「先生。あなたは異次元──高次元存在です。そうですね?」
◆
「失礼、自己紹介が先でした。つい興奮してしまって。ええと、私は有坂メイと言います。有坂でもメイでも、好きに呼んでください。ミレニアムの3年」
「部活は【
「昔はもっと元気だったんですけどね。先生がこの世界に招かれた理由にも関わっていると思います」
「……いえ。はっきりしたことは何とも。私が知る限りの情報を継ぎ接ぎすれば、そういう結論になったということです」
「始まりは、やはり【検証大隊】でしょうか。先生はミレニアムの成り立ちはご存知でしたよね?」
「……はい。その千年難題を初めて解いた者──ミレニアム史上初の【全知】が立ち上げたのが【検証大隊】です」
「主に手がけたのはスーパーコンピュータ、特に量子コンピュータの設計です。その目的はただ一つ。世界全ての未来予測」
「【ラプラス】と命名された初号機は限定条件下での物理演算、投げられたコインの裏表の予測に成功しました」
「その後継機群は徐々に性能を向上させていき、辿り着いた先が──」
「【
「名前ですか?特に意味はありません。語呂合わせというか、言葉遊びというか…そんな感じです」
「【ミレニアム】は専ら物理演算を行っていたそれまでの機体とは違って、初めて人間の行動予測のために設計されました」
「……そう思いますか?」
「一部の微生物の行動アルゴリズムは既にその全てが解明されています。有名な昆虫の交替転回反応でもいいですが」
「困難でありこそすれ、人間の予測が不可能な理由はありません。というか実際にやりました」
「ミレニアムに入学してきた一人の生徒。彼女のそれまでの人生、そして周辺環境、ミレニアムに関する全てのデータを入力し、本人には一切知らせないまま、その未来を予測させたのです」
「どうなったと思いますか?ちなみに、当時の【検証大隊】でも意見は割れていました」
「当然可能だと言う者、機械に人間の心は見通せないと言う者、理論的には可能だが計算資源がまだ足りないという者。最後が主流でしたか」
「……その通りです。その予言は完璧でした。入る部活から、築く人間関係、試験結果に研究成果、全てです。間違いは一つもありませんでした」
「【ミレニアム】は
「ソレが人間の未来を完璧に見切ってみせた」
「何よりも衝撃だったのはそれに必要だった計算資源量です。現在の【ミレニアム】は機能拡張を繰り返されてほぼ別物と化していますが、当時はさして高性能でもない、演算能力だけならありふれた機体でした」
「導き出された結論は、人間とは、我々が考えていたよりもずっと単純で、機械的で、予測可能な存在だったということ」
「我々は信じていました。人間には『何か』があるはずだと。魂、魄、精神、スピリット、ソウル、霊、言葉は何でもいいのですが。つまり──数字では表せない何か。人間を人間たらしめている何か」
「ある者と彼女に連なる者たちは、それを【神秘】と呼びました。決して科学に解明されないことを願って。結局のところ、そんなものはどこにも存在しなかった」
「人間とは0と1の数列で表せる存在です」
「事前にプログラムされた一連の挙動を、周辺状況に応じて再現しているだけ。それを【ミレニアム】は証明してしまった」
「人間の単純性を完膚無きまでに示された我々は、混乱し、失望し、最後には歓喜しました。それは当初の予定よりもずっと早く、すぐにでも計画の最終段階、この世界全ての予測が可能であることを意味します」
「とは言え、何億人もの予測です。【ミレニアム】の改修と拡張に必要な資金は、【検証大隊】どころかミレニアム学園全体から搾り出しても足りないほどでした」
「そこに資金提供を持ちかけてきたのが連邦生徒会。いえ、連邦生徒会長です」
「交換条件は、完成した【ミレニアム】の最初の予測データの独占提供でした。【検証大隊】は喜んでこれを受け入れ、そして予測は行われた」
「その結果は連邦生徒会長しか知りません。直後に彼女は失踪し、先生がキヴォトスにやってきた」
◆
「先生。【ミレニアム】はあなたの未来を予測することはできません」
「先生が二択を選ぶとしましょう。右か左か、上か下か、何でも結構です」
「2つの答えは混ざり合っているようであり、同時に選ばれているようでもあり、第3の選択肢がどこからか出現するようでもある」
「今【ミレニアム】に先生の予測をさせれば、全裸になってサンバを踊るであるとか、唐突に私の脚を舐めはじめるだとか、そういった訳の分からない相互に矛盾する予測が出てきます」
「……はい。分かっています、先生はそんなことをする人ではありません」
「ともかく、全てはあっという間でした。先生がこの世界に来た、まさにその日の内に【ミレニアム】の予測結果にはエラーが混じり始めたのです」
「先生が関わった生徒の未来も加速度的に複雑化していき、現在【ミレニアム】は予測機能をほぼ喪失しています」
「連邦生徒会長はこうなることを知っていた。あるいは、彼女こそが先生を招くことで意図的に未来予測を破壊した主犯。そう考えるのが自然でしょう」
「……いえ。責めるとかではありません。予測はもう出来ないので仮説でしかありませんが、恐らく彼女が知った未来予測はこの世界にとって何らかの不利益になるものだったのでしょう」
「例えば──世界の終焉であるとか」
「問題はそこではなく先生です。つまり、なぜ先生だけが【ミレニアム】の予測から逃れられるのか?私と先生は何が違うのか?」
「ヒントはありました。先生はこの世界の外から来た。ほとんどの人々はそれを誤った意味で解釈している」
「先生は高次元存在です」
「先生はこの世界に影だけを落としている。あたかも私がこの床に影を落とすように。それが【ミレニアム】ですらも先生の未来を予測できない理由」
「私には知覚できない領域に、この言い方が正しければ、本物の先生が存在する」
「……は?いいえ。むしろ感謝しています。これは私に限らず、この世界の大半の人々がそうだと思いますよ?」
「あなたがいなければ。あなたがこの世界に来なければ、私たちはもう存在していなかったでしょうから」
「ありがとう。先生」
「ここに来てくれて。私たちを、私を見てくれて」
「あなたが居てくれて良かったと本当に思っています。例えそれも予測されていたことだとしても」
◆
「予め測られた未来を検し証める──故にこそ我らは【検証大隊】」
「しかし【先生】が来た今、もはや予測される未来など存在しません。【検証大隊】はその役目を終えました」
「先生の不確定な未来に幸のあることを願っています」
「ずっと。どうかお元気で」
有坂メイ
漢字だと冥
太陽を見る金星の対称+その他大勢に落ちぶれた元天才の一角てきなにゅあんすな