俺と邪神のクラシック五冠道   作:カニ漁船

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感想欄で思いつきました。


チラシの裏にて大百科完成しました。

https://syosetu.org/novel/338214/


偉大なる赤

 ──その日私は、イギリスが一頭の馬に焼き払われるのを見た。

 

 

 アレは確か……シリウスシンボリの海外遠征初戦。本当だったら、向こうでシンボリルドルフと合流して一緒に欧州で走る予定だったのだが、シンボリルドルフの怪我によってそれが頓挫。ルドルフは日本に残り、シリウスだけが海外遠征をすることになった。

 正直な話自信はあった。重馬場となった日本ダービー、ミホシンザンが二冠目をかけて出走してきたレース。シリウスシンボリは1番人気だったミホシンザンを抑えて見事に優勝したのだ。重馬場でも十分に走れたシリウス、我々は自信を深めて海外遠征を敢行。特に大きないざこざもなく、向こうの厩舎とも話をつけることができた。

 シリウスならば海外でも良い勝負ができる、いや、海外でも勝てる!冗談抜きでそう思っていた──あの馬に出会うまでは。

 

 

 シリウスシンボリの海外遠征初戦はキングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスになった。アスコット競馬場で開催される、7月末のレース。私、岡戸行雄はシリウスシンボリに騎乗してレースに挑む。その時に、ヤツを初めて見た。

 

(アレが米国の……三代目ビッグ・レッド、エンタープライズ)

 

 アメリカでクラシック四冠を達成し、当時創設されたばかりのブリーダーズカップ・クラシックの初代覇者。クラシックレース全てを大差で勝ち、ブリーダーズカップ・クラシックは古馬相手に16馬身差の圧勝を収めた怪物。馬主は日本人の保茂元春、シンボリ牧場としてもちょっと縁が深い相手だ。

 三代目ビッグ・レッドを見るが……凄まじい威圧感だ。このキングジョージに出走するのは猛者ばかり、その中でも一際輝く……いや、()()()()栗毛の馬。大柄な馬体を前に、思わず委縮してしまいそうだった。

 エンタープライズはキングジョージまでにガネー賞とイスパーン賞を制してこのキングジョージに乗り込んできた。本来であればエンタープライズはダートの馬、それが芝でも結果を残している。まさに怪物……そう呼ばれても遜色ない競走馬。

 

(その実力がどれほどのものか……これも経験だ)

 

 そう思いシリウスと共にレースに出走した。その結果見せられたのは──圧倒的なまでの強さ。そして、三代目ビッグ・レッドの恐ろしさだ。

 

 

 

 

 

 

 ずっと先行集団の後ろについて行っていたシリウスシンボリ。

 

「クソっ、クソ……ッ!」

 

 目の前には、燃え盛る赤い栗毛──三代目ビッグ・レッド、エンタープライズ。その姿が()()()()に見えた。

 

《さぁやはりエンタープライズ!エンタープライズだ!米国からやってきた三代目ビッグ・レッドの独壇場が!このアスコット競馬場でも繰り広げられている!前で競り合っていた馬達はもう総崩れ!しかしエンタープライズもさすがに苦しいか!?それでもエンタープライズは崩れない!先頭で今、アスコット競馬場の最後の直線に入っていった!2番手はペトスキ!その後ろには日本から来たシリウスシンボリがつけている!シリウスシンボリ3番手その差は先頭から7馬身程か!》

 

 正直この状況は棚から牡丹餅もいいとこだ。それでも、一縷の望みにかけてシリウスシンボリの手綱をしっかりと握る。

 エンタープライズのレーススタイルはハナを取ってそのまま逃げ切るスタイルだ。ハナを取ったら、後はそのまま逃げ切って勝利する。恐ろしく単純なレーススタイルにして、かなり難しい勝ち方。しかしエンタープライズは、その走りでアメリカも欧州も焼き払ってきた。

 ただ、欧州勢もただ黙って指を咥えていたわけではない。ちゃんと対策を取っている。エンタープライズを楽に逃げさせないために、ラビットを使って競りかけたり時に自分から競りかけに行ったりして、楽に逃げさせないようにしている。

 だがエンタープライズに、三代目ビッグ・レッドに──そんな小細工は通用しないのかもしれない。そう思わせるほどのレースっぷりだった。

 

《ペトスキも追っていたがしかし!エンタープライズはそれすらも振り切る!ペトスキは最後の直線で脱落!もう少しでエンタープライズを追い詰めることができるかというところで、ペトスキは力尽きた!どうしてお前は力尽きない!?これこそがアメリカが誇る三代目ビッグ・レッド、エンタープライズの強さだ!さぁ残り200m!エンタープライズが先頭を邁進する!2番手追走はシリウスシンボリ!3番手はペトスキを交わしてオーソーシャープがくるか!?エンタープライズとシリウスシンボリの差は2馬身!追いつくかシリウスシンボリ!》

 

 幸いにもエンタープライズは力尽きているのか後退しつつある。

 

(これならいける!)

 

 そう思うが……そんな幻想は容易く粉砕された

 もう少しで追いつける、そのはずだったが……ここで見せられたのは、エンタープライズの脅威の粘りだ。追いつくどころか逆に離される。

 

(力尽きてるはずだろ……!なんでだよ!?)

 

 結局エンタープライズに追いつくことはできず。後続のオーソーシャープにも抜かされた3着入線。1着は勿論エンタープライズだった。

 

《今エンタープライズがゴォォォォルイン!やはり強いアメリカのビッグ・レッド!三代目ビッグ・レッドは芝でもその猛威を振るう!果たして彼に土をつける馬はこの先誕生するのでしょうか!?2着はオーソーシャープ、3着はなんとなんとシリウスシンボリ!日本のダービー馬が大健闘!キングジョージでシリウスシンボリが3着に滑り込んだぞ!》

 

 歓声に包まれるアスコット競馬場。その中で私は、エンタープライズという相手に畏怖の念を抱いていた。

 

(あそこまでマークされて、それでも最後には粘り勝つ……これが、三代目ビッグ・レッドッ!)

 

 赤い栗毛が輝くあの馬体に魅せられる。そして、同時に思う──シンボリルドルフならどう勝つか?と。

 あぁでもない、こうでもないと試行錯誤するが……最終的に引き上げる時間になったのでターフを去った。シリウスシンボリは欧州遠征初戦で3着の大健闘をみせたが……正直なところ、展開に助けられただけだ。出走していたほとんどの馬がエンタープライズをマークするために前目につけていた。

 その結果、先行馬は総崩れ。エンタープライズだけが悠々と逃げていく光景だけが残った。

 今でも鮮明に思い出せる。アスコットのターフを焼き尽くす、アメリカの……いや、世界のビッグ・レッドの走りが。周りを圧倒し、誰をも平伏させる。そして思い知らされるのだ。世界のビッグ・レッドは、全てを焼き払うのだと。

 

(本当に凄い馬だった……今度は、シンボリルドルフで挑んでみたいものだな)

 

 今は日本で療養中の愛馬。シンボリルドルフならばあるいは、と思わずにはいられない。ルドルフで戦った時どうなるかを考えながら、私達は引き上げていった。

 

 

 結論から言うと、再戦することはなかった。エンタープライズは愛チャンピオンステークス後に骨折。そのまま種牡馬として活動することが決まり、シンボリルドルフと再戦することはなかった。

 ルドルフもルドルフで、万全の状態で挑んだ有馬記念で【女神】カミノライザンの子であるノヴァスターダストの破滅逃げに敗北を喫した。万全のルドルフが、初めて負けたレースだった。あの時のレースも忘れられない思い出である。

 その後のルドルフは海外へ遠征。欧州へと直行し、向こうで走っていたシリウスシンボリと合流。2頭で欧州競馬へと挑戦した。

 

(エンタープライズも確かカミノライザンの子だし……シンボリ牧場はちょっとカミノライザンにやられ過ぎてはいないか?)

 

 これではまた富永にデカい顔される……!ただでさえアイツ

 

「史上初の無敗の三冠馬?こっちは史上唯一のクラシック五冠馬だけど?」

「ガネー賞を勝って七冠馬ねぇ……その理論ならカミノライザンは十冠馬だよ?」

「まぁ俺とカミノライザンならルドルフにだって負けないよ。断言してもいいね」

「ねぇ岡戸君、カミノライザンは君が思ってるほど弱くないよ」

 

 カミノライザンの話になると絶対に譲らないのだから!ぶっちゃけ身内のふざけ合いの範疇で済んでることだけど、それでも断固として譲らん!最強はルドルフだと!

 ……まぁ同期連中で集まって話すのは楽しいがね。なんだかんだ、富永とも良い友人関係を築けている。

 

「さぁて、今日は芝田達も集まって飲むわけだが……今日こそは認めさせてやる!最強はシンボリルドルフだと!」

 

 なおこの後、芝田にしっかりと仲裁された。




仲良く喧嘩しな。完全に私事ですがオルフェーヴル完凸しました。

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