未来の見えていた少女の大切なもの   作:かぶり猫

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17.塗り固められた意志

「ホムラちゃん、起きて……」

 

「……ほんとのんきなものだよね、いつものことだけどさ」

 

「でもホムラさんの寝顔、すごくしあわせそうですよね……どんな夢を見てるんでしょうか」

 

「みんなでおなかいっぱいケーキを食べる夢……とか?」

 

「いいですねぇ……昨日食べた缶詰のは今までのと違って黒くてふわふわでしたし、ああいうのがお腹いっぱい食べれたら……」

 

 

 ……なにかきこえるような……たぶんきのせいかな……

 

 

「シズカさん、すみません……せっかくきてもらったのに……」

 

「ん?大丈夫大丈夫!むしろこっちのがごめんね、いっつも急に来るからびっくりするでしょ」

 

「え?えっと……」

 

「あはは!でもこれに関しては前もって伝えることもできないからな~……と、よし、私としても時間はあればあるほどいいし、ホムラちゃんには悪いけど……早めのお目覚めとさせてもらおうかな」

 

「シズカさん……起こせるんですか?ホムラ、1回寝ちゃったら中々起きないんですけど……」

 

「まっかせて!こういうときの対処法には詳しいんだーっと、ちょっと失礼して……」

 

 

 なんか触られてる気がする……

 

 

「ん、んぅ……」

 

「えいっ!」

 

「ひあぁっ!?」

 

 

 なっ、何!?

 

 

「おー……!」「起きた……!」「起きました……!」

 

「なるほど……くすぐれば起きるんだ……」

 

「…………え?みんな……?」

 

 

 今すっごいそわそわしたのに……!?一体なにが……??

周りを見ても、いつもと何も変わらないし、みんなはちょっと離れたところにいるし、どういう…………。

そう思ったのもつかの間、私の頭上へと影が落ちてくる。

 

 

「くすぐり式起床法、大成功だね!おはよ!」

 

 

 見上げるとそこにはいつも変わらない笑顔をするアリウス生が……シズカがいた。

 

 

「ちょっと廃墟探索、いこっか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時期としてはもう夏であるというのにジメジメする訳ではなく、去年と比べればむしろ涼しいとすら思うかもしれない。

そんなカラッとした日差しに汗を垂らしながらシズカの後を追いかける。

同じ夏のはずなのに、こういうところですらD.Uとはまるで違うのは、私はずいぶんと遠い所に来たのだなと感じさせるには十分だった。

 

 

「廃墟探索って言っても……昼間はあいつらに見つかるかもしれないよ」

 

 

 実際あいつらが私たちの家のすぐそばを通り過ぎることだってある。

今、私たちみたいな子供にとって昼間のアリウスはこれ以上なく危険な場所なのだ。

  

 

「その心配は必要ないよ、今のあいつらの巡回ルートは把握してあるし、これから行くところは中心部からは離れたところで戦術的な価値も無い……」

 

「なにより、もう覚えてる人もいないだろうからね」

 

 

 

 

 

 

 

 照り返しの強い街中を抜け、木々も鬱蒼とした森の中へ入り数十分。

低木を掻き分け歩き続け、肌寒く感じるような森の空気にも慣れてきた頃合で前を行くシズカの足が止まる。

 

 

「ここだよ」

 

「ここは……?」

 

 

 シズカが示したその場所は、先程までの鬱蒼とした雰囲気とは一転し、よく日の光が当たる開けた場所となっていた。

そして何より、私にとっても馴染みのあるものだった。

今まで見てきたものに比べると規模自体は小さいものの、トリニティでよく見る聖堂にそっくりだったのだ。

もっとも、その姿からは荘厳さなどは感じられない。

あちこちが崩れては背の高い雑草に囲まれ、ツタに覆われ風化し自然の一部となっており物寂しさ……虚しさを感じるのみであったが。

 

 

「内戦中の二派閥が和平を結ぼうとしたことがあったって話はしたことがあったよね。前々回の……12年前の和平交渉はここで行われたんだ」

 

 

 そう言われもう少し観察してみると、あちこちに空薬莢や銃痕、爆発跡が見られる。

 

 

「ま、行われたって言ったって12年も前の話だし、今はどこにでもある廃墟の1つでしかないよ」

 

 

 

 

 

 

「えーと……確かこっちだったかな……」

 

 

 シズカの案内を受けながら聖堂の中へと進む。

天井の隙間からは夏の日差しが差し込みきらきらと輝いている。

床のタイルもあちこちが剥がれその下の地面がむき出しとなっているため、中とは言ってもその様子はさして外とは変わらない。

目につくものといえば、破損が酷く持ち帰ったとしても使えなさそうな銃や、ガスマスクだったのだろうプラスチック片程度のものだ。

…………こんなところに何か役に立つものなどあるのだろうか。

 

 

「そーしてここの下に……あったあった」

 

 

 そのまま聖堂の奥へ歩き進めると、彼女はひとつの長椅子だったものを動かし始める。

そのまま下のタイルをはがし、懐かしそうに口元をゆるめた。

 

 

「ほら!秘蔵のでっかい缶詰たち!期限とかは気にしなくて大丈夫なはず。いやー見つかってよかったよ!これが無きゃ無駄に歩いただけだったからねー……」

 

 

 彼女が差し出してきたのは、両手で持っても収まりきらないようなサイズの缶詰めであり、その側面には暖かそうなシチューが描かれていた。

これ一個でもみんなの1食分になるのではないのかという大きさのものを、シズカは続々と取り出しトートバッグのなかへと詰め込んでいく。

 

 

「……!ありがとう……!」

 

「ふふ、どういたしましてって感じかな?ま、これもそこそこ重たいし、その一個以外は私が持っていくよ」

 

 

 よかった……!これでしばらくはごはんに困らなくて済む……!

大きな缶詰への興奮も落ち着きを見せてきたところで、ふとシズカが何かに見入っていることに気づいた。

彼女が視線を向ける先を同じようにみてみるものの、そこにはかつてステンドグラスが埋め込まれていたのだろう窓枠があるだけで、外の木々が見える以外には何も無い。

結局彼女が何に見入っていたのか分からなかった私は、ぼーっとその横顔を眺める。

 

 

「……ちょっと、話をしてもいいかな。昔、本当に昔のアリウスの話」

 

 

 シズカは何かを見つめたまま、そう言葉を紡ぎ始めた。

 

 

「まだアリウスが平和だったころ、そのころにも穏健派と過激派はあったんだ。今みたいにはっきりとした区別がされてる訳でも、互いを嫌ってる訳でも、そんな名前が付いてる訳でもなかっただろうけどね」

 

「そんな2派閥にいくつかの小さな派閥も含めて、アリウス分校ではいつも通り会議をしていた。いつもと違ったのは、その日の会議は互いの主張が普段より激しくって、普段ならそれを止めるはずの人たちが……生徒会長と穏健派のリーダー格だった子が欠席してたってだけ」

 

「でも、それが致命的だった」

 

「白熱した会議を止める人間はおらず、互いに銃を持ちだして撃ち合うまでに発展したんだ。でもまあ、それくらいなら大丈夫、散々撃ち合って落ち着いたら仲直りすればよかった、できるはずだった」

 

「そのとき、遅れてやってきた穏健派のリーダーに流れ弾が当たったんだ。その子は体が弱かった、当たり所が悪ければ1発の弾丸で重症を負うくらいにはね。そのことを皆分かってたからこそ、今日は欠席してると確認したからこそ、銃を取り出してケンカしてたんだから」

 

「不注意だったのは間違いない、そういう子が居るなら銃の使用を禁止すれば良かったっていうのも最もだと思う」

 

「でも、偶然であれ何であれ、そんなことをされた穏健派は黙ってられない。派閥を纏めることの出来る子が居ない状況で頭に血がのぼった穏健派は報復に過激派を襲撃、そこからは報復が報復を呼んでついには死人まで出て……ってことらしい。これが私たちが今の今まで内戦を続けてるホントの理由。それから何回も小康状態に陥ったり、和平を結んでみては破棄されたり、ああ、派閥なんてものの垣根を取っ払ってみたこともあったんだっけ、でも結局全部無駄に終わって、今も内戦は続いてる」

 

「…………」

 

「私はとある先輩からこの話を聞いただけだけど、その先輩も、その前の前の前の代の先輩も、聞いただけで実際に見たわけではないって言ってらしいし。本当に昔の話だよ。この偶然から始まったお話は時間が経つにつれ双方に都合の良いように、自分たちが正しくて相手が悪いって、そう信じれるような都合のいい話に捻じ曲がって今に伝わってる。きっと、私以外にこの話を正しく覚えてる子は……いないんじゃないかな、少なくとも、私が知る限りはね」

 

 

 あんまりな話に言葉が詰まる。

この、アリウス全体を覆う内戦はそんな、そんな偶然が重なって起きたものだというのだ。

でもそれは昔の話で、今のアリウス生達には関係のないことのはず、なら、和解だってできるんじゃないのだろうか……?

 

 

「……そのお話を広めたら、内戦は……終わらないの?」

 

 

 私の質問に彼女は疲れきったように目を細める。

 

 

「周りの皆に広めようとしたよ、何回も、穏健派の仲間にも、過激派にいた頃にもね。でも、変わらなかった。何十年も、もしかしたら何百年なのかな?そんな時間をかけて凝り固まった考えを変えるのは私一人では無理だった。それに、今更そんな事を言われても何かが変わる訳じゃないっていうのは、本当に、その通りだからね」

 

 

 そう語るシズカの瞳が少しだけ、ほんの少しだけ濁って見えたのは私の気のせいなのだろうか。

……もしかしたら、彼女の先輩たちも同じようなことをしたのかもしれない、そして、失敗したのだろうか、そんな推測が頭をよぎった。

でも……

 

 

「……それでも、シズカは大切なものを守るために、頑張ってるんだよね」

 

 

 私の言ったことがそんなに驚きだったのだろうか、彼女は目を見開く。

彼女は言っていた、大切なものがあるって、ならそのために全力を尽くすべきだって。

たとえ、どんなに虚しかったとしても、だから、こうやって内戦に加わっているのだろう。

 

 

「……うん。私だけじゃ全部をどうにかすることはできない、君たちに接触しての情報収集だって私みたいな一部の生徒にしか許可されてないことだし、それに私自身も過激派に恨みが無いって言ったらそれは嘘だ。過激派の奴らなんか……って思ってる。だから戦ってる、相手にやられる前に、私自身が守りたいものを守るために。きっと、この戦いはどちらかが勝たないと、戦争が始まる芽を取り除くまで戦わないと終わらないんだって」

 

 

 やっぱりそうだ、シズカは自分の考えに従って動いてる、私たちを助けるのだってその一環なんだろう。

 

 

「……今のうちにこの話もしておこうか」

 

「この前ホムラちゃんは私にあの子たちを守ってほしいって言ったけど、結局は私も穏健派のいち構成員に過ぎないし、いつどんなときでも守れるとは限らない。今だってたまに食料を分けるくらいしかできてないわけだし、連絡手段もないからね」

 

「だから」

 

「本当に何かあって私が守りに行けないようなときは、君が皆を守るって約束してほしい」

 

 

 え……?

 

 

「私が……?」

 

 

 私にはそんなこと……

シズカは淡々と、無機質に、無表情に言葉を紡ぐ。

 

 

「うん、君がだ……あの子たちは、きっと優しすぎる。そうだね……もしホムラちゃんじゃなくってサオリちゃんが今みたいに私となかよくなってたとして、皆を守るためには私を切り捨てないといけない状況になったとしよう」

 

「そんなッ……!」

 

「まだ話の途中だよ……続けよう。私を切り捨てるか否か、その選択は一瞬で決めて動かないといけない、もしそうなったとき、今のサオリちゃんにその選択ができると思う?」

 

「…………」

 

 

 それは……無理だ、サオリは私やアツコみたいに、助けなくても自分達の安全には関わらないだろう人すら助けようとする……とてもやさしくて、純粋な子だ。

そんなサオリにシズカを切り捨てるなんて選択ができるはずがない。

 

 

「もしかしたら大きくなったあの子は選べるようになるかもしれない、でも、今、終わらない内戦がアリウスを覆っている今その選択が出来なかったら、君たちは終わりだ……これは、私じゃなくて他の人間だったとしても変わらないよ」

 

「……それが、私にはできると思うの?」

 

 

 そうだ、私にだってそんなこと…………

 

 

「うん、私の見立てではね。私がどれだけ仲良くなろうとしても、君は皆と私との間に越えることのできない絶対的な線を引いてるはずだ……そして、その線引きの通りに優先順位をつけて行動できる。……いや、できなかったとしても、できるようにならなきゃいけない。本当に皆のことを守りたいのなら、私に頼るんじゃなくて自分で守れるように、そのためには他のものを切り捨てられるようになるべきだ」

 

 

 できなくても、できるようにならなくちゃいけない……?

 

 

「会える頻度もそう高くないし時間もない、そのために私にできることは簡単な体の動かし方とか銃の使い方。あとこうやって自分の考えを伝えることぐらいだけど……心構え、そうあるべきっていう思いの力は大きなものだよ……良くも悪くも、それだけで自らを変えてしまえる程には」

 

 

 その言葉に、今までに見てきたアリウスの生徒たちを、ガスマスクから覗く空虚な瞳を思い出す。

すべては虚しいとだけ思えばああなってしまう様に、私にはできると思えば、そうあるべきだと思えば、私にもみんなを守れるようになると、そう言いたいのだろう。

 

 

「…………うん、わかった。約束する、私が、私がみんなを守れるようになる」

 

 

 なら、そうなるしかない、私にとって大切なのは、サオリ達……家族に他ならないのだから。

 

 

「……それを聞けて安心した、かな」

 

 

 ほっ、と一息つくとシズカはゆっくりと目を閉じ、そして開ける。

そこには先程までの表情のないシズカはおらず、ただいつもと変わらない笑顔の彼女がいた。

 

 

「よし!こんな辛気臭い話はこれでおしまい!ここにはもう何も無いから、今日はもう帰ろうか!ほらほら!ゴーゴー!」

 

「わっ!ちょっと!?」

 

 

 聖堂の外に出ると、いつの間にか日は傾き始め、急いで帰らなければ夜の森の中で迷いかねない時間になっていた。

 

 

「あっちゃぁー……」

 

「……」

 

 

 まずい、こんな時間までかかるなんてサオリ達には言ってない……帰ったら絶対怒られる……!!

 

 

「……よし、乗って」

 

 

シズカは肩にバックをかけ私に背中を向けてしゃがみ始める。

 

 

「乗る……?」

 

「うん、私がホムラちゃんをおんぶするから、ダッシュで帰ろう。この時間は……ひっじょ~にマズい……!」

 

 

 おんぶ……!教科書で見たことがある、子供が親の背中に乗っかるっていうあの……!

 

 

「……!うん!わかった!」

 

 

 一気にシズカの背中に乗っかって両肩に手をかける!

 

 

「ぐはぁっ!」

 

「あっ……ごめんなさい……」

 

「……いや、大丈夫。こ、このくらいなんともないさ……!それよりしっかり掴まっててよ!」

 

 

 そう言うとシズカは勢いよく立ち上がる。

その瞬間私の視界は一気に広がり、まるで世界がちっさくなったかのような感覚に陥る。

 

 

「おぉ……!」

 

「じゃ、レッツゴー!」

 

「おおぉー!!」

 

 

駆け出したシズカのスピードはすさまじいもので、景色が一瞬で流れていくような未知の経験だった。

そのおかげで日が落ちるギリギリには家まで帰れたものの、とても心配したと半泣きになったサオリに怒られたので……すっごく反省した。

何故かシズカも一緒に正座していた。

 

 

このまま進めていくと原作に到達するまでかなりの時間がかかるのですが、過去編が1章終わるごとに原作も1章進めるなど同時進行で進めたほうがよろしいでしょうか?(過去編で原作との相違点がかなり発生する予定なので作者の文章力では状況がわからなくなる可能性があります)

  • 時系列に沿って進めよう
  • 原作も進めよう(0章終了後アビドス開始)
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