ローズはアルファの案内の元、指名手配されているにも関わらず、あっさりと王都を脱出し、カゲノー領を経由し、獣人達の領域を抜けて更にその奥、常に深い霧が立ち込める深淵の森を抜けて、シャドウガーデンの拠点アレクサンドリアへと辿り着いた。
「……なるほど。ミドガル王国が総力を上げてもシャドウガーデンの拠点を見つけられない訳ですね」
それは拠点と言うには、あまりにも規模が大きく。
中心にはシャドウが剣を掲げた巨大な像が聳え立ち、その周りには神殿や城壁などの古めかしいた建物と、王都で見覚えのある先進的な建造物や畑が広がる。
「…………これはコーヒー豆ですか?確か、ミツゴシ商会でしか栽培していないって話でしたが」
「ええ、そうよ。どうせ直ぐ知る事になるから言っておくと、ミツゴシ商会はシャドウガーデンのフロント企業なのよ」
「み、ミツゴシ商会が!?」
「ええ、ミツゴシ商会の商品のその殆どはこの拠点で生産され、ミツゴシ商会で売られる。……そしてその資金で我々はディアボロス教団と戦う」
ローズは開いた口が塞がらなかった。
ミツゴシ商会は今最も勢いのある新進気鋭の大商会だ。
その影響力はミドガル王国に留まらず、世界にも及ぶ、これまでに類を見ない大商会。
その正体がシャドウガーデンのフロント企業に過ぎない……仮にこの事が世間にバレれば世界の経済は大きく混乱するのは間違いない。
シャドウガーデンが圧倒的な力を持つ事は知っていた。
しかし、まさかそれに加えて、ミツゴシ商会によって齎されれる圧倒的資金。
そしてそれらの組織を統率する頭脳に、カリスマ。
知力、武力、財力、統率力、その全てがローズの想像を遥かに上回る物だった。
「呆けている場合ではないわよ」
「は、はい」
アルファの案内で、ローズはシャドウガーデンの拠点に踏み入れた。
そして直後、見覚えのあるピンク髪の少女とすれ違った。
「あ、貴方は……!」
それは聖地リンドブルムで目にした仮面をつけた少女。
しかし、それ以前にもローズは彼女を目にした事があった。
それは魔剣士学園に隣接する学術学園の2年生にして、王国随一の頭脳として有名な少女だった。
その少女は、学園がシャドウガーデンの名を騙るテロリストによって襲撃され、父であるルスラン・バーネットの死を切っ掛けに学園から去ったとされる──
「シェリー・バーネットさん……」
「うぇ!?しぇ、シェリーってだ、だ、誰の事でしょしょしょか?わ、わじゃしはあ、アイですよよよよ!!?」
「…………」
凄く動揺していた。
気の毒になるくらいに、凄く動揺していた。
その様子にアルファはこめかみを押さえて深い溜息を吐いた。
「アイ。動揺し過ぎよ。それじゃ自分がシェリー・バーネットと白状しているのと同じだわ」
「うっ……」
申し訳なさそうに、縮こまるアイ。
「シャドウガーデンに所属する者は皆、過去の名を捨て、新たな名を名乗るわ」
「では、貴方も……?」
「ええ、
少し誇らしに、胸を張るアルファ。
その表情に、ローズは同性でありながらも、少しドキリとした。
「貴方はこれから666番と名乗りなさい」
「666番?」
名前とは到底言えない。まるで囚人のみたいな名前にローズは少し困惑した。
「一部例外を除き、新入りは基本加入時の番号を名乗るわ」
「私は、666番目のメンバーって事ですか?」
「そうなるわ。……活躍に応じて、ナンバーズとなり、別の名前が与えられる。……まあ、貴方の場合は何れ再びローズ・オリアナの名を名乗る事になるかも知れないけれど、その時までは666番が貴方の名前になる……不服?」
「いえ、……私はお父様から頂いたローズの名も、オリアナの家名も捨てるつもりはありません。…………しかし、その時が来るまで、ローズ・オリアナの名は封印し、今日から666番と名乗る様にします」
「そう」
「今日からお世話になります。アルファさん。アイさん」
「ええ、歓迎するわ……」
「よ、宜しくお願いします。666番さん!」
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ーーー
『失態だったな。ドエム・ケツハット』
ドエムは一瞬、あんなイレギュラーが続けば計画もクソもあるか!と、怒鳴りたい衝動を抑え、アーティファクトに投影される男に向けて頭を下げる。
「申し訳……ございません」
『ふん。貴重な薬を湯水の如く使い、やっと王を傀儡にできたというのに、全く……肝心なローズ・オリアナすら手中にできんとはな。私でなければ斬り捨てられても文句は言えない失態だぞ?』
「確かにオリアナ国王を失いましたが、依然王家は我らの手にあります。……国の未来を憂いて実の父すら手に掛けた娘です。きっとオリアナを我らの手から取り戻す為、きっと戻って来る筈です……」
『シャドウガーデンを引き連れてか……?』
「……ッ」
男の言葉にドエムは押し黙る。
『報告によれば、ローズ・オリアナを逃がす為にシャドウが現れたそうではないか。……また、悪魔憑きを発症した筈のローズ・オリアナが再度現れた際には完治した様子だったと聞いている』
それはつまり、ローズはシャドウ・ガーデンの手によって悪魔憑きが完治し、英雄の血を覚醒させた事を意味する事はディアボロス教団の中では周知の事実である。
ローズ1人なら大したことは無い。
例え英雄と称えられる者であろうと、個人の力でできる事は高が知れている。
世界に蔓延る闇の組織を相手に飲まれて終わる。
だが、シャドウガーデンが味方に付くのであれば別だ。
『シャドウガーデンは私が知る限り、最も教団に損害を与えた組織だ。それがローズ・オリアナの味方をし、オリアナ王国を取り戻そうとするのであれば、私が出向かざる得ない事態に発展する可能性すらある……』
「ラウンズが直々に……!?」
『それだけ、オリアナの案件は重要という事だ。お前の首が繋がったままなのは、まだお前には使い道があるからに他ならない。もし次しくじる様な事があれば……』
「も、勿論でございます……!」
次しくじれば、その時こそ粛清される。
その事を理解したドエムは顔面蒼白にした。
「次は、次はこの様な失態は犯しません!シャドウガーデンが乱入する事を前提に計画を練り直します!そして必ずや薔薇を手に入れます……!」
『……薔薇を手に入れるのは確定事項だ』
「し、失礼しました……!」
『あまり失望させてくれるなよ……ドエム・ケツハット』
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ブシン祭は僕がオイボレーノ・クソジージがシャドウである事で失格(特に何かルールに違反した訳じゃないけど)となり、決勝はツギーデ・マッケンジーと姉さんが戦い。最終的に姉さんが勝って優勝した。まあ、それはどうでも良い事だ。
僕が王都で起こした一連の騒動は魔人シャドウをアイリス王女と、その場に居合わせた武神ベアトリクスの手によって撃退されたと言う事で報道された。
間違いとは言えないけど、真実でもないね。
どちらかと言うと、ベアトリクスと戦っている最中にアイリスさんが居合わせた……というか、参入したんだけど、僕が起こしたブシン祭の騒動に偶々ベアトリクスが居合わせたのも事実。
2人の手によって撃退されたと言うか、僕がやりたいことはやったので撤収したんだけど、傍から見れば撃退されたとも見えなくはない。
「こうやって歴史って紡がれて行くんだな」
僕がモーニングティーと新聞を片手に呟くと、毛布が蠢く。
「……ん、どうしたの、シド」
そこから眠たげな表情で目を擦る産まれたての姿でアルファが顔を覗かせた。
やっぱりベアトリクスと似てるな。
「何でもないよ。もう少し寝てたら?」
「ふふ、全く寝かせてくれなかった貴方が言う?」
そういって小悪魔的な笑みを浮かべるアルファに、僕の理性は崩壊しそうになる。
いや、崩壊しても良いかな?
寝起きックスと洒落込もうかなと考えていると、アルファはスライムで作った服に身を纏うと、僕の隣に座ってモーニングコーヒーを始めた。
少し残念。
「そう言えば、ローズ先輩は結局シャドウガーデンに入ったの?」
「ええ、貴方の計画通りにね……」
別に計画なんて立ててない。
「今は666番としてラムダが教育を行なっているわ」
それはそれは……
「ちょっと可哀想だね……」
ラムダ如何にも鬼教官って感じで、怖くて厳しそうだし。
「……そうね。故郷が教団の手によって腐敗し、仕方がないとは言え、教団の傀儡となった実の父を手に殺め、今やオリアナ王国を混乱に落とし込んだ大罪人だものね……少し同情するわ」
「だね……」
僕が同情したのはそっちじゃないんだけどね。
「でも教団を倒すにはオリアナ王国が、そしてローズ──666番の存在がキーとなる。だから、貴方は直々に力を与えたのでしょう?」
「そこまで考えてはないよ……」
「どうだか……」
いや、本当に。
なんか、傷だらけで悪魔憑き発症してたし、それを治してあげようと思っただけだし。
「そう言えば、ベアトリクスと会わなくて良かったの?彼女、キミの事を探している様子だったけど……」
「ええ、構わないわ。私は既に一度死んだ身……今の私はアルファ。武神ベアトリクスが探している姪とは別人だわ」
「……キミがそれで良いなら良いけど」
デリケートな話だし、アルファがそう決めたのなら、僕がこれ以上言う事はない。
ブシン祭編をご愛読頂き、ありがとうございました!
本章はこれにて完結です。
ついでにアニメ1期範囲もようやく完結しました。長かった……
次章もブシン祭編と同じく、エピローグまで投稿できる目処がたってから投稿始めます。
※中途半端な所で更新途切れるのが書き手側としても、読み手側としても一番嫌なので。
僕自身、信用崩壊編でやりたい構想があるんで、取り敢えずそこまでは書くつもりです。
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シド君のエクスカリバーの射程は?
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1、七陰まで
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2、シャドウガーデン関係者まで
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3、射程?そんな物は存在しないッ!