「う~ん……ミサキちゃんももっと皆の方に寄ってほしいかな~、ちょっと見切れてるんだよね~……」
シズカがアリウスの外では骨董品の類に当てはまるようなカメラを構えてそう指示をする、確かにミサキは皆と少し離れて立っている。
いきなり訪れてきために一体何だと思えば、手に持っているあれを使ってみたかったからだという、本当にそれだけのはずはないと思うけど、でもそう思ったのも事実なんだろうなと考えてみる。
「ミサキ、ほら、もっとこっちに来て」
「……わかった」
サオリがミサキの手をつかんで引き寄せる、でもまだ少し距離があるというか……そうだ、いいこと思いついた。
「じゃあ私がこっちに行こうかな」
今の位置を離れ、私とサオリでミサキを挟み込むようにしてミサキを写真の中心側に押し込んでいく。
「ちょっと、狭いんだけど」
左右から押されてミサキは不満げだが、元はと言えば自分が中々詰めようとしないのが悪いのだ。
だからこうやってどんどん引っ付いても仕方ないんだ。
「まあまあまあまあ」
「はぁ……」
お、諦めた。
「お!いいよいいよちゃんと皆入ってる!」
「……ほ、ほんとにこれで雑誌にのってるみたいな写真が撮れるんですか……?」
ヒヨリが未だ信じられないといった様子でシズカに問いかける、ヒヨリはこういうカメラ見たことを無かったんだっけか。
「ん?そうだよ、私も最近見つけたものなんだけどね~。フィルムが無いといけないってのは手間だけど、写真が手元に物として残るんだー、撮れたら皆にあげるよ。あ、アツコちゃんはもうちょっとお花を胸元に寄せてみて」
「こう?」
「うん、いいね!……じゃ!いくよー!せーの!」
カシャッというシャッター音と共にフラッシュが瞬く、一拍おいてカメラから奇妙な音が鳴りだす。
「それ……大丈夫なんですか……?」
「うん、そろそろ……お、出てきた」
カメラからフィルムと思われるものが出てくる。
「……うん、すっごくいいよ!ほら!」
そのままフィルムが差し出される、どんな出来上がりなのだろうか。
皆興味津々といった様子で差し出されたフィルムを食い入るように見つめる。
「おおー……」
「ほんとに私たちが写真になってます……!」
「ミサキ、もうちょっと笑ってもよかったんじゃない?」
「別にいいでしょ……」
皆で写真を眺める、縦長のプラスチックフィルムに写った私たちは、実物とはまた違った雰囲気を纏っていて、でもとても楽しそうに見えた。
「アツコ、すっごくいい笑顔じゃない?」
花を持つアツコの笑顔がすごくまぶしく見える、うん、すごく……すごく良い。
「そう?」
「うん!だよね、サオリ」
「うん、アツコの良さがすごく出てると思う」
「……ありがとう」
「シズカさん、本当にこれもらってもいいんですか?」
サオリがそう問いかける、確かに、このフィルムも限りのある貴重なものではないだろうか、そんなものをこうも簡単に使ってしまうのはなんだかもったいない気もする。
というかなんでシズカは私たちを画角に収めて自撮りをしようとしてるんだ、あ、撮った。
「…………よし、もちろんだよ!サオリちゃん達にはこういう写真とか、そういう実物として思い出を残して置いてもらいたかったんだー。こういうのって、すっごく心の支えになったりするものなんだよ?」
人差し指を立ててサオリの質問に答えるシズカの表情には、何かを懐かしむような、思い出そうとしているような、そんな色が見えた。
◆
それからしばらく写真のことで盛り上がり、久しぶりに昼に外へ出たこともあり普段は出来ないことなどを楽しんでいると、あっという間に日が暮れ始めてきた。
もうそろそろシズカが帰る時間だろうということで、最後に聞かねばならないことを聞くため、私たちが遊ぶ姿を遠くから眺めていたシズカの元へと向かう。
「ねえ」
「うん?どうしたの、私のことなら別に気にしなくていいから、遊んできなよ?」
「もう十分遊んだよ……ちょっと疲れただけ。いや、そうじゃなくて、最近内戦の様子はどうなの?シズカのことだし、写真の為だけに来たわけじゃないでしょ?」
シズカは最近の戦況について自分から話そうとしなかった、和平関係のごたごたからほぼ半年が経ち秋の雰囲気が近づいてきた今、戦況にも何らかの変化が起きているはずだ。
「あー……、それね、まあ、そろそろ話さないとだよね」
妙に歯切れが悪いというか、視線をあちこちに彷徨わせている。
「実はね、あまり良いとは言えない、どの戦線を見ても私たちが劣勢だ」
やっぱり、薄々そんな気はしていた。
最近のシズカには少し元気が無いというか、無理やり元気なふりをしているように見えたのだ、いや、おそらく元気なふりをしているのは私と出会ってから常にだろうけども、それにしてもということだ。
「明らかに過激派の戦力が上昇してる、今のアリウスにあそこまでの装備を作れる施設も資金も無いはずなのに、だ。そういうものが無いからこそ、今までずっとうだうだと戦争を続けることになっていたんだから」
「それは……」
どう考えても……
「うん、外部に協力者が居たみたい、マダムっていう名前のね。過激派の奴らが外に出るための通路を確保してるって聞いた時から、薄々そういう存在が居るんじゃないのかとは
思ってたんだけどね、ようやく確証が取れた」
「マダム……」
マダム、過激派の奴らがその名を口にしていたのを、何度か聞いたことがある、でもなぜ今のアリウスに手を……?
正直、ここには何もない、そんな協力をしてまで何を得るつもりなのか。
「いやまったく、だまされたよ。あいつら、派閥のリーダーと協力者の呼び名を統一してるなんて」
「私が入り込んでた時はそんな情報なかった、多分、必要なところ以外には徹底的に自分のことを隠してたんだ。正体不明、目的も不明、怪しい以外の何物でもない。最近になって表に出てきたっていうのもどういうつもりなのか……」
シズカは険しい顔で話を続ける。
「でもそいつの介入で過激派の戦力が増したのは事実、今はまだ何とか抑えられてはいるけど、この状況が続けばきっと……」
今の穏健派に外部からの協力がある過激派に対抗できる物資は無い、なにもできずに物量の差で押しつぶされる。
「だからさ、私たちは今ある作戦を準備中なんだ」
「作戦?」
この状況を打破できるような作戦があるのだろうか。
「アリウス脱出」
「それは……!」
「うん、私たちの本来の目的であるアリウスを今よりも良い状況にするっていうものに反することだ。だから脱出するのは希望した一部の生徒と君たちみたいな子だけ、私たちはその間の時間稼ぎをするつもり、その後は…………どうなるんだろうね」
「今のアリウスに未来はない、過激派の思想はきっと外部の学校の前に簡単に砕け散る。そしたら唯一の統治機関すら失ったここはきっと、今よりもひどい状況に陥る。だから、全力で地下通路を制圧して君たちみたいな、ここじゃない場所を望んでいる子達を逃がす、これは私たちの総意だ。笑えるよね、最後の最後でようやく全員の意見が一致するんだから」
「……」
わからない、わからない。
彼女たちがそんなことに打って出る理由が、だってそれは、負けを認めたってことで。
「そんな顔しないでよー。別に死のうってわけじゃないんだからさ。それに、これはあいつらに対する嫌がらせみたいなものなんだよ、ただで負けてやるものか、ってね」
それは、特攻みたいなものだ、後のことなんて、自分がどうなるかなんて、何も考えてない。
「シズカは…………シズカはどうするの?」
その問いに、彼女はいつもの、焼き付いたかのような笑みを浮かべるだけだった。
「……実はさ、私にも君たち家族みたいな、仲のいい子がいたんだ、でも今じゃどこで何をしてるのか、生きているのかさえ分からない。だから、皆にはそうなってほしくないんだよ」
「決行は一週間後、それまでにここを離れる準備をしておいてほしい。あと、皆にも伝えておいて……じゃ、もう今日は帰るね」
「……うん」
その時の私には、そんな、気の抜けた返事をすることしかできなかった。
今回撮った写真は、公式の過去アリウススチルにホムラが追加されたようなものとなります。
このまま進めていくと原作に到達するまでかなりの時間がかかるのですが、過去編が1章終わるごとに原作も1章進めるなど同時進行で進めたほうがよろしいでしょうか?(過去編で原作との相違点がかなり発生する予定なので作者の文章力では状況がわからなくなる可能性があります)
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時系列に沿って進めよう
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原作も進めよう(0章終了後アビドス開始)