ようこそ百折不撓の教室へ   作:烏兎 満

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おひさ


2巻
第八話 暴力事件、波乱の幕開け


 

 

 六月一日。

 俺たち一年Dクラスの面々は全員が少し緊張した面持ちでホームルームの時間を待っていた。

 その理由は、中間テストの結果によるクラスポイントの変動がそのホームルームにて知らされるからだろう。

 この一ヶ月0円生活を強いられたDクラス生徒たちは、この日を待ち望んでいた。

 俺もそのひとりであり、中間テストでどれほどのクラスポイントが入ったのか確認することは、これからのクラスの方針に関しても重要な部分である。

 

 ガラリと突拍子もなく開いた教室の前の入り口から、我らが担任茶柱先生がいつも通り引き締まった顔で登場する。

 

「全員席につけ、ホームルームを始める」

「佐枝ちゃん先生! 俺たちのクラスポイントはどうなったんですか! 今日の朝振り込まれてなかったんですけど……」

 

 池が少々先生に対しては失礼なあだ名で呼び、そう尋ねる。

 その疑問の通り、今朝、俺がポイントを確認してみても1ポイントも振り込まれていなかった。残念なことに、俺たちDクラスはまたもや0ポイントと考えるのが妥当だ。

 しかし、一緒に登校している神崎もポイントが振り込まれていないらしい。こういう情報を事前に得られることから、他クラスの友達は多少なりとも必要だな。

 

 つまり、なんらかのトラブルが発生して、一年全体のポイントが振り込まれていない状況というわけだ。

 

「池、お前の質問に関しては後ほど答える。まずはこれを見ろ」

 

 茶柱が大きな包み紙を黒板の前に広げて見せる。

 そこにはAからDクラスのそれぞれのクラスポイントが印刷されている。

 

 Aクラスは1000ポイントを越えたか。Aとの差は歴然だ。

 そして、肝心の俺たちDクラスは………。

 

「よっしゃ! 増えてる増えてる! 8700円ゲットー!」

「やっと山菜定食から抜け出せるぜ」

 

 俺たちDクラスのクラスポイントは先月の0から87clにまで上がっていた。

 この結果に池や山内のような男子たちは叫び、女子たちは喜びの声をあげる。0か0じゃないかでは大きく変わる。Dクラス全員が0円生活をようやく抜け出せる事実に歓喜する。

 

「どうした堀北。嬉しそうではないな」

 

 茶柱がそう堀北に声をかけたことで、クラスのみんなの視線が堀北に向けられる。

 

「他のクラスも私たちと同じくらい、いいえ、それ以上のポイントをもらえている。つまり、差は縮まらなかったということよ」

 

 その言葉に対し、クラスのほとんどは頭に疑問符を浮かべる。やはり、全員が本気でAクラスを目指しているわけではないということだ。まぁ、普通Aクラスと1000の差があれば、無意識に諦めてしまうのも無理はない。

 

 堀北の言葉に、平田が発言する。

 

「そうだね。でも、僕たちDクラスが見えないマイナスポイントを抱えていなかったことが分かっただけでも、十分な収穫だよ」

「た、確かに。マイナスがあったら87も貰えないもんな………」

 

 見えないマイナス、つまり、0と俺たちには知らされているが、もしかしたらマイナスにされている可能性も捨て切れなかったところだ。

 

 そして、87クラスポイントを守るためにクラスのみんなは先月以上に授業に集中するだろう。学力も上がり、クラスポイントも維持する。いい流れだ。

 

 さて、みんなが浮かれているところ悪いが、茶柱先生に質問しなければならないことがあるので手を挙げる。

 

「なんだ、佐崎」

「俺たちは87クラスポイントを獲得しました。今日は月の初めです。なぜ、8700prが支給されていないんですか?」

「それは、学校側で少しトラブルが発生したからだ。支給にすこし遅れが出ている」

 

 その言葉に池などの浮かれていた生徒は、クラスポイントを得て調子に乗っているようで学校側からのお詫びのポイントとかないのか、と茶柱に聞いていたが、そんなものはないらしい。

 

「学校側の判断だ。私にはどうすることもできない。だが、トラブルが解消され次第、ポイントは支給される。まぁ、それまでにクラスポイントが残っていれば、だがな」

 

 最後に意味深な言葉を残し、茶柱は教室から出て行った。

 

「残っていれば、ね」

 

 

 

 

#

 

 

 

 

 放課後。

 俺は松下と一緒にカフェに来ていた。

 最近では俺たちが付き合っているのではないか、と疑われないように時間をずらして集合しているが、この敷地内では常に生徒の目があるため、そう疑われ出すのは時間の問題だろう。

 

 松下はいつもの紅茶をかき混ぜてから、こちらに目線を合わせる。

 

「ようやく一区切りって感じだね」

「まぁな。なんか奇跡が起こって須藤も退学しなかったし」

「あれって結局なんで須藤くんは回避できたんだろうね?」

「さあ? 俺には何もわからん」

「でも、佐崎くん、あの後堀北さんと一緒に教室出てったよね?」

「それトイレ」

「ふーん、まぁいいけど」

 

 少し不機嫌なオーラを放ち始める松下には悪いが、流石に50万のことを言うのは憚られる。何せ、松下に少しでも情報を与えるとどこまでバレるか分かったもんじゃない。

 しかし、ここで松下の信頼を下げるのは本意じゃない。

 

「わかったわかった。そんな顔すんなって」

「じゃあ、教えてくれる?」

 

 松下は上目遣いでそう頼んでくる。

 可愛いって怖いな。心が持ってかれそうになるわ。

 

「ま、俺たちの仲だしそれぐらい話すさ。でも、俺が話したこと以上のことは聞くなよ、お前の想像に任せる」

「もちろん」

「須藤の英語のテストの点数一点を買ったんだよ。だから、須藤は助かったってわけ」

「え、そんなこと、むぐっ」

「はい質問禁止ー」

 

 俺は松下の口元を手で抑える。こいつに誘導質問とかされるのはたまったもんじゃない。

 

「ぷは………。女の子の顔ってそんな気安く触ったらダメなんだよ」

 

 どうやら少し怒り気味なのかあざとく頬を膨らませているが、誤魔化すことには成功したようだ。

 

「ごめんごめん。じゃ、早速だけど本題ね。クラスポイントは定期テストで100ポイント弱ゲットできるってことだよな」

「最初だけの可能性は?」

「………確かに。そんな毎回支給されるわけではないか」

「それに、過去問だって次からは使い物にならないかもしれないよ。それを踏まえた上でどうやってクラスポイントを上げてくのか、って言う話だよね」

「………現状、松下の考え方でいくとクラスポイントの変動はなさそうなんだが、どうしたものかな」

 

 もちろん、俺は坂柳から特別試験の話を聞いている。

 どういったものになるか具体的に予想はできないが、クラス間の競争をより激しくするものが待ち受けているはずだ。

 それを松下に話すのは、とても小さな可能性だが、坂柳との繋がりを見抜かれてしまう恐れがある。堀北と綾小路には知られてしまっているので、これ以上広まるのはこちらとしては避けたいところだ。

 

 そう考えていたところで、俺の携帯に一つのメッセージが届く。

 

 その内容を確認して、俺は席を立つ。

 

「悪い、急用だ」

「どうしたの、そんな慌てて」

「まだ本人から直接聞いたわけじゃないから、詳しくは言えないが、どうやら今朝茶柱先生の言っていたトラブルの原因がうちのクラスにあるらしい。とりあえず、今日はここで解散だ」

 

 俺はそれだけ言い残し、会計を済ませてからカフェを出た。

 

 

 

 

 

#

 

 

 

 

 俺は呼び出された寮の部屋のインターホンを鳴らす。

 少ししてドアが開く。

 

「よう、綾小路。須藤から話したいことがあるって聞いたんだけどなんでお前の部屋なんだよ」

「ああ。まぁ、色々あって須藤が押し入ってきたんだ。とりあえず、入ってくれ」

 

 綾小路の部屋を訪れるのは二度目だが、インテリアは少ない印象を受ける。

 部屋の中にはすでに櫛田と須藤が座って待っていた。

 

「櫛田もいるのか」

「私、いちゃダメだったかな……?」

「いやいや、そんなことはない。いてくれた方が心強いってもんだ」

 

 櫛田は落ち込んだような表情をのぞかせたが、俺の言葉を聞きすぐに元気を取り戻す。

 しかし、ついこの間、カラオケに誘ったのだが未読無視をされてしまい一向に返事を返してくれないのだ。

 嫌われているのは重々承知しているが、櫛田が俺の誘いに乗らなかったのはなぜか。

 俺がクラスの全員に言いふらさないと確信したのか。またはすでに裏の櫛田のことをクラスのみんなに言っても大丈夫なほどにクラスに根を張り付けたと言う自信があるのか。

 いや、どちらも可能性が低く慎重な櫛田らしくはない。

 櫛田は絶対に自分の地位を揺るがすほどの秘密を握る俺を放置するわけにはいかないからだ。

 

 だがまぁ、表の櫛田は俺とは普通に接してくれているので、大きな問題ではないと思うが、少し気がかりだ。

 まぁ今はその思考は置いておこう。

 

「んじゃ、話を聞かせてくれ。須藤」

 

 須藤は申し訳なさそうにその場に俯く。

 

「手ェ出しちまった俺が悪いんだ」

「そう言う謝罪は後でいいから。お前がやったことを教えてくれ」

「……おう」

 

 それから須藤は一つ一つ、少し主観は混じっているだろうが丁寧に教えてくれた。

 

 ざっくりと内容をまとめると、

 

 特別棟に呼び出された須藤は三人のCクラスの生徒たちに喧嘩を売られた。だけど、須藤は無視してその場をさろうとした時、相手が殴ってきた。そして、殴られたことに激怒した須藤は三人を殴り倒してしまった。そして、Cクラスが訴えた、と。

 

「なるほど」

「信じられねーかもしれねぇけどよ、あっちが最初に殴ったのは本当なんだ」

 

 すでに櫛田と綾小路はこの話を聞いていたのか、驚きはなかった。

 須藤の話の通りなら、相手から殴ってきたと言うことで正当防衛が成り立つ。だが、その証拠がない。

 

 特別棟というのも厄介だ。あそこは人通りが全くなくて、監視カメラもない。目撃者や監視カメラによる映像の証拠は期待できないだろう。

 

 そして、先に訴えてきたCクラスに利があり、須藤は三人を殴り倒してしまったのは過剰防衛と言える。

 

「お前の話はもちろん信じる。だが、三人殴ったのはやりすぎたな」

「ぐ………けど、けどよ! 最初に殴ってきたのはあいつらだぜ! 正当防衛だろ!」

「それを証明するための証拠がない。あそこには監視カメラがない。目撃者はいたのか」

「だ、誰かいた気がするんだよ。でも、それが誰かはわかんねぇ……」

 

 ちっ、厄介なことだ。

 こりゃ仕組まれてるな。

 

「話はわかった。須藤、お前はもう少し我慢を覚えろ。暴力じゃ、何も解決しない」

「…………わりぃ。でも、俺、どうすりゃいいんだ。停学になっちまったら、バスケもできねぇ」

 

 須藤は本気で落ち込んでいるらしく、俯いて思い悩んでいる。

 須藤の態度を見るに、先ほどの話には些細な勘違いや思い込みはあるだろうが、大筋の事実は変わらないと思う。嘘はないはずだ。

 なら、こちらとしてはやりようはあるし、なんならこちらから仕掛けても良い。

 

 友達がやられたのならば、俺だって仕返しの一つや二つはやってやりたい。

 きっと、裏には龍園という生徒がいるはずだ。

 

「とりあえず、この話はここだけの秘密だ。いいな、綾小路、櫛田」

 

 二人に了承を得てから、須藤に向き直る。

 

「安心しろ。俺がなんとかする」

 

 少し先のことを考えて不安になっている須藤に、ニヤリと自信を含んだ笑みを向けてやる。

 

「………ありがとな、佐崎。いや、涼。頼もしいぜ。俺にできることがあればなんだって言ってくれ」

 

 やはり、須藤と友達になったのは正解だったようだ。こいつはここからより大きく成長していくだろう。

 一年後の須藤がとても楽しみだ。

 

 とりあえず須藤には、クラス全員に謝罪することと何が起きても暴力や暴言、つまり素行の悪い行動を取らないことを約束させた。

 

 ひとまずのヘイト管理はこれぐらいしか対策は取れないが、それでも須藤がしっかりと謝罪することで全員の須藤に対する認識が多少なりとも良くなるだろう。

 

 




久しぶりに描いたので短めで。私の平均文字数がががが。

久しぶりに投稿したのに見てくれている人に感謝。

龍園との掛け合いが楽しみだなぁ。
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