ネタ切れで執筆と投稿が億劫となっていたこの小説ですが、ようやく書けました。
もうエタったと自分自身思っていましたが、ふたたび火がつき始めてネタが降りてきましたので、またいつ失踪するやも分かりませんが少しずつ書いていきます。
~悟の町から少し離れた海域~
「はぁ~まったく、えらい目にあったよ。」
海の上をノロノロと飛びながら自身の苦労をこぼす。シュモクザメの形をした艤装を身に纏ったセイレーン…ピュリファイアー。彼女は与えられた任務に失敗して、仲間のところへと戻る最中である。
しかも装備されているサメの艤装を見ると、何かに貫かれたのだろうか穴が開いているのが確認できる。そしてその穴の影響か、ときどきエンジンが不規則にうなりそのたびに右へ左へとふらふらしている。
うまく飛べないことに苛立ちながらもなんとか飛んでいると…
「あら、珍しいじゃない。あなたがこっぴどくやられるなんて」
上から声が降ってきた。その方向を見ると空を悠々と飛んでいる影が見えた。あの特徴的な形は…
「ん?あぁ、テスっちか」
テスっち、と呼ばれたその影はくるりと身を翻して自分の目の前に舞い降りてきた。美しい銀髪をたなびかせ、両翼に巨大な砲身を三つずつ備えた凶悪なオニイトマキエイの艤装が太陽の光を受けて怪しく光る。
「その呼び方やめてくれるかしら…って言っても聞かないわよね」
「よくわかってんじゃん」
「はぁ…それで?まさか任務に失敗するとは予想外だったわ。」
珍しいものを見るように、それでいて咎めるような視線を投げかけてくる。
「うるせーなー、邪魔が入ったんだよ」
その視線を振り払うように、鬱陶しそうに言葉を返す。
そう。あの少年さえいなければ事はすべてうまくいっていた。それなのに…!!
また怒りがぶり返してきてむしゃくしゃしているピュリファイアー。オ二イトマキエイの艤装を背負ったセイレーンはそれについては特に反応せず、もう一人の仲間に声を掛ける。
「どうするの?このまま攻撃を続行する?」
「いいえ、やめておきましょう」
興味深いものを見るような目で遠くを見ていたセイレーンは答える。その体には、片舷に四門ずつ砲が配置された、タコのような艤装が装備されていた。
「ずっと攻撃目標の方を見ているけど、何か面白いものでも見つけた?」
「ええ。」
目線を変えずに答える。よほど面白いようだ。
「…んで、私の処遇とかはどうなるのさ?」
怒りを発散して冷静になったのか、自分の扱いについて恐る恐る聞くピュリファイアー。
「ん~、そうねぇ…」
そこまで話しかけられてようやく目線を仲間のほうへとむけた。
「本来ならばあなたがあの街を制圧。それを足掛かりにして重桜に攻め込む予定だったのだけれど…」
自分の失敗を改めて言われ、気まずそうにそっぽを向く。
「……今日のところはいいわ。あなたへのお咎めは無し。このまま引き揚げましょう」
「「…え??」」
その言葉を聞いて二人はあっけにとられていた。
「あら?何か不満かしら?」
「え、い、いや、別に…」
「…お咎めなしに撤退とは驚いたわ。今ならあそこは落とせるんじゃないの?」
これ以上言及されるのを恐れてピュリファイアーは口をつぐみ、テスっち…もといテスターは自身が感じた疑問を率直にぶつける。
「気が変わったわ。面白い観察対象が見つかった」
「さっきからずっと見ていたやつね。何がそんなに面白いのかしら?」
「じきにわかるわ」
それだけ言って背を向けた。
「……今は観察しておきましょう」
また一つ、運命は動いた。
「……知らない天井だ。」
汎用人型決戦兵器に乗っていそうな少年の台詞を言いながら目を覚ます。
(ここはどこだ?たしか俺はセイレーンをぶっ飛ばして…)
そこまで考えてすべてを思い出した。
力尽きて倒れたこと、薄れゆく意識の中死ぬんだなと思ったこと、……誰かの声が聞こえたこと。
「となると、ここはあの世か病院だな…」
とつぶやいた。が、その答えはすぐに出た。
「……街が…」
ふと覗いてみた窓の外には、故郷の悲惨な姿があった。セイレーンから砲撃されて損壊した建物がいくつもあり、そこかしこに瓦礫が散乱していた。まだ消火が追いついていないのだろうか、ちらほらと火の手が上がっているのが確認できた。
我が家は大丈夫だろうか…と、変わり果てた街を見ながら思った。目線を街の惨状から布団の上に戻すと…
「……え??」
清潔にされて消毒の匂いがほのかに漂う布団、その上に置かれた自分の腕。ここまでは納得できるし不思議にも思わない。だが、一つだけ違和感があるものが布団の上にあった。
「うぅん……」
そこにいたのは、自分が体を張って守った少女だった。
「………!!!??」
え?……え??なにコレ??どうなってんの?なんでこの子がここにいるの?というかなんで俺の布団の上に寝てるの??
「ふにゅう……」
かわいい。(かわいい。)
少女の可愛さに頭の中がチリペッパーになっていたが、ふと正気に帰ると冷静に状況を分析していた。
少女は椅子に座っており、そこから上半身をこちらへ倒しているような形だった。そして少女を見ているうちに、あることを思い出していた。
(セイレーンと戦ってたよな…ということはこの子は…)
そこまで考えたとき、少女は小さくうめきながら目を開けた。
「あ…」
「ど、どうも…」
目が合い、なんか気まずくなる。
「……」
少女は眠たそうに眼をこすりながら自分の体勢と悟を交互に見ていたが、徐々に顔が赤くなっていき、勢いよく体を起こした。
「あ、あわわ…」
手をパタパタと意味もなく動かし、何かを誤魔化そうとしているかのようだった。そんな彼女に助け舟を出す意味合いで一つ訊ねた。
「どうしてここに?」
「─あ!あ、あの…助けてもらったお礼を言いに来たのです。それで起きるのを待っていたら、私も寝ちゃって…」
言い終わらない内に勢いよくドアが開かれ、誰かが飛び込んできた。
「悟!!」
「…母さん」
それは、俺の母親だった。その顔はひどく青ざめ、額には大量の汗が滲んでいた。
「悟!ああ、よかった…」
そのまま俺に駆け寄ったかと思うと、優しく抱きしめた。俺はまだ調子が戻らない体で受け止め、力が入りにくい腕を弱々しく母さんの背中に回した。
「気が付きましたか。」
落ち着きがあり大人びた低い声が響き渡った。
ドアの近くにいつの間にやらもう一人おり、厳格な白衣を纏っている事から、医者であるのだろう。
「赤井悟さん。あなたは一時は危篤状態だったのですよ。」
淡々と告げられる事実に戦慄する。俺は、一歩間違えていたら死んでいたのか。
「この方が運んでいなければ、今頃はきっと生きてはいないでしょう」
「えっ…そうなの?」
言いながら、セーラー服の少女へと視線を移す。少女は恥ずかしそうにもじもじとしながら、コクリと頷いた。
「ありがとう!ほんッとに…!ほんと、ありがとう!!」
「あ、頭を上げてください!お、お礼を言うのは綾波の方なのです…あなたが助けてくれなかったら、綾波はここにはいないのです」
「それでも、助けてもらった事実は変わらないよ。君のお陰で俺はこうしてここにいる。母さんにだって会えた。本当にありがとう。」
「私からも、本当に…ありがとうございました。」
「あうぅ…」
「へへっ…これで、おあいこだな。あ、俺は赤井悟っていうんだ。」
「あ、綾波、なのです…」
「よろしく、綾波ちゃん」
「あぅ…よ、よろしくです、悟くん…」
頬を赤らめ、もじもじしながら自己紹介をして俺の名前を呼ぶ綾波ちゃん。とても可愛い。
それから綾波ちゃんは待っている人がいると言って帰っていった。
俺と母さんはお医者さんから説明を受け、およそ2,3ヶ月入院すればいいことを知った。常人ならば数年どころか死んでいてもおかしくない傷にも関わらずこの短期間で退院できることに、お医者さん含め俺達は心底驚いた。
「そうか…まぁ何にせよ、よかったよ」
「そうね、にしても悟。今後は無理をしないこと。いいわね?」
「は、はい…」
強く念押しされ、おずおずと頷いた。
「そういえば母さん、街はどうなの?」
「それが…かなり手ひどくやられたみたいで…そこら中瓦礫の山よ。復興の目処はまだ立ってないって」
「そっか…」
一人の少女は守れたが、街を守ることまでは叶わなかった。その事実が心に暗い影を落とす。
(けど、男として、一人の女の子を体を張って守れたんだし…悔いはない。)
そう自分に言い聞かせながら前を向いた。
─そして、時は流れて3ヶ月後─
「ふぃ〜、やっとこさ退院だ!」
大きく首と肩を回し、凝り固まった体をほぐす。空は気持ちの良い快晴で、俺の退院を祝福しているかのようだった。
「今日は悟の大好きな海鮮丼やっちゃうわよー!」
「おっ、いいねぇ」
そんな会話をしながら俺と母さんは家へと帰るのだった。
道中で街を見たが、瓦礫はあらかた片付いていた。しかし焼け野原が広がっているところも多く、みんな復興に忙しそうだった。
久しぶりの我が家へ着くと、幸運にも家は被害を受けていなかった。
「さ、入った入った!」
「ああ〜、久々の我が家はいいねぇ〜」
そんな事を言いながら家に入ろうとすると、突然黒塗りのいかにも高級そうな車が目の前で止まった。
不審がって見ていると、その中からセーラー服を着た少女が出てきた。
「お、お久しぶりです、悟くん」
「綾波ちゃん!元気にしてた?」
「は、はい!悟君も、退院おめでとう、なのです」
「ありがとう。でもなんで綾波ちゃんがここに?」
「実は、悟君を迎えに来たのです。」
迎えに来た、とはどういうことだろうと考えているとそのまま説明を続けた。
「悟君をA基地に招いて、お礼をしたいのです。」
「─え」
俺が、基地に招かれる。
その知らせに、何か言いようのないざわめきを感じずにはいられなかった。