「クーリングオフしてきなさい」
勇者ヒンメルの死から28年後。北側諸国デッケ地方。
フリーレン一行はとある民宿に泊まっていた。
すごい吹雪で、足止めをくらっているようである。
「前来たときは、寂れた山小屋だったのに……」
「技術の進歩がすごいですからね、それだけ人の踏み入れる土地が増えたのでしょう」
そんなやり取りをするフリーレンとフェルン。二人はコタツに入っていた。
ここで「そんな急激に科学が発展する?」とか「教えはどうなってんだ教えは」などと突っ込んではいけない。何だかよくわからないが、この世界では科学が発展しているし、コタツも存在しているのだ。
「ここに来るまで、色々な事があったな……」
シュタルクが、温州みかんの皮を剥きながらそう呟く。
どうやらここまでの旅路を振り返っているようだ。ちなみに「なぜ温州みかんがここに?」とか「温州? 妙だな……」などと突っ込んではいけない。この世界では技術の発展によって、運送関係もいい感じになっているし、原作に出ていないだけで『ウュンシユウ』みたいな土地があるのだ。たぶん。
――カタカタカタ。
フェルンが最新型16インチMacBook Proのキーボードを叩く。
「何やってるのフェルン」
フリーレンがそう尋ねる。
ちなみに、彼女が持っている電子機器は型落ちの『らくらくスマートフォン』だけだ。エルフは最新の機器に対応できないので。
「内職を少し。海賊版の電子魔導書を大陸魔法協会に通報すると、報酬がもらえるんです」
「へー。最近はすごいね……私はさっぱりだよ」
フェルンが言ったように、この世界では違法な割れ電子魔導書が流通していた。急激な技術の発展に、法整備が追いついていないのだろう。凄腕
「というかフリーレン様は早く一級試験の受験申込をしてください。協会の公式HPからすぐできますから」
「そう言われても……これ難しいんだよ。個人情報がどうたらこうたら、利用規約がどうたらこうたら」
「確かに、エルフは戸籍関係がめんどくさいことになってますけど……」
フェルンが今言ったように、エルフは個人情報がきちんと整理されていない。その長寿さ故だ。
なので初めて出会った人とは「あなたは一体……」みたいなやり取りをするし、実力を見せた時は「ま、まさかあなたは……」みたいなやり取りをしている。情報化された社会になっても、有名人になることなく気ままな旅ができていた。
とその時。ソシャゲのデイリーミッションをやっていたシュタルクが声をかける。
「そんなに言うなら、フェルンがやってやりゃあいいじゃねぇか」
「ダメです。そんなこと言って甘やかしてるから、いつまで経っても現代社会に対応できないんです。この前だって……」
フェルンは記憶を掘り起こす。
「買っちゃった。最近は便利だね、ボタン1つでなんでも買える」
「これ品数99って書いてありますけど……」
「えっ」
回想終わり。フェルンは記憶を頭の隅に追いサースト。若干の寂寥感とともに。
「……みたいなことがあったじゃないですか」
「確かになぁ」
何とも言えない面持ちで同意するシュタルク。
「できたよ」
そんなやり取りをしている二人に、フリーレンが声をかけてくる。
どうやら受験の申し込みができたようである。えらい。
しかし本当にできてるのか不安に思ったフェルン。彼女がフリーレンのスマホを覗き込むと、
「ほ、本当にできてる……」
どうやら本当にできていたようである。
「私だってね、たまにはできるんだよ」
胸を張るフリーレン。つるり。
「えらいです。フリーレン様」
褒めて伸ばそうとするフェルン。でかい。
とまあそんな感じで時間が過ぎていくのだった。
※
さっきのやり取りから数時間後。
「美味しいね鴨そば」
「そうですね」
「だな」
3人は年越しそばを啜っていた。
ここで「なぜ年越しそばの文化が?」などと突っ込むのは野暮である。
凄まじく情報化された社会が、この世界に年越しそばをもたらしているからだ。(?)
「食事中にスマホをいじるのは良くないですよ」
シュタルクに注意するフェルン。
しかしこれはマナーの悪さを注意した、などという簡単な話ではない。その理由を説明しておく。
そうあれは少し前のこと。
彼らはメスガキのアウラと戦い、彼女をわからせていた。
そしてこのアウラという魔族は、条件を満たした相手を半永久的に操ることの出来る『
その
あんな魔法があるのだ。『
と。
つまりシュタルクへの注意は、マナー講師とのバトルに備えてのことだった。
話を戻そう。
「だってよぉ……こいつらしつこいんだぜ」
そう言いながら画面を見せてくるシュタルク。
そこには「ドラゴンを……ドラゴンを殺さないで!」「ドラゴンにも生きる権利を!」と書かれたポスト(旧ツイート)が。
なんとシュタルクはドラゴンを倒した事で、厄介なドラゴン愛護団体に目をつけられていたのだ。彼らとの戦いは、半年以上にも及んでいた。
「まだやってたんですねそれ」
「そうなんだよぉ」
情けない声で返すシュタルク。急激な技術の発展に、法整備が追いついていないのだろう。愛護団体からの誹謗中傷を止める手立てはなく、その中には殺害予告まで含まれ始めていた。彼のメンタルはボロボロだ。ネットに強い弁護士の助けが必要であろう。
二人がそんなやり取りをしている時だった。
――ゴーン……ゴーン……。
除夜の鐘が鳴る。ここで「除夜の鐘?」などと突っ込んではいけない。この世界には『
「あけおめ」
「あけおめ」
「あけまして……あ」
そうやって新年の挨拶をしている時だった。
フェルンが間の抜けた声を出す。どうやらハイターから、あけおめラインが来たようだった。
ちなみにハイターは普通に生きている。医療技術が発展しているので。どうやら高級老人ホームで、ぶいぶい言わせているようであった。
あの後、なんやかんや勇者パーティの話で盛り上がった3人。眠りにつこうと、フリーレンが声をかける。
「そろそろ寝よっか」
そうして3人は眠りにつくのだった。
※
「――て、起きてくださいフリーレン様」
「うぅ……もう富士山は食べられないよ……」
「馬鹿なこと言ってないで、早く起きてください」
フェルンがフリーレンを揺さぶって起こそうとしている。
そう、これは何でもない夢の話。
くだらない魔法が見せた夢の話だ。