「ねえホムラ、そのシズカっていう人は最近この辺りにその……過激派?のアリウス生が増えてることについて何か言ってなかった?」
ある日の朝、ドアを開けて差し込む日光を浴びながらうつらうつらしていると、サオリから質問を投げられる。
あれだけ寒かったアリウスも春を迎え、コンクリートの隙間からタンポポなどの咲く暖かい季節となった、私としてはこの暖かいが暑くはない、心地よい時期がずっと続けばいいのにと思って止まない。
思考が逸れた、そうだ、最近は比較的アリウス生の行き来が少なかったこの地域にも集団が行軍していたり、稀に戦闘が始まることもあるなど、アリウス生の活動が増えてきたのだ。
「それは……多分、あの地下通路をめぐって争ってるからじゃないかな。シズカは穏健派の中でも地下通路を確保するべきだって意見が大きくなってるって言ってたし……」
そしてそれは、シズカに地下通路の存在を教えた私の責任でもある。
地下通路、私がここへたどり着いた要因であり常に危険の付きまとう死の道、みんなを案内した翌日、再び足を運んでみたところそこには既に警備の隙なんてものはなくて、私たちが脱出することは不可能になっていた。
おそらく、私たちには初日に脱出する以外の選択肢はなかったのだろう。
あの時、口に出せていたら、みんなをこんなところで暮らさせることもなかったのだろうか?
暑くないはずなのに、首筋に髪がへばりつく感覚だけを妙にはっきりと感じる。
そうだ、あの時私が言わなかったから今があって、それから今の今まで口にすることすらできてないのだから、こんなこと、今更言える訳が…………。
「もし、穏健派の人たちが勝ったら私たちも……外に出たりできるようになるんですかね……?」
ヒヨリの声で現実に引き戻される。
「…………多分、少なくともシズカはアリウスを出たい人たちは出てもいいんじゃないかって考えみたいだから」
「な、なら……、穏健派の人たちには勝ってほしいですね……」
「そうだね……」
ただ、少し不安な点もある、シズカの話ではこのごろ穏健派の中で過激派との和平を主張する声が大きくなっているらしい。
いいことのように聞こえるが、『今までも和平を結ぶって話が何回かあったみたいだけど全部決裂しててねー、その度にこっちが被害を受けてるんだから過激派と和平とかムリムリ。できっこないよ』……とのことらしい。
つまりは穏健派の中でも対立が生じており手が離せない状態だそうだ、実際ここ最近は夜に外を歩いてもシズカと出会うことは無かったため、事実なのだろう。
「姉さん、私たちも探索を始める時間変えた方がいいんじゃない?このあたりに残ってる物もかなり減ってきたし、遠くまで歩かないとならあいつらに見つからないように夜に動いた方が良いと思う」
ミサキがつい先日サオリに作って貰ったばかりのクマの木彫りから目線を逸らすことなく口を開く。
ミサキの言うことももっともだ、遠くまで行かなければならないということは、必然として巡回中のアリウス生や他の子供などと鉢合わせる可能性も高くなるわけなのだから。
「そうだね……。うん、今日はいつも通り昼から探索して、明日からは夜にするように変えようか。だから、ホムラも今日はちゃんと寝とかないとだめだよ?」
「うっ……」
ばれてたんだ……。ただ、眠れない理由は分かりきったことなので、今更どうしようも無い。
各々が各々の朝を過ごしたところで、サオリの号令により私たちの1日が始まる。
「じゃ、そろそろ今日の探索に行こうか!」
◆
「やっぱり中心の方はアリウス生が多いね……」
街の中心まで来ると建物もまだ原型を保ったものが多く残っているが、そのほとんどが窓が割れ道路に瓦礫が散乱するなど荒れ果てた様子であるのには変わりがなく、トリニティや他の学区と比べると生気を失った、よどんだ空気を感じずにはいられない。
中心街でもこのような状況だということはやはり、このアリウスという自治区自体が既に限界を迎えている場所なのだろう。
「だね……それにしたって今日は多い気がするけど、何かあるのかな……」
一か所にまとまり何かを待つかのような態勢をとっているガスマスクの集団を監視する、シズカから聞いたのだったか、同じ制服を使っている彼女たちはガスマスクやプロテクターを装備しているか否かで互いを判別しているとのことであり、ガスマスクをしているのはたいてい過激派に所属する生徒だとか。単純に物資の差とも言うらしいが……。
「こ、これ……。私の銃、目立ってませんよね……?」
ヒヨリが背負っているスナイパーライフルを揺らしながら不安そうなそぶりを見せる。
この前拾ったスナイパーライフルだが、驚くことにヒヨリが一番上手く扱って見せたのだ、ヒヨリの性格からも前線で戦うよりも後方から狙い撃つ方が合っていそうなので、これを拾えたのは運が良かったとしか言いようがない。
「大丈夫、誰もこっち見てないから、見つかったらおしまいだけどね」
ミサキがハンドガンを取り出す、サオリと私もそれに倣い、いつでも撃てるように各々ハンドガンとPDWを構える。
「……?サオリ、あいつらあっちに行くみたい」
建物の影からアリウス生たちを観察していると、度々時間を確認していたリーダー格と思われるアリウス生が動いたのを合図に、皆一様に移動を始めた。
「そうだね、……ばれない範囲で追いかけてみようか、いいものが見つかるかもしれないし」
「「「了解(です)」」」
足音を殺し適切な距離を保ちながら、ガスマスクの集団の後をつけさらに中心街の方へ向かった。
◇
「こっちだよ、皆。ここに隠れよう」
「ホムラさん……その……せ、狭いです……」
「ごめん……でももう奥行けない……」
「しっー!静かに、もっと頭下げて」
あれからガスマスクの集団を追っていたのだが、どうやら他の部隊と合流するところだったらしい。彼女達から隠れるために少し離れた場所の崩れた壁の裏に隠れてるのだが……。
「むぎゅう……」
狭い……。
「あっ、ホムラが潰れた」
「ごめんなさいぃ……。私が狭くしてるんですよね……すみません……」
「い、いや……。大丈夫。私が顔を出そうとしなかったら何とかなりそう」
見えないけど……これならなんとか……。
「あの……あの中央にいる人は誰ですか……?会った時のホムラさんみたいにす、すごいきれいな服着てますけど……。あっでも、きれいなだけじゃなくて、なんというか、雑誌に載ってた……なんていうんでしょう……?」
「私もよく知らない……。えらい人なんじゃないかな……」
みんなには一体何が見えてるんだろうか……。
「お姫様なんだって、高貴な血を引いてるとかなんとか。」
お姫様?そんな人がここにいるのか…………!?
「お姫様!?世の中にはお姫様もいるんですね?私たちみたいな底辺と違って……。最近はそういうことも減りましたけど、飢えたり……怪我したり……道端で寝たりもしないんですよね……。そうですよね?」
「う、うん……そうなんじゃない……?」
「この世には苦しみしかないと思ってたのに……あんなにきれいで幸せに過ごしてるお姫様もいるんですね……感動しましたぁー!」
「ち、ちょっと急に泣かないで、ばれるでしょ!」
「私にも見せて……」
サオリの手と手の間に挟まるように顔を出してみる、そうすると10人以上のガスマスクの集団とそれに囲まれた一人の少女が見えた。
その少女はアリウスでは見たことが無いような汚れひとつない純白のワンピースを身にまとい、他の人間とは異なる雰囲気を放っていた。ただ……。
「あれは……護衛っていうより、連行されてるみたいな……」
四方八方から少女を囲み物々しい雰囲気を漂わせている姿は、お姫様を警備する兵隊というよりは、囚人が逃げ出さないように連行する警察の方が近いように感じる。
「実際そうなんじゃないかな、あの子、多分人質として連れてかれるんだと思うよ」
ミサキが私の疑問を肯定する。
「人質ですか……?」
「うん、あのお姫様も監獄で飢える生活になるんじゃないかな、それこそ、いまの私たちよりひどい生活みたいな」
そんなこと、シズカが許しそうに思えないが……。和平を進めようとしてる集団の独断だろうか?
「あ、あうう……」
「やめてミサキ、ヒヨリが怖がってるでしょ」
「……で、どうするの、姉さん、まさかただ見物して帰るってわけじゃないよね」
その質問にサオリは少しの間逡巡すると、力強く頷いた。
「……もちろん、襲って役立ちそうなものを拝借するよ。そしてあのお姫様も連れて行こう」
その答えに私とミサキは困惑する。
「……助けるの?あのお姫様を」
「……?うん、だって、ミサキはそういうつもりで言ったんでしょ?ちょうど私もそのつもりだったんだ」
サオリはなんともないように答える、きっと、この優しさに私は助けられたのだろう。
「べつにそういう意味じゃ……いや、姉さんがそう決めたなら従うよ」
ミサキもため息をついているものの、それほど嫌だということでもないようだ。
私も連れ去るのはいいと思うが、同時に疑問も残っていた。
「連れてくって言うけど…作戦はあるの?」
サオリは自信満々に言い放つ。
「もちろん!」
このまま進めていくと原作に到達するまでかなりの時間がかかるのですが、過去編が1章終わるごとに原作も1章進めるなど同時進行で進めたほうがよろしいでしょうか?(過去編で原作との相違点がかなり発生する予定なので作者の文章力では状況がわからなくなる可能性があります)
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時系列に沿って進めよう
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原作も進めよう(0章終了後アビドス開始)