未来の見えていた少女の大切なもの   作:かぶり猫

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16.ごめんなさい(ありがとう)

 …………え?

 

 

「ハッ……!ざまあみやがれ……!」

 

 

 なんで?

 

 

「サオリ姉さん!」

 

 

 ヒヨリの、痛々しいまでに張り詰めた声。

 

 

「この……!」

 

 

 ミサキが何度も、何度も引き金を引く音。

 

 音だけははっきり聞こえるのに、手も、足も、顔も、まるで縫い付けられたかのように動かせない。

 

 サオリの体がぶれ、そして、たおれてくる。

 

 

「さ、さおり?」

 

 

 どうにか動かした手でサオリを支える、手が震えて、うまく力が入らない。

 

 

「ホムラ、大丈夫?」

 

 

 振り向いたサオリの体のあちこちには傷が出来ていた、その中でも額からは血が流れており、自分の体から流れる様子は何度も見てきた見慣れた赤のはずなのに、今はその色がひどく恐ろしかった。

その血が、サオリの体から出ているということが、これが私を庇ったせいで流れているということを認めたくなかった。

 

 

「さおり、頭から、血が、血が!」

 

 

 声が震え、言葉が何度ものどに詰まる。

見たくないのに、流れ出すそれから目を逸らすことが出来ない。

 

 

「ははっ、そんな顔しないでよ、このくらいで死なないことは分かってるでしょ?」

 

 

 わかっている、私の体が特別脆いだけであり、みんなはこれくらいのことじゃどうにもならないってことは、でも、今もサオリから流れ出るそれは、

 

 

「わた、わたしのせいで」

 

「ヒヨリしか気づいて無かったんだし、ホムラのせいじゃないよ。そんなことよりもホムラが無事だったことの方が何倍も大事だって」

 

 

 違う、私がちゃんと力を、未来を視ていれば防げた、サオリが傷つくことなんて無かった。

 

 

「そ、そうじゃなくて、わ、わたしが」

 

 

 私が、私が未来視のことをみんなに伝えなかったから。

 

 

「ホムラは大げさだね、……でも、ちょっといっぱい食らい過ぎたかも、……家に帰るまで支えてくれる?」

 

 

 サオリは自分だってかなりつらいはずなのに、明るく振る舞う、きっと私が取り乱したからで、安心させようと気を使ってくれているのだ。

実際、元気そうに見えるサオリの姿に安心感を覚え、呼吸が落ち着き始めている。

……そんなことまでさせている自分に嫌気が差す。

 

 

「……うん」

 

 

 そうだ、こんなこと考えてる場合じゃない、はやく、はやく帰って手当てをしないと。

 

 

「さ、サオリ姉さん……ほんとに大丈夫なんですか……?その、ち、血が出てますけど……」

 

「大丈夫だって、みんな心配性だなぁ。あと、お姫様も急に巻き込んじゃってごめんね」

 

「ううん、大丈夫。ミサキさん達からなんとなく話は聞いてるから」

 

「そっか……、良かった。私がサオリで、今私を支えてくれてる子がホムラっていうんだ、これからよろしくね」

 

「うん、私はアツコ、よろしく、2人とも」

 

 

 アツコ、そう名乗った少女はやわらかな笑顔を浮かべ、連れ去られたようなものだというのに動揺した素振りも見せない。

 

 

「……さっきサオリが言ってくれたけど、ホムラっていうんだ、よろしくね」

 

 

 せめてもと笑顔を作って挨拶を交わす、ああ、きっとひどい顔をしてるんだろうな。

 

 

「……うん」

 

「それじゃ、貰えるものを貰ったら帰ろうか、私たちの家に」

 

「……その前に布でも巻いておこうよ、さすがにそれはまずいと思う」

 

 

 ミサキの指摘にサオリは否定を述べようとし、その視線に半ば開けかけた口を閉じる。

とはいえ、わずかな包帯などは家に置いているので今ここで使えるようなものは…………。

 

 

「じゃあ、これ使って?」

 

 

 そうすると、アツコが見るからに高そうな刺繍のついたハンカチを取り出した。

 

 

「え!?そんなきれいなの使えないよ!」

 

「いいから、使って……?」

 

「う、うぅ……、ん、わかった……ありがとう」

 

「ん」

 

 

 アツコの有無を言わさぬような目に見えぬ圧力に屈したサオリは、申し訳なさそうな表情のままハンカチを巻……こうとし、ミサキに奪われた後丁寧に巻いてもらっていた。

 

 そんなやり取りをしながら私たちは帰路に就く、そこに私が加わるなど、出来るはずもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 家に帰った私たちは、まず第一にサオリにちゃんとした手当をした、……といっても、出来るのは飲み水にしてる綺麗な水で傷口を流して包帯を巻く程度のことしかできないのだが。

今日は色々あったしなにより怪我までしたのだ、相当疲労が溜まっていたのだろう、サオリはそのまま倒れるようにして眠りについた。

その後は色々と大変だった、アツコに家の紹介をし終わり、一息つこうとしたところに慌てた様子のシズカがやってきて、警戒する皆とシズカの間を取り持ったり、一通り要件を伝えたらまた嵐のような勢いで去っていくシズカを見送ったり、その要件についてみんなで話し合ったりなどだ。

また、要件というのもアツコについてのことであった、今回の出来事は和平を主張していた集団の独断であるので、過激派の追手などは気にすることなく姫のことは私たちで預かってほしいということらしい。

私たちは元からそのつもりであり、むしろアツコ自身が嫌だというならそっちが連れ戻そうとしても拒否すると伝えたのだが、その際にシズカから眩しいものを見るような目で見られたのは何だったのだろうか。

 

 サオリの寝顔を眺めながら、今日のことを思い出していた。

心地よさそうな寝顔、でも、頭に血の滲んだ包帯を巻いていて、とても痛々しくて、それが視界に入る度に私がしたことの結果をまざまざと見せつけられる。

目を逸らすことは出来ない、してはいけない、私がみんなに招いたことはこれだけではないのだから。

 

私が秘密にしていたことを、ちゃんと伝えられていたらサオリはこんな怪我をしなくて済んだ、もっと普段の暮らしも楽になっただろうし。

そもそもここで暮らす必要はなくて、トリニティじゃなくても、他の自治区でも今よりもっといい生活が出来てたかもしれない。

それもこれも全部、私が迷いためらっていたせいで、それが今こういう形で表れてきたというだけだ、全部、私が、私が、私が、私が……。

そんな、今更なことばかりが頭をよぎる自分にいら立つ、そんなことを考えていたところで、今は、これまでの結果は何も変わりはしない。

ここからどうするべきなんだろう?謝る?打ち明ける?そもそも私はここに居る資格があるのか?それは──────

今に至ってもどうするかすら決めることができない自分の不甲斐なさに、涙が零れる、どうして私はこんなにも…………

 

 

「っ………!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「んぅ……ホムラ?泣いてるの……?」

 

 

 サオリが目を覚まし、こちらを見ている。

眠りが浅かったのだろうか、それとも、私が起こしてしまったのか?

 

 

「え、あ────」

 

 

 言わないと、絶対に、今、そうじゃないと、私はもう言うことが出来ない……!

 

 

「────わ、私!サオリに!皆に、言わないといけないことが!」

 

 

 居ても立っても居られず、サオリへと詰め寄ってしまう。

 

 

「ちょ……ちょっとまって!まだ寝ぼけてるから、それに、皆にも話さないといけないなら呼んでこないと」

 

「───ぁ」

 

 

 そうだ、そんなところまで頭が回ってないのか、今の私は。

 

 

「そう、だね、私が、皆を呼んでくる。」

 

 

 ちゃんと、私の口から言わないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それで、話って何、私もホムラに言いたいことはたくさんあるけど」

 

「もしかして、アツコちゃんにもアリウスの外のお話するんですか?……どうせなら、前とは別の話もたくさんお願いします」

 

「……ホムラさんってアリウスの外から来たの?」

 

「そうなんですよ!すごいですよねぇ……」

 

「……びっくりした」

 

「……確かに、外の話も関係してると思う」

 

「そううなんですかぁ……!えへへ……何の話でしょう……」

 

 

 こんなにも私の話を楽しんでくれる子を騙していたんだ、私は、その事実を、確かに受け止めないといけない。

 

 

「……もしかして、前に言ってたこと?」

 

 

 ミサキがそう見当をつける、すごいな、あんな話まで覚えてるなんて。

 

 

「うん、そうだよ」

 

 

 今更ためらうな、これは、絶対に言わなければいけないことだ。

何度も、何度も言いかけては、ついぞ発することのなかった言葉を口にする。

 

 

「私は、私は……皆に秘密にしてたことがある、これを隠してなかったら、今日サオリが怪我することもなかった」

 

「え?私……?」

 

「……怪我、することが無かった?一体何の話を…………」

 

 

 ミサキの言葉を遮るようにして、私の、私が唯一もつ特異性、今までの私の全ての元凶の名前を呼ぶ。

 

 

「私には、未来を視る力があるんだ」

 

 

 言った、言ってしまった。

これでもう後戻りも、取り消すことも出来ない。

ただみんなの結論に身を任せるだけだ。

未来を、視る。

 

 

「「……急にどうしたの」?」

 

「……ほ、「ほんとにそんな力があるんですか」!?」

 

「……ね?」

 

 

 ミサキの、ヒヨリの言葉に重ねるように一言一句同じ言葉を同じタイミングで発する。

こんなことをできる私は、みんなの目にはどう映るんだろうか。

 

 

「……目の、色が変わった……?」

 

「すごい……」

 

「…………」

 

 

 皆、目を見開いたり、口をポカンと開けたり、信じられないものを見るようだったり、その顔を私は見たことがある。

4年ほど前、あいつらが私の力を知った時、あの時と同じだ。

あの記憶が、私の全てだったものが、生々しさを伴って蘇る。

 

 

「この力で周りを警戒してたら、未来を視てたら!今日みたいなことにはならなかった!」

 

 

 前を、みんなの顔を見ることが出来ない、呼吸が浅くなる、手が震える。

 

 

「……そ、れに!地下通路の罠をかわせたのもこの力があったから!だか、だから!みんなと会ったときも、出れたんだよ!外に!それを!わた、わたしは!」

 

 

 恐怖がぶり返す、言葉が詰まる、息が続かない。

そんなことはないのに、あるはずがないのに、親の、あいつらの影がちらつく。

親のことを思い出しても前はこんな恐怖は湧かなかったのに、みんなと重なる、そんなことを考える自分を否定する。

 

 

「ホムラ!落ち着いて!」

 

「ホムラさん!」

 

「はぁっ……!ぁ……!わたしは!みんなを、だ、だま、だまして」

 

「落ち着いて」

 

 

 誰かに手を握られる、びくりと跳ねた手は、その暖かさに震えることを止める。

しばらくそのままでいると、段々と息も整っていき、自分の状況が見えてきた。

硬く握りしめられた拳は血で濡れており、じくじくと痛む。

戸惑いながらも前を向くと、優しく、春のように暖かな光を湛えた瞳がこちらを見つめていた。

 

 

「私は今日皆と会ったばっかりだから、皆がどういう生活をしてきて、どんなことを経験してきたのかわからない。……でも、皆はホムラさんがそんなに怖がるような人たちじゃないのは分かるよ。だから、大丈夫」

 

 

 透き通った、どこまでも人を惹きつける声だ、荒れていた心が落ち着いていくのが自分でもわかる。

みんなは、怖がるような人たちじゃない……そうだ、その通りだ、みんなはあいつらとは違う。

 

 

「……ごめん、それと、ありがとう」

 

 

 この子は、本当に強い子なんだろうな……。

 

 

「うん、いいよ」

 

 

 柔らかな笑みが、私を安心させてくれた。

 

 

「皆、ごめん、少し混乱してた。……ちゃんと1から話すよ、なんで私が未来視の力を隠してたのか、どうしてアリウスまで来たのか、全部」

 

 

 そこからは、家を出るまで、出てからのことをちゃんと落ち着いて話せた……と、思う。

 

 

「……これで全部、私は皆に大事なことを隠してた、謝って済むものでもないはず。だから、これから私をどうするかは皆が決めてほしい」

 

 

 これで、ここを出ていくことになっても構わない、私の力を利用したいならそれでもいい、それが、私のしたことだから。

 

 

「……べつに、どうするもな」

 

「大変だったんですね……!苦しいことがいっぱいで、でも、私たちは大丈夫だって信じてくれたんですよね……!なんだか感動です……!」

 

「うわっ」

 

「……!」

 

「ミサキの言う通り、どうするも何もないよ、私たちは家族なんだから、これからも、ずっと」

 

 

 サオリの言葉に、理解が追いつかなかった。

 

 

「ここにいても、家族でもいいの?」

 

「うん!それに、アリウスから出なかったから、ホムラがここにいたからアツコにも会えたんだからね!」

 

 

 サオリはそう言って笑ってみせる、その笑顔は、光を失った私にはとても眩しいもので、太陽みたいだ、なんて思ったんだ。

ようやく見つけた、『家族』 、これがわたしの大切なものだ、ぜったいに、なにがあっても守るべき、大切なもの。

 

 

「だからさ、これからも一緒だよ」

 

「っ…………うん!」

 

 

 今日流した2度の涙は、真逆の意味を持ったものだった。

 

 

 

 

 






「……あっ……もう1つ、言ってないことがあった」

「なに?」

「…………こっちは大体予想できるけど」

「わたし、体がすっごく弱いんだ」

「……え?」

「多分銃弾一発でも、大けがするくらいに」

「…………え?」

「…………やっぱり、自覚はあったんだ」

「それは、その、うん」

「間に合ってよかった……んですよね?サオリ姉さん」

「うん……本当に間に合ってよかったと思ってるよ。あと……」

「?」

「そ れ は は や く 言っておいてくれない?本当に、ほんっとぉ~に。昼間のこと、まあいいかなって思ってたけど、それを言い出すってことは、怒られる覚悟はあるってことだもんね……?」

「うぇっ……その……それはぁ…………ご、ごめんなさい……」

「ホムラさん……さっきより怖がってない?」

「ひぃぃ……サオリ姉さん、本気で怒ってます…………!」

「…………私も言おうと思ってたけど、まああいいや、姉さんが全部言ってくれそうだし。あれは自業自得でしょ」


このまま進めていくと原作に到達するまでかなりの時間がかかるのですが、過去編が1章終わるごとに原作も1章進めるなど同時進行で進めたほうがよろしいでしょうか?(過去編で原作との相違点がかなり発生する予定なので作者の文章力では状況がわからなくなる可能性があります)

  • 時系列に沿って進めよう
  • 原作も進めよう(0章終了後アビドス開始)
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