望郷漂流客船イナバマル 祝福された後継   作:qlo

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※Lostbelt No.6『妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ』の核心的なネタバレのほか、Lostbelt No.7『黄金樹海紀行ナウイ・ミクトラン』〜2部奏章『オーディール・コール』の一部内容に触れています。

※本作は作者本人のpixivアカウントで先行投稿済みの内容となります。該当アカウント各話のキャプションにその旨の明記あり。

以上の事柄をどうぞあらかじめご了承ください。





絶海にて【四】

 

 

 ◆◇

 

 

 

「……通信、終了しました」

「ありがとう、マシュ」

 

 状況説明を任せっきりだったマシュに、労いの言葉をかける。

 

「サンキュー、マシュ! まぁ、とりあえず作戦会議なんだわ!」

「ご苦労様でした、マシュ。そうですね……マスター、如何しましょう」

 

 私か。ん~、いかがしましょうか……。

 

 でもやっぱり、こうなったからには。

 

「……正直、ほかに良い方針も思い浮かばないし──ひとまずは、司令官渾身の心配オーダーのとおり、私とマシュが先陣を切って進もうと思う。きっと、私達がここで足踏みをすることだって、敵の思う壺に違いないよ」

 

 そうだ。見た目どおりの内部空間ではないらしいとはいえ、ここは一隻の船だ。その限りある規模の領域内に、こうも侵攻を妨害するための仕掛けが重ねられている理由といえば──『時間稼ぎ』だろう。

 

 敵の目的は、妖精國の存在を獲得すること。

 

 レイシフト適性者は、妖精國の縁者ばかり。

 

 妖精國の存在に特化した、魔力吸収現象。

 

 船体内部に展開されている、異質な空間。

 

 要するに──『お客様におかれましては、黙って大人しくそこに居ろ』と言っているのだ。この場でいたずらに時間を与えてしまっては、何が起こるかわからない。それに、何もしなくともこちらのメンバーの魔力は減り続け、不利な状況へ追い込まれる一方なのだ。

 

 もちろん、その状況に焦って突入させることが目的の可能性だってある。でも、何もせずに終わるよりははるかにマシなルートだ。

 

「そのとおり。さすが、私のマスターだ。こういう埒が明かない状況には、強行手段が一番なのさ」

「二重の意味で、やや慎重さに欠けるメリュジーヌの物言いは気になりますが──この状況に限っては同意見です、マスター。阻むことしか能のない臆病者には、真っ向から制裁を下しましょう!」

 

 と、もとより同意見でしたと言わんばかりの肯定をもって、メリュジーヌとバーゲスト両名の賛成を得ることができた。そして──この中で特に確認を得なければならない御仁が、まだひとり。

 

「敵も待っちゃくれないしなぁ、もう仕方ないんだわ! それでいいかい? モルガン」

 

 ハベトロットの意思確認というワンクッションが挟まり、一瞬の間を置いたあと。

 

「……ええ。心して参りましょう」

 

 最も早く突入したいに違いないモルガンが、それを押し殺してギリギリまで重ねていた熟考。その逡巡が手放され、突入開始の合図となった。

 

 ──現在、私達がいる地点は、船体後部の甲板だ。

 

 周囲は拓けているが、船体中央部に近くなるほど、階段や通路などの造りが入り組んでいる。が、それがわかるのはあくまで、視認できる範囲までの話だ。到着時点では意識しなかったが、現在の地点からは船体の全体像が掴めないらしい。

 

 当然といえば当然の話だが、船体の甲板は、思っているほど平らな構造ではないのだ。船首から船尾にかけて真っ平で、真ん中あたりに平家ほどの建造物がある──というステレオタイプな造形イメージは払拭するべきである。

 

 私たちが居るポイントはやや窪んだ構造をしており、周囲の造形がちょうど障壁になっている。そのため、船首方向の構造が、海上から立ちこめる霧による邪魔も相まって視認できないのだ。

 

 そんな中、船体甲板を端々まで大勢で捜索するのは、時間的にも物理的にも色々とリスキーだ。空は分厚い雲に覆われているが、この特異点におけるお天道様には、私たちの行動はお見通しなのだ。それはおそらく、船の中であろうと同じことだろう。ゆえに、バーヴァン・シーが捕らわれている可能性がより強く見込める船内へ、早期のうちに潜入することが優先される。

 

 しかしながら──扉らしい扉や、窓らしい窓などは見当たらず、なかなか内部へ通じるポイントが見つからずにいた。

 

「(おーい! みんな、これこれ!)」

 

 と、何かに気づいたらしいハベトロットが、声を潜めて呼びかける。

 

 全員、円状に囲うような形で頭を突き合わせ、ハベトロットが指差す足元を覗き込むと──そこには、明らかに船内へ通じているとおぼしき、上下開閉式のハッチがあった。

 

「すばらしいです、ハベトロットさん! 私はつい、先入観から壁面に集中して、扉や窓ばかりを探そうとしていました。お手柄ですね!」

「にゃはは、照れるなマシュ! まぁボクってばほら、足元がみんなよりも目につきやすいんだわ!」

「私の場合、むしろ足元の様子は意識から外れがちなのもので。助かりました、ハベトロット」

 

 と、みんなの賞賛をほしいままにするハベトロットの様子を見ていたモルガンが、この日初めて──ほんの一瞬だけではあるが、表情を緩めてみせた。

 

「グッジョブ、ハベトロット! よし……じゃあ開けるよ──って、油圧式なんだこれ」

 

 メリュジーヌが先行し、重く軋む鉄の蓋を開ける。その中には、下階へと続く縦穴が覗いていた。

 

「……どうやら、甲板から貨物を受け入れるための搬入口のようですね」

 

 気圧の差があるのか、ほのかに空気の流れを感じる。

 

「梯子も階段もないな。仕方あるまい、飛び込むぞ」

「オーケー。じゃ、先に行くよマスター」

 

 躊躇う間もなく、二人が先陣を切った。

 

「おーい! あんまり先行しすぎるなよな~! モルガン、追いかけるぞ!」

 

 二人を追うハベトロットとともに、モルガンも縦穴の中へ続いた。……よし。私もここで覚悟を決めよう。

 

「行こう、マシュ」

「はい! それでは、私に掴まってください」

 

 マシュの肩に腕を組み、腰を預け、着地の衝撃に備えた体勢を整える。

 

「……先輩」

 

 下降しようとしたそのとき。二人残された甲板で、お互いに縦穴のほうを向いたまま、マシュが私に話しかける。

 

「この特異点の性質がそうなのか、あるいは──みなさんへの対策を相当に手厚く練った、何者かの仕業なのか……」

 

 と、半ば私の理解に委ねるように──言葉の端々を省きつつ、その疑問を呈した。

 

「うん……どっちも正解──って気がする」

 

 マシュのニュアンスに合わせ、彼女の理解に委ねるように、こちらも所感を返した。

 

 それを合図に、お互いに向き合い、目を合わせ、頷き──本作戦の開始に対する私達二人なりの、最低限かつ、最高密度の意思疎通が完了した。

 

 呼吸を合わせ、縦穴へ飛び込む。

 

 階層をぶち抜いているのか、例の異常空間による影響か、滞空時間が長く感じられた。

 

「……あの、ところで──そのリュックは?」

 

 はえ? リュック? ……あ!

 

 しまった──マスターミッション先にこっそり持って行ってた、空腹対策セット入りのリュック! 招集に応じるために爆速で切り上げて管制室へ合流したせいで、背負ったままレイシフトしちゃったんだ! うわ~、絶対向こうでアルトリアやオベロンに笑われてるよ。

 

 穴があったら入りたい。あ……今、まさに穴に入ってる最中だ。やかましいわ。

 

「あはは、えっと……おやつ入れて来た!」

「おおっ、 さすが先輩です!『腹が減っては戰ができぬ』というやつですね!」

 

 うん。そういうことにしておくもんね。

 

 

 

 ◆◆

 

 

 

「さすがは妖精國の幕引きを看取ったご客人」

 

 ……すぐ傍で、その声が聞こえる。

 

「あるいは、数多の世界を観て来られた御人か──いやはや、鋭いことだ」

 

 ……歪で、濁っていて、彩度が低くて、甘さが無い──そんな声色を発している。

 

「手厚い待遇でもてなす腹積りでしたが」

 

 ……愉快そうなくせに、鬱積している。

 

「どうやら皆様、気が急いておいでのようだ」

 

 ……待ち遠しいくせに、清々している。

 

「ならば、此方も早速応じましょうぞ」

 

 ……解かれたいくせに、囚われている。

 

「さあ参りましょう。『祝福された後継』よ」

 

 ……不快。不快。嫌い、だけど──。

 

「我らが夢見た──在るべき世界のもとへ」

 

 ……その願いは、ひどく鮮烈だった。

 

 

 






お読みいただきありがとうございます。


ハベにゃんの手柄で発見に至った搬入口を円陣組んで覗き込む現地メンバーのシーンが個人的お気に入り。

次回から船内捜索パートです。
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