露わに、ノリッジ領主の方針を訝しむ。物件と利用者との『契約』に重きを置く彼にとって、それは当然の姿勢だろう。
「『スプリガン』がノリッジの領主になったのはここ百年の話です。鍛冶場街として本格的に都市を興すにあたり、不動産関係には手広く介入があったと聞く。そして、その主な相手は『土の氏族』だ。職人気質な彼らはとりわけ、職場兼居住地への執着が強い。たとえ『厄災』が降り掛かろうと、退去するという選択肢は最後まで採ろうとはしないでしょう。フェノゼリーの話が事実であれば……彼はそれを承知のうえで、今回の方針を取り決めたというわけか」
…………なに、それ。
「(……それが本当だとしたら、いくらなんでもひどすぎる。そんなの完全に詐欺じゃない。妖精さんたちの純粋さにつけ込んで、自分は裏で秘した本懐を遂げようとするなんて。それじゃあ、まるで──、……ん?)」
……何か、違和感がある。裏の裏までもをかこうとするその思考は、純粋な妖精さんのそれよりも──
「(──人間、みたいな……)」
……いや。突飛な着想であることにくわえ、憶測で考えるにも根拠が薄い。ノリッジは人間も大勢暮らしている都市だ。現在のフェノゼリーさんやオーナーさんのように、領主さんが人間と親しく触れ合う妖精さんだとすれば、その思考回路が人間のそれに近づくこともあるだろう。何より、領主さんの年齢は百をゆうに超えている。考えるまでもなくその事実は、人間では有り得ない寿命観の話でもあるのだ。
「やっぱ、オーナーもそう考えるのか。俺もなんとなく、そんな気がしていたところだ。……しかし、領主がここまで大胆に割り切るとは意外だった。停止になった事業のなかには、アイツもずいぶん投資をしていた案件もあったんだからな」
──それって、まさか。
「……建造中の『外洋船』のこと、ですか……?」
「……ああ、そうだよ。『イナバマル』の建造も例に漏れず、無期限の事業停止が命じられた。状況的に考えりゃそれはもう、事実上の事業撤廃って事になる」
──そんな……!
「……フェノゼリー。ならば今、グノームとマーガレットはどうしているのです?」
「(──!)」
……そうだ。あのおふたり、特にグノームさんは──今のお話が本当なら。
「グノームの現職は造船業の構成員。ノリッジが目下の危機に瀕し、造船業までもが立ち消えになったというのなら、もはやあの場に留まる理由は無いはずです。何より、彼にとっての『目的』を担保する対象を失った今、やがてその身に訪れるのは──」
……そう。オーナーさんが口になさったとおり、彼らがこのままノリッジに留まることは、二重の意味で危険に違いない。しかし──
「ああ、わかってるよ! 当然、俺も一番にあいつらに声を掛けたさ! 『このままノリッジに留まれば、待っているのは破滅だけだ。ふたりとも此処を出て、どっかに避難しちまおう』ってよ! ……でもあいつらは頑なに、ノリッジに残ると言って聞かなかったんだ!」
──ここまでのお話のなかで、薄々とそんな予感はしていた。避難勧告を受けた現状にも拘らず、ノリッジを飛び出し、此処へ訪れたのはフェノゼリーさんだけ。荷運びを職業とし、それを己が『目的』の体現方法に据える彼なら、私を乗せてソールズベリーまで送り届けてくれた時のように、おふたりを連れてくることもできたはずだし、そうしたいと思われたはずなんだ。
「(……ただ──)」
──同時にそれは、変えようのない結果であったようにも思う。グノームさんが避難の提案をお断りになった事も、マーガレットさんがそれに追随なさった事も。『次』の無いおふたりにとって、あの家は……。
「……そうか。彼等らしいと云えば彼等らしい。当事者の意志がそうとあらば、フェノゼリーに今件の責任はないとも。特にグノームにしてみれば、もう『次』は無いことを自覚しての判断なのでしょう。マーガレットについても似たようなものだ。年齢を思えばおそらく、彼女はもうじき──」
「(…………)」
……ああ。やっぱり、そうだったんだ。
「(……マーガレットさんが言っていた、『年ね』という自嘲……あれは冗談でもなんでもなく、ただ単に──)」
……この一年間を過ごすなか、不思議に思ってはいた。妖精國の人間には、年配の方が居ないことを。国じゅうで致命的な病気が流行っているわけでもなく、人目につかない場所に隠居しているわけでもないのなら、答えはひとつ。マーガレットさんの外見年齢が見た目どおりなら──三十歳前後が、この世界の人間の寿命ということなのだ。
そして。その事実を鑑みれば、彼女は今──
「(……マーガレットさんは、あの家で──)」
──グノームさんと共に、ノリッジの滅びを受け入れるつもりでおられるのか。
「……責任の問題じゃねえ!」
そうこう思い至っているとき。なだめるオーナーさんの言葉を遮るように、フェノゼリーさんは声を荒げて吐き捨てる。
「わかってるさ。アイツらがテコでも動かねえつもりな事も、俺の一存じゃどうにもならない事も。……これは俺たちの、『やりたいこと』の問題だ。たしかにアイツらにはもう、住処を移す気も、仮に移したところで、そこに馴染むだけの時間も無いだろう。……当然だ。『次』のない『第二の生』を生きながら、そのうえ拠点ありきの仕事をしているんだからな」
そう。一度は重篤な『モース化』の兆しをみせるも、新たな『目的』を見出し、かろうじて持ち直したグノームさんにとって、その『次』を望むことは難しい。妖精さんには基本的に身体の寿命は無いらしいものの、精神までがそうとは限らないのだ。
ゆえに。またしても『目的』の所在を揺るがす事態に見舞われた場合、グノームさんの容態もまた危険に晒されることだろう。つまるところ──ノリッジという拠点が失われ、かの都市と一緒に心中せんとする彼の選択は、『モース化するよりははるかにマシだ』という、覚悟の表れにほかならない。
そこに加えて、奥方たるマーガレットさんの存在だ。己が猶予を悟っているであろう彼女もまた、そんなグノームさんの意志を汲み、ノリッジに留まる覚悟を決められた──。
「……ただ、俺は違う。荷運びを生業とする俺にとっちゃ、拠点は運搬先の数だけ有るものだ。このままじゃ滅ぶと判りきっている、ノリッジ一ヶ所に留まる必要はない。だが──」
そして、目の前に居るフェノゼリーさんだ。彼は腰掛けている資材の山に視線を落とし、途切れた言葉を紡ぎ直す。
「──俺の仕事は、造船業に使う資材の運搬だ。ノリッジに留まる必要がなくとも、ノリッジに運ぶべきだったモノは此処に有る。俺と資材はアイツらみたいに、拠点諸共に終わることはできないんだ。コイツらを残したまま、行くべき運搬先を失った俺は……ノリッジの崩壊をただ待って、また『目的』を失うしかないんだよ!」
……まずい。
「! 待て! 落ち着きなさい、フェノゼリー!」
現在の彼は、己が『目的』の揺らぎに直面している。オーナーさんもその事を悟ったらしく、最悪の事態を予期して制止を図る。しかし──
「──ああ、あああ……!」
──もはや、疑いの余地はない。フェノゼリーさんのご様子にみられるこれは……およそ自然には快復し得ない、重篤な『モース化』の兆候だ。
「(…………!)」
……いけない。『モース毒』は妖精さん同士で感染るものだと聞く。オーナーさんにしても、つい先ほどまで危うい状態にあったんだ。このままでは、この場に居る彼にまで症状が飛び火しかねない──。
「……フェノゼリーさん。私の話を聞いてくれませんか?」
──気づけば私は、そんな言葉を投げかけていた。
「──あ、──?」
彼の眼前で膝を突き、お顔を覗くようにして語りかける。
「……フェノゼリーさんは先ほど、衛兵さんたちは領主さんの事を、こう話していたと仰いましたね。曰く──『この期に及んで、罪都キャメロットへの進言がまだらしい』──と」
──ひとつ、ふたつ。淀みの所在を探るように、濁りの原因を捉えるように。私は静かに意識を巡らせ、口にする言葉を慎重に選びながら、彼の不安要素に手を触れる。
「今朝の話です。戦火の燻りをみせていた、シェフィールドが陥落したと聞きました。此処に向かう事で精一杯だったフェノゼリーさんは、おそらくこの件をご存知ではないと思いますが、いかがでしょう?」
「──あ、……は? シェフィールドが……陥落……?」
──よし。些か強引な切り口だったけれど、ひとまず食い付いてはもらえたみたい。……混乱状態にある者にとって、まったく別方向からインパクトのある情報がもたらされる事は、却って冷静さを見出す道に繋がるものなのだ。
「ええ。一定期間続いたという内乱が、『女王軍』と『妖精騎士』総出の対応でもって、ようやく鎮静化したとのことです。そして、ほぼ同時期に問題となっていた、ノリッジの『厄災溜まり』──私が思うに……領主さんは、『女王軍』がシェフィールドの件で掛かりきりになる事をご存知であったがゆえに、『厄災溜まり』への対応の進言を、前者の優先度から遅らせざるを得なかったのではないでしょうか?」
「──は、……え……?」
実際のところがどうかは判らない。ただ、現状においてはそれで充分。『進言がまだ』という事実を、『見捨てたから』ではなく、『単に遅らせていたから』であるという、新たな文脈に乗せることが重要だ。そこからは自ずと、思考の矢印もそちらへ向かうはず。
「……なるほど。シルキーさんの言には一理ある。国内兵力の大部分を動員する事態とあらば、同時期に発生した問題への対応は遅れもしましょう。それに、ボガード公はノリッジの元領主だ。諍いの果てにその座に就いた現領主の胸中を思えば、報復の可能性も危惧していたことでしょう。公が治めるシェフィールドの行く末もまた、『厄災溜まり』とは別の意味で気掛かりだったに違いない。ゆえにスプリガンは暫定措置として、避難勧告を付すに留めざるを得なかった──というわけですな?」
「──はい。そういうことです」
此方の魂胆を察してくれたらしく、オーナーさんが目配せをしながら話を合わせる。……新旧領主の関係性は初耳だったけれど、この場においてそれは助け船として功を奏したらしい。その証拠に──
「……そうか。シェフィールドはそんな結末に……」
──混乱の只中にあったフェノゼリーさんは、徐々に平静を取り戻しつつあった。
「……フェノゼリーさん。どうか、もう少し結論を待たれてはどうでしょうか。ノリッジは『厄災溜まり』の脅威から見捨てられたのではなく、これから救われる関係性もあるんじゃないかと思います。だから──」
ここまで来れば、もうひと押し。撫でるように触れていた淀みの手応えを、拭うように取り払う。
「──フェノゼリーさんはただ、避難勧告に従って此処へ来ただけ。グノームさんのことも、マーガレットさんのことも、置いて逃げて来たわけでは決してない。この部屋にある資材だって、すぐに運び出すことになるかもですよ?」
「──、──」
そこまで語り終えたとき。フェノゼリーさんに見られた『モース化』の兆候は、劇的なまでに鳴りを潜めていた。
「……ふむ。やれやれ、どうやら落ち着きを取り戻したようですね」
──『お見事です。シルキーさん』と小声で付け加えながら、オーナーさんがこの場を取り継いだ。
「……ああ。助かったぜ、シルキー。おかげで頭がスッキリしてきた。……オーナーにも迷惑をかけたな」
「まったくです。早合点から慌てふためくのは、昔からの悪い癖ですよ。フェノゼリー」
さて、と一拍置いたのち、オーナーさんは今後の方針について話題を移す。
「ともあれ、はるばるソールズベリーまでおつかれさまでした。そのぶんだと途中休憩はおろか、到着後の宿の手配も思考の外だったでしょう。ひとまずは此処、『資材集積庫』で休むといい。貴方の『目的』の保全を思えば、それが一番安心できましょう。ちゃんとした宿は、私が明日にでも用意して──」
「いや、宿の手配にゃ及ばねえぜ。そっちに迷惑でなければ、このまましばらく倉庫に泊まらせてくれ。一ヶ月近くご無沙汰だったもんで、資材の状態も気になるからな」
ふふ。そうおっしゃると思っていました。
「──まあ、やはりそう来ますよね。よろしいですかな、シルキーさん?」
「ええ、もちろん!」
断る気も理由もないので、食い気味に快諾の意を示す。
「しかし、ただ此処に塞ぎ込んでいるだけでは心身に毒でしょう──そこでひとつ提案です。どうでしょう、フェノゼリー。ノリッジの状況に変化があるまで、此処でシルキーさんの手伝いをするというのは? その勤労を以て、宿代はチャラということで」
──な、なんと。
「げ、相変わらず抜け目がねえな! だが正直助かるぜ。何もしないまま此処に居ちゃあ手持ち無沙汰で、勝手に資材をノリッジに運び出しちまう気しかしねえからな! はっはっは!」
……な、なんと。
「と、いうワケですので。当面の間はフェノゼリーと共に、お仕事に励んでもらえますかな。何なら此処の右半分、『資材集積庫』の業務を丸投げしてやっても構いません。いやむしろそうしてやりましょう。あとはシルキーさんの宜しいように、彼をこき使ってくだされば。例えば──まだ見ぬ潜在的な預かり物を発掘すべく、ふたりでソールズベリーじゅうを出張業に繰り出したりなど!」
「!」
なるほど、それは名案だ。ふたりで業務を分担できるぶん、時間的リソースには余裕が生じる。くわえて、新たに出張業という形をとる事は、フェノゼリーさんの『目的』の保全をも叶えられ、『モース化』の兆候の再発防止にも繋がるだろう。
「賛成です! フェノゼリーさん、いかがですか?」
「おう、荷運びなら任せてくれ! よろしくな、シルキー!」
──かくして。この日からおよそ十日間、私たちは共に働く事になったのだった。
◆◆◆◇
──ソールズベリー滞在期間、四十日目。
「(よし。これで準備完了!)」
朝方。昨日のうちに依頼を受けていたピクルスの仕込みを終え、『資材集積庫』へと挨拶に向かう。
「おはようございます、フェノゼリーさん!」
「おう、おはようさんシルキー。積荷の準備はできたか?」
室内に入ると、彼は資材の状態チェックをなさっている最中だった。お元気そうなご様子を見る限り、先日の件ような心配は必要なさそうだ。
「はい! しめて保存瓶十本分、木箱に収めておきました。いつでもお運びいただけます!」
「よし、じゃあさっそく積んじまおう。飲食店の朝は早いからな。昼になっちまう前に届けに行くぞ!」
彼には出張業の一環として、倉庫のお仕事とはまた別に、ピクルスの運搬をお願いすることになった。新たな業務を始める私にとっても、これがある種のリハビリとなる彼にとっても、手始めにはちょうどいい案件だ。
「よっこいせ、と──こうしてノリッジから飛び出しはしたが、いつもの癖で荷車を引いて来たのは正解だったぜ。しかし、積荷が木箱ひとつってのは物足りねえな。よし、シルキーも荷台に乗っちまえ!」
「えっ、よろしいんですか?」
「おうよ。木箱が荷台で暴れないよう見張るのと、届け先までのガイドも頼みたいしな。乗ってもらった方が都合が良いんだよ!」
「納得です。では、お言葉に甘えて!」
木箱と共に荷台へ乗り込むと、フェノゼリーさんは荷車を走らせた。
「もう一ヶ月以上も前になるのか。こうしてシルキーを乗せて、ソールズベリーまで来たんだったな。残り二十日程度の任期だそうだが、こっちでの生活は順調か?」
「ええ、その節はお世話になりました。此方でもみなさんに良くしていただけて、充実した日々を送っています!」
昨日は丸一日、お互いに大事をとって休日をいただいた。私はピクルスの仕込みを、フェノゼリーさんは『資材集積庫』で休養を。満足にお話をする時間もなかったため、近況報告をするのは今がようやくのことだった。お届け先の飲食店に向かいながら、私たちは会話を弾ませる。
「そりゃよかったな。オーナーにもいたく気に入られてるみたいじゃねえか。どうするよ? あの感じじゃあフミコが戻ってきた後も、このまま残ってくれって頼まれるかもしれねえぞ!」
「えっ。そ、そんな可能性が?」
──それは慮外のお話だった。現職はふた月という期間限定のものと考えていたので、契約更新の可能性は想像すらしていなかったのだ。
「あのなあ、アイツは名実ともに生粋の『オーナー』だぜ? 重宝できる従業員を簡単に手放してくれるかっつーの。任期も半分を過ぎた頃だし、そろそろ契約更新の話が来るはずだ。ま、あくまでシルキーの意向次第だけどな。俺を臨時に雇う格好を採ったのも案外、フミコとの協働を見越してのモンかもだぜ!」
なるほど、フミコ先輩との協働を……そう考えるとあり得る話だ。さすがはオーナーさん、抜け目のない限りである。
「(──任期を終えた後も、此処で働かせてもらう可能性……か)」
ひとり、これから先の事に思いを馳せる。
「(……二十日後から向こう、私は何をしているんだろう)」
これまでに私は、今後のことでいくつかの可能性を想像してきた。ソールズベリーを出て、別の都市を訪ねるという選択肢。ウィールドさんが半ば本気で提案してくれた、オックスフォードで飲食店を開くという選択肢。そして、もうひとつ──
「(……あるいは、もう一度──)」
──ご夫婦が居るノリッジに、『帰る』という選択肢。
……でも。ノリッジの現状を考えると、その選択肢は保留せざるを得ない。『厄災溜まり』への国の対応が如何にして採られ、どんな結果がもたらされるのか──その行く末を知らない限り、今は望むべくもない話なのだ。私にとっても、フェノゼリーさんにとっても。
「どうしたシルキー。考え込んじまったか? まあ、いずれにせよじっくり考えりゃいいコトだ。それより、ガイドだガイド! このまま道なりに進んでいいんだよな?」
「──は、はい! この道順で合っています!」
と、少々頭を回し過ぎていたらしい。ガイド役の務めを思い出し、案内に専念しなければ。
「あっ、こちらのお店です!」
「おーし、軒下に着けるぞ。切り返しの揺れに注意してくれ!」
「はい!」
お届け先に到着し、荷車を停めて積荷を下ろすフェノゼリーさん。私はひと足先に訪店し、店主さんに挨拶を済ませる。
「おはようございます、ピクルスをお届けに参りました!」
「おー! 君がシルキーか! 朝っぱらからありがとう。今日からウチで働かない?」
「はじめまして! しかしお生憎と、オーナーさんから固く断るよう言われておりまして。どうぞ悪しからず」
「ちぇー、ワンチャンあるかと思ったのに。でもそっちの契約が切れた時は、もう一度考えてくれよなー!」
おっと。新たな選択肢が増えてしまった。
「ほいおつかれさん。店主、品物はそっちのカウンターに置いとくぞ。開店前に間に合ったようでよかったぜ!」
そうこうしていると、フェノゼリーさんがせっせとピクルスを運び込んでくれていた。さすがは荷運びのプロ。私ひとりでは腰をやっちゃいそうな重さの木箱を、いとも軽々と搬入してみせる。
「そっちは荷運びさんか、おつかれさん! だが開店前ってのは間違いだ。今は客入りが皆無だからそう思ったんだろうが、そういうの傷付くからやめてね?」
「おっとすまねえ。……って、もう今はランチ前の時間帯だぞ? 聞けば此処は、そこそこ繁盛してる店らしいじゃねえか。なんだってこんな有様に?」
あれ、そういえばそうだ。オーナーさんのお話では、バゲットはもとより、私のピクルスを使ったメニューにも固定客がつき始めているとのことだったけれど……。
「はいまた傷ついた! ったく、状況を正確に言い表すんじゃねえよ……ここ数日、他所のとある店に客が流れていってよ。新しいウェイトレスを雇ったとか何とかで、接客と料理の質が上がったってんで、ウチはもう大打撃! だからこうしてピクルスメニューで踏ん張って、あわよくばウチにも看板娘をと考えていたところさ。ちょっとは優しくしてね?」
「うへえ、そいつはご愁傷様。しかし、すげえなその店。いや、すげえのはそのウェイトレスか?」
なんと。ここにきてさっそく、飲食業界の激戦っぷりを垣間見てしまった。私も今後の方針次第では他人事ではないぶん、変な汗をかいてしまう。
「まあ、今日の過疎っぷりに関していえば、原因はそれだけじゃないとは思うが。思いたいが! 平和なソールズベリー近郊で昨日、あんな事があっちゃあな……」
──ん、昨日……?
「なんだそれ、この辺で何かあったのか?」
私もフェノゼリーさんも休日で、昨日は倉庫から一歩も外に出ていない。それゆえに来客もなく、近場に関するニュースを伝え聞く機会がなかったのだ。
「おいおい、知らなかったのか? 火事だよ、火事。『収容所』全域が焼け落ちるほどの、でっかい火事があったんだ」
──火事……。
「朝イチで、ウチの常連さんが教えてくれてよ。昨晩のうちに火の手が上がって、そのまま燃え尽きちまったんだとさ」
◆◆◆◆
「おつかれさまでした、フェノゼリーさん。お飲み物を用意してきますね」
「ありがとさん。先に資材のトコで休んでおくぜ」
配達を終えて倉庫へ戻ると、ちょうどお昼時になっていた。
「どうぞ、よく冷えたお水です。私は昼食も摂りますが、フェノゼリーさんも召し上がりますか?」
「いや、俺は別に──ああ、そういう事か。物覚えがいいな、シルキーは。せっかくだからいただくよ」
鉄製のジョッキに注いだお水と、鉄串で留めたサンドウィッチを運び込む。それらを見た彼は、こちらの意図を察したらしい。
「──おお。微かに鉄の味を感じるが、食えないほどのモンでもない。マギーの料理とそっくりだ!」
「ふふ、それはよかったです。遠慮なく食べてくださいね」
妖精さんたちにとって、時に『鉄』は毒となる。同時に、モースに対しては魔除けとしての効力も発揮するとされる。……つい先日、『モース化』の兆候を見せた彼においては、後者の効能を期待したいところだ。
「やれやれ、グノームの野郎は幸せ者だな。アイツはこうして十年間、マギーの献身を受けてこそ健康でいられたワケだ。俺も『モース化』しかけた身になって初めて、その有り難みがわかったぜ」
「此処で過ごされるあいだは、私が『鉄』の成分入りのお料理をご用意するつもりです。マーガレットさんほどの鉄味の調整は保証できませんが」
「そいつは助かる。世話をかけるが、よろしく頼むぜ」
ある種の『食事療法』となるこれに加え、しばらくは『対話』により心理的なケアも必要になるだろう。心身相関という言葉もあることだ。
──ひと心地ついたころ、先の件が話題に上がった。
「『収容所』っつーと、西のあそこだよな。ソールズベリーじゃ火事なんて滅多にない話なのに、一帯が壊滅しちまうほどの規模とは驚いたぜ」
飲食店の店主さん曰く、近郊での火事の件を受け、都心部から離れた場所の住民間では外出控えのムードが強まっているとのお話だ。必然として客足も遠のき、先刻の閑散具合に見舞われたとのことである。
「ま、あくまで近郊での出来事だ。事故にしろ事件にしろ、領主のお膝元たるソールズベリー内にまで余波は来るまいよ。客の出入りには多少の影響があるかもだけどな」
現地での目撃者が居なかったせいか、はたまた情報制限でも敷かれているのか。配達の復路で井戸端会議に興じる住民さんたちを見かけたけれど、事の詳細を知る者は居なかった。
「(…………)」
火事、という字面のあるためか、先日焼け落ちたシェフィールドの件が記憶に新しいためか。どうにも私は、あの光景を思い出さずにはいられなかった。
「(……炎──)」
両者に関連性があるか否かの確証はない。しかしやはり、『大橋』での一件が脳裏によぎる。眼前の一切を焼き払った、太陽が如き爆炎の光景が。
「どうした、シルキー。慣れない外回りで疲れたか?」
「えっ。あ、いえ! なんでもありません! お腹がいっぱいになったので、ちょっと眠気が」
いけない。フェノゼリーさんとお話中だというのに、少しぼーっとしていたらしい。欠伸を噛み殺し、軽く伸びをして眠気を払う。
「はっはっは! 健康なこったな。そうでなきゃ心配していたところだ。今件の影響で客足が遠のきそうなぶん、しばらくは営業がてら、出張業のほうに主軸を置くかもしれないからな。開業直後でタイミングが良いんだか、悪いんだか」
おっと、それもそうか。倉庫内での通常業務に変化はなくとも、新規利用者の獲得には、それなりの能動性が求められる状況にある事は確かだ。
「そうですね。午前中は倉庫内で、お互いの持ち場の通常業務を。午後からは折をみて、ふたりで出張業に繰り出す──といった方針いきましょうか」
「おう、それでいこう。今日はもうこんな感じだし、その方針は明日からだな。俺はこの後、ウチに預けるモノがありそうな住宅を下見して回ってみるぜ。シルキーは此処に残って、出張分の受け入れの書類でも用意しておいてくれ」
「はい。わかりました!」
──よかった。一時は不安もあったけれど、フェノゼリーさんの容態は良好そのものだ。このご様子なら、彼の『目的』の保全は充分に叶えられるだろう。
「じゃ、そういうコトで。夕方には戻るから、またその時に打ち合わせだ。ごちそうさん!」
「ええ。お気をつけて!」
夕方。本当にソールズベリーじゅうの住居を見て回られた彼のおかげで、見事な営業先リストが完成し──その後の約一週間、出張業は順調に進んでいった。
──七日後。ノリッジ沿岸における、『厄災』襲来の報せが届いた。
お読みいただきありがとうございます。
FGO10周年、おめでとうございます!
満を持しての記念鯖、アニバーサリー感が溢れまくっていましたね。
水着イベント、どうにかリアタイで追いかけたい。
とうとう終章開幕日が明言されましたね。
今作は奏章只中の時系列という位置付けですが、おそらく、というか確実に、12/20までの完結は間に合いそうにありません!
ともあれ、楽しくぼちぼちと執筆を進めて参ります。
引き続き、お付き合いいただけますと幸いです。