「ホンマにゆーとるんか、ソレ」
「ええ。このような場面で冗談など口にしません」
アルダンは強く固い意思を瞳にたたえ、俺の問いにそう答えた。
「『お前の希望は全部叶えたる』、その約束を違えるつもりはない。けどな、それはレースに関してだけや」
「……私のことがお嫌いですか?」
俺との距離を一歩詰めながら、自身を構ってくれない恋人を責めるような振る舞いで彼女はそう口にした。
「…………その聞き方はズルいやろ」
彼女が俺の思いに気づいたのはいつ頃だったろうか。
もしかしたら、彼女には最初から気づかれていたのかもしれない。
『君
そう伝えたときから。
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彼女を目にした瞬間に、『自分だけのモノにしたい』という醜い感情が生まれたのを今でも覚えている。
勿忘草のような艶やかな髪、しなやかさと女性的な魅力に溢れた肢体、そして、菖蒲色を浮かべた瞳。
…彼女がどんな思いでターフに立っているのかを俺は識っていたはずなのに、実在する彼女に目を奪われた後には、欲で全て塗りつぶされてしまっていた。
模擬レースが終わった後、記憶の物語と同じように、彼女に声をかけるトレーナーは誰一人いなかった。
……俺を除いてだが。
『俺しか声をかけないのであれば、必ず彼女をスカウトできる』と、そんな甘い見通しで、彼女からすれば侮辱でしかないソレに気を止めることもなく、『覚悟』だとか『走り』だとか、自身の醜い欲を隠しながら、彼女をスカウトするための言葉を並べた。
「キミ、めっちゃええな。結果は振るわんかったけど、G1勝てる素質ある思うし、何よりも目が好みや。執念か覚悟かは分からんけど、強い感情がノッた目。ほんでそれが走りにも表れとる。その走りを誰よりも近いトコで見たいと思った。俺をキミの、メジロアルダンのトレーナーにしてくれへんか?」
自分自身、何と口にしたのかは正確には覚えていない。
気づけば勝手にスラスラ言葉が飛び出していたのだ。
目の前の彼女を称賛するための言葉を、知識上の彼女を思い浮かべながら吐き出していたから。
「……過分な評価ありがたく存じます。ですが私は最上の結果を示せたとは思っていません。ですのでもう一度、私自身を見て、その言葉をお掛けください。……それでは失礼します」
そう告げて彼女はターフを去って行った。
呆然と立ち尽くす俺を、何人かのウマ娘が気の毒そうな視線を向けながら通り過ぎてゆく。
(………え、俺フられてもーたん?乳に目線向けへんかったし、メジロのお嬢様たらしこんで逆玉狙ったる!みたいな素振りも見せてへんよな?これでも前世最大限
………残当である。
「素質あると思うし」「素質ある思うし」
人によんねんけど、口にだすとき「と」を省く時が時々あんねん。これマメな。