未来の見えていた少女の大切なもの   作:かぶり猫

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14.小さくて、身勝手で、でも、確かな理由

 

 

「逃がすかっ……!!」

 

 

 小さな体を活かし建物の隙間を縫うようにして走り、通りざまにゴミ箱を倒すなど追いつかれないように手を打つ。

だがこれも時間稼ぎにしかならない、歩幅の差でいつかは追いつかれることが分かりきってる。

どこかでもう一度意識を奪わないと……!!あいつを連れて合流地点に行くわけにはいかない……!

 

 

「はっ……!はっ……!!」

 

 

 何か……何か方法があるはず……!!

幸いなのはあいつが銃を拾うことすら忘れて追いかけてきていることだけど、最悪な状況が少しマシになった程度。

この地形を活かして振り切る?不可能、勝手知ったる家の周辺ならまだしもここはアリウスの中心街、私にとっても不慣れな地形、私1人ならともかくお姫様を連れてなんて出来るはずがない。

ハンドガンでダメージを狙う?これもまた不可能、立ち止まる、振り向く、銃を構える、狙いを定める、撃つ、この動作をする内にあいつに追いつかれる。

考えろ、それが全てじゃないはず!

 

 

「ねえ」

 

「なに……!?」

 

「あの人から逃げたいんだよね……?」

 

「そう、だけど……!」

 

「たぶんあの人、もう限界だから……」

 

 

 お姫様は全力疾走しながらにも関わらず器用にワンピースのポケットから赤い紐のようなものを取り出した。

 

 

「あやとりのだけど……足を引っかければ……」

 

「足……?……っ! そういうこと……!」

 

 

 あやとりとかなんとか知らないけど、確かにそれなら使える……!

声を潜めて作戦を共有する、この作戦は私一人ではできない、彼女の協力がいる。

 

 

「お姫様にも協力してもらうよ」

 

「うん、でもお姫様じゃなくて、アツコ」

 

 

 お姫様……アツコは、どうしてもそれは譲れないといった様子で私を見上げてくる。

 

 

「名前とか……いや、うん、アツコ。次の曲がり角を曲がってすぐのところで、私とアツコでその紐の両端を持って引っ張って罠を張って、あいつに隙を作る」

 

 

「そこまで協力してくれれば後は私が何とかするから」

 

「うん……!任せて、こういうの、いたずらみたいだね」

 

 

 今の今まで無表情を崩さなかった彼女が、ここにきて初めて口元をゆるめ、小さく笑った。

 

 

「いたずら……?まあ、確かにそうかもね」

 

 

 先程まで焦燥感に支配されていたのにも関わらず、今では心なしか余裕が生まれているような気がする、気づかないうちに彼女のペースにつられているのかもしれない。

ホムラと同じくらいの背丈しかないというのに不思議な子だなと思いつつも、罠を張る曲がり角が近づいてきたため意識を切り替える。

 

 

「……いくよ!」

 

「うん……!」

 

 

 脇道へ入ると同時に互いに端を持った紐を引っ張る。

 

 

 「せー……の!」

 

 

 道幅限界まで伸ばしきった紐はぴんと張り詰め、ちょうどあのアリウス生の脛の高さに仕掛けられる。

あとはあいつが追いつくのを待つだけ……!

 

 

「チッ!こっちか……!」

 

 

 どんどん足音が近づいてくる。

それに伴いただでさえばくばくと音を鳴らしていた心臓がさらに速度を上げていく。

追いつかれるのにもう5秒もないだろう、4、3、2、1……!

 

 

 視界に特徴的な白いコートが視界に入り、そのまま私たちに気づくことなく接近する。

 

 

「どこに──────なっ!?」

 

 

 見事なほど綺麗に罠にかかったアリウス生は、受け身を取る暇すらなく地面へと叩きつけられた。

 

 

「まだ……!」

 

 

 その隙を逃さないよう、すぐさま紐から手を放しハンドガンを構え、後頭部へと狙いを定め発砲する。

アツコの言っていた通り先程のヒヨリによる狙撃から回復していたわけではなかったようで、ものの数発でそのヘイローは明滅し始め、そのまま消え失せた。

 

 

「や、やった……」

 

 

 相手の沈黙を確認した途端、急激に体から力が抜けた、せめてもと壁へもたれかかり息を整えようとする。

 

 

「……いたずら成功だね」

 

 

 近づいて来たアツコは両手を顔の横に持ってきて謎の構えを取り始めた。

 

 

「はぁ……はぁ…………なに、それ……」

 

「ハイタッチ」

 

「ハイタッチ……?」

 

「うん、なにかうれしいことがあったときは、こうやって両手を合わせるんだって」

 

「……なにそれ」

 

 

 そんなことをして、何かが変わるわけでもないのに。

 

 

「……しないの?」

 

 

 アツコはこてん、と首を傾げ、じっとこちらを見つめ続けている。

 

 

「………………わかった」

 

 

 その視線に妙な居心地の悪さを覚えた私は、しかたなく、しかたなくその要求を呑んだのだった。

ぱちん、二人の両手を合わせたことにより生み出された軽快な音は、全身にずっしりとのしかかっていた疲労感を少しだけ吹き飛ばしてくれた。

 

 

「……はい、これでおしまい」

 

「……ふふ」

 

「……なに笑ってるの」

 

「いや、なんにも」

 

 

 その顔はこの状況がどうにも楽しいと主張して止まないようで、そこまで楽しそうにするのならこれくらいまたしてもいいかな、なんて変なことを考えてしまった。

この子といるとどうにも調子が狂う、でも、不快ではないのだから不思議だ。

 

 

「……休憩は終わり、そろそろ動くよ」

 

 

 早くヒヨリと合流しないと、合流地点の方角に走って来たからそんなに時間はかからないはずだけど、それでも早いに越したことは無いはずだ。

 

 さすがにさっきの今で走ることは無理なので、軽く小走りで進むこと数分、前方に見慣れた人影が居ることに気づく。

 

 

「ヒヨリ?」

 

 

 びくりと肩を跳ね上げながら振り返った水色の髪の少女は、私の顔を見るや否やその顔全体で安堵を表現し始めた。

 

 

「あっ……!ミサキさん……!と、お姫様ですか……?」

 

「お姫様じゃなくて、アツコって呼んで?えっと……ヒヨリさん?」

 

「は、はい、わかりました……その……アツコさん……?」

 

「うん……それに、ミサキさんも、直接教えてくれなかったのは残念だけど……やっと名前が分かった、うれしい」

 

 

 アツコが悪気なくこちらにそのふんわりとした笑顔を向けてくるものだから、ばつが悪くなる。

 

 

「う……さっきは、急いでたからで……」

 

「……うん、わかってる、冗談。……その……ごめんね?」

 

「…………いや、大丈夫」

 

「……そういえば、なんで私を連れだしたの?」

 

「なんでって……」

 

 

 アツコの質問はもっともだ、何故、リスクを背負ってまであんなことをしたのか。

確かに、アツコのこれからを想像して気がかりであったのは事実、でもそれは、ここまでする程のものではなかった。

サオリ姉さんがしようと決めたから?それも十分にある、でも、私たちが反対すれば、いつかは姉さんも立ち止まっただろう。

私たちに、このようなことをする決定的な何かがあっただろうか?

アツコの疑問に言葉が詰まる、私に、それに答えられるような何かは、無い。

 

 

「放っておけなかったから……じゃないですか?間違ってるかもですけど……」

 

 

 ヒヨリが自信なさげに、でも確かな意思を持って答える。

 

 

「ヒヨリ……?」

 

「放っておけなかった……?」

 

「はい……なんていうんでしょう。私たちだって、いい暮らしをしてる訳じゃないですし、最近になってようやく屋根の下で暮らせるようになったばかりですけど……」

 

「でも、目の前に自分たちよりもつらい暮らしになるかもしれない子がいて、それをそのままにしておけなかった……のかも、きっと、そんなはっきりとした理由じゃないんだと思います。お腹がすいて、雨が冷たくて、そういう苦しさは、私たちもよく知ってますし……」

 

「なるほど……」

 

「あっでも!……私はそれでも、何も言えませんでしたから……こんな分かったような口をきくのもおこがましいですよね……すみません……」

 

 

 ヒヨリは指を重ねておろおろと、いつものネガティブ状態に入ってしまった、でも……

 

 

「…………うん、ヒヨリの言う通りかもしれない」

 

「うう……」

 

 

 この世界は冷たくて、理不尽で、いつもすぐそこに死が蔓延ってる。

でも、死がどれだけ近かろうとも、それによってこの、生きるという苦しみから解放されるのかもしれないとしても。

 

 

「……でも、まだ」

 

 

 みんなといると、もう少しだけマシな未来もあるんじゃないのかって、そう思えるのだから。

だから、その先に、自分たちの知る限り、それ以上苦しい思いをする子が居てほしくなかった、そういう自分勝手な考えなのだろう。

 

 

「……そっか、ミサキさんも、ヒヨリさんも、優しい子なんだね」

 

「やさ、しい……?」

 

「うん、きっと、そうなんだと思う。私の居たところに、そういう人はいなかった」

 

「みんな、私じゃなくて、『秤アツコ』っていう、私の知らない誰かをみてるみたいだったから」

 

「だから、連れ出してくれてありがとうございます、どろぼうさん……みたいな」

 

 

 アツコの表現がおかしくて、思わず笑みが零れる。

 

 

「フフッ……そうかもね」

 

「ミ、ミサキさんが笑いました…………!?」

 

 

 なんでこう私の神経を逆撫でするようなことを言えるのか。

 

 

「ヒヨリ」

 

「っひぃ!すみません何でもないですぅ……!」

 

「……ふふっ、2人とも、仲がいいんだね」

 

 

 アツコが、面白いものを見たとでも言いたげな表情をしている。

 

 

「それは……家族、ですから」

 

「家族……?」

 

「私たちはいつも一緒にいるから、家族って呼んでるだけ。それに、アツコも私たちと一緒に来るなら家族ってことになるよ」

 

「家族……家族……うん」

 

 

 私の言葉に何度か瞬きを繰り返した後、アツコはどこか納得したかのような顔を見せる。

 

 

「私も、家族にしてもらえる……かな?」

 

「はい!アツコさんがいいなら……!」

 

「いいんじゃない?あの二人は……拒否する訳もないし」

 

「そっか……ありがとう、2人とも」

 

 

 アツコは花が咲いたかのような、今までで一番の華やかな笑みを浮かべる。

同じくらいの背丈だというのに、いつも不安げな表情のホムラとは大きな違いだ。

……そうだ、ホムラ、あの馬鹿、自ら囮を言い出したかと思えば許可も取らずに先行しだすなんて、自分の体のことなど忘れているのだろうか。

体のことは直接本人から言われたわけではない、二人一組で探索する際によく一緒になっていた私だから気づいただけ。

あんなもの、私たちなら怪我するはずもない所で傷を作る様を何度も見ていたら誰でも気づくような秘密だ、あそこまで必死に隠し通すようなことでもないだろうに、ただまあ、ホムラが自分から言わないから触れないでいるけど。

 

思えば最初からそうだ、ずっと何かに怯えているようで、かと思いきやここぞという時には私たちが予想だにしない突飛な行動に出ることもある。

未だにホムラがサオリ姉さんよりも年上だとは思えない、それよりも、手のかかる妹を見ているのではないかと思わされるかのような……。

いや、やめよう、今すべきことはいち早く合流地点に到着すること、ホムラのことを考えていてもどうしようもない。

 

 

「……ヒヨリ、合流地点に急ごう。アツコも一緒に着いて来て」

 

「そうですね……!早く姉さんたちを助けないと……」

 

「ん」

 

「まったく……ホムラが一番怪我に気をつけてないといけないっていうのに……急がないと……」

 

「ホムラさん……?」

 

「……いや、なんでもない、行くよ」

 

「は、はい!」

 

 

 先程までよりもペースを上げ、合流地点を目指す。

考える必要はないと切り替えようとしたものの、どうしてもホムラのことが頭から消えることは無かった。

 

 

このまま進めていくと原作に到達するまでかなりの時間がかかるのですが、過去編が1章終わるごとに原作も1章進めるなど同時進行で進めたほうがよろしいでしょうか?(過去編で原作との相違点がかなり発生する予定なので作者の文章力では状況がわからなくなる可能性があります)

  • 時系列に沿って進めよう
  • 原作も進めよう(0章終了後アビドス開始)
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