フリーレンがヒンメル達と旅をしていた頃に彼女はある魔法使いから魔導書を譲り受ける約束をした。
数十年越しにフリーレンは彼女が住んでいる村に着き、その約束を果たす為に魔法使いを訪ねる。


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進む者と帰る者の約束。

 少女二人と少年一人のパーティーがポッカ村にある丘を目指して歩いている。

 フェルンという名の魔法使いが、師であるフリーレンに話しかける。

 

「この丘に、フリーレン様の知人が住んで居られるのですか?」

 

「村の住民が言ってたことが本当ならね」

 

 師の答えにフェルンはそうですか、と返す。

 次にこの中でただ一人の男子であり、前衛を務める戦士シュタルクが質問する。

 

「その人とはどういう関係なんだ?」

 

「ヒンメル達と旅をしていた頃に少し話した魔法使いだよ。次に会うことがあったら魔導書を譲ってくれる約束をしてたんだ。まだ生きてるとは思わなかったけど」

 

 あぁそれで、とフェルンとシュタルクが納得する。

 この村で聞いて回り、その知人にどうしても会うと言って聞かなかったのには、彼女の趣味である魔法の収集が絡んでいるらしい。

 

「優れた魔法使いの方なのですか?」

 

「どうだろう? 会ったのはもう何十年も前だからね。でも強さで言うならフェルンの方がずっと強いと思うよ」

 

 魔法に関して嘘は言わないフリーレンがそう言うのならそうなのだろうとフェルンは納得する。

 

「彼女は私達とは別の勇者パーティーに所属してた魔法使いだよ。魔王のところまで辿り着いたまでは良いけど、敗れてしまってね。私達が会ったのは彼女達が故郷へ帰る旅路の途中だったんだ」

 

 この世界で勇者パーティーといえば、ヒンメル一行だが、勇者は数多く存在した。

 そして当然ヒンメル一行が魔王を討伐する前に辿り着いた者達の大半は命を落とした。

 フリーレンは思い出すように澄みきった青空を見上げる。

 

「あれは確か、ヒンメル達と旅を始めて三、四年経った頃だったかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これでしばらくの旅費はなんとかなりそうですね」

 

 依頼を成功させて報酬の入った袋を持って僧侶のハイターが安堵する。

 世知辛く、魔王討伐の為の費用は基本自分達で稼がなければならない。

 上機嫌なハイターにドワーフである戦士アイゼンが呆れから口にする。

 

「元はと言えば、お前の酒代が原因だろうが」

 

「まぁ、今日くらいは羽目を外していいんじゃないか?」

 

「それでまた翌日に使いものにならなくなるのか……」

 

 酒の飲みすぎで使えなくなるハイターを予見して呆れるアイゼン。

 当の本人は、はっはっはっ、と笑って誤魔化している。

 そこでヒンメルが明後日の方向を見ているフリーレンに気付いた。

 

「どうしたんだい? フリーレン」

 

「アレ」

 

 フリーレンが指差した先には狭い路地裏に隠れるようにして座る三人がいた。

 

「別の勇者パーティーでしょうか?」

 

「何故あんなところに座っているんだ?」

 

 どう見ても三人が座るには狭い路地裏である。

 それに、雰囲気がやけに暗い。

 ヒンメルがその勇者パーティーに近づこうとする。

 

「ヒンメル」

 

「いいじゃないか。同じ勇者なら、特に警戒することもない。何か、有用な情報とか聞けるかもしれないだろ?」

 

 止めようとするフリーレンにヒンメルは笑顔でそう返す。

 ヒンメルを前に他の三人は後に続く。

 

「ちょっといいかい?」

 

 ヒンメルがそう話しかけるが、向こうは微動だにすらしない。

 もう一度話しかけようとするヒンメルにフリーレンが止める。

 

「無駄だよ、ヒンメル。この人達は────」

 

 そこで小走りで近付く足音がした。

 

「皆さーん! ただいま買い物から戻りま……し、た……」

 

 仲間の下へ戻ってきた十代半ばくらいの魔法使いと思しき少女が、ヒンメル達を見て顔を蒼くさせる

 その少女にフリーレンは話しかける。

 

「初めまして。この人達をここまで運んだの貴女?」

 

 フリーレンの質問に少女はビクッと肩を小さくする。

 

「運んできた?」

 

 ヒンメルが振り向くと当時に、青年の身体に当たってしまう。

 すると、青年の身体は力無く倒れてしまった。

 

「これは……」

 

 理解したハイターが口を押さえる。

 

「そう。死体だよ。死臭とかがしないように香水と魔法で防腐処理をしてるから分かりづらいけどね」

 

 フリーレンの言葉に少女は目を閉じる。

 そして懺悔するように帽子を深く被り話し始めた。

 

「魔法使いのニナと申します。私達今、ポッカという村に帰る途中なんです」

 

 ニナと名乗った少女は事の経緯を話し始める。

 ニナのパーティーは、魔王との戦いに敗れたこと。

 生き残った彼女は仲間の死体を連れて逃げ、せめて仲間を故郷の土で眠らせてあげたくてここまで歩いてきたこと。

 

「私がやっている事が許されない事だというのは分かってます。ですがどうか見逃してください。もしも途中で死ぬ事になっても、せめて故郷に帰りたい。それが勇者様達の願いだったんです。ポッカ村までもう少しなんです」

 

 頭を下げて見逃してくれと頼むニナ。

 魔王の配下である七崩賢の中には死体を操る魔族も居る事もあり、同様の魔法を快く思わない者も多い。

 

 彼女の懺悔に、口を開いたのはフリーレンだった。

 

「別に私はあなたのやっている事を責めるつもりはないよ。ただ、ちょっと知らない魔法だったから気になっただけ」

 

「そうですね。僧侶としては色々と言いたい事はありますが、私は彼らが羨ましくもあります」

 

 ハイターの言葉にアイゼンが頷く。

 

「望む地で眠るのは、俺達のような険しい旅をする者にとっての最大の我儘だ。故郷へ帰したいという願いを何故責める事が出来る」

 

 そしてヒンメルが死体となった勇者達を見る。

 

「君がこの人達にずっと魔法をかけ続けるのがどれだけ大変かは、魔法を使えない僕にも理解る。卑屈にならなくていい。君を胸を張れる事をしてるんだ」

 

「────ありがとう、ございます……」

 

 優しい言葉で慰めるヒンメル達にニナは掠れるような小さな声で礼を言う。

 地面にはポタポタと水滴が落ちていた。

 その空気に水を差すようにフリーレンが質問する。

 

「それよりも、死体を操作する魔導書とかが手元にあるなら見せてほしいんだけど。出来れば譲ってほしい。もちろんお金は払うよ」

 

「台無しだな」

 

 フリーレンの言葉にアイゼンが息を吐く。

 ニナは申し訳無さそうに話す。

 

「ごめんなさい。私まだ、慣れてなくて。この本が無いと上手く使える自信がないんです」

 

 三人も同時に操るのだ。

 魔力量やイメージ力に理論の理解。

 特に理論の理解にはまだ魔導書に頼っている状態だ。

 今本を渡して理論を忘れたら、彼女は三人を抱えて村に戻らなければならない。

 

「そっか。残念」

 

 フリーレンとしても、譲ってくれたら嬉しいくらいの気持ちで要求したのだ。拒否されて落ち込む事はない。

 

「それじゃあ、次に会った時。もうその魔導書が必要なくなったら譲ってくれる?」

 

 だが、最後に念を押すのは忘れない。

 フリーレンの要求にニナは小さく笑う。

 

「はい。次にお会い出来たら、必ず」

 

 そう約束すると、ニナは自分の勇者達に近付く。

 

「さぁ、行きましょう。皆さん……」

 

 彼女の杖が淡く光を放つと、死体である勇者達は立ち上がった。

 そしてヒンメル達に振り向く。

 

「皆さんもお気をつけて。どうか死なないでください」

 

 そう一礼すると、彼女は帰り道を歩いて行った。

 ヒンメルがもまた、今日の宿を取る為に歩く。

 途中でフリーレンが問いかける。

 

「もし旅の途中でヒンメル達が死んだら、やっぱり故郷に帰りたい?」

 

 珍しい質問に三人は目を丸くするが、ヒンメルはフッと笑う。

 

「意味のない質問だよフリーレン。僕達は魔王を倒す。絶対に。眠る場所は自分の足で選ぶさ」

 

「そう」

 

 ヒンメルの答えにフリーレンは納得してその後ろを歩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その後、噂だと彼女は志半ばで死んだ多くの勇者達や冒険者パーティーの遺体を故郷や人里に帰す活動をしていたらしい。帰り道を歩く魔女としてね」

 

「その方が、この丘の上に住んでいらっしゃるのですね」

 

「そういうこと。見えてきた」

 

 などと話している内に、丘の上に建っている小さな家に辿り着いた。

 フリーレンはそのドアをノックする。

 

「ごめんくださーい」

 

 すると一分程してから、ギィと音を立ててドアが開いた。

 中から現れたのは杖を突いて歩き、ねずみ色のローブを着た老婆だった。

 

「はい。どちら様でしょうか?」

 

「覚えてないかな? あなたが魔王退治の帰り道に会ったフリーレンだよ。あの時の約束通り、魔導書を譲って貰いにきたんだ」

 

 すると老婆は瞬きをした後に嬉しそうに微笑む。

 

「あぁ。覚えております。あの魔導書ですね。どうぞお入りください」

 

 そう言って拙い動作で踵を返すと年老いたニナだが、途中で足を躓かせて転びそうになる。

 それをシュタルクが受け止める。

 

「おっと。大丈夫か?」

 

「えぇ。ありがとう。この年になると身体にあちこちと弱くなってしまってダメね。申し訳ないのだけど、椅子まで連れていってもらっていいかしら?」

 

「お安い御用だ」

 

 そう言ってシュタルクはニナを椅子に座らせる。

 フェルンがニナに質問した。

 

「目が悪いのですか?」

 

「えぇ。まったく見えない訳じゃないけど、もうこの家の外を歩くのは怖いわね。今はもう親切な村の人達が食べ物を届けてくれるついでに様子を見に来てくれるから生活出来ているけどね」

 

 落ち着いた雰囲気だが、その笑った顔は、少女時代を思い出させる。

 

「魔導書はそこの本棚に置いてあります。他にも欲しい本があれば、持っていって構いません。もう私には必要のない物ですから」

 

「そう。悪いね」

 

 そう答えると、フリーレンは本棚から本を取り、パラパラと捲り始める。

 

「あの時の約束を果たせなかったことが心残りでした。フリーレン様。勇者様達の仇を討ってくれて、ありがとうございます」

 

「別に仇討ちをした訳じゃないよ。私達は私達の旅の目的を果たしただけ」

 

「それでも、です」

 

 安堵して笑うニナ。

 フリーレンは魔導書を数冊テーブルに置くと問いかける。

 

「他の魔導書をタダで貰うのは気が引けるから、何かやって欲しい事はある?」

 

「やって欲しいこと、ですか」

 

 少し悩む動作をするニナ。

 そして思いついた様子で手を合わせる。

 

「では一つだけ、お願いしてもいいですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ニナのお願い。それは彼女の仲間である勇者達のお墓に連れていってほしいという願いだった。

 家の外に出るのが難しく、ここ数年は墓参り出来なかったと言う。

 シュタルクに背負われたニナは墓の前で降ろされると、手を組んで祈りを捧げる。

 

「もう何十年も前なのに、まだ引きずっているの?」

 

「えぇ。勇者様達を死なせてしまった事を、後悔しない日はありませんでした。でも、その後悔が私を帰り道へ歩かせる道を示してくれたのです」

 

 たくさん人を故郷へ帰した。

 身元が分からない人も出来る限り人里まで運んだ。

 

「この村に勇者様達を帰した時に、その家族に救われた、と言われて、これが私の進むべき道だと思ったのです」

 

 組んだ手を解くと、残念そうに笑う。

 

「添える花を忘れてしまいましたね。久しぶりにここに来れると逸っていたみたいです」

 

 抜けてるところが直りませんでした、と息を吐く。

 

「じゃあこれはサービスだ」

 

 フリーレンが魔法を使う。

 すると、勇者の墓の周りには花畑が生まれる。

 

「見えてる? 花畑を出す魔法。私が一番好きな魔法だよ」

 

「えぇ。見えています。本当に綺麗……」

 

 本当に見えているのかは本人にしか分からない。

 ただ、フリーレンが出した花畑に触れて嬉しそうに息を吐いた。

 

「ニナ様?」

 

 その様子があまりにも儚げで。

 フェルンは思わず声をかけた。

 

「本当に心残りが無くなってしまいましたね」

 

 困ったような。しかし満足そうにニナは花を撫でる。

 その手が止まると同時に、ニナの目蓋はゆっくりと閉じていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰り道を歩き続けた魔法使いが安らかな眠りにつくと、ポッカ村の住民が手厚く彼女の葬儀を行った。

 そしてかつての仲間達と同じ墓地に埋葬される。

 ニナを看取ったフリーレン達は村人に感謝されて村を出た。

 

「ニナ様は最期、幸せだったのでしょうか?」

 

「さあね。でも、ヒンメルやハイターも同じような表情(かお)で逝ったよ。それが答えなんじゃないかな?」

 

「そうですね」

 

 そんな風に話しながら歩いていると、フリーレンが足を止めた。

 

「囲まれてる……」

 

 その言葉で合図であるかのように、狼に似た見た目をした魔物が襲いかかってきた。

 

「おおっ!?」

 

 シュタルクは驚きながらも斧を構えて、一番前で突っ込んでくる魔物の頭を潰した。

 

「数多っ!?」

 

「……っ!」

 

 フェルンも杖を構えて魔法で射抜く。

 

「この魔物は攻撃力は大した事ないけど、中々すばしっこい上に数十匹の群れで行動する。魔物にしては珍しい種だよ」

 

「呑気に解説してる場合かよ! うわっ! 噛み付いてきた!?」

 

「二人なら問題ない魔物だよ。それにもし殺されても、ちゃんと送ってあげる」

 

 ニナから譲り受けた魔導書を見せるフリーレンをフェルンが静かに叱る。

 

「フリーレン様。その冗談は笑えません」

 

「そうだね。私もここまで来て、帰り道を行くなんてごめんだ」

 

「なら早く手伝ってくれよ〜っ!!」

 

 泣き言を言い始めるシュタルクに、フリーレンも仕方ないと杖を構えた。

 

 

 

 ────帰り道を歩くのはまだ先のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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