未来の見えていた少女の大切なもの   作:かぶり猫

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13.路地裏の追想劇

 

 

 姉さんに出会った時、私を支配していたのは諦観だった、お腹が空いて、喉が渇いて、苦しくて、立っていることすらできなくて。

とうに住む者の居なくなった、最早家とも呼べないような構造物を背にへたり込み、いずれ来るだろう死を待っているだけだった。

死が怖くない訳じゃなかった、死ぬことは辛くて苦しくて、恐ろしいことだってわかってた。

死に怯えながら、でもどうすることも出来ずに死を迎えた人を知ってたから。

でも同時に、死んでしまえば、もうこんな苦しいこともつらいこともなくなるんじゃないかとも思ってた。

名前も知らない死んだあの人は、それ以上苦痛に顔を歪めることは無かったから。

背中で感じる世界の温度は冷たくて、私からどんどん熱を奪っていく。

それでも足りないと言うかのように降り始めた雨が、更に私を死へと近づける。

世界は私に慈悲をくれたことなんかなくて、いつだってただ奪っていくだけ、人を、住処を、食べ物を、最後には命を。

髪を伝って落ちていく水滴(私の命)を他人事のように眺めながら、刻一刻と近づく終わりを受け入れようとした時、頭上から声が聞こえてきた。

 

 

「大丈夫……なわけないよね。これ、すこししかないけど、食べる……?」

 

 

 反応する気力すら残っていなかった私は、何か裏があるんだろうな思うだけだった。

自分が食べる分の食料すら手に入れることが難しいここで、そんなことをする人間を私は知らなかったから。

そんな私の様子に気が付いたのか、彼女は一口サイズにちぎられたパンともう残り僅かな水しか残ってないペットボトルを私の口元へと近づける。

 

 

「冷たっ……ちょっとでも食べないとほんとに死んじゃうよ!」

 

 

 それでもいい、心の中でそう返答した矢先、彼女は私の口へパンを押し込むとそこに水を流し入れてきた。

予想外の出来事に反応できずむせそうになりながらもやっとのことで喉の奥へと押し込み、そんなことをする犯人の顔を一目見てやろうと顔を上げ、

 

 

「よかった……食べてくれた……」

 

 

 心の底から私のことを心配して、安心から深く息をつく少女の姿に毒気を抜かれた。

そして先程までもう動かす気力すらなかった身体を、自分の意志で動かしたという事実に動揺する。

 

 

「ここだと体も冷えちゃうし、この中に入ろう?」

 

「ぇ……あ……ぅん……」

 

「……もしかして動けないの?だったら私も一緒に頑張るから……!」

 

 

 わけがわからなかった、どうして私に貴重な食べ物を分け与え、さらにはこうやって立ち上がるための手伝いまでするのか。

そしてその後やっとのことで屋内へと入ると、彼女が放った一言。

 

 

「よかったぁ……あのまま死んじゃうんじゃないかって、本当心配したんだよ?じゃ、とりあえず自己紹介から始めよっか!私はサオリ!あなたは?」

 

 

 ここでようやく分かった、彼女……サオリ姉さんは本当に、見ず知らずの私のことを心配だ、というだけでこれだけのことをしたのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうやって私と姉さんは出会い、それからすぐにヒヨリとも行動を共にすることになる。

その後ホムラとも出会い、4人で一緒に過ごすことで今に至るのだけど……。

 

 

「……もちろん、襲って役立ちそうなものを拝借するよ。そしてあのお姫様も連れて行こう」

 

 

 当然のことのように宣言する彼女の姿に、姉さんはこういう人間だったなと改めて思い知らされる。

 

 

「……助けるの?あのお姫様を」

 

「……?うん、だって、ミサキはそういうつもりで言ったんでしょ?ちょうど私もそのつもりだったんだ」

 

「べつにそういう意味じゃ……いや、姉さんがそう決めたなら従うよ」

 

 私だって、あのお姫様の行く末に思うところが無い訳ではなかった、ただそれが、三人を危険に晒してまですることではないと思っただけ。

誰だって生きていたら簡単に他人にかわいそう、などと感じることはあるはずで、それが偶然あの子に向いただけのはずだった。

でもそれが姉さんの決定ならば、私はそれに従う、姉さんの選択を正しいと思ってるし、それに、一度こうと決めたサオリ姉さんを説得するのは大変だって分かってるから。

 

 

「連れてくって言うけど……作戦はあるの?」

 

 

 ホムラが頭上にある姉さんの顔を見上げながら疑問を投げかける。

 

 

「もちろん!」

 

 

 こういう時のサオリ姉さんの判断力はすごい、すぐさま私たちに的確な指示を飛ばしてくれる。

 

 

「まず……そうだね、ヒヨリは私が合図したらお姫様たちの後ろ側の……あの建物の中からそのライフルで狙って一人仕留めて」

 

「わかりました……!」

 

「それに合わせて私がこれを投げるから、そこであわよくばもう何人か気絶させて、そのままお姫様を連れて一緒に逃げるんだ、逃げる時にホムラが持ってるグレネードも一緒に置いて行ってね。そうしたらさっき通って来た広場まで逃げて、そこでヒヨリが合流次第援護をもらいながら残ったあいつらを全滅させよう」

 

「わかった」

 

 

 サオリ姉さんが言う「これ」とはつまり、発煙手榴弾、スモークグレネードのことだ。

ヒヨリの狙撃による動揺に乗じて煙幕を張り、その隙にお姫様を連れ去るということなのだろう。

 

「……でも、もしあのお姫様が拒否したらどうするの?」

 

「そのときは……アリウス生の持ち物だけ貰って逃げよっか」

 

 

 なるほど、お姫様を連れていけるならそれで良し、そうじゃなくても物資だけ奪って逃げればいいと、確かにどう転ぼうと私たちに利しかない、失敗しなければ、の話だけど。

 

 

「…………了解、それでいこう」

 

 

 とはいえ、だからといって止めるには、もうみんなそのつもりになりすぎている。

 

 

「じゃあ、ヒヨリ、よろしくね」

 

「は、はい……がんばります……!!」

 

 

 そして5分もしないうちにヒヨリが所定の位置につき、あとは姉さんの合図を待つだけとなった。

相手は9人、完全な奇襲とはいえ、客観的に見れば無謀に近い行動なのだろう。

でもなぜか、私たちなら、この4人なら出来ると思ってしまう自分が居た。

 

「じゃあ……」

 

 

 姉さんはヒヨリだけに見えるようにハンドサインを行うとすぐさまグレネードのピンを抜き、集団の中へと投げ込む。

ヒヨリの狙撃と姉さんのグレネードが、同時に着弾した。

一人の体が揺らめいたかと思えば、すぐさまその制服よりも白煙の中へと消えていく。

煙は即座に集団を飲み込み、外部と内部を、そして内部での認識すら遮断する。

私たちにとって最高のタイミング、敵にとっては最悪のタイミングで戦いの火蓋は切られた。

 

 

「行くよ!!」

 

 

 合図と共に私たち3人は瓦礫の裏から飛び出す。

 

 

「なんだ!?」

「これは……煙幕だ!」

「敵は何処にいる!?」

 

 

 相手はものの見事に混乱状態だ。

私たち三人は小柄な体を生かし針を縫うようにして煙の中を駆け抜ける。

数人ほどの足元を潜り抜けると、薄紫色のお姫様の元へとたどり着く、他の二人は……煙の中ではぐれた?

 

 

「まず煙の中から出るんだ!っ───!?」

 

「どうしたブラボー3!応答し──なっ、貴様───!」

 

「ブラボー1!指示を!!ブラボー1!?」

 

 

 ……異なる二種類の発砲音、どうやら頭数を減らしに行っているらしい、これであと6人だけど……。

周囲のことに気を取られ、目の前のお姫様のことを後回しにしていたことに気づく。

とにかく聞くことだけは早く聞いておかなければと顔を合わせると、私のそれよりも更に深い赤の虹彩を持つ、澄んだ瞳に見つめ返される。

 

「…………あなたは?」

 

 

 その瞳は周りのことなど気にするほどのことでもないと言うかのように私を捉えて離さない。

 

 

「……私のことは後でいいから、こいつらと一緒に居たくないならついて来て」

 

「…………?」

 

「……一緒に逃げ出さないかって言ってるの」

 

「逃げる…………うん、いいよ」

 

 

 よし、彼女の同意はとれた、さすがに私たちでは子供一人抱えながら走るのは厳しいので、お姫様には自分の意志でついて来てもらう必要があったのだ。

無理やり連れていくことも出来なくはないが、それだとサオリ姉さんの目的には反するだろうし、何より捕まる確率が上がってしまう、それは困る。

そうと分かれば時間はない、もうすぐ煙幕の薄れてくる頃合いだろう。

 

 

「わっ……」

 

 

彼女の手を取り先程の声の方向へと走る。

 

 

「こっちはお姫様連れていけそう、そっちは!」

 

「ほんと!?さっすがミサキ!私たちの方も大丈夫そう……」

 

「いや、逃げるにしたってまだ相手の人数が多い、このまま全員で逃げたら合流地点にたどり着く前に追いつかれるよ。こっちはただでさえお姫様を連れてるんだから」

 

 

 ホムラが作戦通りグレネードを取り出す。

 

 

「でもそう言ったってどうするのさ!みんなで逃げないと意味が……!」

 

「私が囮になるっ!」

 

 

 言うが早いかホムラはグレネードのピンを抜くと、すぐさま大きく振りかぶる。

 

 

「はぁ!?何言って……っ!」

 

 

 自分の体が私たち程頑丈じゃないことを分かってて言ってる訳……!?

 

 

「ホムラッ!!」

 

 

 姉さんが声を張り上げホムラの方へ走り出す。

私も文句の一つでも言ってやろうかと思った瞬間、周囲を飲み込む轟音、そして閃光によりすべてが塗りつぶされる。

爆風に飛ばされることのないように踏ん張り、周囲の音が戻って来た頃合いに瞼を開く。

 

 

「グレネードだ!やられた奴はいるか!?」

 

「一人やられた!それにリーダーが……!」

 

「リーダーが居なくても分かるだろう!あのガキどもが犯人だ!追え!!」

 

 

 気づいた時には既にホムラは大通りの真ん中を駆け出しており、それを追いかけるようにして後ろにサオリが、更にその後方にアリウス生たちが走り始めていた。

置いて行かれたのは私とこのお姫様だけのようで、こちらを見失ってくれたのは助かるものの、これでは後を追うことも出来ない。

この後どう動くべきかと考えを巡らせていると、背筋が凍るかのような呻き声に振り返る。

 

 

「貴様ァ…………!!ロイヤルブラッドは……マダムの命令を妨害することなど許すものか…………!!」

 

 

 ガスマスクの奥から覗く瞳はどろどろとした怒りに濡れていて、見ていると飲み込まれてしまいそうですぐに目を逸らす。

 

 

「っ…!」

 

 

 もしかしてヒヨリが狙撃した奴が回復した!?

 

 

「来てっ!!」

 

「うんっ……!」

 

 

 咄嗟にお姫様の手を引き目についた路地裏へと逃げ込む。

サオリとホムラは表を、私とお姫様は裏を、表と裏の通りを走る二組の追走劇が始まった。

 

 

このまま進めていくと原作に到達するまでかなりの時間がかかるのですが、過去編が1章終わるごとに原作も1章進めるなど同時進行で進めたほうがよろしいでしょうか?(過去編で原作との相違点がかなり発生する予定なので作者の文章力では状況がわからなくなる可能性があります)

  • 時系列に沿って進めよう
  • 原作も進めよう(0章終了後アビドス開始)
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