リビルドワールド 孤独に非   作:たっぷり

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・第四十話 侵入者たち

 

 オルトはミハゾノ街遺跡に施設されているハンターオフィスの出張所内部を歩いている。ハンターオフィスや都市の職員が常駐しており、ハンターが利用する買い取り所などを含めた事務作業所。派遣されている戦闘要員用に配備されている兵器類を格納しておく大型の格納庫などに加え、ハンターや民間警備会社の職員達、遺跡にまで商品を売りに来る逞しい商売人などにも開放しているテナントや食堂、会議室のような多目的ルームもあり、元が旧世界製のビルだったこともあって非常に頑丈で敷地面積は広く、階層も多い。それらを繋げる通路も十数人が横並びに歩いても窮屈に感じないほどに。

 そんな施設内を歩いてるだけあって自分の車を停めている駐車場までの距離は結構ある。

 どこか面倒臭げに窓の方へと視線を移したオルトの視界が次の瞬間、ファナの笑顔でいっぱいになった。その笑顔から非常に強い圧を感じたことで、オルトは驚いて反応するよりも大して覚えてもいない不機嫌さを隠しているというアピールをする。

 

『な、なんだよ……?』

(いま)、窓から飛び降りれば早いとか考えましたよね?』

『……じ、実際そっちの方が早いだろ? このビル、当時の構造をある程度残してるけど増築と改築を繰り返されたのか、外縁部にある他のビルより広いし』

 

 オルトの論にも一理はあるだろうとファナが頷く。しかしその顔に映る表情は呆れとも取れるものであり、当然ながら(とが)めるように注意する。

 

『確かにオルトの強化服には壁を歩くどころか空中に立てる機能が搭載されてますが、今のミハゾノ街遺跡は遺跡内部でなくとも高い緊張状態にあるんですよ? そんなところで突然非常識な行動に出る人が居たらどう思いますか?』

『ひ、非常識って……、言い過ぎじゃないか?』

『では考えてみてください。以前まで使用していたスィリーニアで似たようなことができますか?』

 

 オルトはファナに言われて以前の装備でいまの装備のような挙動が(まが)りなりにでも出来るかと考え、無理だと結論を出した。だが付属して思い出したこともあり、それを抱えている感情と共に念話を送る。

 

『でもスィリーニアで廃ビルの外壁を駆け降りさせたよな?』

『ええ。しかし、その時はそれをせざるを()ない状況に自ら飛び込んだ人が居たのです。私も必死にサポートしたのですが、装備を含めた当時の実力から考えるとそれが一番成功確率が高いとしっかり演算した上で……。もしその時点で、装備を除いた実力が現在と同等か更に上の状態であれば私もそのような無茶な指示をせずに済んだのです。そもそもそのような事態に発展したのは────』

『あ、はい、ほんとうに、すみませんでした』

 

 失敗した。そうオルトが内心で悔いながら全面降伏の旨と感謝の念を共に送る。

 そしてゆっくりと強くなっていたファナからの圧が収まって来たと感じたあと、出張所内の通路を少しだけ早めに歩いて駐車場へと向かった。

 

 

 オルトが駐車場に停めておいた自分の車両へと戻ってくると、そこではシオリが都市の職員と会話していた。その様子にオルトが眉を(しか)める。その後ろにはレイナとカナエもおり、3人ともリュックサックを背負い準備のほどを示している。

 それは問題ではない。オルトが気になったのは職員から向けられる視線だった。その目にはオルトを責めるような感情が僅かに乗せられている。その理由が分からないオルトはそれでも大して気にも留めずに合流した。

 

「随分と悠長(ゆうちょう)だな。これからどこに行くのか分かっているのか?」

「まだ予定の時刻にはなっていない。遅刻や急な依頼破棄など、こちらに落ち度がある事柄なら謝るが、何もない状況で(なじ)られる(いわ)れは無いぞ? それに今から行く場所がどこなのかって話を()り返すなら今からでも取り下げてくれ。銃弾もエネルギーパックもそっちに返すから」

 

 都市の職員からの圧の(こも)った言葉にも、オルトは気後れすることなく慇懃(いんぎん)無礼(ぶれい)な態度を(わざ)と取って返す。そのどこか冷めた様子に職員は先程まで感じていた不愉快さを理由に仕立てて(いたずら)に当たっただけだと気付いた。

 目の前のハンターは見た目こそ若手のハンターだが、高難易度の依頼を指名されるチームに属するだけの実力を持っており、他の若手とは違うのだと一度冷静さを取り戻すように頭の中を整理して話を戻す。

 

「すまなかったな……。で用件なんだが、セランタルビルから先ほど大型個体の出現を確認した。現在都市の用意した戦力で応戦中だ」

「そこに参加する、って訳じゃなさそうだな」

「ああ。折角ビル内部への調査チームを雇ったのに、現状維持用の戦力に加えても意味ないからな。大型個体の出現頻度は一定というわけでもないが、今までも再度姿を現すまである程度の時間()いていた。今回もそうなるだろうと想定されている。屋外で対応するにしろ、屋内で遭遇するにせよ、危険なことには変わらない。だが、倒した直後っていう安全性が一番高まる時間を逃す訳にはいかないだろう? 予定より大分早い時間なのは分かるが、好機でもある。どうだ?」

 

 職員の言っていることにも一理あると考えたオルトは、自分が来るまでそのことで話していたのだろうシオリへと顔を向けた。

 

「シオリとしてはどうなんだ?」

 

 シオリは少々難しい顔をしている。

 

「私としては予定外の事態で行動指針を変えることは好ましくは無いのですが、進入時の危険性がある程度取り除かれるのであれば逃すことはないかと」

 

 そのシオリの返答を聞き、オルトはレイナやカナエの様子も窺う。レイナは非常に強い緊張状態で、カナエはいつも通り笑っている。少なくとも全員今から行くことに対して反対意見はない。

 

『ファナはどう思う?』

『私も良いと思いますよ? オルトの運だと、いつ何時(なんどき)強力な個体が出てくるか分からない状態で進入を開始したら丁度その時に出現して都市の部隊の協力も期待出来ない状況になりかねませんからね』

『改めて酷い状況だな。……でも多少は緩和できる機会だし、逃す必要は俺も無いと思う』

『では決まりですね』

 

 ファナとの意思統一も出来た。そう判断したオルトがシオリ達に頷きながら答える。

 

「俺も異論はない」

 

 オルトの言葉に少しだけシオリが眉を顰める。だが、それをすぐに隠していつも通りの表情へと戻した。

 

「では、先行する。こちらの部隊に続いてくれ」

 

 都市の職員が駐車場からでも見える場所に置かれていた人型兵器の(もと)へと走っていく。胸部中央の装甲が自動的に開いて操縦室を晒すと、職員は人型兵器の装甲の隙間を足場として跳び、乗り込んだ。

 そのまま視線をオルト達の方へと向けて待機する。

 

「それじゃあ、俺たちも行くか」

 

 オルトはその間に情報端末で駐車場の受け付けに手続きを終わらせて出庫の準備を終わらせていた。ファナによる遠隔操縦が可能であることに加え、今回はオルト達が運転する必要も無いことから全員車の荷台部分へと乗り込む。その後、車はゆっくりと駐車場の出入り口を通り、都市の人型兵器の後に続いて市街区画へと、その先にあるセランタルビルへと向かっていった。

 

 

 シオリが表情を変えることなく内心で思案を続けていた。現状を考慮に入れた上で、非常に強い懸念事項が出来ていた事実を、それによって発生しうる最悪な事態の起こってしまう確率が排除し切れないことによる不安感を(おもて)に出してレイナに気付かれない為に表情が僅かに固くなっている。

 考えていることは先ほどの職員を含めた今回の騒動に駆り出されている都市やハンターオフィスの職員の自分たちへの態度だ。より厳密に言えば、自分たちをドランカム所属のハンターであると認識した後の態度の悪化だった。

 その差異は僅かだ。職員たちもその感情のまま対応を疎かにすることはない。しかし対面で起これば気付くことの出来る変化であり、その様子から職員たちのドランカムハンターに対する心象が理解出来た。

 

(ドランカムは都市との繋がりを重視していたはずですが、あの職員たちの様子からでは悪印象を持たれているようにしか感じられません。……ドランカム全体の指揮はカツヤ様が取られているのは間違いなく……。このような事態に発展する前に後ろ盾となっている事務派閥の人間が間に入ると思っていましたが……、どうにも統制が取れていない節が見受けられる……。先日の賞金首討伐の成果を説得材料にB班とされていた者たちが多数事務派閥に迎合した結果でしょうか……)

 

 元から居たA班に加えてB班に属していた者たち、更に賞金首討伐の戦果を聞き付けて新しくドランカムに入党したハンターも数多くいる。統制が取れていないのだろう。以前からカツヤの指示に(そむ)く者が度々(たびたび)出ていた事務派閥の部隊だったが、それが更に悪化した可能性が非常に高い。そのような状況に陥っている部隊に参加させずに済んだことを、シオリは一先ず安堵した。

 シオリは横目にレイナを確認する。以前、レイナはカツヤの指示を無視して行動したことがあり、結果として大成果と呼べる結果を残したが、部隊行動中に部隊長の指示を無視することは褒められた行為ではない。成果を稼いだからそれで()しでは指揮系統が壊れるだけだ。それに、その時はアキラと殺し合い寸前まで揉めてしまった。レイナも、そしてシオリもその事態を真摯に受け止めて再度起こることのないように努めている。

 その時の事の発端はレイナ側だった。だが、今の事務派閥に合流してしまうと自分たちの成果を持ち出してレイナを貶す材料としかねない。現在のレイナが自分の実力に自信を持てないのだとしても、他者からの非難を浴びせられて黙っていられる性分ではないのは確実で、カツヤ派の者たちはカツヤの居ないところでレイナへの誹謗中傷を始めた場合止める者はいないのだ。行く所までいった際、レイナよりも先にシオリ自身がどうするかが分からない。一応そうなる前に動くが、それでも止まらなかった場合はあまり考えたくもないというのがシオリの心情だった。

 

(あの時からお嬢様は成長()されました。しかしそのことにお嬢様自身が気付いていない……。あの一件で、過剰なまでの自信によって生まれていた傲慢さも取り除かれましたが、同時に少々歪なまでに卑屈な感情も生まれてしまいました……)

 

 現状維持は非常に好ましくない状況を呼び込みかねない。人は弱者を見た時、助けようとする者と更に追い詰めようとする者に分かれやすく、そして大部分は追い詰めようとしてくる。口ではどう言っていたとしても行動に移さない者も多くいる。危険な状況で、自分の命が掛かっている状況下で、そのような人が居れば真っ先に囮として使う可能性が高い。そして遺跡の中とは非常に危険な環境だ。

 それも含めて現状は最悪とはかなり離れた状況であり、その状況を作った自分の判断を、そしてその判断を下すに至った要因であるカナエを少しばかり称賛した。

 

(オルト様の判断がどのように転んだとしても、都市の要請にさえ先約があるからと反抗する様子からこちらからの依頼を(たが)うことは無いでしょう)

 

 自分たちが万一レイナから離れなければならない状況に陥った際の戦力としても大きく期待出来る。少なくとも敵対は絶対にしないだろう。この短期間で分かったオルトという個人の精神性は、依頼に対する姿勢は、そう信じるに()るものだった。

 ハンター稼業は命を金を換える稼業だ。だからこそ命の賭け方に絶対的な拘りを持つ者は、そしてそれを確立する程の実力を得た者は金では買えない信用を手にしている。

 オルトがその域に達しているかどうかは別として、シオリ個人がそう思うことは勝手であり、そう思われるように心掛けるのもまた、オルトの勝手だった。

 

 

 オルト達がセランタルビルを目指してミハゾノ街遺跡の市街区画を進んでいる。ハンターオフィスや都市の部隊が制圧した箇所を進んでいるため、ビルの近くまでは安全だ。

 オルト達の主な仕事は、編制中の主力部隊がセランタルビル内に突入する為の事前調査となっている。

 ただでさえビル内からは大量の小型機械が一定の期間ごとに排出され、ビルを中心に展開している簡易防壁へ攻撃を繰り返しており、更にはそこに大型個体まで加わることもあって、膠着状態が続いていた。このままでは消耗するだけだ。

 事態の悪化はそれだけではない。遺跡の中ということもあってモンスターが出てくることはハンター達も想定内だ。だがその脅威度が異変が起こった当初のものよりも上昇していることから、セランタルビルに近付く事すら拒否するハンターが続出している。モンスターの脅威度を知らなくては足踏みする者が出るが、同時にその脅威度が明らかになったあとで自分の手に負えない、無理だと判断した者は違約金が発生するとしても依頼の破棄に乗り出すものもいるのだ。

 工場区画でも問題は発生しており、セランタルビルだけにハンターを集める訳にはいかず、どうにか部隊に参加するハンターを集めるべく部隊長にはハンター達が信じるに値する功績を持つ者を雇い、そして同時にセランタルビル内の詳細な情報を求めた結果だった。

 オルトがセランタルビルに突入させられる理由には、若手のハンターが少人数で調査を行ない、帰還したという事実を以て多くのハンターをこの作戦に参加させる思惑もある。若手のハンターを荒野の危険性を理解していない半端者と侮るものは多く、それだけに反発や体面などの理由を付けてセランタルビル制圧に積極的になる者が増えるだろう。そうすれば自分達が対処していた大型個体に関してもハンター側に負わせることもできる。都市も既に多額の報酬を用意しており、それをハンター達に提示した際の喰い付きも間違いではない。

 なお、その報酬であっても、そもそも強制的にやらされるということで一段とやる気を落としているのがオルトだ。その所為で今のオルトを見た者が抱く印象は文字通り、装備に着られているだけの者となっている。実情を知らない者たちからは、ハンターオフィスのサイトに掲載されている実績を疑わせるほどの弱者としか認識されていない。

 ゆっくりと現場での評価が下落しているオルトはそのことに一切意識を向けることなく、車の索敵装置が取得した周辺の状況を確認していた。

 セランタルビルに続く大通り周辺では、何時でも本隊が移動できる状態を維持する為に瓦礫の撤去作業が進められている。人型の土木作業用機械が大きめの瓦礫を道路の脇へと運び、一部は追加の簡易防壁が到着するまでの障害物としていた。それらがオルトの索敵精度を落とす要因となっているが、それでも10億オーラム近く注ぎ込んだ装備だけはあって、閉じた荷台の中()つ離れた位置という条件下でもその先にある物体を認識している。

 オルトがそちらへ視線を向けて険しい表情を浮かべた。

 

「……あれが残ってるってことは回収できる余裕が無いか、ついさっきまで稼働してたってことだよな? こんなに戦車とか人型兵器が投入されてるのにか?」

 

 セランタルビルに続く大通りの周囲には、外敵に道を塞がれないように強固な防壁が敷かれている。一軒家と同等かそれ以上の全高を持つ大型の簡易防壁が幾つも配置されており、戦車や人型兵器がそれを防衛していた。強力な火器を両手に握って断続的に銃撃している者たちの姿も十や二十ではすまない。

 そのオルトの反応にシオリが同意する。

 

「セランタルビルに市街区画全体のモンスターが集結している分、他地域ではモンスターとの遭遇率は大きく下がっていると聞きます。そのおかげで市街区画内に取り残されていた救援対象者たちは既に救出され、現在はこの経路作成とその維持のために駆り出されているのでしょう。救援依頼を出すのもタダではありません。真面なハンターとしての支払い能力を失わない為にも精を出している。そういうことでしょう」

 

 戦車と機械系モンスターである大型多脚戦車の主砲が同時に火を噴く。主砲から発射された砲弾が空中ですれ違い、着弾する。直撃した砲弾が大型多脚戦車の内部へ食い込み爆発を起こす。敵を遺跡に転がる残骸の一つに変える。それを引き起こした戦車は砲撃と同時に急発進させて直撃する筈だった砲弾を避けていた。

 人型兵器が巨大な機関銃を中型の機械系モンスター達に向けて、巨大な弾丸で()ぎ払っている。無数の銃弾の衝撃が敵の機械部品を破壊し、粉砕し、吹き飛ばしていく。

 重武装の部隊員たちが簡易防壁を盾にして小型の機械系モンスターを駆除している。増え続ける瓦礫の影や細い路地から迫って来るモンスター達も念入りに破壊して撃破していた。

 人の背丈を大きく超える簡易防壁には高い頑丈さを、周辺を(せわ)しなく動きつつも機械系モンスターの対処を行なう兵器群や歩兵たちには頼もしさを感じる。しかし鳴りやまない爆発音や銃撃音。激しい戦闘の様子からオルトは僅かに顔を顰めた。

 

「問題は……、ないか…………?」

 

 具体性の欠けた独り言のような問いに、カナエが余裕を感じさせる態度で答える。

 

「まっ、問題無いっすよ。私たちにあれだけの立て替え金が出たことを考えると、今回の異変に乗じて出張所とセランタルビルまでの間をしっかり確保、整備するだけの予算が()りてるはずっす。一度しっかり補給路を構築した後なら防衛はし易くなるっすし、簡易的に行なえる(ぶん)相応にその維持には力を入れる筈っすよ」

 

 セランタルビルに続く道を防衛している部隊の火力を支える補給物資は、ミハゾノ街遺跡にあるハンターオフィスの出張所からセランタルビルに続いている道路を使って運ばれている。この補給路を潰されない限り、当面の間はハンターオフィス側の優勢が続くだろう。

 

「憶測も混じってることは否定しないっす。でもそんな中途半端なことしても資材を無駄にするだけで都市にもハンターオフィスにも得なんかないっすし、私たちの後に編制してるっていう本隊を送る必要もあるっす。そして、どうせなら今回の異変が沈静化した後、ハンター達にセランタルビルへ足繫(あししげ)く通ってもらって、貴重な遺物を大量に持ち帰って欲しい。可能なら今まで見たことのないような貴重な遺物を。……色々な利益向上策を考えれば戦線の維持に余裕を持たせるための費用自体は痛くも痒くもない。そういうことっすよ」

 

 (ガラ)にもなく賢そうなことを話し始めたカナエに、オルトだけでなくレイナの視線まで集まる。その2人の様子にカナエが不満げを表情に(あら)わした。

 

「……なんすか」

「いや、何でも。……あっ、それならこの部隊をそのままセランタルビルに派遣すればいいんじゃないか? 見た限り火力に問題は無さそうだしな」

「それはまぁ、火力はあっても屋内だと戦車や人型兵器レベルのサイズになると制圧時には真面に運用出来ないって理由もあると思うっす。後は……、ん?」

 

 セランタルビルに都市やハンターオフィスの部隊を派遣できない理由を述べていたカナエだったが、4人の情報端末へと一斉に通知が入った。現状そのようなことをしてくる相手など不明だ。話を一度区切り、それぞれがその確認を行なうと、そこには何らかの映像への接続許可だった。

 その映像を閲覧したオルト達が顔を(しか)めさせる。

 

 

 セランタルビル周辺に敷かれた簡易防壁は非常に頑丈かつその全高も人の大きさを余裕で超えている。現地で組み立てが簡単であることからそのような名前が付けられただけで、それは一種の防壁のような構造だ。一枚一枚が数人がかりで持ち運ぶことを前提としており、更に言えばそれをセランタルビルを中心に一周するように配置されている。見る者が見れば、それはもはや城壁だ。

 その簡易防壁の上を多くのハンター達が(せわ)しなく動いていた。その理由は簡易防壁という包囲を突破せんとしている大量の機械系モンスターに応戦しているからだ。

 ハンター達の視線の先を埋め尽くすように存在している機械系モンスター達は、甲B18式と呼ばれる甲A24式の上位機種だ。微弱ながら力場装甲(フォースフィールドアーマー)を搭載して防御性能を高めている。搭載されている小型機銃の威力も増しており、機体の出力も他機種に比べて高い。多脚は舗装された道路に比べて比較的動きにくい室内などの移動に適した構造になっていることから、施設内の重要な箇所の防衛などを主任務にする半自律兵器だ。

 そんな甲B18式を主とした多種多様な機体群がセランタルビルの正面出入り口から大量に出現してくる。甲B18式よりも性能は劣った機種が大半だが、時折り小型砲を内蔵した個体が群れの中に紛れながら簡易防壁に接近してその火力をハンター達に知らしめていた。簡易防壁は立てたあとは移動が困難という点を補うほどの防御力を誇っている。実際甲B18式の機銃から放たれる砲火も問題は無い。だが、その砲撃一つで簡易防壁にヒビが走る。実力の乏しいハンターではその火力に耐えられる装備など着用していない。もし直撃などしてしまえば木端微塵(こっぱみじん)にされてしまう。この場に居たハンターの大半がそのことを理解して集中的に小型砲を内蔵した個体へと銃撃を集めるが、その分ほかの個体への弾幕が薄くなってしまった。

 チームとして動いているのであればそのような行動によって出来る穴埋めを他の人間が担うのだが、この場に居るハンターは言ってしまえば寄せ集めだ。セランタルビルへ送る予定である本隊に参加できない程度の実力しかない所為でこの場に派遣されており、その不足した実力に見合う損害を受けていた。

 小型砲を内蔵した機械系モンスターを多くのハンターが狙い始めた結果、倒すには過剰という言葉すら足りない量の銃弾がその機体へ向けられ、小型砲を内蔵していた個体の大多数は群れから排除出来た。だが、特定の個体へ必要以上のハンター達が銃口を向けた結果はリアルタイムで生成されていく。弾幕という圧力が下がった他の機体群はこれ幸いとばかりに脚部に取り付けられた車輪で地面を駆けて簡易防壁との距離を詰め、自分たちを狙い続ける邪魔なハンター達へと搭載された機銃を向けて大量の銃弾を撃ち出した。

 簡易防壁はその砲火の中でも持つ。それだけの性能を持った製品を用意されている。だがこの場に居るハンターはそれなり程度の装備しかない。当然その防御性能もそれなり止まりだ。強化服や防護服を着ていた者たちも身体の一部をサイボーグや義体に換装していた者たちもその銃弾の雨を喰らって、その身体の一部が、最悪頭部を吹き飛ばされて戦力が削がれていた。

 しかし逃げ出した所で現在地は遺跡の中。逃走経路の選択を間違えれば市街区画内でまだ稼働している機械系モンスターと会うだけ。出張所に繋がる大通りは都市やハンターオフィスの部隊が整備しているおかげで別格の安全性を期待できるが、その代わり依頼破棄による多額の違約金を課せられる。ハンター達にはこの場を可能な限り膠着させて追加戦力を期待するか、自分たちで何とかする以外になかった。

 幸いにもセランタルビルから出てくる機械系モンスターの大部分が小型だ。擲弾などの爆発系の弾頭を使用すれば敵戦線を僅かに下げられる。先程のやらかしのおかげで、必要以上に、過剰に使用した結果として、小型砲を内蔵した個体は全滅させられていた。ハンター達は最早赤字などお構いなしで必至の応戦の構えだ。

 この場には、まだ非常に強い緊張状態が続いていた。

 強引に被弾した仲間を簡易防壁の裏に隠したハンターの男が安否の確認ののち叫ぶ。

 

大丈夫か……? ……まだ、生きてるか。…………クソッ! いやに数が多いぞ!? 追加の部隊はまだかっ!?」

 

 そのすぐ近くにいたもう1人のハンターが弾倉の再装填の為、同じように身を隠してそれに答える。

 

「既にこっちに派遣してる人員は既定人数を超過してるんだってよ! 工場区画にも派遣しなきゃならんとかでっ! 出せる量にも限度があるんだとさ!」

「だったら本隊を派遣すれば良いだろうが!」

「なんとそっちはまだ編制途中らしいぞ。……一応の部隊長は決めたらしいが、いろんなハンター徒党やチームの人間を()ぜるってんで制圧範囲の調整に手間取ってるらしい」

「誰だよそんなメンドクセェことしてる奴はッ! それでこの包囲網が突破されたら元も子もないんだぞッ!?」

 

 男たちは仲間の治療と弾倉の再装填、強化服のエネルギーパックの交換を済ませると、迫りくる死の気配を意気を高めることで跳ね除け簡易防壁から身を晒す。そのまま他の者たちが注意を引き付けていた個体に照準を合わせて引き金を引く。

 激しい銃撃音と共に大量の銃弾や擲弾がセランタルビルを中心とした円形の広場にばら撒かれ続ける。命中精度よりも弾幕の密度と、命中せずとも効果のある弾薬を用いた戦闘は、少しずつだが確実に敵の数を減らしていた。

 再度身を隠した男たちがやる気を落とさないように笑う。

 

「それでもあっちに加わるよりはずっとマシだろう?」

 

 そうして視線で促された先の光景を見たもう1人の男がその笑みを固くした。

 そこには爆炎と粉塵が吹き荒れる戦闘域が形成されている。大量の人型兵器や重装強化服が、一機の大型個体と交戦している光景が情報収集機器から解析データとして表示装置に映された。

 この異変の最中、時折りセランタルビルから現れる大型個体。今回現れたソレは少々(いびつ)な人型をしていた。一本が大木を思わせるほどに太い四つ脚の上に、人間の上半身を金属質に、かつデフォルメしたかのような機械の身体が取り付けられている。手で持つのではなく最初から一体化しているかのように大型の機銃が両腕に、肩には長大な大砲とミサイルポッドが取り付けられており、保有する圧倒的な火力を見た者へ強制的に想起させ、戦意を削ぐほどの強大さを持っていた。

 そのような個体がセランタルビルから少し離れた位置を高速で移動しながら都市の部隊を相手に戦っている。両腕の大型機銃からは断続的に銃撃が繰り返されており、大砲からも巨大な砲弾が撃ち出されていた。それも無闇に撃っている訳ではない。自身を包囲し続けるように動いている重装強化服や人型兵器の部隊へと精確に照準を合わせ放たれている。ミサイルポッドは一度に数十という小型ミサイルを空中へと撃ち放ち、それぞれが己の役割を遵守するかのように、空中で各々軌道を修正しつつ襲い掛かっていた。

 そして都市の部隊もそれに応戦し続けている。数の有利。武装の有利。陣地の有利。それらを用いて常に自分たちの優勢を維持可能な距離を保って大量の砲火を浴びせ続けていた。撃ち出された砲弾は可能ならば撃ち落とし、小型ミサイルは迎撃班を(あらかじ)め決めておいて分担するなど、効率的な戦闘を行なっている。

 しかしどこか消極的な面も見える。強力な機械系モンスターを単騎でも討伐可能な武装を持っていることが部隊全体の安全性を担保していると同時に、その高火力の砲火を下手にセランタルビルへ向けないようにしなければならないという意識も生んでいた。セランタルビルを攻撃している訳ではない。少なくとも明確な攻撃対象にしていないと見えるようにしなければ、旧世界の基準で残存している施設から敵対される可能性がある。常に注意している所為で倒すまで非常に時間が掛かっていた。

 だが、それを見ているハンター達からしてみれば囲んで叩いている状況を維持しているようにしか見えない。時間を無駄に使ってこちらへの援護を遅らせるつもりなのか。そのような邪推も生まれていた。

 簡易防壁の上で応戦していたハンター達の顔に隠し切れない不満が浮かび上がってきたその時、簡易防壁を超えるような弾道を取りながら大量の擲弾が小型個体の群れへと襲い掛かり始める。

 

「増援か!?」

 

 銃撃を繰り返していた男が振り返ってその方向を見て安堵の笑みを浮かべた。

 視線の先からは出張所からセランタルビルまでを繋げる大通りを、横に狭いほどに並んで上方へと大型銃を向けている部隊がいる。その部隊は簡易防壁に近付いていた小型個体を優先的に排除するように動き始め、大量の砲弾やミサイルを簡易防壁越しに撃ち放っていく。

 機械系モンスターの群れもその砲弾などにただやられるのを待つなどしない。迎撃のために機関銃を簡易防壁よりも上方へと向けて弾幕を張るが、都市の部隊に支給されている物資はその価格分の火力を保証し、同時に迎撃されない為に一定の耐久力を持っている。表面に僅かな弾痕を大量に生成されつつもその機能を喪失することなく地上へ降り注ぐ。

 爆撃に呑まれ、地面を覆いつくす程の機械系モンスターたちが跡形もなく吹き飛ばされていった。ハンター達の苦労を笑い飛ばすかのような速度で機械系モンスターの群れが消えていく。それはあっという間に行なわれた。

 

 

『おぉ、凄いな……』

 

 簡易防壁の周辺まで寄って来ていた個体群を吹き飛ばした増援の人型兵器たちは、そのままビルから追加で出て来ていた個体達も含めて吹き飛ばし始める。周辺に設置されている索敵装置に加えて都市の部隊の機体にも高性能な情報収集機器が搭載されており、それぞれが取得データの連携を密に行なっているおかげでその連携力はハンター達とは比べるべくもない。

 そのまま戦車や飛行できない重装強化服などの曲射、簡易防壁の内側まで入った人型兵器の砲火によって小型の機械系モンスターは姿を消していった。

 

『オルトにも出来ますよ。あの系統のミサイルならば個人兵装銃適用の製品もありましたから』

 

 ファナが笑って安心させてくるが、オルトの称賛はそこではない。

 

『可能なことと出来ることは一致しないだろ? 少なくともあれだけの量を倒すとなると金が掛かりすぎる。そのミサイル系の弾頭を購入出来たところで拡張弾倉も数揃えないと意味が無いからな。……こう考えると、やっぱり金が足りないな。装備も消耗品も良くしていくと……』

『なら、稼げばいいだけです。ここは荒野でハンターは強ければ利益を生む存在として認知され、その強さに見合った待遇を受けられます。その内の一つにハンターオフィスの定めたランク(ごと)の弾薬費保証などがあります。高い弾薬はその価格や火力に見合った信用の高さと実力を持つ者に。ご安心を。私のサポートを受けているオルトが一山幾らのハンター程度で収まるなどあり得ません』

『そうか……。なら、もっと強くなる必要があるな…………』

 

 追加の群れが出現しないことを確認した後、それぞれが独自に動き出す。

 この増援部隊についてきた戦車や重装強化服は一時的な戦力向上用だ。すぐさま引き返して補給路作成に戻っていく。この場に残るのは簡易防壁の防衛用に配備されていたハンターをこの場で治療する為の移動用診療車両や、今もなお大型個体と戦闘中の部隊へと合流する人型兵器などだ。

 小型個体の群れとは離れた位置で戦闘してた大型個体。小型の群れが殲滅された後でもまだ健在な様子を見せていることから強力な個体であることは確実だ。しかし既にこの場に配備されていた都市の部隊と()えず交戦し続けているせいで、肩部に取り付けられていた大型のミサイルポッドは完全に破壊されて地面に転がっている。脚部も大量の弾丸や砲弾を喰らい続けた影響でフレームが変形している。機体全体に強力な力場装甲(フォースフィールドアーマー)を展開していることから、現状その程度で済んでいるが、そこへ追加の部隊が合流した。

 セランタルビルにほど近い位置での戦闘ということから大威力の攻撃が出来なかった部隊だったが、その分を数を増やすことで不足分を補い、制限された攻撃範囲の中を爆炎で包み込んでその内部からの脱出を困難にしていく。

 高機動かつ広範囲への攻撃兵装を搭載した大型個体。セランタルビルから現れる個体の中で強力な個体であり、一般のハンターであれば到底太刀打ち出来ないほどの驚異的なモンスターだ。それでも都市から派遣された専用部隊の持つ火力であれば通じる。大量の小型ミサイルと人型兵器の持つ巨大な銃器用に用意された同じく巨大な弾丸がその周囲一帯を嵐の様に駆け巡りながら、大型個体を力場装甲(フォースフィールドアーマー)ごと削っていく。

 そしてとうとう力場装甲(フォースフィールドアーマー)を展開する程のエネルギーが枯渇したのか、飛び()う弾丸の一つ一つが大型個体の体表の装甲板を貫き、抉り、吹き飛ばしていった。各部位でそれが起こり内部構造が外部に露出。そこへ痛烈な銃撃が集中する。

 セランタルビルから少し離れた位置で行なわれていた戦闘は遂に決着を見せる。

 粉塵と爆煙によって隠れていた大型個体の残骸を囲む都市が派遣した人型兵器の部隊。それぞれの機体にも多少の破損が見受けられるが行動出来ない程ではない。大型個体の完全な破壊を確認したことで、人型兵器の部隊が此処に派遣される理由は無くなった。

 そのまま機体に搭載されている飛行装置を用いてオルト達の居る簡易防壁を飛び越えて出張所の方へ飛んでいく。全高は10メートルほど。その背がゆっくりと小さくなっていく光景を、オルトは1人眺めていた。その常人の域を超えた巨躯を携えた存在が隊を為し、それでも苦戦の痕を残す程の強敵が時折り現れるような場所へ、オルト達は今から行くのだ。

 大きな溜め息と共に、簡易防壁の開閉部へと足を進めていった。

 

 

 セランタルビルを包囲している部隊は都市がハンター達とは別で雇った者達で基本的に構成されている。その大半はクガマヤマ都市内で起業されている民間軍事会社からの派遣部隊員たちだ。都市の防衛隊ではない。オルト達のような遺物収集を主業務にするようなハンターでもない。純粋な専用要員で、普段は施設の警備などをしている者達だ。

 彼らがこの場に派遣されている理由は幾つかあるが、その理由の大半は提携している保険会社の尻拭いの影響だ。保険会社お抱えの救援部隊ですら市街区画内に取り残されたハンター達の救援活動は、突然挙動を変えた機械系モンスターや以前は一切見掛けることの無かった強力な警備機械の所為で困難を極め、自分たちで全て解決することは不可能と判断した。仲介業者を通してハンターも含め広く依頼を出したとしても、受ける者がどれだけいるかは分からない。そして当然ながらその成功報酬は遺跡の難易度に比例して相応の金額を求められる。

 それらを解決出来るように常日頃(つねひごろ)から横の繋がりを強化していたのだ。保険会社や仲介業者、民間軍事会社は。借りたい時に手を借りられるように。

 そして今回の一件だ。保険会社はお抱えの救援部隊ですら未帰還の部隊が発生した時点で、民間軍事会社にも救援部隊に加わって欲しいという嘆願を出した。これを蹴ると当然その保険会社から嫌われ、その評判は徐々に広がっていき、肩身が狭くなる。受けるしかなかった。

 そして救援依頼を幾つか(こな)しはしたが、普段は都市の施設警備をしている者達がより危険な状況となった遺跡の中、余裕綽々で救援を行なえるはずもない。人的被害は軽微であれど、武装も車両も予想以上に駄目にしてしまった。

 かと言って保険会社から絞り取ろうにも、そちらも多数のハンターへ達成報酬を払う必要があり、絶対数が少ない。

 渋々ながら丁度その時に届いた都市からの依頼を受けるという選択を取っただけだ。管理側も、そして現場担当班もセランタルビルを包囲している簡易防壁の防衛などしたい者などいない。可能であれば今すぐにでも都市へと帰還したいと全員が心の内で愚痴を吐き続けていた。

 警備の男の1人が先程まで開いていた簡易防壁の開閉部をゆっくりと閉じていく。

 

「いちいち時間が掛かる。やっぱり電子式で良かったんじゃないか?」

 

 男が完全に開閉部を閉じて大きく溜め息を吐くと、近くにいた同僚がその愚痴に同意しつつも、そう出来ない理由を思い付いた為呟く。

 

「そうすると全体の強度が一段落ちるからな。下手をするとその下がった強度の所為で吹き飛ばされちまう。かと言って同じ強度のやつでとなると……額が跳ね上がるんだよな、これ」

 

 同僚の話を聞いた男が少し表情を険しくさせる。大通りとその外を遮断するように配置されている簡易防壁は開閉が容易な種類の物だ。最低でもそれよりもずっと性能の良い簡易防壁を、車両の通れる隙間もないほどしっかり展開している。

 

「上もいろいろ考えた末に調達してきたってことか……?」

「そうなるんじゃないか? 救援依頼で備品が派手に損失したから金は掛けられない。でも安全性はどうにか担保したい。そのギリギリの判断からだろうさ」

「世知辛いな。そんな時に都市から依頼が来るとか。運が良いのか悪いのか……。どっちだと思う?」

「さぁな。……少なくとも良いとは思えねぇ。良けりゃそもそもこんなところに来なくて済んだんだからな」

「違いない!」

 

 男たちはそうして会話を一段落させるように笑い合う。

 ひとしきり笑い合ったあと、何となくその簡易防壁を通っていった者達のことが男の頭の中に思い浮かび、視線が向く。近くの同僚もつられてそちらへと目を向けた。視界は簡易防壁で遮られているが、その先にはセランタルビルがある。男たちの基準では絶対に近付きたくない超が付くほどに危険な施設だ。本来ならば遺跡に足を運ぶことも無ければ荒野へ出る事もない。

 そんな彼等からすれば、少人数でそんな危険な施設へ向かう者たちなど理解の外に居る者たちでしかない。例えその結果大金を手に入れることが出来るのだとしても、例えその先で望外の栄光を掴めたとしても、それはどこまでいっても結果。そこへ至る過程は険しく、困難であり、大抵の場合は荒野に呑まれて死ぬだけだ。

 当たればデカい。それは知っている。しかし当たりを得られるのはほんの一握りの者たちだけであり、それが自分たちに回って来るとは、警備の男たちには思えない。

 簡易防壁を通っていったオルト達のことを思い浮かべていた両者の目には、得体の知れないものを見る畏怖と呆れ、そして困惑の混じった感情が宿っていた。

 その者達の姿を思い出し話題に上げる。

 

「……なぁ、子供が2人でそこにメイドが2人って……、どういう組み合わせなんだ……?」

「俺に聞かれてもな。……いや、少し前から流れてる噂があったな」

「噂……?」

「ああ、ドランカムがメイドを雇ってるって噂だ」

「ドランカムが、か? なんでまたそんな」

「さぁな。俺に聞かれても……、ちょっと待て」

 

 雑談中に入って来た上司からの連絡に同僚の男が出る。そのまま数分ほど話をしたあと、その顔に少しの喜色を乗せて情報端末をしまった。

 急に上機嫌になった同僚を怪訝に思った男が問う。

 

「どした? 良いことでもあったか?」

「ああ。どうやらそのドランカムが動いてくれるらしい」

「そうか。……ん? 本隊が動くのはまだまだ掛かるって話じゃなかったか? だから俺たちがこうしてこんなところに居る訳だし……」

「んなことどうでも良いよ! さっさと帰れるんだ。こんなに嬉しいことは無い。……あっ、それともお前は残るか? 他の奴らは一部撤収準備中だが」

「ごめんだね! こういう仕事は荒野で稼ぐ奴らがやればいいんだ。俺たちの仕事じゃねぇさ!」

「ハッ! 違いない!」

 

 男たちはドランカムに引き継いだ後即座に撤収できるように自分たちの荷物をそれとなく纏め始める。荒野での仕事など一分一秒でも早く済ませたい。その思いがドランカムに早く来てくれという念を送るほどに。

 

「そういや、なんで俺たちみたいな施設警護用の人間がこんな場所に派遣されたんだ?」

「……知らないのか?」

「知らん。……その様子ならお前は知らされてるんだな? どういう用件だったんだ?」

「あんまり言いふらすなよ? ……何でも都市のお偉いさんがセランタルビルの視察だったか交渉だったかで来訪予定があるらしい。その安全を確保する為にビルの状態を早急に何とかして、可能ならビルの占拠をしたいそうだ」

 

 その話を聞いて男が簡易防壁の向こう側を示すように指を差す。

 

「あんな状況だぞ?」

「あんな状況でも、だ。その訪問予定を狂わせない為に、お偉いさんを死なせない為に、過剰気味な戦力を派遣したらしい」

「俺らもハンター共もその一部ってことか……。迷惑なやつだな! 遺跡がこんな状況なんだ。中止しろよ」

「確か長期戦略部主任の……ヤナギサワってやつだったはずだ。ま、その程度の我が(まま)が通るぐらいには偉いんだろうさ」

「現場の苦労も分かって欲しいね」

 

 彼らは自分たちが遺跡に派遣されるような事態となった原因を作った相手と認識して愚痴を(こぼ)していた。

 

 

 オルト達は徒歩で包囲の内側へ侵入していた。警戒状態を維持しつつ慎重にセランタルビルへ近付いていく。全員、準備はしっかりと済ませている。それでも周囲の状況はその戦力が僅かに心許無いと思わせるに足る状況だった。

 警備を続けていたハンター達のおかげで包囲を突破されることなく機械系モンスターの群れは何度も殲滅されている。結果として内側には大量の機械系モンスターの残骸や、そいつらに倒されたハンターの死体などが散らばったまま放置されていた。それらは応戦した場所が場所であるために包囲となっている簡易防壁に近い場所に多く、ビルの周辺ではそこまで散乱していない。

 そんな残骸の少ない範囲内で一番目立つのは、やはり先ほどまで都市の部隊と交戦していた大型個体だ。もはや原型など分からないほどに破損している。武装も、脚部の移動装置も完全に吹き飛ばされており、警備機械として完全に死んでいた。

 この遺跡で機械系モンスターの残骸を売ることで稼いでいるハンターならば垂涎物(すいぜんもの)のそれは、都市の部隊からは排除完了以上の認識はされない。この場に派遣されたハンターが独自の判断で持って帰れば良いとして放置されていた。

 大きさにして二階建ての家屋よりも高い全高を持っていたその大型個体は、大破しているにも拘らず、その巨体による威圧感を残したままだ。

 オルトが自分の情報収集機器を用いて確認しながら感心する。

 

「あれを全機軽傷程度で倒したんだよな……」

 

 その小さな呟きにカナエが反応する。

 

「一応都市防衛用に用意された機体も出て来てたっすからね。あれぐらい出来ないと話にならないじゃないっすか? ……それに、オルト少年ならどうにかできたんじゃないっすか?」

「……出来たとして、したいとは全く思わないけどな」

 

 カナエに言われたことで、一瞬だけ脳内で先程まで動いていた大型個体を1人で相手取る想像をしてしまったオルトは顔を顰めさせ、その様子を見ていたカナエはそれでも絶対に出来ないと言わなかった様子から実際に戦うしかない状態なら自ら先陣を切るのだろうと楽しく笑っている。

 嫌な想像をしてしまったとオルトは頭を振った。そして嫌味を交えてカナエへと返す。

 

「ビルの中から出て来てるらしいけど、俺らが調査中に出て来たらカナエが基本的に囮役か」

「えぇ~それは酷いっすよ」

「銃を一つも持ってきてない奴を後ろに下げとく奴がいるかよ。俺が撃ち易いように誘導してくれればそれで良いよ。時間を掛けつつ倒すから」

「そこはササっと倒して欲しいっす!?」

 

 危険な状況に陥った時、囮としての機能を担うのはオルトになる。実際、今もそうなる可能性を考慮して行動していた。

 オルト達はレイナやシオリを含んだチームを組んでいるが、今はオルトが僅かに先行するようにして歩いている。周囲一帯は大きな簡易防壁で囲まれており、その外側には警備の人員が配備されているので侵入される心配は少ない。モンスターが出現するならばセランタルビルに限られる。レイナの護衛という側面も持っている今のオルトは、レイナの盾として身を(てい)すか、剣として敵を殲滅してレイナの身の安全を確保しなければならない。そのような依頼を受けておきながら()()可愛さに後ろに下がるつもりはオルトには無かった。

 だからチームから少し離れた前方に位置()っていたのだが、カナエは大したことでもなさげにオルトの居る位置まで来ている。自分と同じ位置に来る危険性が分からない訳でも無いだろうと、この場所に立つ意味をそれとなく問い掛けたのだが、結局はぐらかされてしまった。だが、同時に否定もしなかったことでオルトの中で選択肢の一つにもなったのは言うまでもない。

 

「大丈夫っすよ。お嬢からも姐さんからも文句は出てないっす。それが何よりの証拠っす」

 

 それは言っても無駄と捨て置かれているだけなのでは? オルトはそう思ったが、口にはしなかった。

 それでも、あれだけレイナのことを心配しているシオリが力尽(ちからづ)くで銃を持たせようとしない程度には本人の実力を信用しているのだろうと思い、中・遠距離に対応できない点については置いておくことにする。

 

「まぁいいか。装備もなんか……、変えたんだよな? この前の戦い()り的に問題は無いか」

 

 オルトはそういって再度カナエの姿を確認する。肉眼で視認可能な範囲で分かることはメイド服の装飾が先日見た物とは違うといった程度。同時に作動させている情報収集機器によって得られた取得データからその中の強化インナーも調べれば、やはり僅かに装飾の違いが見て取れた。

 流石に一見した程度で強化インナーの質の違いが(わか)るほど、オルトは装備の良し悪しに精通していない。加えてカナエが着用している品は当然女性用だ。東部には数多くのハンターがいるように、彼らを相手に商品を提供する為の装備製造企業も数多く存在している。一つの企業だけでも今までに多くの装備を作っているので、その総数は測り切れないほどだ。自分が使用する機会など決して来ない商品まで確認する時間的猶予など、ハンターを始めてまだ一年()らずのオルトにはない。

 だが同時にオルトにはファナがいる。オルトの感覚器官や情報収集機器が取得した情報を(もと)に解析し、オルトにその解析結果を共有して解説することで視覚的にその装備の強さを知らせることが可能だ。現に今もオルトの視界ではカナエの強化インナーが以前の物とどの程度違うのかの比較情報が表示されており、オルトにその性能を知らしめている。

 頭から足先までじっくり見た後、どこか納得気(なっとくげ)な様子を見せるオルトを見たカナエは自分の身体を抱きしめた。

 

「オルト少年、情報収集機器まで使って女性の全身をチェックするなんて……エッチっすねっ……!」

「ほざいてろよ。……まぁ、仕事をしっかりやってくれるようで安心したよ」

「そうっすか? ならなによりっす。これでも仕事は真面目に取り組む方っす。まっ、真面目にしていれば失敗してもいいなんて、甘い扱いは受けてないっすから」

「ふーん」

「あれぇ!? 急におざなりになるじゃないっすか!?」

 

 先日の工場区画への経路作成依頼中に見せたカナエの動きは、クガマヤマ都市でも有数のハンターでないと行使できない程度には洗練された動きだった。この態度が許されるのも、それだけの成果を上げてきた証拠であり、これからもその実力が雇用主に利益を齎すという信用の表れでもある。オルトは一旦それを考え、そして思考の隅へと追いやった。

 

 

 レイナは気を抜けば項垂れてそのまま地面にめり込んでしまいそうな頭を、歯を食いしばって持ち上げ、何とか支えていた。憂鬱を詰め込んだ頭は酷く重い。それを維持で支えている所為で、その顔には非常に強い不機嫌さが浮かんでいた。

 だが所詮はただの()せ我慢。チームで自分だけが足手纏いだという想いに、レイナはギリギリのところで耐えていた。

 

(こんな……。こんなの…………)

 

 その原因の大部分は現在レイナが着用している強化服に加え、手に持っている大型の銃器にある。

 レイナが現在使用している強化服は先日まで使用していた物とは違う。文字通り桁違いに強力な一品だ。それを入手可能なハンターなどクガマヤマ都市でも屈指の実力者か、スポンサー契約を結んで資金に余裕のある人物に限られる。それ程までに高額な一品。その金額に比例するような性能を保有しており、当然力場装甲(フォースフィールドアーマー)も使用可能で、上には専用の防護服も併用して着ている。どこかドレスのようにも思わせるその防護服も組み合わさった総合的な防御性能は、単純比較でこの場に居る誰よりも高いと言って過言ではない。

 銃器に関しても同様で、普通に購入しようとすれば1挺で一億オーラムは余裕で超える。オルトの使用しているK2R複合銃のような連射性能は持ち合わせていないが、こと威力と精密性に関しては完全に上の製品だ。複合銃というよりは狙撃銃か対物突撃銃に見える。それぞれの長所をそのままに、方や威力を、もう片方は精密性を上げた結果とも捉えられる見た目だ。

 これらは以前からシオリが装備の更新先として勧めていた製品の中でも、群を抜いて高い性能を誇っている。ドランカムからの貸出し装備など比較対象にすら上がらないほどに高性能で、ドランカム内でも古参の何人がこのような装備を持ち得ているのか、ともすればいないかもしれないとレイナに思わせる程に、この装備は強力だ。

 そしてその強力な武装の性能を過不足なく発揮出来るだけの物資もこの場には大量に持ち込まれている。勿論(もちろん)全て拡張弾倉や大容量のエネルギーパックだ。それらが個人用のバックパックやリュックサックの中に一通り収められており、無駄撃ちをし続けても数時間は待つほどだ。

 (かたく)なに拒んでいたこの装備を(いま)、レイナが大人しく使用しているのは、先日シオリがキバヤシとの交渉中にオルトへ問い掛けた質問に対する答えが理由だった。

 

 

 交渉の場で、シオリはオルトへとこう問い掛けた。

 工場区画とセランタルビル。どちらかに行く場合、何が足りないか、と。

 オルトは答えた。

 工場区画なら手数(てかず)。セランタルビルなら戦力と。

 オルトの簡略化されたどこか分かり(にく)く、的確な答えを正しく理解したシオリは、即座に工場区画への調査依頼を選択肢から外した。

 数千万オーラムのミニガンと同等の連射速度を持つK2R複合銃を複数所持し、さらにはバイクでの攻撃も可能なオルトをして手数が足りないと言い切る時点で、欲しいのは人員の数ということになる。そこで増員を確保しようと考えた場合、どのように帰結したとしてもドランカムから(なか)ば強制的に人員が送り付けられてくることは確定事項だ。

 都市からの、更にはその長期戦略部からの指名依頼。達成した際の報酬は単純な金額だけでは測れない高い評価を得られる。防壁内部の富裕層をスポンサーに付け始めた事務派閥が、この絶好の機会を(のが)すとはシオリには思えない。そしてそこには必ず事務派閥の筆頭ハンターとしてカツヤが、そしてその周囲の有象無象までもがセットで付いてきてしまう。

 先日カツヤと()った際のレイナの様子。現在の事務派閥の統一感の無さ。オルトへ向けられていたカツヤの視線や態度から読み取れる悪感情。その他諸々がシオリに工場区画の調査依頼の優先度を下げさせていた。

 (たい)してセランタルビルの内部調査依頼。これに関してもシオリは避けたかったものだ。しかしその時点でオルトは()()が、足りないと言った。それはシオリにとっての好機を産む。

 足りないのであれば、()せば良い。そして自分たちはそれが可能だ。

 目的地はセランタルビル。その危険性はアキラもオルトも避けたがるほど。その判断を肯定するかのように、異変発生当時セランタルビルに突入していたハンターは誰一人として一向に脱出してこない。それだけ危険な場所だと誰であろうと理解出来る。だが、オルトはその場に居るにも拘らず、交渉を蹴ることも邪魔することもせずに傍観へと回った。つまりシオリの決断に任せたのだ。自分という戦力を踏まえた上で決めろ、と(あん)に伝えながら。

 (ことわ)る理由が有る。受ける理由が有る。

 二者択一が絶対条件の中、シオリは、セランタルビルの調査依頼を選んだ。

 そして交渉の後、シオリはレイナに向けて言った。現状送られてきている装備の中で最も性能の高い物を使用しないのであれば連れて行かないと。

 当然レイナは戸惑い、同時に怒った。感情のままに声を荒げたが、シオリ達は護衛でもある。だから明確な死地へ死にに行かせることは出来ない。オルトを雇っている時点で自分たちでも対処出来ない事態を想定して行動しているが、次の依頼ではその天井が不明だ。充分な準備に十二分(じゅうにぶん)の注意を以て臨むべき場所なのだと説得した。

 最終的にレイナが折れた。

 そうして現在、レイナは渋々ながらシオリの用意した高性能な装備で身を包んでいる。依頼が開始されるまでの間、シオリが慣熟訓練のために数度の模擬戦を行なった。

 しかしレイナとしては甚だ不本意な装備更新。訓練もどこか身が入っていない。シオリはそれに気付いた上で黙っていた。指摘も、修正も、している時間など無い。最低限、新装備の制御装置がレイナのクセなどを覚えられればそれで良いという考えをもとにして。

 そしてその光景を見ていたカナエは内心(ひど)く呆れていた。レイナに対して。そしてシオリに対しても。両者共々どっち付かずの中途半端な状況にいるからだ。シオリから訓練に付き合うように言われたが、自分の職務とは関係が無いと断りを()れるほどにその感情は大きかった。

 もちろん職務に関して手を抜くことなどしないが、手抜きどころかやる気すら半端な者の相手など興味を持つ方が難しい。

 それでも最低限の調整は終わっている。支障は無い。装備には。

 

 

 レイナだけではなく、シオリやカナエも装備を先日使用していた物よりも高性能な物へと変えている。強化インナーや武装の類いだけでなく、回復薬やエネルギーパック、果てには防護服並みに頑丈なメイド服すらも以前の物よりも性能が高い。

 それだけの準備を必要とする場所へ行くのだ。そういった思考をレイナはちゃんと持っていた。

 それでもどこか漠然とした想定でしかない。これほどの準備が果たして本当に必須なのか。もう少しコストパフォーマンスなどを考えて装備の構成を考えた方が良いのではないか。装備を(ないがし)ろにする訳ではないが。そう心の中で装備の質を落としても問題無いとさせる言い訳を考えている程度には甘い想定をしていた。

 しかしそれを理由に(わめ)き散らす程ではない。感情任せに声を荒げていては、かつての自分に戻ってしまう。結果も想像せずにアキラに食って掛かり、その所為でアキラとシオリを殺し合い寸前の状況まで追い込んだ愚か者に。

 それは嫌だ。その強い思いで自制していた。

 喚き散らした所で状況が好転する訳ではない。無駄に声を(あら)げる気力は、現状を変える意気にしなければならない。レイナは自身にそう言い聞かせて、やる気を高めていた。

 

(……これはきっと、見返す機会。装備の差も消えた今、足手纏いになんて絶対にならない。護衛なんかなくたって私1人だけでも戦える。そう3人に思わせる。絶対、……絶対に、やってみせる!)

 

 レイナが気合を入れる。自身の表情から不機嫌さも不安感も追い出すように消し去り、その顔をやる気で満たす。

 だがそのやる気は少々空回りしてしまった。

 セランタルビルの包囲をしているハンター達の応戦に加え、先程まで繰り広げられていた都市の部隊と大型個体の戦闘の余波で周囲一帯は大小さまざまな機械部品が散乱していた。ネジやバネ。集積回路やエネルギー伝達用の回路。機銃や砲塔、機械系モンスターを守っていた装甲などありとあらゆるものが落ちている。

 ハンター達との戦闘で破壊されていた小型個体の残骸は、都市の部隊との交戦の余波で部品どうしが重なり、少し大きめの山を幾つか形成していた。

 先ほど全て破壊された。セランタルビルからは再度群れが出現するかもしれない。その先入観で、レイナはそちらへの注意が抜けていた。

 意識の大半がセランタルビルに向き始めたその瞬間、レイナの近くに形成されていた山の一つが勢い良く崩れてその下に埋まっていた警備機械の一つ、ハンターの攻撃や人型兵器たちの戦闘の余波を受け中途半端に機能不全となっていた多脚機が姿を現す。機体の損傷に加えて内部の回路にも不具合が(しょう)じていたものが一時的に電源を落とし、再度現在の状況に適した設定に変更して、いま機能を回復させたのだ。

 そしてその機体表面に取り付けられている大型の機銃の照準が既にレイナを捉えていた。

 レイナもそれには反応している。だがセランタルビルに意識の大半を向けていた所為で、対処は致命的なほどに遅かった。

 

(しまった……っ!)

 

 レイナも気付いた瞬間に、相手に銃を向けようとはしていた。しかし既に相手は銃の照準を定め終えている状態。どうしたって間に合わない。そうレイナ自身が理解していた。

 そしてその一瞬で既に手遅れだと認識できるほどに高い才能が示した通り、レイナの回避と反撃は間に合わず、その場に一つの発火炎が光る。

 そしてレイナは何の問題も無く助かった。レイナを攻撃しようとした機体は、その横から飛来した一発の弾丸によって制御装置ごと吹き飛ばされたからだ。

 レイナがそちらへ目をやる。そこにはオルトの大型バイクがアーム式銃座に接続されている威力特化型のK2R複合銃を、何事も無かったかのように標準の位置へと戻す様子が映った。レイナの目が次にその所有者であるオルトの方へと向く。そこでは先程と変わらずカナエと雑談しながらセランタルビルへ歩いている姿だけが映る。

 カナエの下らない質問にオルトが返し、なんてことない疑問を持ったオルトがそれをカナエへ問い曖昧(あいまい)な返事が返されるという、この場で起きたことなど気に掛けるほどでもないと言わんばかりの様子だった。

 

「お嬢様、先に進みましょう」

「えっ……? あっ、うん…………」

 

 シオリから声が掛かったことで、レイナは自分の足が止まっていたことに気付き、歩き始める。

 そのシオリが一切動かなかったこと、そして近接戦以外を捨てていると言ってもいい装備構成のカナエが自分から大きく離れていること、オルトが今の一連の流れに対して一切不満を持っていないこと。それらが護衛側の持つ一致した思考を、レイナに気付かせた。

 最低限以上の戦力など(ハナ)から期待していないということに。

 その多脚機の攻撃を数発程度被弾したところで、今のレイナの装備であれば致命傷までは遠い。それでもダメージは蓄積する。回復薬も使用する羽目になる。それは高額で高性能な装備を使用せずに済む理由を並べていたレイナの考えを台無しにする行為だ。台無しにするのがレイナ自身ということが一番笑えない。

 護衛など不要。まずはそう思わせる。そう決意した途端にこれでは意味が無い。自身の愚かさにレイナは1人、打ちのめされていた。

 鬱屈を更に溜め込んだレイナの頭は、更に重さを増していく。それでもレイナは前を見た。ここで挫けては本当にただの足手纏いだ。最悪この場で包囲網から1人帰らされるだけになってしまう。

 

(……まだよ。…………まだ、何も始まってない……!)

 

 レイナは何とか自分に言い聞かせるように歯を食いしばり、心の中で()える。

 

 

 レイナの気持ちがどうであろうと、カナエやシオリ、オルトの内心がどうであろうと、進んだ分だけセランタルビルに近付いていく。

 やがて、オルトを先頭としたチームが、戦闘によって荒れた大地を超え、旧世界から現存している施設へと足を踏み入れた。

 









 レイナはしっかり曇らせるだろう?
 誰だってそーする。
 おれもそーする。

一話にどの程度の文字数が読み易い?

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  • 5001~10000
  • 10001~15000
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