未来の見えていた少女の大切なもの   作:かぶり猫

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2.はじめてのかいもの

 

 目線と同じ高さにあるドアノブを回し、全身を使って玄関の扉を開ける。

いざ外の世界へ、と意気込む私の目に飛び込んで来たのは、目がくらむ程の光だった。

 

 

「あぅ!?」

 

 覚えている限り経験した事の無い眩しさに思わず目をつむり後ずさる。

やっとのことで開けたドアが、ばたん、と閉じた音が聞こえた。

 

 

「……」

 

 

 気を取り直して。

もう一度扉を押し、今度は目をつぶりながらそれでも眩しい外の世界へと足を踏み出してみる。

ゆっくり、ゆっくりと瞼を持ち上げる。 

 

 

「おぉー……!」

 

 

 初めて実際に見た世界は、知っているのに知らないことばかりだった。地面から空へ槍の様に伸びるビル、忙しなく道を行き交う人々、何処までも続く透き通った青い空。

未来視で視たことのあるものばかりであるはずなのに、未知のことばかりの新世界に来たかのような感動に襲われる。

 

 

「すごい……!すごい……!」

 

 

 知らず知らずのうちに足が前に出る。

目を刺すような太陽の光、肌をくすぐる自然の風、鼻を刺激する言葉では表現出来ないような何十にも混ざった複雑な香り、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、どれも今までに感じたことのないものだ。

 

…………アスファルトの硬さと熱さ?

 

 

 「あ」

 

 

 現実に戻されると同時に肌をくすぐる風も吹き止んだ。

 

そうだ、私、靴履いてなかった。

 

 

「でも……どうしよう」

 

 

 家に私のサイズの靴なんて無い。

でもこのまま裸足で歩き回るのはなんというか……こう……ダメな気がする。

周りを見ても他の人達もそんなことはしてないし。

 

 

「買い物にいくしかないかな……多分、これだけあれば大丈夫だよね」

 

 

 手提げを覗き込んだ後、その量に安堵を覚えた私は新しい体験への期待と、少しの不安を胸に抱いてはじめてのかいものへと向かった。

 

 

「でも……靴を売ってるお店ってどこにあるんだろう……?」

 

 

向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、やっと見つけた……、これからはちゃんと運動もしないと」

 

 

 辺りが暗くなってきたころにようやく靴を売っていそうなお店を見つけたが、この数時間で私は自分の体の弱さをこれ以上なく思い知らされたのだった。

具体的に言うと5秒も全力で走ったりなんかすれば足がぷるぷるしだす。

 

 それはそれとして、ここに入れば私にとってのあの家の人間以外との初めての会話が始まる。

深く息を吸い込み、吐く。

 

 

「うん……、よし、いこう。」

 

 

 決意を新たに私はお店らしき建物の中に足を踏み入れた。

鈴の音が店内に鳴りわたる。

 

 

「お、いらっしゃいませー!お嬢ちゃん、何かお探しかい?」

 

 

 そう元気よく挨拶をしてきたのはニコニコとした表情をしたアンドロイドの大人だった。

 

 ……大人、やっぱりお店では大人が働いている。

私は少し警戒しながらアンドロイドの大人に自らの要求を伝えた。

 

 

「……靴を、買いに来ました」

 

「靴かい?うちは靴の品ぞろえはそんなに多くないけど、それでいいなら見ていって……お嬢ちゃん、あんたの靴はどうしたんだい。」

 

 

 その大人は私の足元を見て表情を変える。

 

 

「いや、その、靴が無くて、だから、買いに」

 

「お嬢ちゃん、名前は」

 

「え……?侍留(しとみ)ホムラです、けど」

 

 

 なぜ名前を聞いてきたんだろう、これも靴を買うのに必要なことなのだろうか。

でも、そんなこと書いてなかったはず……。

 

 

「侍留?最近話題のあの会社のご令嬢かい!あそこの社長に娘がいたとは知らなかったな!」

 

「何があったか知らねえけど安心しな。あそこの会社にご令嬢はうちで保護したって電話しときゃそのうち迎えがきてくれるだろ!靴は適当に見繕ってやるからそこで待ってな!」

 

「え」

 

 

 それは困る!またあそこに連れ戻されればもう逃げれないかもしれない!まずいまずいまずい!

 

 

「あの!それは、えっと、電話するのは!その、やめてください!」

 

 

 大人は携帯電話を触る手を止め、こちらを見つめる。

 

 

「なんでだい、何かしら面倒ごとに巻き込まれて親とはぐれちまったんだろ?」

 

「いや、それは」

 

 

 どうする、どう返答する。

家出してきたことを、閉じ込められてきたことを伝える?無理だ!

それで親に確認してみるなんて言われて私の居場所が伝わりでもすれば、あの親はどんな手を使ってでも私を捕まえに来るに決まってる!

それに、大人に私のこれからなんて任せれるはずもない!どうする!どうする!?

 

 一歩、二歩、その場から後ずさる。

 

 

「っつ!」

 

「あ!嬢ちゃん!」

 

 

 近くにある靴を一足、ひったくるように棚から取って走り出す。

その後走りながら慌てて手提げからいくらかのお金を放り捨てる。

窃盗だなんだと捜索までされてしまったら笑えない、そんなことを頭の片隅で考えながら走る、足が痙攣しようが、躓こうがお構いなしに走る。

 

 

「何だったんだ一体…」

 

 

 そんな声が後方で聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぅっ!」

 

 

 知らず知らずのうちに限界を迎えていた足がもつれ盛大にこける。

足を見てみるとひざは擦り剝け、足の裏なんかは血で赤色に染まっていた。

痛い……でも、このくらい、耐えればなんてことない。

そんなことよりも、前々から思っていたことだが私の体は余りにももろい、ヘイローが有るのにも関わらず、だ。

それこそ、キヴォトスの外にいるというヘイローを持たない人間に毛が生えたくらいなのではないだろうか。

 

 

「うぅ……」

 

 

 道沿いのビルにもたれかかりながら張られたガラスに映る自分を眺める。

病的とまではいかないものの白い肌、黒橡くろつるばみ色に近い色をした長髪、その隙間から覗くライムイエローの光彩を持つ少し淀んだ瞳。

頭上に浮かぶ十字に円、その周りに炎のような模様の浮かぶヘイロー、そして幼い体と顔。

この姿である限り今回のようなことは何度も起こるだろう、そう思うとこれからの生活への期待が砕けていくのが分かる。

 

 

「これから、どうしようかな……はぁ……」

 

 

 いつの間にか建物の電気も消える頃合いになっていたようだ。

ここは人通りが少ない道みたいで助かったなぁ、なんて思いながら空を仰ぐ、黒い、満月だけが輝く黒い空。

檻を飛び出し、この空のように広い世界を実感し、感動した。

だがいつあの檻に連れ戻されるかわからない現実も自覚し、それ以上に落胆したのだった。

一息つくことが出来て安心したからだろうか、今日のことを整理する時間が出来たからだろうか、強烈な眠気に襲われる。

そのまま眠気に身を任せ、生まれてきて一番忙しかったであろう一日に終わりを告げた。

 






【挿絵表示】


服屋のおっちゃん

悪意なくちっちゃい子を家に送り届けてあげようとしたらすんごい焦って逃げられた。
侍留の社長に娘がいたことは初耳、後で調べてみてどこにもそんな情報は公開されてないことを確認するも、ホムラが落として行ったお金の額を見て本物だと確信する。
電話されることを嫌がっている様子を見て会社に電話はしないであげておいた。
まあ社長令嬢なら自分が伝えなくてもそのうち家か会社の人が見つけるだろうからそれまでは家出も経験の内などと思っている。

このまま進めていくと原作に到達するまでかなりの時間がかかるのですが、過去編が1章終わるごとに原作も1章進めるなど同時進行で進めたほうがよろしいでしょうか?(過去編で原作との相違点がかなり発生する予定なので作者の文章力では状況がわからなくなる可能性があります)

  • 時系列に沿って進めよう
  • 原作も進めよう(0章終了後アビドス開始)
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