【完結】坂井悠二の恋人ヒライ=サン【転生】   作:器物転生

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【あらすじ】
「弔詞の詠み手」は塩になり、
「炎髪灼眼の討ち手」は神威召喚を使い、
「万条の仕手」はスープになりました。

▼『あかさたな'』さんの感想を受けて、地震に関する世界崩壊の描写が抜けていたので追加しました。
 「大地が震えている。無数の傷を付けられて、地層が崩れて行く」


おわり

 クリスマスの夜、オレと坂井悠二はデートをする事になった。誘ったのは坂井悠二だ。ジャージで行ってはダメなのだろうか。ダメなのだろうな……困った。そうなると女子制服を着るしかない。オレはジャージと制服を見比べて悩んでいた……止めよう。制服なんて着たって、今さらな話だ。もうジャージで良い。

 そんな訳でオレはジャージを着て、待ち合わせの場所へ行く。そこでオレは目立っていた。ジャージだから超目立っていた。坂井悠二は見慣れているから、ジャージなオレに特別な反応は返さない。いつも通りの服装だ。これで「似合ってるよ」なんて言われても反応に困る。

 いろいろと見て回って、なんやかんや遣って、デートも終わりの時間を迎える。すると坂井悠二は話したい事があると言ってきた。本題は、それか。この坂井悠二は蛇と共に歩む事を決めたのか否か。オレの思考は、そちらに切り替わる。すると、いつものオレが戻ってきた。

 

「じつは少し前から不思議な夢を見るようになって……」

「「祭礼の蛇」の代行体になる事なら知ってる。省略しろ」

 

「しばらく帰って来れないと思う」

「この街が儀式場になるから安心しろ」

 

「そうなんだ……」

 

 坂井悠二のセリフを次々に潰して行く。どう話そうか考えてきたらしい坂井悠二はショボーンとしていた。まあ、こいつの事だから、オレが全て知っているパターンも想定していたはずだ。大人しく話を聞いても良かったのだけれど面倒だった。坂井悠二の話は、それで終わりらしい。

 

「家まで送るよ」

「いらん。さっさと行け」

 

「少しでも平井さんと一緒に居たいんだ」

「時間の無駄だ」

 

 家まで送って行こうとする坂井悠二の言葉を、次々と切り捨てる。坂井悠二が何と言っても、オレは意地でも動かなかった。やがて坂井悠二は諦めたのか、トボトボと歩き出す。オレは背を向けて、坂井悠二を見送る事はしなかった。正面の夜景を見ながら、背後の足音を聞く。

 

「それじゃあ、平井さん。またね」

「ああ、さよならだ。坂井悠二」

 

 

 

 オレは振り返った。

 

 そこに坂井悠二の姿はない。当たり前か。すでに坂井悠二は行ってしまった。だが、決戦の地はココなのだから、すぐに帰ってくる……そう、すぐに帰ってくる。でも、その時が待ち遠しかった。蛇の代行体となった坂井悠二なら、少しはオレの役に立つだろう。そんな事を考えていると、ポツリポツリと雪が降り始める。さっさとオレも帰るか。

 でも、オレは動けなかった。体が重い。立ち上がろうという気力が湧かない。ちょっと疲れているのかも知れない。オレは坂井悠二が去った時のまま、そこから動いていなかった。何の意味もない景色を、何の意味もなく眺めている。少し、おかしいな。オレらしくもない。

 

 またオレは振り返った。

 

 やはり坂井悠二はいない。当たり前だ。今さら戻っては来ない。しかし、どうせ儀式が行われる際に帰ってくる。なんの心配もいらない。オレは坂井悠二を心配していない。ただ不安なだけだ。坂井悠二が居なくなって、オレは不安を感じていた。坂井悠二が居なくなったのに、どうして不安を感じている?

 普通の徒は来るかも知れないけれど、零時迷子を狙う「仮装舞踏会」の徒は来ない。少なくとも儀式の日まで平穏と考えていい。少なくとも自分から関わろうとしない限り、紅世の徒と関わる事はないだろう。坂井悠二が居なくなって、安全になったんだ。そして坂井悠二が儀式を完遂すれば、もはや紅世の徒で悩まされる事はないだろう。

 

「……あれ?」

 

 ポタリと涙が流れ落ちる。オレの涙だった。訳が分からない。オレは何で泣いている? オレにとって不利益な事なんて何も無いのに、なぜオレは悲しんでいるのだろう。ズキズキと胸が痛む。オレが苦しんでいる。訳が分からない内に感情が零れ落ち――ピシリと空間にヒビが入った。

 もしかして坂井悠二と離れたからか? だから能力が暴走している? でも前は、こんな事はなかった。少し前まで、ちゃんと一人で制御できていた。坂井悠二と出会う前から、あの教室で話しかけられる前から、オレは一人で感情を抑えていた。感情で暴発しないように、能力を抑えていた。

 でも実際に能力を制御できない。オレの意思と関係なく、涙がボロボロと零れて行く……いいや、違う。暴走しているのは能力じゃない、オレの感情だ。感情が暴走しているから能力を制御できていない。もしかして「オレの能力を制御できる坂井悠二」と一緒にいる間に、オレの制御能力が鈍ってしまったのかも知れない。

 

 ……オレの能力を制御できる坂井悠二?

 

 違う。そうじゃない。坂井悠二に制御されていたのはオレの感情だ。でも坂井悠二と一緒にいる間は、心を揺れ動かされる事が多かった。逆に、能力が暴走しているはずだ。でも実際は威力が下がっていた……威力が下がっていた? 違う。あれは能力が安定していたんだ。

 坂井悠二と一緒に居たから能力が安定していた。でも、坂井悠二と出会う前だって、一人でも能力は安定していたんだ。うっかり誰かを殺すなんて事はなかった……違う、違う。そうじゃない。そもそも感情を抑えて、能力の暴走を抑制していた。発動すれば世界の危機だと考えて使っていなかった。

 それと同じ事をすればいい。坂井悠二に出会う前と同じ事をすればいい。無表情で、他人と関係ない振りをして、誰とも関わらなければ良い……でも、ダメだった。涙が止まらない……ああ、そうか。オレは坂井悠二が居なくなって「寂しい」んだ。寂しさを知ってしまった。利用するつもりで近付いたのに、いつの間にか心を囚われていた。

 

 ピシリピシリと空間に亀裂が入る。

 

 完全な真円で、一人で完結していれば、心が欠ける事はなかった。でもオレは坂井悠二と関わって、オレの心に坂井悠二を埋め込んだ。その坂井悠二が居なくなって、完全な真円が欠けてしまった。オレの心が欠けてしまった。その穴から全体に、ヒビが入って行く。

 欠ける事から欲望は始まる。オレは欠けてしまった。坂井悠二を欠いてしまった。そうか……オレが悲しいのは坂井悠二が居ないからだ。だって、もはや坂井悠二はオレの心の一部なのだから。一瞬だって離れてはいられない。でも欠けてしまった。坂井悠二はオレの側から去ってしまった。

 

 悲しくて仕方がない。

 

 抑圧していた感情が、世界に漏れる。オレの感情が世界に流出して行く。オレの感情に耐え切れず、世界がヒビ割れて行く。気付いてみれば、辺りは大騒ぎになっていた。道路が割れて穴が開き、建物が割れて崩れ落ちる。無数のヒビが世界に入り、空が割れたガラスのようにズレていた。大地が震えている。無数の傷を付けられて、地層が崩れて行く。

 でも、止められない。感情が止まらない。今ここに居るのは感情的なオレだった。かつてオレは男でもあり、女でもあった。男にもなれず、女にもなれず、釣り合っていた。でも坂井悠二が、オレの男の部分を補って、バランスが崩れた。今ここに居るオレは、オレじゃなくて、男としてのオレじゃなくて。

 

―― 私 なんだ

 

 もう止まらない。元には戻れない。

 

 

 

 世界が壊れる。砕け散ろうとしていた。男としてのオレならば兎も角、女としての私には何も出来ない。無力で臆病な私には何もできなかった。立ち上がる事すら出来なかった。ただ泣いて、泣き続けて、世界の終わりを待つしかない。坂井悠二に会いたかった。その矛盾している一心で、私は世界を壊す。

 そんな私を誰かが抱き締めた。こんな無様な私を誰かが抱きしめた。私の後ろから、私に触れた。この温もりを私は知っている。人の温もりだ。それは私の心に流れ込み、欠けていた穴を埋める。顔も見えないけれど、声も聞こえないけれど、その温もりが坂井悠二なのだと私は知っていた。

 

「ゆうじぃ……」

 

 涙声で、情けのない声を出す。救いを求めて声を上げた。私の声は世界に広がって、世界の崩壊を加速させる。これまでに無いほどの感情の発露は、世界を癒すどころか破滅の後押しとなった。助けてほしい。私を助けてほしかった。もはや感情は私の制御を離れて、一人歩きしている。

 

「聞き忘れた事があってさ……平井さんって、どこまで知ってるのかな?」

 

 私の答えは言葉にならなかった。泣き声で言葉にならない。涙が滲んで坂井悠二すら見えない。ジャージの袖で涙を拭っているけれど、すでに濡れてビチョビチョになっていた。こんな顔は見られたくない。こんな姿を坂井悠二に見られたくなかった。でも、寂しくてたまらない。坂井悠二が居なくなるのは嫌だった。

 

「首を振ってくれるだけでいいよ。平井さんは全部知ってるの?」

 

 私は首を縦に振った。

 

「そっか……じゃあ、僕は平井さんを連れて行かなくちゃいけない。平井さんから情報が漏れたら大変だからね」

 

 それは大変だ。もしも私からフレイムヘイズに情報が漏れたら大変だ。これは坂井悠二に誘拐されて、監禁されるしかない。でも、そんな事を言われたら嬉しくて死んでしまう。感情が溢れて、世界が壊れてしまう。坂井悠二が側に居るのに、私の能力(感情)が止まる気配なかった。

 

「もう大丈夫だよ、平井さん。顔を上げて」

 

 坂井悠二が私を抱き締める。私の心臓がドキドキと跳ねる。でも、落ち着けた。欠けていた私の半身が戻ってきた。それは私の半身なのだから、もう切り離せない。私も坂井悠二に手を伸ばし、その体を抱きしめる。夢でも幻でもなく、それは確かに坂井悠二だった。

 

「ほら、平井さん。周りを見て」

 

 坂井悠二に促されて、私は周りを見る。すると、なぜか花畑になっていた。割れた道路や、崩れ落ちた建物の瓦礫を埋め尽くすように、見渡す限りの景色が花畑になっている。空を見上げてもヒビ割れはなく、青空が広がっていた……青空? いつの間にか夜から昼になっている。

 それは私が作り出したものだった。私の心を反映するように、世界に明るさが戻る。雪が降っていたはずなのに、春のように温かくなっていた。そうか。坂井悠二がいるからだ。魔法を制御するために必要なものは人を想う気持ちなのだと、いつかの誰かが言っていた。

 私は坂井悠二を抱きしめる。坂井悠二も私を抱きしめた。もう離れない。離れたくない。もしも坂井悠二が私の下を去るのならば、世界が壊れても構わない。私にとっての世界は、坂井悠二だった……坂井悠二の顔に、私の顔を寄せる。目を閉じて、息を止めた。貴方が欲しいと私はささやく。そして――、

 

 

 生まれて初めての『誓い』を交わした

 

 

 

END

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