お待たせしました。
想定以上に手を付けられていない状態が続いていまして。
ちまちまと頑張ります。
「……どうして彼女がここにいるのかな、ガレス」
「フィン、お前にその言葉をそっくりそのまま返すぞ」
【ロキ・ファミリア〗の団長であるフィン・ディムナと副団長のガレス・ランドロックは互いに困った表情をしながら目の前に繰り広げられている光景を眺めていた。
「どアホぉぉ!!ウチのアイズたんを貸すわけないやろ!」
「五月蝿い。少しは静かに話せないのか」
「できる訳ないやろ!ちゅーか、自分ヤバいことやってたんと自覚しちゃうんか?!」
「落ち着け、ロキ」
「……」
二人から見えるのは異様な光景だった。既に追放されている
「うおぉぉい、アイズたん!隣に行くんじゃない!」
「騒々しいな」
どうしてこの光景が出来上がってしまったのか、と再度彼らは頭を抱えるのであった。
Й Й Й
インクが付いたペンがただひたすらと紙の上で転がる音が響き渡る団長室に【ロキ・ファミリア】の団長、フィン・ディムナはいた。ここ数ヶ月続く
作業に取り掛かってから数時間が経過しているが、未記入である書類は全体の半分程度残っている。
本来は副団長であるリヴェリアやガレスも手伝っているが、リヴェリアは逃げ出したアイズの後を追いかけて行き、ガレスは今朝方の襲撃による片付けと被害状況の確認のために現場で監督兼、住民の護衛を行っている。アイズが逃げ出してから半日以上が経過しているが未だ帰ってこないので心配する団員らがちらほらいるが、フィンは心配していない。心配していないというのは言い過ぎかもれないが、大丈夫という自信の方が勝っている。
少なくとも、リヴェリアがアイズに追いつけないわけがない。アイズが逃げ出した報告が彼女の耳に入ったのは逃げ出してから三十秒程度だった。その上、アイズが逃げ出す先は毎回ダンジョンである。おおよそバベルの手前で捕まえ、そのまま共にダンジョン内にて訓練を行っているのだろうとフィンは予想している。
しかし、彼の予想はアルフィアによって外れているのであるが。
兎も角、彼女たちのことは気にせず作業に取り掛かっているフィンだが、長時間にわたる作業をしている故、腕と腰あたりに微々たるものではあるが痺れが表れてきた。たとえ多くの経験値を積んだ冒険者でさえ多少の疲労は出るものだ。
数分の休憩を取ろうと思い座席から離れ、窓の外を見ると主神であるロキとアイズ、リヴェリアが正門を通り、玄関へと歩いているのが見えた。
声にだしても聞こえないので「おかえり」と心の内で言おうとしたができなかった。
──後ろにローブを被っている者が歩いていたからだ。
しかし、ときよりロキが後ろを見て何か喋っているように見える。恐らくフードを被っている者と話しているのだろう。敵対している様子もないので、少なくとも闇派閥や全くの他人ということではない。
そうなれば、誰なのであろうか。何かしらの理由がなければ姿を表にだしていても問題はないはずだ。
そうなると、訳ありの者である。もしくは、己の姿を見せたくないという者でもあるかもしれない。
むやみに詮索するのも悪いか。フィンは一連の考察をやめ、再び積まれている書類の崩しに入った。
作業を再開してから数十分、終わりが見えてきた頃、団長室に来客が来た。
「フィン、今良いか」
入ってきたのはガレスであった。現場の方が一段落したので帰ってきたようであった。
「やあガレス、お疲れ様。被害の報告かい?」
「まあ、それもあるが……」
ガレスの様子を見るに、報告以外のことがありそうであった。
「主神室の方でな、ひと騒ぎ……いや、現在も続いているが」
「また、ロキがかい?」
「ロキもからんでいるのだがな」
困ったとも言いたげな顔で返答するのを見てフィンは不思議に思う。
「話の内容が内容だからな、フィンお前も必要だ。主神室まで来とくれ」
幹部まで必要になるとその話の内容は、よほど重要なのだろう。
「わかった。残りの書類が終わり次第向かうよ」
「いや、儂も手伝うわい。パパっと終わらせよう」
「ははっ、ありがとう、ガレス」
ものの数分で終わらせた二人は主神室へと向かった。ドアのノックし、入室の許可を得たので開けて足を踏み入れると──、
「どアホぉぉ!!ウチのアイズたんを貸すわけないやろ!」
と、ロキの怒気がたくさんこもった声が二人の耳に入り、物語の冒頭へと戻るのであった。
Й Й Й
「落ち着こうか、ロキ」
いつまで経っても膠着状態が続くであろうと考えたフィンは割に入ってこの場を落ち着かせに行った。
「……ちゅーか、自分、何してここにまた来たんや。まさかとは思うが、あの
「妄想被害を勝手に展開するな。ヘラは関わってない。むしろ、命令されていたとしても私が従うわけなかろう」
「……それもそうか。じゃあなんや、自分はなんのために来たんや」
「
「────」
この場の空気が凍った。
ロキ・ファミリアの主神と幹部は像になったのかのように固まっていた。
──彼女はなんと言った?
──息子がいるだと?
──その
──いつの間に。
様々な感想が彼らの心中で渦巻いている。脳内処理が追いつかないのが今の彼らの現状だろう。
「…自分、何言っとんのや」
「神の前では嘘はつけん。事実を述べたまでだ」
嘘はついておらん。
神は子供たちの嘘を見破ることができるが、今のアルフィアの発言に嘘偽りはなかった。
「……子の歳はいくつなんや」
「そろそろ7になる」
「背の丈は」
「そこの小娘と同じくらい」
「特徴とか性格は」
「……何処まで答えればならんのか」
信じられないと言わんばかりに質問攻めを行うロキにアルフィアは流し作業のように淡々と答えている。しかしは執着しすぎるあまり、アルフィアがおされる形になってきた。
背丈や歳などの簡単な質疑は答えることは分かるが、性格や外見特徴などのこと細かい箇所まで聞くか、普通?
「何故、こと細かく聞く。……信じられないような顔をするな。あと、近い」
「そりゃあ、あのヘラの眷族が子を産んだんやぞぉぉ!?それだけでもエラいことやのに、その子の親がお前だと!信じられるか!?」
「何を言っている、私の子ではないぞ。妹の子だ」
「……は?」
アルフィアは告げた。勘違いをしている者たちに。
黒竜と戦闘の最中に妹が孕まれた事。
父親は
少年は白髪で紅眼である事。
──あれ、こやつ惚気けてる?
一柱の感想である。
〖最凶〗と謳われし者が如何にして変化するものかと幹部それぞれに驚いている。
──本当に〖静寂〗?
〖最凶〗謳われし眷族の者が如何にして変化するものかと幹部それぞれに驚いている。
「……嘘はついておらんのは分かった。……しかしなぁ」
「なんだ」
「いや、なんでもあらへん」
少し心残りがあるように思えるロキにアルフィアは反応するが、これ以上ツッコミをしていたら埒が明かない。そう判断して出かけていた言葉をバッサリと切った。
「続きや、さっきの続き。話が右往左往してたら時間が足りへん」
大体の原因はお前だろう。
幹部とアルフィアは声に出すことはせず、心の中でツッコミを入れた。
「アイズを借りたいのは分かった。しかし条件なしで貸す訳にはいかない、ということは分かっていると思うが」
「無条件というのが理想ではあったが、仕方あるまい。幾つか挙げよう」
「言ってみぃ」
「一つ、暫のオラリオの安泰」
「……これは大きく出たね」
一つ目から交渉において大きな利益とも言える情報が投下された。ロキはアルフィアを見つめるが、
「嘘、じゃないか」
真実であることを認めた。
「二つ、酒の永久提供」
「『永久』というのはこちら側としても費用を節約できる点でありがたい。しかし、」
「──出処次第や」
酒にうるさい
「
「はー、あのクソジジイを唸らせた酒か。興味深いわ」
よろしいようである。この調子で交渉を続ければ理想的である。あと一つか二つの交渉材料で乗り越えたいところではあるが、
「これじゃあまだ足りない」
「だろうな」
ロキに重宝されているアイズを借りるにはまだ交渉材料が足りない。条件成立が百とすると今は八十と言ったところであろうか。
「三つ」
アルフィアは言った。アイズを指さしながら、
「その
アルフィアは切り札ともいえる交渉材料を持っている。【ロキ・ファミリア】にとって非常に大きな利益をもたらす情報を。
「────」
アルフィアにより視線が集まる。特にリヴェリアが。アイズの母親として育ててきたのだ。アイズについて知っている事が少ない為、この機会を逃すわけにはいかないのだ。
「どのくらい持っている」
リヴェリアが問う。多ければ多いほど嬉しいが、
「どのくらいと問われても、私が知っているものしか知らん。お前たちにとって多いかもしれないし、少ないかもしれない」
「そうか。……フィン、どうだ」
アルフィアの返答を聞いたリヴェリアはフィンに判断を仰いだ。私だけで判断するわけにはいかない、と。
「んー、僕としてはアイズを貸す条件を十分に満たしていると思うよ」
「そうか、ガレスは?」
「儂もフィンと一緒じゃわい」
フィン、ガレスはアイズを貸せる条件を満たしていると判断し、交渉成立を指すサインを出した。
ならば残すのは、先程から俯いて一言も喋らない
「……どうだ、ロキ。私も貸しても良いと思うが」
「だ、ダメや!やっぱりアイズたんは貸せへんわ!」
NGが主神から出てしまった。
「何故だ、ロキ」
「アイズたんだけじゃこの最凶に何されるかわからん。そのまま連れ去られるかもしれへんやろぉ!」
「するわけないだろう」
「いや、わからん。途中で気が変わって……あああ!そうなったら、ウチは、ウチはぁ!!」
気が狂ったように妄想被害を繰り広げ暴れるロキ。理解できないわけではない。目の前にいるのは現在のオラリオにはいないLv.7の最上級冒険者である。
【ロキ・ファミリア】でさえ、最高Lv.5である。しかも、アイズはその下のLv.3である。
力の差は明らかだ。
いくら神が嘘か実かであると判断しても油断はできない。
「せめて、上級冒険者が一人アイズたんについてくれればなぁ」
ロキは嘆く。護衛のような存在が一人でもいたら許可できる、と。
顔を覆いつつもちらちらと
「……私も帯同となるのがこちら側の条件らしいが」
「別に構わん。そちら側の主戦力が一人欠けるが、それでも良いのであればだが」
「オラリオの安泰が約束されているからね、大丈夫さ」
「そうか」
交渉はここにて成立した。となると、アルフィアの目的は達成されたこととなりアイズとリヴェリアくを連れてベルたちの元に戻るだけである。
しかし、時間が時間だ。空は暗く、周りの住居も街灯を残し照明が消えている。
「リヴェリアたちも準備時間が必要だし、明日出発ということでもいいかな」
「構わん、夜通しで歩かせるほど私は非人道的な者ではない」
翌日出発することに決まった。アルフィアは一度妹が住んでいた教会に戻ることを告げ黄昏の館を後にした。
人気のない通りをアルフィアは歩いている。無論、教会に向かっているためだ。妙に不気味に感じる。街灯が灯っていないのが不気味さを増しているように。
こういう時は大体何かが起きる。そう、例えば──、
「
一言呟くと後ろでドサッと何かが落ちる音がした。数名の男らが倒れている。彼らはピクリともしない。不可視の音魔法により平衡感覚をやられたのだ。
アルフィアは見向きもしない。不埒な連中に対する鉄槌はこれで十分なのだ。
しかし、ただただストレスが溜まるだけのアルフィア。
──これで何度目だ。
数十メートルごとに襲い掛かってくる輩を倒すだけの単純作業も回数が多ければ苛立ちが積もる。
しかしまあ、何にも学ばない奴らである。あはれなり。
鬱憤が溜まりに溜まった彼女は進む方向を変え、体を反らなければ全体を見られない高い塔へ向かったのだった。
後日、オラリオ内ではやられていくモンスター共が可哀想だと言われるほど、無慈悲にモンスターを倒していくローブを被ったものが中層近辺で現れていたという。